●リプレイ本文
〜生き残った能力者〜
「思い出すのも辛いかもしれないが‥‥戦闘状況を教えてほしいんだ」
戦乙女と戦って唯一生き残った能力者が入院している病院へと赴き、蓮沼千影(
ga4090)が男性能力者に問いかけた。
「‥‥最初に‥‥翼での攻撃が来たんだ。羽が刃のように鋭くなって‥‥空から攻撃してくるものだ、その後――‥‥」
男性能力者は言葉を止めて俯く。その体は小刻みに震えていて、戦乙女との戦闘時を思い出しているのだろう。
「その後‥‥何かあったんですか?」
アグレアーブル(
ga0095)が淡々とした口調で問いかけると「‥‥顔が‥‥」と男性能力者はポツリと呟く。
「顔がどうかしたのか?」
九条・命(
ga0148)が言葉の続きを促すように呟くと「優しい顔だったんだ」と結論だけを男性能力者は答えた。
「表情が優しくて‥‥戦いばかりをしている俺達にとっては凄く癒されたんだ――そして、仲間の一人が‥‥」
男性能力者は呟く。そして暫く沈黙が続いた後に「‥‥味方同士で攻撃を始めたんだ。一緒に死のうとか言い始めて‥‥」
その言葉に能力者達は目を丸くする。死んでやらなくちゃ‥‥という事から魅了系の特殊能力を持つキメラだと思っていた。
今回の戦乙女特殊能力も魅了系に入るのだろう、しかしそれは同士討ちを誘うものだった。
「つまり‥‥戦乙女の魅了に引っかかったら、敵は味方にも存在する――という事になるんだね」
大泰司 慈海(
ga0173)がポツリと呟く。もし味方同士で戦うような事があったら、戦乙女以上に厄介な事になる。
「‥‥精神的に責めてくる敵は厄介ですね‥‥」
霞澄 セラフィエル(
ga0495)が大泰司に言葉を返すように呟く。
「でも所詮はキメラですね、本物のヴァルキリーであれば、無為に命を奪うような事はしないはず。そうなれば丁重に、在るべきところへお引取り願いましょう」
アイロン・ブラッドリィ(
ga1067)が呟くと「そうだネ」とラウル・カミーユ(
ga7242)が言葉を返してくる。
「本物は英雄の魂を集めるモノで、死なせるモノじゃないっしょ? それに! 僕の戦乙女は可愛い妹以外に認めなーい!」
後半、ラウルの言葉は別な方向へ行っているような気がするが、そこは気にしないでおこう。
「今回の戦乙女、一方的に死を与える事を正当化してるみたいっつーかさ‥‥」
気に入らないぜ、と言葉を付け足しながら鈍名 レイジ(
ga8428)が呟く。
「顔さえ見なければ‥‥魅了に引っかかることはないはず。少なくとも俺達はそうだった」
気をつけて、男性能力者は戦乙女退治に向かう能力者に向けて呟いて見送ったのだった。
〜戦乙女登場・優しき微笑みの裏には〜
「戦乙女かぁ、可愛いといいなぁ」
大泰司が現地へ到着して、戦乙女の所へ向かう前に小さく呟いた。
「優しい表情――と言うくらいだから、顔はそこそこいいんだろうな」
九条が言葉を返し「魅了されるなよ」と冗談混じりで言葉を付け足すと「冗談にならないから笑えないですね」と大泰司が苦笑気味に答えた。
今回のキメラ、戦乙女は魅了系の特殊能力を持っている事から、能力者達は班を三つに分けた。右翼、左翼、中央に陣形を取り、それぞれで攻撃を開始する――というものだ。
全員が一緒にいたら、万が一全員が魅了をくらってしまったら全滅――という可能性も低くはないからだ。
しかも今回は同士討ちをさせる能力のため、能力者が魅了されたら戦乙女以上に厄介なものになる。キメラ、バグアと戦うための力で仲間を傷つけてしまうからだ。
右翼からの攻撃を行う能力者は鈍名、霞澄、大泰司の三人。
左翼からの攻撃を行う能力者はアグレアーブル、ラウルの二人。
そして中央から攻撃を行う能力者は九条、アイロン、蓮沼の三人。
「よし、これから――‥‥」
九条が呟きかけた時に頭上からふわふわと何かが落ちてくる。
「‥‥羽?」
アグレアーブルが落ちてくる羽を一枚手に取って呟く、それと同時に他の能力者が何かに思い当たったかのように頭上を勢いよく見上げた。
そこにふわふわと浮いて、能力者たちを見下ろしているのは――今回の標的である戦乙女だった。
『最初に‥‥翼での攻撃がきたんだ‥‥』
男性能力者の言葉を思い出し、能力者達は構えようとするが僅かの差で戦乙女の動きの方が早く、羽状の鋭い攻撃が能力者達を襲う。
痛みを訴える前に能力者達は、それぞれの配置につき、自分の武器を構える。
〜右翼班〜
「ヴァルキューレが戦死者を作るなんて‥‥本末転倒です――紛い物のヴァルキューレ、容赦はしませんわ」
霞澄が冷めた視線で戦乙女を見て、洋弓『アルファル』を構えて『狙撃眼』を使用する。そして一撃のダメージを増加させるために『強弾撃』と『急所突き』の能力も使い、弾頭矢も併用して攻撃を仕掛ける。
霞澄が攻撃するさまを見て「確かに可愛いけど、何かなぁ」と大泰司が呟く。
「女に剣を突きつける気はない‥‥が、てめぇはキメラだ、容赦しないぜ」
鈍名が呟くと『ソニックブーム』を戦乙女に向けて使用する。鈍名は今回の任務の中で一番重要な能力を持っている大泰司を守りきること、万が一の時には身を挺してでも彼を守るつもりでいた。
しかし肝心の戦乙女はいつまで経っても『魅了』を使ってくる気配はない。その代わりと言ってはなんだが、羽状の攻撃ばかりを繰り返してくる。
「もしかして」
大泰司は前回の能力者の情報を持っていた報告書を見て、一つの仮説をたててみる。
「‥‥もしかしたら、戦乙女は二つの能力を同時には使えないのかも‥‥」
前回の能力者のメンバーは接近戦ばかりを得意とした能力者だけで、スナイパーなどの遠距離攻撃型がいなかった。
「んー、つまりそれって近くに寄らなければ魅了は受けない――って事?」
鈍名が呟くと「その通りです」と大泰司が言葉を返す。確実ではない予想だが、魅了を使ってこない以上、限りなく答えに近い予想のはずだ。
「他の班に連絡を――‥‥」
大泰司が呟くと、鈍名が通信機を使って左翼・中央班へと連絡を入れたのだった。
〜左翼班〜
「へぇ、近くに寄らなければかァ」
ラウルは右翼班から入った連絡を聞きながら小さく呟く。
そして『狙撃眼』と『強弾撃』を使用して戦乙女の翼を中心に狙っていく。
「上から見下ろされるの嫌いなんで――降りといでよ。二度と飛べない状態でネ」
ラウルは冷たく笑みながら呟くと、戦乙女の左翼が鮮血と共に失われる。そして地面へと降りてきた所をアグレアーブルが『ルベウス』で攻撃を仕掛ける。
もちろん攻撃をした後は、すぐに魅了を受けないようにラウルの側まで戻る。連携を行うようにラウルが攻撃を仕掛ければ、アグレアーブルは『急所突き』を使用して、残った右翼を攻撃する。
だが――地面に降りた事から、戦乙女の本領発揮なのだという事を能力者達はまだ知らなかった。
〜中央班〜
「落ちたか――これから本当に魅了に気をつけなくてはいけないな」
九条が戦乙女を見ながら小さく呟く。
「確かにだな、神話通りで神聖なイメージだが‥‥キメラには変わりねぇ、討伐させていただくぜ」
蓮沼が九条に言葉を返すと「綺麗な顔でも紛い物、そんなものに命を奪う権利はありません」とアイロンが厳しい口調で呟いた。
「あれを見て癒され、死んでいったんだろうな。確かに癒されながら安らかに逝けるなら死ぬにはいいかもしれん。だが俺は断る」
九条は拳を強く握り締めながら低い声で呟く。
「俺の死は俺のものだ。過程や選択肢は如何あれ、その結果は俺だけのものだ。俺は死に様を決めてはいない。決めるほどに生きてもいない」
納得した程度でキメラにこの命をくれてやるものか、と九条は鋭い視線で戦乙女を見た。
中央班は様子見をしていたが、戦乙女が地面に降り立った以上は様子見をする事もないと蓮沼と九条は戦乙女と戦うために前衛へと出る。
もし魅了をされてしまっても大泰司の能力で何とかなるだろうと考えているからだ。仲間を信頼する、それゆえに能力者は強いのだ。
これを理解していないからキメラは倒される、もし――理解出来るようなキメラが現れた時、能力者達は苦戦するのだろう。
最初に攻撃を仕掛けたのは九条で『限界突破』と『瞬天速』を使用して戦乙女の背後に回り込み『瞬即撃』で戦乙女の頭部を攻撃する。神話上の戦乙女を真似た兜が邪魔をしたが、それでもある程度のダメージは与えられていた。
九条の攻撃の後に反撃と言わんばかりに戦乙女は持っていた剣で蓮沼を攻撃するが『ジュラルミンシールド』でそれを防ぎ、攻撃によってがら空きになった胴体を狙って、蓮沼は攻撃を仕掛けた。
だが、反撃と引き換えに蓮沼は戦乙女に肩を掴まれ、無理矢理に視線を合わせられた。
「やば――‥‥」
蓮沼が魅了に引っかかりそうになった瞬間、大泰司が『虚実空間』を使って、戦乙女の魅了効果を打ち消す。それと同時に『練成弱体』をかけて戦乙女の防御力を低下させた。
「戦乙女の防御力を低下させました、今です」
大泰司の言葉がいい終わるか終わらないかの時にアイロンが洋弓『アルファル』で攻撃を仕掛ける。
そして九条はそれを待っていたかのように戦乙女に向けて『照明銃』を使用した。殺傷能力はないものの、気を取らせるには充分だったようで、照明銃が打ち込まれた後に能力者達は攻撃を繰り出し、戦乙女を撃破したのだった。
〜終わらない戦い、ゆえに人は神に縋る〜
「役にたったようでよかったです」
戦いが終わった後に大泰司が安堵のため息を吐きながら呟いた。
「無事に終わってよかったです、それにしても神話や宗教を弄び、人の心に揺さぶりをかける戦略がバグア側にはあるのかもしれませんね」
霞澄が呟くと「そうですね‥‥」とアイロンが言葉を返した。
「人が拠り所としているモノが、バグアの手によって汚されて人を苦しめる‥‥悲しいです」
アイロンが倒れた戦乙女を見ながら目を伏せて呟く。
「優しい笑顔で人を死に至らしめる、か。俺は死後の世界に興味はねェ、死後の世界に逝くのはキメラやバグアだけで充分だ」
鈍名が呟くと「そうだよネ、戦乙女はうちの可愛い妹だけで充分!」とラウルはまたもや外れた話を始めた。
それから能力者達は傷ついた体にも関わらず、ラウルの『妹講座』が延々と一時間以上続き、彼が満足して話を終わった所で本部へと帰還していったのだった。
END