タイトル:variant―信じるものマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/14 23:58

●オープニング本文


あなたはどんな時でも冷酷に徹することが出来ますか?

目の前で大事な人がキメラに殺されようとしている時、あなたは『能力者』として動く事が出来ますか?

※※※

始まりは一つの事件だった。

小さな町で起きた、大きな事件。

「なぁに、あれ」

本部入り口の所で複数の能力者が慌しく出て行く姿を見て、女性能力者がポツリと呟く。

「何か、ちっこい町でキメラが現れたらしいな――しかも恋人がキメラに捕まっているって話だ」

男性能力者が女性能力者に言葉を返すと「大変ね‥‥」と小さく呟いた。

「しかも、その男は真っ先に飛び出していったらしくてさ‥‥さっきの能力者はそれを追いかけていったってワケ」

「気持ちは分かるわ。自分にとっての大切な人が危機に晒されている‥‥それだけで冷静な判断を欠く要因になるもの」

能力者とは言っても、感情はあり、ご飯を食べなければ生きていけない、睡眠もとる。

普通の人間と変わりないのだ、冷静さをなくすのも普通の人間と同じ‥‥そしてそれが最悪の結末を導くことになるかもしれない。

「間に合ってほしいわね‥‥」

女性能力者は呟き、出て行った能力者達に向けて作戦が成功するように祈りを捧げたのだった。

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
増田 大五郎(ga6752
25歳・♂・FT
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
榊 紫苑(ga8258
28歳・♂・DF
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
テミス(ga9179
15歳・♀・AA
ゴードン=ティールト(ga9297
33歳・♂・SN

●リプレイ本文

「強さとは心に宿るもの‥‥故に人は強く、脆く、不安定だ――心を鍛えるのは容易ではない」
 御巫 雫(ga8942)がポツリと呟く。能力者であれ人間には違いない、大事な人が危機に晒されて冷静に判断できるほど心を捨てられる者はいない。
「だが、人は拠り所を持つことで、心を安定させられる――仲間がいるから踏ん張れるんだ」
 御巫が言葉を続けると「そうだな、まとめて皆助けてやろうぜ」と増田 大五郎(ga6752)が言葉を返した。
「守りたい人がいるのだろうが‥‥無茶をしてくれる」
 八神零(ga7992)がため息混じりに呟くと「それは同感ね」とクラリッサ・メディスン(ga0853)が言葉を返した。
「冷静さを欠いたままでは、どんな事になるか分かりませんのにね」
 クラリッサの言葉に「‥‥でも」と柊 理(ga8731)が呟く。
「大切な人の為何があっても駆けつけたい‥‥何と言われようと人として当然の感情です。でも‥‥双方が傷つく結果は避けたいですね」
「えぇ、必ず助けましょう」
 テミス(ga9179)がポツリと呟く。
「そうだな、最悪の結末はあまり趣味ではないのでね」
 ゴードン=ティールト(ga9297)が呟くと「キメラも知恵がついてきているんですかね」と榊 紫苑(ga8258)が言葉を返し、先に飛び出していった能力者を追いかけ、今回の任務を開始したのだった。

〜誰もが胸に戦う理由を持っている〜

「此処か‥‥」
 現地へ到着すると、増田がポツリと呟く。目の前にあるのは報告にあった通りでお世辞にも『大きな』とは言えない町だった。
 普通ならば人の声、姿がちらほらと見える時間帯にも関わらず、人の気配が感じられない――正確には人の気配は感じられるものの、何かを怖がっている‥‥そんな怯えた感じだった。
「此処からは、それぞれの班で行動――ですね?」
 榊が呟くと「そうね」とクラリッサが言葉を返してくる。
 今回の能力者達は『住人』を無事に救出して『キメラ退治』を行うために陽動班と救出班の二つに班を分けて行動する事になった。
 それでは作戦開始――とそれぞれが動き出そうとした時に「何をしている」と一人の能力者に声をかけられる。
「お前――本部を飛び出したという能力者だな」
 八神が問いかけると「お前たちは?」と男性能力者は此方の問いには答えず、眉間に皺を寄せながら問い返してきた。
「ボク達はこの町の住人を助けに‥‥そしてキメラ退治を行う為にやってきました」
 柊が丁寧に言葉を返すと「‥‥俺一人で大丈夫だ――霞は俺が‥‥」と呟いて町の方へ走り出そうとする。
 それを止めたのは車椅子に乗っているゴードンだった。
「キミは恋人だけを助けれたらいいんですか? 他の人のことは?」
 ゴードンの言葉に男性能力者は何も答えずに俯いたまま。
「‥‥俺は‥‥両親を殺された霞を守りたくて能力者になった――霞だけを助けたい」
 たとえ他の住人を見殺しにしてでも――と、恐ろしい言葉をさらりと言えるという事は本音なのだろう。
「何のためにわたくし達がいると思うんです? あなたの恋人さんも町の人も、皆を助けるために来ているんです――そしてあなたも‥‥」
 テミスが呟くと男性能力者はハッとしたように顔をあげた。
「恋人がキメラに捕まって気が逸るのも分かる。だが一人で行っても逆に人質が危険だ、それくらいは分かるだろ」
 増田の言葉に「‥‥分かってるさ、だけど飛び出さずにはいられなかった‥‥」と男性能力者は呟き、能力者たちと協力して任務を行う事を約束した。
 救出班・テミス、増田、御巫、榊――そして合流した男性能力者。
 陽動班・八神、柊、ゴードン、クラリッサの四人。

〜陽動班の動き〜

「現在、キメラが潜んでいると思われる家の前にいます――‥‥住人たちも恐らくはその中だと。これから陽動のために動きますので――救出を宜しく」
 榊は通信機で救出班に連絡を入れながら覚醒を行う。
「此処からならキメラの姿も見えますね。少し家を破損してしまうかもしれませんが――」
 ゴードンは呟きながら少し離れた場所から、キメラに向けて『ペイント弾』を打ち込む。
 もちろん、周りに一般住人がいない事を確認してから、だ。
 案の定、キメラは打ち込まれたペイント弾に慌てて外へと飛び出してくる。外には待ち構えていたかのように4人の陽動班の能力者が待ち構えていて、一般人が捕まっている家から少しでも遠くキメラを離していく。
「平和な町を乱す貴方を許すわけにはいきません!」
 柊が『ロングボウ』で男性型キメラを攻撃しながら叫ぶ。
「戦力不足は――科学者の能力を生かして援護します」
 クラリッサが呟き『練成弱体』でキメラの防御力を低下させる。続いて『練成強化』で能力者達の武器を強化していく。
「ありがたいね、さて――ダンスの時間だ。この老いぼれと一曲、踊っていただきますかな」
 ゴードンが呟きながら『アサルトライフル』で男性型キメラを攻撃する。
「今すぐに無理をして倒す必要はありませんわ。住民を救い出した仲間が来れば、もっと有利に戦えるはずですから――今は誰一人脱落する事なく戦い続けることを優先してください」
 クラリッサが支援を行いながら能力者達を諭すように話しかける。


〜救出班の動き〜

「よし、キメラの姿はない。救出するなら今だな」
 増田が呟き、能力者達はキメラのいなくなった家から住人を救出するべく、物音をたてないように中へと入っていく。
 家の中にはそれなりの人数が集められていて、女性のすすり泣く声、子供の泣き喚く声が響いていた。
「助けに来たぞ、キメラは仲間が他の場所へと誘導していった。今のうちに逃げろ」
 御巫が住人たちに向けて言うと、歓喜の声があがる。住人達としてもぎりぎりのところまで来ていたのだろう。中にはやつれた表情で能力者を見る女性の姿もあった。
「霞!」
 同行していた男性能力者が叫ぶと、家の奥からガタンという物音が聞こえ、そちらに視線を向ける。
「‥‥太一‥‥? 何で、こんな所まで‥‥」
 霞と呼ばれた女性は瞳に涙を溜めながら男性能力者――太一を見ている。
「お前がキメラに捕まったって聞いて‥‥」
 太一は霞を強く抱きしめ、安堵のため息を吐く。
「陽動班がうまくひきつけているうちに安全な場所へ。貴方は住人達の護衛をお願いしますね」
 榊が呟き、能力者達は陽動班の所へと足を進めたのだった。

〜戦闘開始・助かる命、助けなくてはいけない命〜

「はっ!」
 テミスが掛け声をあげ『バスタードソード』で攻撃を仕掛ける。その際に『豪破斬撃』『流し斬り』を使用して攻撃を行っていた。
 あれから陽動班と合流した救出班は男性型キメラに総攻撃をかけていた。男性型キメラ自体には大きな力はなく、能力者8人との戦闘は対処しきれていない様子だった。
「人の恋路を邪魔する奴は許せねぇなぁ!」
 増田が『アーミーナイフ』で男性型キメラに攻撃を仕掛ける。
「‥‥‥‥所詮は小物だ、浅知恵だな」
 八神が低く呟き『二段撃』と『豪破斬撃』を使用して攻撃を繰り出す。
「‥‥終わらせる」
 八神は呟くと、振り上げた『月詠』を男性型キメラに向けて振り下ろす。
「貴方のせいで大事な人が危機にあった奴がいるんだ、相応の罰は受けるべきだな」
 榊が低く呟くと『ヴィア』で攻撃を仕掛ける。
「ふふ、やはりボク達の連携にはついてこられないみたいですね」
 柊が呟き『棍棒』で攻撃を仕掛ける、それと同時に御巫が『デヴァステイター』で援護攻撃を行う。
「私たちが協力すれば苦もなく遂行できる任務だ。一人で向かうこと自体が間違っているのだ」
 住人の護衛にいるであろう太一に向けて呟く。
「そうだな、仲間がいれば――任務の遂行率もあがるのだから‥‥さて、キミには此処で退場願おう。お休み、ボーイ」
 ゴードンが呟くと『狙撃眼』『強弾撃』『急所突き』の三つを使用して、男性型キメラの頭を吹き飛ばし、今回の任務を見事に遂行したのだった。


〜任務の終わり、能力者達の帰還〜

「我を忘れるなかれよ、少年。忘我は後悔と焦りを呼び、最悪の結末を招く」
 別れ際、ゴードンが太一に向けて話しかける。
「あぁ‥‥これ見ろよ」
 そう言って太一は左頬の見事な手のひらの形を見せてくる。それは霞に叩かれたものなのだと太一は苦笑しながら答えた。
「何で私だけを助けに来るの! といわれたよ。アイツのために駆けつけたってのにさ」
 はは、と苦笑しながら呟く太一に「でも目が覚めた」と言葉を付け足す。
「きっと霞だけを助けていても、あいつは喜ばなかったから。これからは「皆を助ける能力者になりたい」と太一は呟く。
 その表情に迷いは感じられず、能力者達は安心して本部に帰還していったのだった。


END