●リプレイ本文
「‥‥もう、失わせはしない‥‥絶対にな‥‥」
薙原 尤(
ga7862)は一つの指輪を見つめながら、小さく呟いた。
彼もシイと同様に妹を亡くしていた――だから、シイの気持ちが誰よりも分かるのかもしれない。
「同じ境遇故の感情、か‥‥家族を失ったのは真樹のせいではないだろうに‥‥」
崎森 玲於奈(
ga2010)は真樹の事を思いながら、誰に言うでもなく呟く。
「そうだな、今回の仕事は時間をかければ、その分だけ生存者が危険に晒される‥‥行動は迅速且つ冷静に、だ」
不破 梓(
ga3236)は病院の前に立ち、そして見上げながら呟いた。
「そうですね、私も傷つく人を見たくないから‥‥頑張ります」
エレナ・クルック(
ga4247)は予め申請していた通信機を能力者に渡しながら話した。
「そういえば‥‥今回はダークファイターがいるんだな、力を見せてもらおうか‥‥」
神無 戒路(
ga6003)は遊馬 琉生(
ga8257)と月村・心(
ga8293)をちらりと見ながら呟いた。
「さぁて、患者を助ける事とキメラを倒す為に行くとするか」
六堂源治(
ga8154)が見取り図を見ながら呟き、能力者達は患者を、そして真樹とシイを助けるために病院の中へと足を踏み入れたのだった‥‥。
〜二つの班・二つの役割〜
病院に入ると、能力者達は予め決めておいた班で行動することにした。
α班は崎森、六堂、月村、エレナの四人で行動を行う。
β班は不破、薙原、神無、遊馬の四人で行動を行う。
「何かあったら、連絡を取ろう――行くぞ」
不破がα班に向けて呟き、不破を含むβ班はシイと真樹の元へと急ぐために走り出した。
「さすがに‥‥キメラが暴れてるみたいで病院も無傷とは言いがたいな‥‥」
走りながら薙原が呟く。通り過ぎる中で見えた病室などは椅子が散乱していたり、窓ガラスにヒビが入ったりしていた。
「でも、まだ犠牲者はいないと聞くから――その病室の人も無事に逃げられたんだろうね」
遊馬は走る事を止めぬまま、薙原に言葉を返す。
病院が壊れる、確かに困る事なのだが時間をかければ元に戻る事は可能だ。人の命が失われるよりはよっぽどいい。
「そろそろ、真樹の病室――っ!?」
真樹の病室が見えてくると同時に人狼キメラに攻撃されて病室の外へと弾かれる女性能力者の姿が見えた。
おそらく彼女がシイなのだろう、シイは壁に強く背中をぶつけ、苦しげな表情で「逃げて!」と病室の中にいる者・真樹へと向けて叫んでいた。
「いいんだよ、今までボクは家族の命を犠牲にして生きてきたんだもの。三回目は――ボク自身が死んでしまえばいい」
病室の中から聞こえてくる言葉に神無は「ちっ」と舌打ちをして覚醒を行い、病室の中へと入り、人狼キメラと真樹の間に割って入る。
「大丈夫か?」
不破は蹲っているシイに話しかけると「貴方たちは‥‥?」と苦しそうに呟く。
「この病院の患者と貴方たちを救うために来たんだよ」
薙原が攻撃態勢を取りながらシイの言葉に答える。
「私はいい、あの子を――真樹だけでも助けて、お願い!」
冷静さを欠いているシイに薙原はため息を吐き「冷静になれ!」と言葉を投げかける。
「‥‥単に命を救えばいいという問題ではない‥‥少しでも早く恐怖を取り除くこと、それも課せられた任務だ‥‥」
不破は立ち上がりながら呟く。
「――それに気づいているか? 死んでしまえばいい、そう言っているあの子自身の体が震えている事に。あれは恐怖があるからだ――あの子自身、誰かに『生きろ』と言ってもらいたいんだろうさ」
そう言い残して不破は人狼キメラとの戦闘に入る。
「暫くしたら真樹も此処に連れてくるから、琉生もついててやってくれ」
薙原は遊馬に言葉を残し、不破より少し遅れて戦闘に参加する事になった。
そして、その頃のα班は―――。
「ペースメーカーを使用している方がいるかもしれないですから、超機械の使用は控えた方がいいですね」
エレナ達はキメラ捜索を行いながらポツリと呟く。
「β班がシイと真樹を発見しているみたいだから、此方は残りの患者か‥‥β班が通った道の中には残り三人の患者はいなかったそうだ、見取り図があるとはいえ、少し厄介だな」
崎森が見取り図を見ながらため息混じりに呟く。捜索に時間をかけることは現状では許されない、患者がどんな怪我を負っているかも分からないし、持病が悪化――という事も考えられるのだから。
「そうだよなぁ‥‥早く見つけねぇとシイと真樹も心配だしな‥‥」
うっしゃ、気合をいれるように六堂は呟き、走る足を少し速めて3人の患者を探す事に専念する。
「待て!」
月村が呟き、曲がり角の所で足を止める。
「話し声が聞こえた‥‥」
月村は呟き、警戒を怠る事なく話し声が聞こえた病室に入る。
すると部屋の隅で怯えながら蹲る3人の患者がいた。
「ひっ‥‥」
一人は怪我をしていて、寝間着に血が滲んでいる。恐らくこのまま放っておいても命に別状はなさそうだが、逃げる途中で人狼キメラに遭遇――などしたら多少の傷が逃げ遅れる原因となる。
「お怪我は‥‥あるみたいですね、この中にペースメーカーを使用している人はいませんか?」
エレナが問いかけると、3人の患者は首を横に振った。
「そうですか、なら大丈夫ですね、傷を見せてください」
エレナは呟くと超機械を使用して『練成治療』で患者の傷を治療していく。
「真樹さんの病室に人狼キメラがいるみたいですので、患者さんは此処にいても大丈夫でしょうか‥‥」
3人の患者が隠れていた病室から真樹の病室は、そんなに離れていない。近くで戦闘が始まった事もあり、この患者たちは逃げるに逃げられなくなり、怯えていたのだろう。
「近くにシイがいるなら、真樹と一緒に此処にきてもらって、一緒に護衛までしてもらえばいいんじゃないか?」
月村が呟き「そういう事なら、俺がシイと真樹を連れてきてやるよ」と六堂が呟き、真樹の病室へと向かって走り出した。
六堂が真樹の病室に到着した時、既に戦闘は始まっていて廊下にはシイらしき女性と真樹らしき子供が座り込んでいた。
「あー‥‥あっちに残りの患者がいるからさ、移動して護衛してくんねぇかな?」
六堂がシイに話しかけると「分かった」とシイは言葉を返し、痛む体を抑えて患者3人が隠れていた病室へと向かう。
「お前が、真樹か――つらかったな、よく頑張った」
六堂は呟き、真樹の頭を撫でてやる。その瞬間、真樹の瞳が大きく見開いた。
「あのキメラは必ず仕留める、だから安心して待ってろ」
「真樹――行こう」
シイが真樹を連れて行き、それと入れ替わるかのように残りの能力者達も現場へとやってきた。
「現代のサムライ、六堂源治―――いっくぜえええっ!」
六堂は叫びながら『刀』を構えて攻撃しに人狼キメラへと駆けていった。
「――――Hier bin ich‥‥」
崎森は呟きながら覚醒を行い、人狼キメラが崎森を攻撃した所を紙一重で避け、すれ違いざまに反撃を行う。
そして連携攻撃となるようにタイミングを合わせた月村の攻撃に人狼キメラはよろめいて、壁へとぶつかる。
「これ以上犠牲を出すわけにはっ!」
エレナは呟き『練成弱体』を人狼キメラへと使用し、防御力を低下させる。
「ちっ、おとなしくやられてろ――」
神無は舌打ちと共に呟き『先手必勝』『二連射』を使用して人狼キメラを攻撃する。
だが、完全に人狼キメラの行動を止める事は出来ず、人狼キメラは能力者に向かって攻撃を行おうとした――時だった。
「――ハートショットエイム」
薙原が呟き、彼は人狼キメラの胸を狙って攻撃する。さすがに連続での攻撃で人狼キメラは床に膝をつく事になった。
「ハートショットクリア、ヘッドショット、エイム」
続いて薙原は人狼キメラの頭部を狙って攻撃するが、此方の方はハズれてしまう。攻撃がハズれた瞬間、人狼キメラは遊馬目掛けて走り出す。
「危ない!」
誰かが叫び、それと同時にメキ、という鈍い音が病室内に響き渡る。能力者の誰もが遊馬を心配した時に彼は「捕まえた‥‥」と人狼キメラの腕を掴みながら呟く。
鈍い音の正体は人狼キメラの拳が壁にめり込んだ音だった。
「ギガブレイク!!」
遊馬は叫び、至近距離での攻撃で腹を突き刺す。人狼キメラはけたたましい声で苦しがるが、崎森と不破が休む間もなく攻撃をするために武器を振り上げる。
「‥‥成程、オマエでは満たせない事はよく判った、そろそろ舞台から消えてもらわねばなるまい」
崎森は呟きながら武器を振り下ろす。
「‥‥今日の私は殊更に強いぞ‥‥っ!」
不破も呟き、武器を振り下ろす。
二人が行った攻撃は『豪破斬撃』『流し斬り』『紅蓮衝撃』の三連攻撃、それを二人同時から受ければ人狼キメラと言えども生きてはいられない。
人狼キメラは先ほどよりも大きな声をあげながら床に伏していったのだった‥‥。
「何で、ボクはまだ生きているんだろう」
すべてが終わり、病院から脱出した時に真樹がポツリと呟いた。
「‥‥何があったかはしらないが、空疎な言葉や思いは私の胸に微塵も響きはしない。お前がすべき事、それは永遠に自分を呪い続ける事ではなく、己が理念の下に、生きる者の意志を示す事じゃないのか」
崎森が呟くと「‥‥生きる、意思?」と真樹はポツリと呟く。
「オマエを守ってきた奴らは‥‥呪いながら死んでいったか? それともオマエを守れた事を誇りに思って死んでいったか?」
神無は真樹と目線を合わせながら問いかけると、真樹は俯きながら言葉を返すことはしなかった。
「自分を呪う、それはオマエを守るために死んでいった者達への侮辱でしかない」
薙原が呟くと、真樹の瞳から涙が一筋零れ落ちた。
「俺も親父の仕事の関係でね、俺はラストホープへ来る前はインドにいたんだ‥‥」
ポツリと呟く遊馬に真樹とシイは彼に視線を移した。
「毎日が地獄だったよ‥‥周りで何人も人が死んだんだ、軍人も民間人も‥‥俺も庇われ、生き延びた事が何度もある」
「‥‥お兄さんも? お兄さんのせいでも人が死んだの?」
真樹が問いかけると「違う」と遊馬は短く言葉を返した。
「俺は、自分がいたからその人が死んだとは思わない――だって、そう思ってしまったら、その人に悪いし、きっと悲しいと思うから‥‥だから」
真樹ちゃんに笑ってほしくて守ってくれたんだよ、キミの家族は―――。
遊馬の言葉に真樹は涙をぼろぼろと零し、声をあげて泣き始めた。
「だから笑って、最後の最後だと思う時まで生きろ」
月村は真樹の頭を撫で、呟いた。
そして他の能力者が真樹と話をしている時、不破はシイに話しかけていた。
「助けたいと思うのは誰にでも当然の感情だ、否定はしない‥‥だが、自分が死んでしまっては意味がない‥‥守りたい者も守れなかった私が言えた義理ではないが――ちょっとしたお節介だ」
「そう、ね。本当にそうだわ‥‥自分の命も大切に出来ない人が、誰かを助けられるわけはないわね‥‥気をつけるわ」
シイは答え、能力者達と共に本部へと帰還していく。
帰る途中「‥‥あと数年早く俺が力を手に入れてたなら‥‥お前も」と呟く薙原の姿が見受けられた。
そして何度も「ごめん」と謝る姿も――。
後日、シイと共に歩く真樹の姿を見かける事が出来た。
あの後、シイが真樹を引き取り一緒に暮らしているということを噂で聞いていたので、驚く事はなかったけれど。
今度こそ、真樹には笑顔で暮らしていける未来が待っている。
そう思わずにはいられない能力者達だった――‥‥。
END