タイトル:幽明マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/09 01:43

●オープニング本文


幽明――それはあの世とこの世を指す言葉。

※※※

何で、こんな事になっているんだろう。

今回も簡単な仕事のはずだった。

小さなキメラとの戦闘――それを選んで仕事に来たんだ。

自分で言うのもアレだが、能力者でありながら俺は小心者で臆病、そして弱い方だと思う。

自分より大きなキメラを前にすると、足が竦んで動けなくなる癖がある。

だから仕事をする時には『自分より小さい』『そして弱いキメラ』を選んで仕事をしていた。

能力者になったきっかけは大事な恋人を殺された事が原因だった。

それなのに、俺は自分を守る事しか考えていない。

――なんて情けない能力者だろう。

能力者になって出来た友人の話を聞いたりすると、敵討ちのため、皆を守るために命をかけてキメラやバグアと戦っている。

それなのに、俺は自分を守るためにしか戦えない。

何で能力者をやっているんだろうと自分でも疑問を持つくらいだ。

そんなネガティブな事ばかり考えて仕事をしていたせいだろうか、背後からやってきたキメラに気がつかずに崖から落とされ、川を流れ、行き着いた場所で空を見上げていた。

この場所から逃げなくては、そう思うのだが足が折れているせいか痛くて動く事が出来ない。

「‥‥自分より小さなキメラにやられて最後、か。どこまで情けないんだよ、俺は‥‥」

なぁ、ルティア? 首からさげたペンダントを手に取り、中にいれている写真の女性に話しかける。

「お前を殺した奴らに復讐したくて能力者になったんだけどさ、戦う力を手に入れても、俺は弱虫のままだ」

このまま死ぬのかな、そう心の中で呟いたとき、遠くでキメラの鳴き声が耳に聞こえてきた。

●参加者一覧

智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
木花咲耶(ga5139
24歳・♀・FT
菱美 雫(ga7479
20歳・♀・ER
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
夜坂桜(ga7674
25歳・♂・GP
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
Cerberus(ga8178
29歳・♂・AA
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

「キメラ退治に向かって帰ってこない――となると、急いだ方がよさそうね‥‥」
 智久 百合歌(ga4980)は呟きながら、今回消息の途絶えた男性能力者・真人の事が書かれた紙を見つめた。
 男性能力者の名前は大谷 真人、グラップラーの青年で気弱そうな所が特徴的なのだそうだ。
「臆病な性格の為、弱そうなキメラを選んで仕事をしていて能力者の間では結構有名みたいね」
 智久が呟くと「臆病な事って‥‥そんなに、悪い事でしょうか‥‥?」と菱美 雫(ga7479)がポツリと呟く。
「そんな事はないと思います、キメラと戦う――それだけで充分な勇気ある者だと私は思います」
 木花咲耶(ga5139)が穏やかな笑みを浮かべて菱美に言葉を返した。
「そうですよ、あ、これは真人さんが受けた仕事の情報です」
 榊 刑部(ga7524)が紙を能力者達に渡しながら呟く。
「今回の場所は山、のようですね‥‥結構ガケなどが多そうですが‥‥」
 夜坂桜(ga7674)が他の能力者が用意した地図を見比べながら小さく呟く。
「しかし、連絡が途絶えたという事は能力者を窮地に追いやるキメラと見て間違いないようだな‥‥さて、どの程度の物か‥‥」
 八神零(ga7992)が口元に手を置きながら呟き「備えあれば、だな」とCerberus(ga8178)が無線機の片割れを他班の能力者に渡す。
「今回は班を二つに分けて、だったよな?」
 鈍名 レイジ(ga8428)が確認するように問いかけると「そうよ」と智久が言葉を返してきた。


〜現地到着・捜索開始〜

 現地へと能力者達が到着し、予め決めていた班で行動する事になった。
 A班・智久、八神、Cerberus、鈍名の四人。
 B班・菱美、夜坂、榊、木花の四人。
「何かあったら無線機でお互いに連絡を取り合う‥‥でいいんですわね」
 木花が呟き、能力者達は二手に分かれて行動を開始する事になった。

〜A班〜
「‥‥戦闘の形跡はあったけど、彼の姿はなかったわね」
 智久がキメラと真人の捜索をしながらポツリと呟く。
 二つの班で捜索する前、全員でキメラが現れると言われていた場所に向かったのだが、戦闘をした形跡はあってもキメラと真人の姿は何処にもなかった。
「血の跡とかあったから、怪我して動けないって可能性もあるよな」
 鈍名が思い出したように呟く、確かに現場には少ないとは言えない程の血痕があった。
「だが、あの周辺にはいなかった――‥‥身を隠しているとすると、探すのは少し厄介だな」
 Cerberusが周りを見渡しながら呟く。
「確かに―――後ろ!」
 八神が叫んだかと思うと、智久の後ろから鳥型キメラが襲い掛かってきていた。
「――死角からの攻撃、セコいわね」
 智久が鳥型キメラの攻撃を避け、反撃として『蛍火』で攻撃すると鳥型キメラの手を斬り落とす。
 そして、此処から本格的に攻める――ハズだったのだが、鳥型キメラはよろよろと何処かへと逃げていく。
「逃げる――っ」
 智久が追いかけようとした時、崖下に一人の男性が倒れているのが視界に入ってくる。
「おい、あれ‥‥」
 鈍名が指差しながら、驚いたように呟く。
「動かない、もしかしたら‥‥」
 Cerberusが真人の様子を見ながら呟き、嫌な汗が頬を伝うのを感じる。
「B班は?」
 無線機で八神がB班に連絡をしてみると、幸いにも真人のすぐ近く周辺を捜索している事が分かり、B班に真人の所まで向かうようにと頼み、A班もすぐに向かう事にした。

〜B班〜

「確か‥‥A班の連絡ではこの辺の筈なんですが‥‥」
 木花が川の横を歩きながら小さく呟く。
「‥‥あ、い、いました!」
 菱美が岩の横で倒れている真人を発見し、B班は慌てて駆け寄る。
「‥‥良かった、傷は大きいですが命に別状はなさそうです」
 榊がほっと安堵のため息を吐きながら同じ班の能力者、そして無線機でA班にも知らせる。
「あ、れ‥‥?」
 その時、真人が目を開いて能力者達の顔を見渡す。
「私たちは貴方の救助とキメラ退治を任された者です、安心してください」
 夜坂が真人に話しかけると「やっぱ、俺ってだめだな」と自嘲気味に真人が呟く。
「どんなに憎い相手がいようとも、他の能力者の力を借りなきゃあんなキメラすら倒せない」
 今にも泣き出してしまいそうな真人に「復讐のために戦う事をやめろ、とは言いません‥‥」と菱美がポツリと呟く。
「‥‥私も、そうですから‥‥でも‥‥私みたいに、憎しみの感情に囚われて‥‥自分を見失っては、ダメ‥‥」
 菱美の言葉に真人は目を瞬かせた後「でも‥‥」と呟くが、真人の言葉を榊が止めた。
「まずは生き残った事を喜んでください、生きてさえいれば‥‥次に繋がるのですから。貴方には貴方にしか成しえない役目がきっとあると思います」
 どうか自分を卑下する事なく戦い続けてください、榊は言葉を付けたして真人に話した。
 そんな時にA班とB班、二つの班が合流し、残る仕事はキメラ退治だけとなった。


〜戦い、帰還、これから〜

「キメラは確か二匹よね、一匹は見かけたけど逃げられて‥‥」
 智久がため息混じりに呟いた所で、真人が「この先に一匹いた」と話しかけてきた。
「俺は岩に隠れて襲われる事はなかったけど、この先に傷ついたキメラが逃げていくのを見た」
 傷ついたキメラ、つまり智久たちが出会ったキメラの事だろう。
「問題はもう一匹か‥‥見かけた奴が照明銃で合図――ってのはどうだろ?」
 鈍名が提案すると「そうですね、それしか方法はなさそうです」と木花が言葉を返す。
「でもそうなると、誰が真人の保護をする? 怪我しているから一人で置いていくワケにはいかないだろう」
 Cerberusが呟くと「私がします」と菱美が手を上げる。
「こ、こう見えても‥‥医者の端くれです‥‥傷の手当てはお任せください‥‥」
 確かにいざとなったら『スパークマシンα』で攻撃も出来る、そう考えた能力者達は真人の保護を菱美に任せてキメラ捜索に向かう事にした。
 能力者達がキメラの元へと向かう前に菱美は夜坂に『烈のイヤリング』を貸し出した。
「大事に使わせていただきます」
 夜坂は『烈のイヤリング』を受け取り、能力者達とキメラ捜索に向かい始めたのだった。

「此方に手負いのキメラがいるんですね‥‥」
 木花が呟き、真人から教えてもらった場所へと移動をした。
「手負いだからといって安心は出来ませんね、手負いの獣は――といいますし」
 榊が呟くと「そうですね、充分気をつけましょう」と夜坂も言葉を返す。
 山の中を歩き、暫く歩いたところに腕が斬り落とされた鳥型キメラがいた。まだ能力者達の存在に気づいていないのか、襲ってくる気配は感じられない。
「先に行く!」
 夜坂は覚醒を行いながら叫び、鳥型キメラへと攻撃を仕掛ける。
 いくら片腕が無いといえ『飛ばない』という保障がない為、夜坂は鳥型キメラの翼を重点的に攻撃を行った。
 そして榊も『イアリス』で鳥型キメラへと攻撃を行う。この場所に真人がいれば『バックラー』で盾になる役割を考えていたが、ここに彼はいない。
 もちろん、他の仲間達の盾になる事も考えているのでいつでも盾になれるように注意を怠らなかった。
「さぁ、行きますわよ!」
 木花は呟き、覚醒を行うと『蛍火』で鳥型キメラに攻撃を仕掛ける。
 しかし、ただ闇雲に攻撃を行うのではなく、仲間が攻撃を行った後に連続となるように攻撃を仕掛けた。
「そんな攻撃では私に傷を負わす事など出来ませんよ」
 木花は呟き『豪破斬撃』『流し斬り』『先手必勝』の能力を使用して、鳥型キメラにトドメを刺し、一匹目を無事に倒す事が出来たのだった。
 彼女達が鳥型キメラを倒した頃、少し離れた場所で照明銃があがりもう一匹も発見したと無線機で連絡が入ったのだった。


 木花たちがキメラを倒した頃、智久たちはもう一匹のキメラと遭遇していた。
「向こうの班に知らせるってのと、キメラの注意を引きつけるって意味で照明銃をあげといたぜ」
 鈍名が呟きながら『ツーハンドソード』を握り締める。
「さぁ、覚悟決めろよ‥‥ッ!」
 言いながら鈍名は鳥型キメラへと向かって攻撃を仕掛ける。
「メインは任せる、援護はするから落ち着いて動け」
 Cerberusが『フォルトゥナ・マヨールー』を構えながら低く呟く。
「もちろん、今度は逃げるなんて真似はさせないわ」
 Cerberusが攻撃を仕掛け、鳥型キメラの高度が下がった所を智久と鈍名が攻撃し、八神が翼を狙って攻撃を行う。
「‥‥来いよ、今度の相手は一味違うはずだぜ?」
 前髪を掻きあげ、挑発的な視線と口調で呟く。雰囲気的にキメラに伝わったのだろうか、激しく咆哮しながら此方へと襲い掛かってきた。
「相手が悪かったな」
 八神が呟き、能力者達はトドメを刺すためにそれぞれ動き出す。
 智久は『蛍火』でCerberusは『フォルトゥナ・マヨールー』で八神は『月詠』で、そして鈍名は『ツーハンドソード』で鳥型キメラを総攻撃して、無事に倒すことが出来たのだった。


「今回は迷惑かけてごめん」
 すべてが終わった後、真人が能力者に向けて深く頭を下げて謝罪してきた。
「あんな小型のキメラすら倒せない俺なんて‥‥」
「ねぇ、敵の大小なんて気にしない。貴方はちゃんと一般人に出来ない戦いをしているし、その為に自分を守る事も必要よ?」
 智久は穏やかな笑みで真人に話しかける。
「迷いや恐れがあるなら、復讐なんか止めたほうがいい‥‥あんたを想った人も、復讐によって迎えるあんたの死なんて望んじゃいないだろう‥‥」
 八神が呟いた言葉に「確かに俺は‥‥能力者に向いてない」と真人はポツリと呟く。
「でも、ルティアを亡くした日から、俺にはこれしかないんだ。これしか自分として生きる道は見つからなかった‥‥それにルティアが大事にしていた奴らを守りたい」
 真人のはっきりとした言葉に「お前はまだいい」とCerberusが呟く。
「まだ守れるものが生きているのだから‥‥守れるものを自ら死んで守れなくなるより、自らが生きて守るべきものを失う方がよっぽどつらいぞ――と知り合いのボディーガードが言っていた」
「俺にはどちらもわかるよ。だからもっと強くなる。どんな奴でも守れる強さがほしいから‥‥だから、今回は本当にありがとう」
 真人は再度頭を深く下げて、今度はお礼をいい、能力者達と共に本部へと帰還して行ったのだった。



END