タイトル:貴方は一人じゃないマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/18 23:35

●オープニング本文


『彼女』を見た人は必ず言うのだという‥‥。

戦場という地獄で聖女を見た――と‥‥。


※※※

名前 ルカ・ハミュッツ
年齢 26歳
外見 金色の長い髪に深緑の瞳

これが最近噂になっている『聖女』の実態だ。

「元々は看護師で、能力者になってからも人々を癒す存在になっている――というワケね」

女性能力者はルカの名簿を見ながら小さく呟く。

「あ、俺も一回会った事があるわ、確かに噂に違わぬ美人だったぜ〜?」

男性能力者が女性能力者に言葉を返すと「私も一回会った事あるわ」と答えた。

「何か、ルカの話を聞いてたら『絶対に死んではいけない』って気になってくるのよね」

――貴方は一人じゃない、恋人であれ友人であれ、貴方の帰りを待っている人がいるのだから死なないで――

これはルカに会った者が必ず言われるという言葉だった。

「今回もキメラ討伐に同行するみたいだな、ほら、この前の‥‥」

そう言いながら、男性能力者は別の資料を取り出す。

「上半身は人間、下半身は馬――ケンタウロス‥‥だっけか? バグアもご苦労さんって感じだな」

「笑い事じゃないわよ、このキメラのせいで近隣住民に多数の被害が出ているんだから」

女性能力者がジロリと睨みながら呟くと「‥‥わりぃ」と男性能力者は気まずそうに呟いた。

「お、噂をすれば聖女様だぞ」

男性能力者が話を逸らそうと、現れたルカを指差して呟く。

どうやらキメラ退治に一緒に赴く能力者達に挨拶をしている姿のようだ。

「初めまして、ルカ・ハミュッツといいます。今回はどうぞ宜しくお願いしますね」

ルカは穏やかに笑み、能力者達に挨拶をしたのだった。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
八百 禮(ga8188
29歳・♂・DF
九条・陸(ga8254
13歳・♀・AA
阿木・慧慈(ga8366
28歳・♂・DF

●リプレイ本文

 今回、能力者達に課せられた任務――上半身は人間、下半身が馬‥‥俗に言うケンタウロス型のキメラを退治するというモノだった。
「初めましての人は初めましてだぜ。リチャード・ガーランド(ga1631)だ、よろしく」
 リチャードが子供っぽくピースサイン付きで挨拶をするとルカは「此方こそ宜しくね」と笑みを浮かべながら言葉を返す。
「俺も自己紹介しとこうかな?」
 ごほん、と咳払いをしながら蓮沼千影(ga4090)が話し始める。
「俺の名前は蓮沼千影、護りを信条とするファイターだ。どうか宜しく頼むぜ、皆――そして、ルカ」
 にっこりと笑顔を浮かべながら蓮沼は挨拶を行った。
「私はルカ、微力ながら皆様のお役に立ちたいと思って此処にきました、宜しくお願いします」
 ルカはぺこりと頭を下げ、今回のキメラについて話し始める。
「今回はケンタウロス型のキメラのようですね」
 任務内容を書いたメモを見ながらルカが呟くとヴァシュカ(ga7064)が小さくため息を吐いた。
「‥‥ケンタウロスは狩りの象徴と言いますが、人を狩られては困りますね」
「聞く限り、突進力に長けているようだから、森の中に罠を仕掛けて機動力を削ぐことが出来ればいいが‥‥」
 榊兵衛(ga0388)が呟くと「そうですね、まきびしとかワイヤートラップとか‥‥」とティーダ(ga7172)が言葉を返す。
「まずはキメラ退治より、罠を仕掛ける事が先決みたいですね」
 九条・陸(ga8254)が呟くと「そうですねぇ、でも情報収集もしないとですね」と八百 禮(ga8188)が考え込むように言葉を返した。
「そうだな、罠を仕掛けるにしてもまずは情報を聞いてからだな」
 阿木・慧慈(ga8366)が呟き、能力者たちは被害状況などを聞くためにケンタウロスが潜む森の近くにある街へと向かいだしたのだった。

〜情報収集・街にて〜

「聖女様ねぇ‥‥‥‥」
 街の住人から情報を聞くルカの姿を見ながら八百がポツリと呟く。
「どうしたよ?」
 阿木が八百に問いかけると「あぁ、今の間に意味はありませんよ」と彼は笑みを浮かべながら言葉を返した。
「最高に興味がなかったので、流そうとしたまでです」
「ふぅん? 俺は悪くはないと思うぜ、人を励ます行為は――さて、俺も情報聞きにいってくるかね」
 頭の後ろで手を組みながら阿木は呟き、住人の所へと歩いていった。
「ケンタウロスの具体的な被害状況は? 街の中に現れる事はあるのか?」
 蓮沼が住人に問いかけると「いえ、森の中に行った人のみの被害です」と住人は答える。
 その頃、阿木は実際にケンタウロスと遭遇した住人と会っていた。
「思い出すのはつらいかもしれませんが、出来れば協力をお願いします」
 阿木は丁寧、そして紳士的な態度で住人に問いかけると「森の入り口に‥‥」とポツリと住人は話し始める。
「入り口をまっすぐ進むと左右へと行く道がある、それを右に進んだ所に‥‥キメラはよく現れる、俺もそうだったし、他の奴もそうだった‥‥」
 住人が震えながら呟くと、阿木は「ありがとうございます」と答え、能力者達の所へと歩いていった。
 そして能力者達は集めた情報を元にケンタウロスを倒しに森へと足を進めていった。

〜森の中・ルカと能力者〜

「任務を進める前に言いたい事があります」
 森の入り口辺りでルカが立ち止まり、能力者達の方を向きながら話し始めた。
「貴方達には帰りを待っている人たちがいる、貴方は一人じゃない‥‥だから、死なないで」
 噂通りの言葉をルカが呟くと「お前が言う事は‥‥」と榊がポツリと呟く。
「お前が言う事は全く正しい、と俺も思う。自分を心配してくれる誰かが皆無でない以上、その者達の為にも自分の命を粗末にする事は間違った行為だろう」
 だが、と榊はルカの目をまっすぐ見ながら言葉の続きを紡ぎだす。
「自分が動かなければ目の前の命が失われる、そういう場面に出会した時、みすみす誰かを死なしたとしたら、きっと後悔するだろう」
 そうした気持ちを持ったまま生きていくのはつらい‥‥と榊は俯きながら呟いた。
「だからわが身を省みずに動いてしまうかもしれない、近しい者を悲しませる事になったとしても」
 そうした考え方がある事も知っていてほしい、榊はそれだけ言うとルカの所から離れた。
「僕も榊さんと同じ考えですね。今回はそんな事にはならないでしょうけど」
 九条もにっこりと笑いながらルカに話しかける。
「分かっています、私も能力者ですから‥‥自分か他人か、どちらかの命を犠牲にしなければならない場面に直面したら‥‥きっと私もそちらを選びます」
 ルカは俯きながら小さく呟いた。その表情には何処か影があり、彼女もまた何かの傷を負っているという事が一目瞭然だった。
「そろそろ罠とか仕掛けよっか、早く退治して皆を安心させてやろう」
 リチャードは呟き、能力者達は複数の場所に罠を仕掛ける為に動き出したのだった。

「貴方は一人じゃない‥‥か、いい言葉だ。待っている人がいるからこそ、帰ってこようと思える。会いたい人全てが、生きる源になるよな」
 ルカはそういう人がいるのか? 蓮沼がルカに問いかけると「いた――過去形ですけどね」とルカは困ったような笑顔を見せて、言葉を返した。
「半年前‥‥夫と息子を、キメラに殺されました」
 え、と呟いたのはヴァシュカだった。他の能力者達も顔には出さないが、少し驚いているようだ。
「人からは聖女と呼ばれているけれど‥‥本当に救われたいのは私なの、卑怯な女なの、私は」
「でも貴方の言葉で癒されている人がいるのも事実ですよ?」
 ヴァシュカが呟くと「ボクだって‥‥」と俯きながら話し始めた。
「ボクの怖い事は存在自体を忘れられてしまう事、心の中で咲き続ける為に生涯をかけて種を撒くの‥‥それがどんな花になるか、いつになるのか分からないけど‥‥ね」
 ヴァシュカが呟いた後、阿木がルカの頭をぽんと撫でながら「自分にもその言葉をかけてやれよ」と語りかける。
「そーそ、沢山の傭兵の力の源になってるんだからさ」
 蓮沼が呟くと「ありがとう」とルカは聖女のような笑みを見せて礼を言ったのだった。
「どーいたしまして、さぁて‥‥落とし穴でも作るか!」
 蓮沼は腕まくりをしてスコップを持つと、落とし穴を掘り始める。
 それから数十分をかけてワイヤートラップや落とし穴、そしてまきびしの罠を仕掛け、あとはティーダが囮となってケンタウロスを罠の所まで誘導するだけになった。

〜戦闘・命を懸ける意味〜

「では、命に代えても任務を果たしましょう」
 囮として動く前、ティーダが限りなく無表情に近い表情で呟き、動き出そうとした。
「待って‥‥命に代えて、なんて言わないで‥‥矛盾している事は分かっている。だけど‥‥お願いだから死なないで」
 ルカの言葉にティーダは反論する事はなかったが、代わりに不思議そうな表情でルカを見つめる。
 ティーダが囮となって動き回る間、他の能力者達はケンタウロスが誘導されてくるまで木の陰などに隠れて、すぐに対処できるように準備をしていた。

「こちらティーダ‥‥キメラを見つけ交戦中、もう少ししたら誘導を始めます」
 待機してから十分程度が経過した頃、ティーダの無線機から能力者達の無線機に連絡が入ってきた。何か物音がしているので、戦闘しながら無線機で連絡をしてくれているのだろう。
「さて、俺達は敵を抑える役もあり、真正面からになるな」
 榊は『イグニート』を、蓮沼は『カデンサ』を構えながら二人の槍使いはケンタウロスが来るであろう方向に立つ。
「こっちからだとワイヤートラップが一つ、落とし穴が一つだな、うまく引っかかってくれればいいんだが‥‥」
 蓮沼はロープを持ちながら呟く。うまく罠に引っかかってくれれば足の一本でも木に括りつけて逃亡対策を図ろうとしていた。
「来るぞ!」
 榊が叫ぶと同時にティーダの姿が見え、その後ろを素早い動きで追いかけてくるケンタウロスの姿も視認できた。
 前衛の二人と衝突――する前にワイヤートラップに引っかかり、よろめいたおかげで落とし穴にもうまく引っかかってくれて蓮沼が素早くケンタウロスの足にロープを絡ませて木に確りと結びつける。
「これで逃げられないぞ」
 蓮沼が呟きながら『先手必勝』と『ソニックブーム』でケンタウロスを攻撃する。
 その隙に他の能力者達は各自の持ち場まで移動を行い、攻撃準備が整った。
 肝心のケンタウロスは落とし穴から出たがロープのせいでうまく歩く事が出来ないのかよろめいてヴァシュカの動きに対応できない。
「その邪魔な足、動かなくさせてもらいます」
 ヴァシュカは貫通弾を使用した攻撃の後に『ファング・バックル』と『影撃ち』を使用してケンタウロスを攻撃する。
「そちらばかりを気にしていていいんですか?」
 八百が『棍棒』でケンタウロスを殴りつけた後に『両断剣』を使用して攻撃を繰り出した。
「ワイヤーの傷、軽くはないみたいですね」
 九条も『ショットガン20』で攻撃を行い、ケンタウロスの足を見ながら呟いた。全力で走っている所にワイヤートラップに引っかかったのだ。普通なら足が千切れていてもおかしくない。ケンタウロスは足こそ千切れてはいないが、ワイヤーが深く食い込んだのだろう、決して軽い傷はなかった。
「囲み作戦は結構うまくいってるみたいだな」
 ケンタウロスの左側から阿木が走り出し、攻撃を仕掛ける。さすがに此方の攻撃を簡単に避けるほどではないので、阿木は腹部付近を狙って攻撃している。
 正面に前衛二人、そしてそれらの左右に能力者を配置し、ケンタウロスを囲むような陣形で戦いをしていた。
 そのおかげか、ケンタウロスは何人もの能力者を見て標的を決めきれずにいたのか、攻撃も散漫で避けやすいものばかりだった。
 ケンタウロスは少し動きを止め、能力者たちを見比べる。
 そして、今の自分でも倒せるんじゃないか――そんな能力者を見つけて勢いよく走り出す。
「向こうは――っ!」
 榊が叫び、九条が無線機で『向こう』にいる能力者に連絡を入れる。
「そっちにキメラが向かいました! 気をつけてください!」
 戦闘を行う能力者から離れている能力者、それはリチャードとルカ、サイエンティストの二人だった。
「くそ、弱っているとはいえ素早さは侮っちゃまずかった!」
 阿木が忌々しげに呟き、ケンタウロスの後を追うように走り出した。

「一応戦闘経験だけは積んでいるからな、ルカおねーちゃんを守ってみせるぜ」
 リチャードは『リセルシールド』を前面に出して『エネルギーガン』を構えながら来るであろうケンタウロスに向けて小さく呟く。
「何とか応戦してみるけど‥‥サイエンティストだから長時間持たない! 早く支援に来てくれ!」
 リチャードがルカの持つ無線機で連絡を入れると「向かっている!」と蓮沼から言葉が返ってきた。
「危ない!」
 え、とルカが呟くと同時に襲い掛かってきたケンタウロスを『リセルシールド』で防御してリチャードは表情を歪めた。
「今回サイエンティストが少ないからつらいぜ‥‥こちとら装甲や火力が弱いんだっての!」
 どうしたものか、リチャードが考えていた時にケンタウロスの背後から阿木が『両断剣』で攻撃を行った。
 不意をついた攻撃だったせいか、ケンタウロスは防御を行う事なく阿木の攻撃を直撃で受けてしまう。
「弱いものを狙うとは‥‥つくづく救えないですね」
 八百が呟きながら攻撃を行い、後退すると同時に榊が前に出て『急所突き』と『紅蓮衝撃』の重ね掛け攻撃を行った。
「そろそろ終わりにしましょう」
 ヴァシュカが呟き『アラスカ454』で攻撃を行う。その後にティーダが攻撃に向かい、ケンタウロスに反撃が出来ぬよう、間を置いてから攻撃を行う。
 そして、弱ったケンタウロスは地面に座り込むような形になり、能力者からの総攻撃を受けて森の中で絶命していったのだった‥‥。

〜帰還・聖女と能力者〜

「今回はありがとうございました」
 ケンタウロスを退治した後、仕掛けたトラップの解除を行い、能力者達は本部へと帰還してきた。
「いつもお前が言ってる台詞、俺が言ってやるよ。お前は一人じゃない、もちろん俺もな」
 阿木が呟くとルカは笑い「そうね」と言葉を返す。
「榊さん、あなたや九条さんの言葉を否定するつもりじゃないけど‥‥言わせて。貴方は一人じゃない、命は一つだけ‥‥失われたら決して戻る事はない。だから‥‥死なないで」
 ルカが呟くと「結構、強情だな」と榊は苦笑混じりに言葉を返した。
「そーだ、皆で記念写真でも撮らない?」
 リチャードがカメラを見せながら問いかけると「お、いいね」と蓮沼が言葉を返してくる。
「そうですね、今回皆と出会えた記念‥‥でしょうか」
 ヴァシュカがサングラスをかけなおしながら呟く。
「たまには記念写真というのもいいんではないですか?」
 八百が笑み、口元に手を置きながら小さく呟いた。
 そして、近くにいた能力者に写真を撮ってもらい、ルカと能力者達は別れてていったのだった。

 後日、聖女に関する噂の内容が少し変わっている事を耳にした。
 聖女が能力者に向けて呟く言葉‥‥それは。

「貴方が死んだら悲しむ人がいます、だから命を粗末にしないで‥‥誰かの為に、誰かを守る為に、多くの人に笑顔が戻るように、戦うために貴方は貴方の命を大事にしてください―――いつか後悔の無い死を迎えられるように‥‥」


END