●リプレイ本文
●北京近郊へ
キメラ退治へやってきた能力者達。
「ふむ‥倒した後‥食べるとは‥良い‥仕事‥‥」
「‥‥ん。食べるの。楽しみ。頑張る」
恐らく牡丹鍋と豚汁が目当てであろう九頭龍・聖華(
gb4305)と最上 憐(
gb0002)‥‥彼女らは130cm台という小柄な体ながら、その食欲は計り知れない。
「傭兵の間ではキメラってブームなのかな? ‥まぁ確かに、おいしいけど‥‥」
そんな彼女らの姿をみて呟くエル・デイビッド(
gb4145)。その隣には常に弟分を気にかける七ツ夜 龍哉(
gb3424)の姿もあった。
そして、
「猪に豚かぁ‥‥バグアも家畜として飼ってるのかな?」
「いや、バグアにとっては生体兵器でしかないが」
青色の髪を揺らし歩く鷲羽・栗花落(
gb4249)が発した言葉に、生真面目に返答する相馬ユウリ(gz0184)だった。
避難民が生活する集落に到着した能力者達は、食材・食器・調理器具を運び入れていた。
「キメラの肉って食べられるとなっているけど‥‥避難民の皆さんも食べてくれるかな」
避難民は助けたい、だがキメラ食に少しばかりの不安を抱く東雲・智弥(
gb2833)。
その隣で鍋を運びながら、
「抵抗感じやがるかもですが、シーヴは生スライムも食ったコトありやがるんで大丈夫‥‥と、民間人が不安感じやがったら話すです」
キメラ、意外に美味ぇですよ? と、力強く言うシーヴ・フェルセン(
ga5638)であった。
事前に炊き出しもあるのだと説明されていたのか、避難民達は歓迎ムードで迎えてくれる。
「キメラは退治します、必ず」
凛とした表情でイーリス(
ga8252)が言うと、傭兵達はユウリを集落に残し、キメラ退治へと向かうのだった。
●罠にかけろ!
キメラに対し、傭兵達が持ち出した作戦は『罠』を仕掛けるという物。罠によるダメージはあまり期待できないが、有利になるのは確かだろう。
体力を温存しつつ、手早くキメラを退治したいものだ。
「んー‥‥何か寝てやがる?」
現場に到着し、双眼鏡でキメラの様子を確認するシーヴ。
彼女は双眼鏡をしまうと、集落側を避けた方角に罠用の木杭を打ち込み、突進の威力を落とす罠を作成する。工具セットの中から針金を取り出すと、杭と杭の間に張り巡らせていった。
「上手くいくと、いいですね」
「うん、さっさと捕まえちゃおう! いい味付けで料理してあげるよ」
イーリスは鋼線を利用した足掛け罠を設置し、栗花落が落とし穴を掘る。聖華もカマエルを振り上げて、杭を打ち込んだ。
そして能力者らは、
『待ち伏せ班』 シーヴ、イーリス、龍哉、栗花落、聖華
『誘き寄せ班』 憐、智弥、エル
に分かれ、キメラを討つ作戦を開始した。
ちなみに、ユウリはというと‥‥集落で鍋の下準備を進めている。
「‥‥ん。うまく。釣って来る。餌は。私」
憐は覚醒し、破魔の弓を手にして駆け出した。そして智弥、エルも続く。
「あまり無茶するなよ?」
誘き寄せ役を買って出た弟分のエルに、心配そうな表情を見せる龍哉。
そして待ち伏せ班の面々も、次々と覚醒を遂げていく。
誘導の為にキメラに近づく3人。
先ほどシーヴが偵察したとおり、キメラ達は隙だらけだった。
「‥‥ん。良い肉付き。食べ応えがありそう。お腹空いて来た」
憐はまるまるとしたキメラの姿に、食欲を抑えるのが大変そうだ。
「‥‥ん。威嚇射撃してみる。準備おっけー?」
憐がそう尋ねると、エルと智弥の両者は頷く。
そして矢は放たれた――威嚇の為のそれはドスッと大地に突き刺さり、寝ぼけていた猪キメラが目を覚ます。そして、豚キメラも視線を3人へ向ける‥‥
(「‥‥来る」)
智弥はリンドヴルムを身に纏い、竜の翼を発動させて猪キメラに接近、機械剣で牽制攻撃を行うことによりさらにキメラの注意を引き付ける。
「猪は次の干支まで10年先だよ!」
一撃を加えた後『お呼びじゃない』とばかりに挑戦的な台詞を投げかけると、更に竜の翼で離脱する智弥。
怒った猪キメラが智弥に向けて突進する――そちらの方向は集落とは逆方向であり、罠の仕掛けてある方向であり、まさに思う壺だった。
続けて、同じくドラグーンであるエルがリンドヴルムを装着し竜の息を発動させると、洋弓「リセル」 に矢を番えて射る。
「まぁ味云々は食べてから考えましょってことで‥‥いただきまーす!」
狙うは、豚キメラ‥‥そして見事に矢が突き刺さる。怒った豚キメラは得意の突進を繰り出すが、
「追いつけるなら、追いついてみるんだね」
と、『竜の翼』で離脱するエルに追いつけるはずがない。
まんまと誘き出され、罠へと向かって走っていく単純なキメラ達。
「‥‥ん。おびき寄せ成功。怒ってる。凄く単純」
憐も待ち伏せ班の待つほうへ誘導するように走っていった。
その頃待ち伏せ班の5人は。
「一方向からの攻撃じゃ、逆方向に逃げられちまう、です」
というシーヴの提案により、左右からの挟み撃ちとなるよう待ち伏せていた。
「‥‥来た」
大地を揺らすドドド‥‥という重い足音。
待ち伏せ班が見守る中、憐と智弥とエルしか見えていないキメラ達はまんまと罠へ誘導され――
「かかった!」
思わず声を上げる龍哉。
キメラ達は見事罠にひっかかり、ドスンと転がる大きな音が響いた。
猪・豚キメラ各1体が足元の罠にひっかかり転倒、そしてもう1体の豚キメラは落とし穴に嵌る。
「ふむ、牡丹鍋は久しぶりじゃのぉ‥‥里を思い出すのぉ」
既に鍋に思いを馳せている聖華は、覚醒により饒舌になっているようだ。流暢に喋ると、大剣「カマエル」を抜刀する。
「突撃じゃ!」
掛け声と共に、転倒した猪キメラ目掛け側面からスマッシュを放つ――聖華の大剣はキメラの体を切り裂き、続いて足を狙い斬りつけた。
そして、「『接客』を開始します」という淡々とした声が響く‥‥イーリスだ。聖華の攻撃でキメラが怯んだ所を狙い、サベイジクローで追撃する。
「全力で撃ち抜きます」
イーリスの宣言通り、スマッシュと両断剣を併用した強力な一撃はキメラの腹を抉る。
二人は連携して、キメラが身動きとれぬよう弱らせていった。
そして栗花落は、落とし穴に嵌った豚キメラを狙う。
「引っかかったね♪」
キメラに近づく栗花落はハミングバードを抜き、接近した状態から体を回転させて一撃を叩き込んだ‥‥円閃である。
「またつまらぬ物を切ってしまった‥なんちって」
反撃の出来ぬキメラに、二撃・三撃と斬り付けて行く。
そこへ、誘導を終えた智弥も加わった。
「お手伝いしますね。袋叩きですよ!」
正に言葉の通り‥‥機械剣をぬいた智弥にもぼっこぼこにされる豚キメラ。
一方転倒したもう1体の豚キメラに狙いを定め、瞬天速を発動し接近する龍哉。
彼はグラップラーでありながら、至近距離からの弓で射撃を行うという独特の戦闘スタイルを持っていた。
ロングボウから放たれる至近距離の射撃は、キメラの体を深々と貫く。
そこへ、猪キメラの止めをイーリスに任せた聖華が駆けつけた。
「この、九頭龍聖華が美味しく食してやるからの、喜ぶがいいぞ!」
温かい豚汁に思いを馳せつつ、渾身の力で叩き斬る。
合流した憐も、武器を弓からタバールに持ち替え近接攻撃を仕掛けた。回避力を活かして反撃をかわすと、キメラの肉を穿つ。
その中で、1体だけ罠にかからなかった猪キメラがエル目掛けて突進を続けている。
動きの衰えないキメラを狙い、側面からソニックブームと急所突きで足止めの斬撃を放つシーヴ。
そして彼女はキメラとの距離を詰め、続いて足を狙った流し斬りを放った。
「動きが鈍りゃ、後は袋叩きでありやがるです」
どこか物騒なシーヴの言葉‥‥。
キメラの目の前にはもう一人、エルを庇うように瞬天速で駆けつけた龍哉の姿があった。
「可愛い弟分に攻撃しようとするなんてね、きっちり落とし前付けさせてもらおうか」
得物を弓から足に装備した砂錐の爪にかえ、カポエラのように手を軸にし遠心力で蹴りかかる――足爪が鼻先を切り裂き、キメラは唸りながら後退した。
龍哉に庇われつつ、エルも武器を機械剣へとかえるとキメラを見据え
「さてと、胃袋に収まりやすくなるまで切り刻んであげようかな?」
死の宣告と共に、キメラの喉へと斬りかかる――
ここから先は、シーヴの言うとおり『袋叩き』であった。
こうして傭兵達はかすり傷こそ負ったものの、無事に食材となるキメラ4体の討伐に成功した。
●炊き出しだ!
「体長2〜3mくれぇなら、普通の猪や豚より少し大きい程度でありやがるです? マイクロバスクラスも居やがるんで、それと比べりゃ味も大味じゃねぇかと」
捌き専門で調理役を買って出たシーヴはコンユンクシオを振り上げた――そしてキメラの解体にかかる。まず大まかにそぎ落とし、続いて小太刀で丁寧に肉を捌き‥‥
「すごい‥」
臓物が飛び散ろうが躊躇い無く捌くシーヴを見て、栗花落が思わず呟いた。
「少し生臭くなりやがったかも‥‥」
「ありがとう。ハーブを煮た残り湯につけておくといい」
剣に移った生臭さが気になるシーヴにユウリが声をかけ、本格的な鍋と汁作りが開始される。
イーリスはメイド養成学校を卒業しているだけあって、手際が良い。葱は多めに用意し、「気休め程度の解毒になれば良いのですが」と言う。
猪肉には臭みとりの粉山椒を。そして骨回りの肉もそぎ落とし、鰹節と昆布でとった出汁にその肉を投入する。
「キメラの肉は当り外れが在ると聞きますが」
「このキメラは当りかな。猪は野生の肉だけど、豚は家畜って言う印象だよね」
料理の腕は『暖めてかけるだけ』という智弥も、イーリスに習いつつ根菜や薬味の準備をする。
そして、ここでも弟分を気にしつつ料理をする彼の人の姿。
「エル、気をつけてくれよ? 怪我でもしたら大変だからな」
‥龍哉である。野菜の下ごしらえを担当していたが、包丁をもつエルの不器用さにハラハラしているようだ。
「う〜ん、こんな感じ? でいいのかな? 龍さん教えて」
最初は首を傾げていたが、次第に上手くなっていくエル。若者は覚えも早い。
そこでは味見を狙う憐の姿も。
「‥‥ん。肉見てると。お腹空く。‥我慢。我慢」
と、自分に言い聞かせる憐。
その後イーリスは灰汁取りも忘れず、赤味噌と白味噌を4:1の割合で溶かす。
最後に添えたおろし生姜の香りが、また食欲を誘うのだった。
「肉は‥じっくり‥煮込むのが‥‥柔らかくなって‥美味」
聖華も牡丹鍋作りに参加し、じっくり肉を煮込んでいた。
「少し味見‥‥美味」
柔らかな肉の味に、聖華も満足そうである。
「ここからがボクの本番、料理なら任せなさい♪」
鍋と汁以外の料理も作ろう!と意気込む栗花落。
余った猪肉で串の味噌焼きに。猪と豚の肩ロースは塩胡椒を擦り込んで、ハーブと一緒に糸で縛りホイルで包むと鍋の火の下に入れる‥‥これで、即席ローストポークとローストボアの完成だ。
「即席料理としては立派なもんでしょ」
「‥‥ん。味見しようか? 味見必要?」
ここにも味見を狙う憐の姿が。
そして、聖華はもう一品つくるために動き始める――。
辺りに良い香りと温かな熱気が立ち込め、配給が開始された。
「並んでください〜。炊き出しはこちらです〜」
出来上がった豚汁から配給をはじめる智弥。
キメラ肉使用という説明はしたが、結構人気で長蛇の列が出来ていた。
「君、お腹空いた? はい、どうぞ。温かいよ」
智弥の提案で、料理は子供から渡されていく。子供は笑顔を浮かべて料理を受け取り、嬉しそうに親元へ走っていった。
「案外平気に食いやがりますね」
食べるのを躊躇うならば説得するつもりのシーヴだったが、その心配もなさそうだ。
「‥‥ん。一列に並んで。横入りはダメ。沢山あるから。焦らない」
早く食べたい憐は、てきぱきと配給に専念。
料理を終えたイーリスも「どうぞ」と手渡しつつ配給を手伝った。
「量はあるから押さないでくださいね。美味しく出来てますよ♪」
栗花落の特別メニューも、彼女の手により配られていく。
こうして牡丹鍋に豚汁、栗花落の作った特別メニューは無事配給を終える。
企画としては大成功だろう。
「ほら、余った分は食べてしまおう」
後は傭兵達の食事の時間‥‥お楽しみタイムの始まりだ。皆で料理を取り分け、ゆっくり味を堪能する。
「‥‥ん。おかわり。どんどん、おかわり。大盛りで」
憐はその小さな体にどんどん鍋と汁を詰め込んでいく。
一方龍哉は避難民の子供らに、面白おかしく今までの依頼内容を語っていた。
「それでよ! こんなでかい狼をな、この弓でズバッとやったんだぜ!」
矢を番えるジェスチャーをし、フッと手を放して矢を射ると、子供から歓声があがる。
そして智弥は子供らからせがまれ、鬼ごっこの鬼となり子供らを追い回していた。
(「なんか、懐かしいな」)
時折、助けてくれた『友達』と遊んでいた時代を思い出しながら。
やがて鬼ごっこには龍哉も加わり、大規模なものになる。
――その中で、エルが皆になじめず遠くから遊ぶ様子を眺めていた。
「あれが普通の子供、か‥‥」
明るく振舞いつつも感情が希薄なエルは、小さく呟く。自分も環境が違えば、あのように成長していたのだろうか。
しかし、
「ほら、エル、お前も追いかけられるんだからボサッとしてんなよ」
「‥え」
龍哉の声が届き、ハッと我に返るエル。龍哉はエルも輪に加わるよう誘い、その背をポンと押した。
エルは龍哉の顔を見て驚き、子供らに視線を移すと‥‥向こうでは智弥も手招きをしている。
「ほら、チビども! 捕まえられるなら捕まえてみな」
龍哉の一声で鬼の子供が走り出し、エルも加わった鬼ごっこは再開された――半ば強引な誘いだが、エルもいずれ『楽しい』という感情を思い出すかもしれない。
そして、
「あんな大変な戦いの後でも皆頑張って復興させてるんだね」
明るさを失わない子供らを見て、栗花落は『ボクたち頑張らないと!』と、決意を固めた。
そして、聖華であるが。
「いくらキメラとはいえ‥‥」
嬉しそうに『オス』のみに存在する器官を料理する聖華を見て‥‥ユウリは思わずキメラに同情した。
そして子供らと仲良く遊ぶ智弥、龍哉、エル少年の背中を見、まだ若い彼等には『見せない・言わない・食べさせない』ことを心に誓う。
「ユウリも‥‥どう?」
オスのアレを丁寧に白ワインに漬けて、茹でて、スライスした後バターと塩コショウで炒めた物。
しっかりした下味のおかげで、オヤジの整髪料のような臭みは消えていたが‥‥聖華はそれを皿にのせ、そっとユウリに差し出す。
「ああ、いただこうか」
と、答えるユウリは笑顔だが、心は『南無三!』だったとか。
自他共に認める味オンチであったが、問題は味ではない。
ここにきて初めて苦手な物を自覚するユウリだった。