タイトル:variant―泡沫の夢マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/31 02:18

●オープニング本文


その少女は眠り続ける。

彼女が求める『幸せ』を探し終えるまで‥‥。

※※※

少し前、双子の少女が公園で遊んでいるところを襲われ、双子の一人が殺されてしまうという事件が起きた。

殺されてしまった少女の名は『針谷ルナ』でまだ12歳の少女だった。

「ルナちゃん! ルナちゃん!」

血まみれのルナに縋りつきながら泣き叫ぶのはルナの双子の妹――ルカであった。

ルナを殺したキメラは、能力者が到着した時には既に逃走しており、キメラの姿は見受けられなかった。

能力者達はルカを安全な場所まで連れて行った――のだが、異変は次の日に起きた。

朝が来てもルカが目覚めないのだ。

両親は疲れているのだろうということと、娘の一人を失ったことで気が滅入っていたのか、ルカを起こさずにそのまま眠らせてやることにした。

しかし、昼が過ぎても、夜が来ても、ルカは目覚める気配はみせなかった。

まるでルカ自身が目覚めるのを拒んでいるかのようだった。

そんな時だった。

ルナを殺したキメラを退治しに行く能力者の話を聞き、母親がルカの様子も話してきた。

「お願いです。どうかルナを殺したキメラを‥‥もしかしたらキメラを倒したらルカも‥‥目覚めるような気がして」

だからお願いします、母親は丁寧に頭を下げて能力者達を見送ったのだった。

●参加者一覧

橘・朔耶(ga1980
13歳・♀・SN
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
香倶夜(ga5126
18歳・♀・EL
歪十(ga5439
22歳・♂・FT
シエラ・フルフレンド(ga5622
16歳・♀・SN
雷(ga7298
18歳・♂・FT
櫛名 タケル(ga7642
19歳・♂・FT
夜坂桜(ga7674
25歳・♂・GP

●リプレイ本文

「花は‥‥どれにしようかな?」
 歪十(ga5439)は花屋の前で立ち止まり、ルカの見舞いの為に持っていく見舞い用の花を選んでいた。
「女の子は可愛い花が好きだろうからね、この花なんていいんじゃないかい?」
 キョーコ・クルック(ga4770)が小さな花を歪十に渡しながら小さく呟く。
「でも‥‥眠り続けるって‥‥ルカちゃんはどれだけの悲しみを背負ったんだろう‥‥」
 花を選び、ルカが入院している病院へと向かう途中で香倶夜(ga5126)がポツリと呟いた。
「さぁなぁ‥‥でも、将来のべっぴんさんの命と可愛い笑顔を奪ったのは許せねぇなぁ」
 雷(ga7298)が香倶夜の言葉に答えるように小さく呟いたのだった。
 そして能力者達は病院に到着し、ルカの病室に向かった。ルカが入院しているのは三階の病室でエレベーターを降りたすぐのところだった。
「くそっ、酷い事しやがって‥‥。まだ小さいじゃないか‥‥」
 病室に入り、ルカの姿を見て櫛名 タケル(ga7642)がルカから目を逸らすように低く呟く。
「ルカちゃん、初めまして‥‥私はシエラ・フルフレンド(ga5622)‥‥必ずっ、かたきは取るからね」
 ルカに聞こえているか定かではないが、シエラは自己紹介をする。
「あの‥‥どうか、宜しくお願いします」
 母親がすこしやつれた表情で能力者達に頭を下げる。
「それでは‥‥キメラ退治に向かいましょうか‥‥」
 夜坂桜(ga7674)が呟き、能力者達はルナが殺された公園へと向かい始めたのだった。


〜悪夢・それは終わりなき闇との邂逅〜

「戦闘方法は決めた通りでいいんだよね?」
 公園に到着し、キョーコが呟く。
 公園に来るまでに能力者達は聞き込みを行い、キメラの数などを聞きまわっていた。
 それによって得た情報によると、キメラは犬型が一匹との事、サイズは中型犬くらいの大きさだと近くに住む中年女性が答えてくれた。
「貴方たち、ルナちゃんを殺したキメラをやっつけに来てくれたんだよね? どうかお願いだよ‥‥あんな子供が‥‥どうか仇を取っておくれ」
 中年女性ははらはらと涙を流しながら能力者達に話しかけてきた。
「勿論だよ、キメラはあたし達が絶対に倒すから――それまでの間、戸締りをしっかりして外出しないようにしてほしいんだ」
 これ以上の犠牲を出さない為にも、キョーコが言葉を付け足しながら言うと「分かった、近所の皆にも言っておくよ」と中年女性は言葉を返し、注意を促すために小走りで去っていった。
 今回、能力者達は以下のように班分けを行った。
 待ち伏せ班・キョーコ、香倶夜、歪十、櫛名の四名。
 囮班・シエラ、雷、夜坂の三名。
 そして、公園にキメラが現れるまでキョーコが待ち伏せ班の中の囮役として公園の中央に一人立つという作戦になった。
 もちろん、他の待ち伏せ班はすぐにでも戦闘に入れるように近くに待機する事になる。
「では、キメラ捜索に行ってきます」
 シエラが呟き、雷と夜坂の二人と共に公園の近くを捜索し始めた。

「恐らく公園付近にいるとは思うんですが‥‥結構範囲が狭いですね」
 確かに公園とは言っても小さな公園で、捜索するにしてもたいした時間はかからないだろう。
「向こうの班にも通信機で連絡入れてみたが、キメラはまだ現れちゃいねぇみたいだな」
 雷が通信機を片手に呟き、キメラ捜索を再開した――瞬間、犬の唸り声のようなモノが聞こえ、能力者達は身構えた。
「おまえが件の犬コロか」
 雷は『コンユンクシオ』を構え、此方に威嚇をする犬キメラに向けて短く呟く。
「さて、ミイラ取りがミイラにならないよう頑張りましょうか」
 夜坂はシエラと雷に微笑み、雷から通信機を受け取り待ち伏せ班へと連絡を行い、コートの中からファングを取り出し、攻撃態勢を取った。
「鬼さん、こちらですよ〜」
 待ち伏せ班がいる公園へと誘導するためにシエラはアサルトライフルで犬キメラの手前を狙って撃ち、牽制攻撃を行う。
 それを挑発と取ったのか犬キメラは唸りながら力任せに突進してきたが、能力者達も攻撃を受けぬように回避しながら公園を目指したのだった。


〜悪夢・戦い、そして凍てついた心を溶かす者たち〜

「連絡が来たね」
 キョーコは呟きながら、公園――待ち伏せ班がいる場所を囮班に知らせるために『照明銃』を打ち上げる。
 そしてキョーコが一人公園の真ん中で立つ中、香倶夜がそれを見ながら小さく呟く。
「キメラを倒したからって、ルナちゃんが生き返る訳じゃない事くらい‥‥あたしにだって分かるよ」
 でも、と香倶夜は言葉を続ける。
「でも、目の前で自分の半身を失ったルカちゃんの気持ちを考えると‥‥絶対にそのキメラ、許しておけないよね」
 香倶夜は『スコーピオン』を強く握り締め、キメラを倒すために自分を奮い立たせるよう呟いた。
「喉が渇いたが――飲んでいる時間もないから我慢するしかないな‥‥」
 歪十は呟き、ひたすらに犬キメラと囮班が現れるのを待ち続ける。
「何とか――ルカを目覚めさせないとな、一人の娘を失い、もう一人まで‥‥なんてのはゴメンだ」
 櫛名は呟き『月詠』を握り締めながら歪十や香倶夜と同じくキメラが現れるのを待つ。
 そして、待ち続けて十数分が経った頃にキョーコの「来た!」という言葉が聞こえ、待ち伏せ班も戦闘態勢に入ったのだった。
 現れた犬キメラに対して最初に攻撃を行ったのは、公園の真ん中にいたキョーコだった。
「亡くなったのは12歳の女の子――自分のした事の報いは受けてもらうぞ」
 キョーコは忌々しげに呟き『蛍火』を構え、覚醒を行い『豪破斬撃』と『二段撃』を使って犬キメラに攻撃を行った。
「自分のした事の罰を受けろっ!」
 そしてキョーコに続いて、香倶夜が覚醒を行い『レイ・バックル』を使用して『スコーピオン』で援護攻撃を行った。
「自分の片割れを失ったルカちゃんの悲しみ! ここであたし達がその元凶を断つ!」
 香倶夜の攻撃を避けようとした犬キメラだったが、歪十が公園の砂場の砂を犬キメラに投げつけ、一時的に視界が遮断された犬キメラは避ける事が出来ずに香倶夜の攻撃を受けてしまう。
「人の命を奪っておいて――回避出来る程、私たちの攻撃は甘くないですよ〜っ!」
 シエラが叫び、犬キメラの胴体を中心的に攻撃を行う。
「躊躇いはしないです、私はあなたを許せないから‥‥」
 撃ち続ける中、シエラは冷たく犬キメラに向かって呟く。
「‥‥絶対に、逃がさない」
 櫛名が『月詠』を握り締めながら覚醒を行い『流し斬り』で攻撃を行った。
「‥‥‥‥もう、いいだろ? やられちゃえよ」
 もう一撃をくらわしながら、冷徹な声で呟く櫛名。
 そして夜坂が「雷様!」と叫び、弱った犬キメラを投げ飛ばす。
「万象の理、一閃の太刀が如し、豪堅流傭兵術奥義!! 閃鋼天破――――っ!!」
 雷は投げられてきた犬キメラ目掛けて攻撃を行う。空中での攻撃だったため、犬キメラは避ける事も適わず雷の攻撃をすべて受けてしまう。
 そして地面に落ちる寸前、援護射撃を行っていた能力者達によってトドメを刺され、ルナを殺した犬キメラを無事に退治する事が出来たのだった。


〜ルカ・悪夢から目覚める時〜

「‥‥これで任務完了だ」
 歪十はルカの見舞いに持っていった花を同じものをルナが殺された場所に献花し、小さく呟く。
 そしてその花の隣にキョーコもお菓子とジュースを備え、ルナが安らかに眠れるように冥福を祈る。
「別の形で会いたかった‥‥彼女にも‥‥貴方にも」
 夜坂はルナと犬キメラに焼香をし、少し憂いた表情で呟いた。

「ルカちゃん、目を覚ましてください。怖いもの全部、私たちが倒しましたよ」
 キメラを倒したことをルカに報告するため、能力者達は病院へと来ていた。
 しかし、まだ彼女は眠り続けたまま。
 誰もが『だめか』と諦めかけた時、ルカの指がピクリと動き、閉じられていた瞳が少しずつ開いていく。
「‥‥お母さん―――」
 ポツリと呟くルカに母親は涙をぼろぼろと零し、ナースコールを押して先生を呼んでいた。
「お姉さん、たちの言葉、聞こえてたよ‥‥ありがとう」
 ルカが呟くと「おはようございます」とシエラが満面の笑みで話しかけ、本当に事件は幕を閉じたのだった。

 後日、退院したルカが母親と共に改めてお礼を言いに来た。
 その時のルカは、まるでルナの分まで生きるという決意をしたように生き生きとした表情だった。


END