●リプレイ本文
「日常生活がキメラに脅かされるとは‥‥世も末だな」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)がため息混じりに呟く。
今回、能力者達に課せられた任務は『キメラが多数潜伏している商店街の調査』だった。
「‥‥まずは現場の情報を、だね。データがなければ有効な策も考えられませんし‥‥」
ヴァシュカ(
ga7064)が呟くと「出来るなら討伐隊に参加したかったですが、下地を作るのも大切ですからな」とスティンガー(
ga7286)が言葉を返した。
「調査内容はキメラの数、種類、生態、行動時間――こんな所か」
阿木・慧慈(
ga8366)が渡された商店街付近の地図を見ながら、一人確認するように呟く。
「今回は偵察のみ、戦闘はナシ‥‥か。今回も暇になりそうだな‥‥まぁ、仕方あるまい」
須佐 武流(
ga1461)が呟くと「商店街の偵察‥‥箱を開けたら何が出るだろうな」と南雲 莞爾(
ga4272)が言葉を返した。
「そういや、地図を見る限りは結構広い商店街みたいだが‥‥どうなってるんだろうな」
神無月 翡翠(
ga0238)が地図を見ながら呟き「住人も心配だよね」とヴァシュカが表情を曇らせながら言葉を返した。
「このところますます財布の紐が硬くなってるな‥‥」
各自に配ったあと残った分は民間人に貸与することも考慮して、無線機10人分を申請していたホアキンが本部の対応振りをぼやく。
購入可能なものは自前でなんとかやりくりしてくれとのこと‥‥須佐とヴァシュカ、スティンガーそれに阿木が持参した4台だけでなんとかしなくてはならない。
「じゃあ、そろそろ偵察に向かおうか」
神無月が呟き、能力者は問題の商店街へと向かい始めたのだった。
〜人去りし商店街、闊歩するキメラ〜
「広い商店街だが‥‥人気がね〜と寂しいモンだな?」
商店街に到着して、最初に神無月が呟いた言葉がそれだった。
確かに広く、色々な店がある商店街に不釣合いなほど人がいない――むしろ全然いない。
「キメラの姿は〜‥‥確認出来ないな、どんなキメラなんだろうか」
目の上の所に手を置き遠くを見渡す格好をしながら須佐が呟く。現在の時間は朝――‥‥というより昼に近い時間帯だ。
「キメラも重要だが、民間人の事も考えておかないとな‥‥」
ホアキンが呟くと「状況が分からない以上、民間人の協力も必要だな」と南雲が周りを見ながら言葉を返した。
「さて、キメラさんの顔でも拝みにいきましょうかね」
スティンガーが伸びをしながら呟くと「無理はすんなよ?」と阿木が呟く。
「もちろん、無理をして民間人に被害が出てもいけないですしね」
ヴァシュカがブロック分けした地図を見せながら呟いた。
今回、任務を迅速に行う為に縦10ブロック(A〜J)、横10ブロック(1〜10)に分けて偵察を行う事にしたのだ。
行動する班は三つに分け、無線機を持たないB班へは「最低、一班一個は持たせるようにしたい」という考えからスティンガーが貸し出す。
A班・南雲、スティンガー、阿木の三人。
B班・神無月・ホアキンの二人。
C班・須佐――だが、彼は一人で行動する事になる。
全部の班がキメラに関して調べるが、須佐はそれを中心的に行う事になる。商店街で暴れるキメラがいたら、それらの後を追跡して巣にしている場所を探し出す――という役割だ。
そして一人で行動するのはもう一人、ヴァシュカがいる。彼女は商店街を一望出来る場所へと移動して、全体の様子を見て民間人やキメラを見つけたら無線で連絡‥‥という事だ。
「さて、情報が少なすぎるから、集めますかね?」
神無月が気だるげに呟き、ホアキンと一緒に商店街の中を目立たないように歩き出した。
「さて、俺も行くかな。此処に来るまでに民間人が隠れている場所を見つけたから、そこでキメラの現状とかを聞いてから行動するわ」
須佐は「何かあったら連絡する」と言葉をつけたし、民間人を見つけたという場所まで足音を立てずに走って向かっていった。
「俺達も行きますかね、なるべく穏便に迅速に――で」
スティンガーが呟くと「結構広いからな、少しでも多く情報を集めないと‥‥」と阿木が言葉を返した。
「それじゃ、向かうか」
南雲が呟き、それぞれの能力者は行動を開始したのだった。
〜南雲・スティンガー・阿木班〜
彼らが向かった場所は地図上のA〜Cの縦横3ブロック分の場所だった。広い場所な割に派遣された能力者は7人という少人数、だから一班ごとに多く負担しなければならないのだ。
「まぁ、偵察に大人数で‥‥というのも無理はあるんだけどな」
南雲が呟き、阿木に無線機を借りてヴァシュカに「何か変わりはあるか?」と問いかける。
「A―3付近に民間人の姿があります。人型キメラの可能性もあるので南雲さん達は気をつけてくださいね」
ヴァシュカからの言葉に「了解」と南雲は短く言葉を返し、A−3付近を目指して歩き出す。
「見る限り、商店街自体に大きな被害はないみたいだね――壊されている店とかは多数見受けられるけど、複数のキメラが暴れているにしては‥‥まだマシな方かね」
スティンガーが商店街の様子を見ながら呟いた。
確かに彼の言う通り、壊されている店は幾つも見られたが多数のキメラがいるにしてはまだ大人しい――と言ったところだろうか。
「まあ、被害が予想より少ないとは言っても、この商店街の奴らにとっちゃ迷惑極まりないだろうけどなぁ」
阿木が壊された店の前で立ち止まり、ため息混じりに呟く。
「――と、あれがそうか? キメラ――じゃねぇよな?」
阿木が見つけた民間人――中年の女性を見ながら小さく呟く。南雲たちは民間人が入っていった場所へ入ると「誰!?」と入ると同時にナイフのようなモノを向けられながら叫ばれた。
もちろん、民間人の方もナイフでキメラが倒せるとは思っていないだろうが、キメラが闊歩する場所で暮らしているのだから精神的に不安定になっていてもおかしくない。
「俺達は偵察部隊で、キメラや商店街の状況を調査しに来たんだ」
南雲が民間人に向けて話すと「いつになったらキメラを倒してくれるのよ!」と一人の女性が喚きながらスティンガーに掴みかかるように叫ぶ。
「今回はあくまで調査なんですよね、殲滅部隊は今回の調査を元にしてやってきます」
「今すぐ退治してくれるんじゃないの!? 何をしているのよ、アンタ達は!」
よく見れば数名の民間人が避難しているようで、女性の民間人が能力者達に向けて叫ぶ。
「‥‥気が張ってるのは分かるんだけどさ、状況も分からないまま多数のキメラと戦って勝てる――そんな甘い事じゃねぇんだよ」
阿木がため息混じりに呟くと、民間人たちも口を噤む。
「まぁまぁ、犠牲者が出たという報告は受けていないのですが‥‥間違いないですか?」
スティンガーが民間人に問いかけると「えぇ、まだ今の所は‥‥けが人は出ましたけど」と女性が言葉を返してきた。
「この中でキメラと会った事があるのは?」
阿木が問いかけると、その場にいた民間人すべてが手を挙げた。
「全員面識アリか、どんなキメラなのか大まかでいいから教えてほしいんだが‥‥」
阿木が呟くと「犬みたいなキメラだったわ」と一人の女性が言葉を返した。
「犬?」
南雲が怪訝そうな顔で問い返すと「私が見たので10匹はいたわ」と女性は言葉を付け足してきた。
「此方A班、キメラは犬のような獣型という情報を得た」
南雲が連絡を入れると「了解、物音を立てずに外の様子を見てみて、キメラらしき動体1を発見」とヴァシュカが見た情報をA班に伝える。
彼女の言葉に従うように三人の能力者は物音をたてないように外の様子を見る。
すると、民間人の情報通り犬系のキメラが4匹ほど商店街の中を走り回っている姿が見受けられた。
「キメラが行動する時間は決まっているか?」
南雲が民間人に問いかけると「えぇ、いつもこの時間よ。一日にこの時間だけ暴れるわ」と女性が言葉を返してくる。
確認したキメラの外見や時間帯などをヴァシュカに伝え、キメラがいなくなった後に外に出て、他の場所の確認を行うために行動を開始し始めた。
〜神無月・ホアキン班〜
「A班がキメラについて調べたらしいな、此方も民間人と接触して何かしらの情報を得よう」
ホアキンが呟くと「そうだな」と神無月は言葉を返し、二人は民間人を探して歩き出した。
先ほど、キメラが暴れているとヴァシュカから連絡を受けていたので、その付近は避けて行動を行っていた。
「今回はあくまで偵察だからな、無理な戦闘をすれば犠牲になるのは民間人だし」
神無月は呟く。民間人を探し始めて結構時間が経つというのに、誰も見つけられなかった。もちろん歩いている人がいるとは考えていなかったが、家の中にも誰もいないのだ。
「何処かに一緒に隠れているのか? 家の中から人の気配が感じられない」
ホアキンは呟き、どうしたものか――と考えていた時に一人の子供が走っている姿を見かけた。
しかも、その子供が向かっている方向にはヴァシュカから知らされたキメラが暴れているブロックだった。
「あの子供―――危ない!」
呟くと同時にホアキンと神無月は走りだし、子供を止めようとする。
「危ないだろう? この先にはキメラがいるんだぞ!」
声は小さいが、少し厳しい口調でホアキンが子供に向けて言うと「だって、ぬいぐるみ‥‥」と子供は今にも泣きそうな表情で言葉を返してきた。
このまま泣かれてキメラに見つかるのも何なので、子供の案内で民間人が隠れている場所まで向かう事にした。
「すぐる!」
避難場所に到着すると同時に母親らしき女性が慌ててすぐると呼ばれた少年の元へと走ってやってきた。
「キメラがいる場所へ向かおうとしてたぞ」
神無月が呟くと母親は「ありがとうございます」と頭を下げた後に、すぐるに「何で勝手なことをするの!」と怒っていた。
「あんたらは、誰なんだ?」
一人の男性が二人に向けて問いかける。
「今度行われるキメラ殲滅の調査だ、今回はあくまで調査だから状況などを確認したらすぐに撤退する」
ホアキンの言葉に民間人たちの空気が少し変わった。
「撤退って‥‥キメラがいるのに倒してくれないのか!」
「‥‥どんなキメラかも分かっていないから、戦いの用意もしてないんだよ。聞けば最低10匹はいるらしいからな、準備を万全にしないと‥‥」
神無月が説明していると「それまで俺達が生きている保障がどこにある!」と言葉を荒くして叫んだ。
「そうよ、私達が死んでもいいっていうの? 能力者なんだからキメラくらい倒しなさいよ」
女性も男性に便乗してきつい言葉を投げかけてくる。確かに民間人に被害が及ばないという保障は何処にもない。
「ここで、戦って、もし俺達が死んだら――誰が情報を伝える? 確かに保障なんて出来ない――‥‥だが、俺達も遊びでしているわけじゃない」
そこで民間人たちははっとしたように表情を変えた。能力者だからキメラと戦うのが当たり前、それがこの商店街にいる人たちの本音だ。それは神無月やホアキンにも気持ちは分かる。
「なるべく早めに殲滅部隊が来れるように動く、それが俺達に課せられた任務だ」
分かってくれ、ホアキンが呟くと「こちらも悪かった‥‥」と先ほど叫んだ男性が申し訳なさそうに呟く。
「殲滅部隊がキメラを殲滅する間、民間人には商店街を脱出してもらう。その時に商店街の緊急連絡網は使えないか?」
ホアキンが呟くと「それなら使える」と一人の中年男性が言葉を返してきた。
「万が一のために、各避難所には携帯電話を必ず持たせるようにしている。それを使えば大丈夫だろう」
「ありがとう、助かる」
神無月が連絡先を確認しながら呟くと「そういえば、公園の先にキメラが帰っていくのを何度も見かけたわ」と一人の女性が思い出したように呟いた。
「もしかしたら、そっちに巣があるのかもな‥‥」
神無月は呟き、ヴァシュカへと連絡を入れ、他のブロックを調査するために避難所を出たのだった。
〜須佐班〜
「あっちって何処だよ、この辺の地理感が無いんだから詳しく教えてほしいモンだよな」
一人愚痴るように呟く須佐は、キメラの巣を見つけようと行動していた。
仲間の能力者達と別れてからは、避難所で民間人に話を聞いていたのだが、うまく説明が出来る人間がいなかったせいか、商店街をあちこち走り回る羽目になったのだ。
「G―7にキメラ多数発見、I−7地点にいる武流さん注意してください」
ヴァシュカから連絡が入り、須佐はその地点で暴れているキメラを追跡して『巣』を見つけようと走り出したのだった。
「見事に暴れてるねぇ」
キメラがいる場所まで走り、見つからない場所に隠れながら須佐は小さく呟く。犬型キメラは数匹で群れを成しており、無意味に破壊活動を行っているように見える。
「いったい、何だって言うのかね」
暴れるキメラを見て、須佐が呟くとキメラ達は気が晴れたかのように商店街の奥へと走っていく。
「この先は―――公園があるんだっけか」
頭に叩き込んだ地図を思い出しながら須佐が呟く。公園とは言っても大きな公園ではなく、どちらかといえば小さめの公園だった。
走っていくキメラを見失わないように須佐が追いかけていくと、予想通り公園の中には合計で13匹ものキメラが溜まっていた。
「‥‥暴走族の集会じゃないんだからさ、こんな狭い場所に溜まるなよな」
呆れたように呟きながら須佐はキメラの観察を行う。
「指揮系統はナシっぽいな、食料――は見当たらないな。人間を捕食してなきゃいいが‥‥そういう連絡は入ってないから大丈夫かな」
ある程度まで調べた後、須佐は見つからないように仲間との合流地点まで急いだ。
〜偵察終了・情報を殲滅班へ〜
「民間人も限界まで来てるみたいだな、荒れてる奴がいた」
阿木が呟くと「こっちにもいたな、荒れてるの」と神無月も頷きながら言葉を返した。
「なるべく早めに殲滅班を出してもらいたいものですね」
スティンガーが呟くと「そうだね、早く情報を持ち帰ろう」とヴァシュカも頷きながら呟く。
「戦闘時には民間人に脱出してもらうから、その手筈も整えてある」
ホアキンが話すと「キメラの巣も見つけたしな」と須佐が言葉を返す。
能力者達は商店街を去る前に、民間人たちを安心させるような言葉を残して本部へと帰還していったのだった。
END