タイトル:滅び―失われていく遺産マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/18 00:58

●オープニング本文


北海道にはいくつもの岬が存在する。

神威岬、宗谷岬、納沙布岬、地球岬、襟裳岬、そして知床岬。

知床岬は大自然の宝庫という事で世界自然遺産に指定されている。

美しい景色、自然を感じさせる神秘さ、それも今は失われつつある。

「最近、イルカが見られなくなった‥‥」

平和だった頃は知床岬沖では外洋を泳ぐイルカやクジラなどが見られていた。

しかし、今は滅多に見る事が出来ない。

イルカは頭の良い生物だ、きっとバグアの存在を感じ取って昔のように泳ぎ回る事はなくなったのではないだろうか、私はそう考えている。

「でも所詮はイルカじゃないか、そんな事まで考えられないよ、きっと」

隣では幼馴染の翔太が呆れながら呟いている。

「馬鹿ね、クジラはどうか知らないけどイルカは人間より遥かに頭がいのいのよ? 特に誰かさんと比べたら月とすっぽん、泥水とケーキね」

私・沙里(さり)が言うと「誰かさんって誰だよ!」と翔太は少し怒ったように低い声で呟いた。

「ほら、早く帰ろうぜ、この辺もキメラがうろついているって話だし」

翔太が私の腕を少し強めに引っ張る。

そう、この辺ではキメラがうろついているから近づかないようにと親からも言われていた。

少し離れた所にはバグアによって攻められ、廃墟と化してしまった街がある。

キメラはその辺をうろついているのだ。

「でも‥‥来たかったの。此処からの景色が大好きだから」

付き合ってくれてありがとね、そうお礼を言った時だった。

目の前に突然キメラが現れ、翔太は殴られ、少し遠くまで叩き飛ばされてしまった。

「翔太!」

殴られ、ピクリとも動かない翔太に私は顔が青ざめていくのを感じて慌てて駆け寄ろうとした――‥‥のだがキメラが目の前に立ちふさがり、翔太の元へ行く事が出来ない。

「翔太あっ!」

誰か、誰か助けて、私はどうなってもいいから、翔太だけは助けて! 




●参加者一覧

須賀 鐶(ga1371
23歳・♂・GP
斗羽(ga1470
16歳・♀・FT
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
露崎キリヒト(ga1960
17歳・♂・FT
各務(ga2356
21歳・♀・SN
トーマス・アンバー(ga2388
24歳・♂・SN
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
王城 紅葉(ga2465
21歳・♂・SN

●リプレイ本文

 今回の事件は、UPC本部で知った者もいれば、別な仕事をしている最中に知った者もいた。
 最初に現場到着したのは篠崎 公司(ga2413)だった。彼は別件でこの地を訪れていたのだが、沙里の助けを求める声を聞き、やってきたのだ。一人でどう行動しようか考えているうちに他にも能力者がやってきて、数としては此方が有利な方になった。
 それから集まった能力者達で簡単な作戦を行う、キメラの前にいる沙里の事も心配なため、綿密な作戦はたてられなかったが、何とかなるだろう。
「行動開始! 前衛はキメラの足止め! 後衛は支援と負傷者救助、友軍支援! 行くぞ!」
 リチャード・ガーランド(ga1631)が叫ぶと同時に、能力者たちは行動を開始する。リチャードは翔太のところに残り、彼の回復、須賀 鐶(ga1371)は沙里の所へ走り、キメラと沙里との間に入り込む。
「さて、ちょっと失礼」
 須賀は言うと同時に沙里を抱き上げる、いわゆるお姫様抱っこの形で。
 彼の本音を言えば、目の前にキメラがいるのだから初動で攻撃を与えたかった。けれどそれをしてしまうと抱き上げた沙里にまで被害が及ぶかもしれないと考え、それを思いとどまったのだ。
「ちょ‥‥何処に」
 キメラの攻撃を上手く避けながら走る須賀に沙里が問いかける。
「何処へ? 決まっているじゃないですか、翔太君のところへ、貴女は何をさておいても駆けつけたいのでしょう?」
 須賀の言葉に沙里は首を縦に振り、怪我をしている翔太へと視線を移した。
 そして、翔太の近くへやってきたら沙里を後衛陣の露崎キリヒト(ga1960)とリチャードに預け、自分も戦線に入る。
「牽制お疲れ様です、沙里くんと翔太くん、両名とも無事に後衛陣の元にいます」
 須賀は戦線に入ると同時に仲間に告げる、目の前にいるのはキメラのみ、これで一般人を巻き込む可能性もなくなるので、能力者たちは『キメラ退治』に専念する事が出来るのだった。
「ほらほら、足元がお留守だぜ?」
 王城 紅葉(ga2465)が所持している二丁の小銃・スコーピオンを弾切れ起こすのもかまうことなく発砲し続ける。その姿はさながら何処かの西部劇を思い出させるようなものだった。
 しかし、スナイパーは如何に集中して狙撃できるかで結果が変わってくる。いくら撃とうとしてもキメラの攻撃で邪魔が入れば、当たるものも当たらなくなってしまう。
「私が盾になります、思う存分、撃ってください」
 斗羽(ga1470)が武器を構えながら呟く。
「自分はキメラの足を狙い、機動力を削ぐ事に力を注ぎます」
 各務(ga2356)が弓を構えながら呟く。


「翔太、翔太、大丈夫? ねぇ、翔太あっ!」
 目を覚まさない翔太に沙里が泣きながら大声で喚きたてる。
「治療完了! 俺も支援に回る!」
 リチャードが言うと、彼と入れ替わりでトーマス・アンバー(ga2388)が護衛に入る。
「翔太くんは仲間が治療してくれたおかげで大丈夫ですよ、今は気を失っていますが、暫くしたら気がつくでしょう――それより‥‥」
 心配なのはあちらです、とトーマスはキメラと戦う仲間たちを見た。リチャードが小銃・スコーピオンで仲間たちを支援してはいるが、状況は大して変わらない。
「くそ! スコーピオンも良い銃だが、やっぱり支援特化用にはフォルトゥナ・マヨールーが欲しいぜ‥‥あぁ、あの威力、ぜひ欲しい」
 少し話がズレているような気がするが、支援する側としては弾幕射撃の出来る武器が欲しいのだ。
 いくら知力に長けていけも、それを生かせる武器がなければ意味がないのだ。
 その時‥‥負傷した斗羽に気づき、リチャードが一時此方に戻ってくるように指示する。
「これくらい‥‥大丈夫ですよ」
 治療を促すように斗羽に救急セットを使うように勧める。しかし斗羽から返ってきた言葉は『大丈夫』だった。
「負傷すれば戦力低下だ、戦力が減れば敗北の危険性が高まるからな。悪いが俺は戦うのが苦手だ、だからあんた達には壁になってもらわないとな」
 その言葉を聞いて斗羽は納得したように自身が持つ救急セットで傷を回復し、戦線へと戻っていった。

「‥‥これが力を合わせる‥‥という事か?」
 キメラとの攻防を繰り返しながら、斗羽は自分の心に問いかけるように小さな声で呟く。今まで怒りと憎しみのみでキメラ殲滅を行っていた斗羽は仲間たちの支援を受けて、守るべきものの存在、そしてそれによって得られる力を感じていた。
「斗羽くん、悪いがちょっとズレてもらえるか?」
 背後から聞こえた声に「分かりました」と言って、少し右にズレる、それと同時にパンと発砲音が聞こえ、キメラの苦しそうなうめき声が響く。
「そっちに行ったぞ! 気を抜くなよ!」
 王城が後衛陣に向かって叫ぶ、あそこには救助するべき二人、そして支援してくれる仲間がいる‥‥しかし斗羽の足では間に合わない。
「さぁさぁ、キミの標的が増えましたよ?」
「いいよね、抜け駆け! 僕も大好きだよ、抜け駆け。でも通してあげないよ。僕って他人に厳しい人だからさ!」
 
 キメラの前に立ちはだかり、後衛陣から離すように攻撃したのは須賀と露崎だった。今回の仲間の中でも俊敏さが高い二人がキメラから後衛陣の気を逸らせた。
「流石にスナイパーたちが援護してくれたおかげで、後は楽に出来そうだね」
「油断は禁物ですよ」
 露崎の言葉に須賀が言うと「分かってる、男はクールでいなくちゃ」と不敵に笑って答えた。
 そして、後ろから「こんな事もあろうかと!」と叫んでいるリチャードの姿がある。
「う〜ん‥‥この台詞はサイエンティストの夢だよねぇ、ほら、強化した武器の威力を俺に見せ付けてくれ!」
 うっとりするように言うリチャードだったが、超機械を装備していないためサイエンティストとしての彼のスキルは使えない状態にある。
「‥‥という事で頑張ってくれ!」
 リチャードはわざとらしい爽やかスマイルで前衛に行って戦う仲間たちを見送ったのだった。

「てめえの死に場所は‥‥此処だ」
 キメラの攻撃を受けながらも、斗羽は大剣でキメラを叩き斬った。キメラは耳を塞ぎたくなるほどの大きな声で悲鳴をあげると、地面にバタンと倒れてしまう。
「終わった‥‥」
 そう呟いたのは誰だったか‥‥激しい戦いも能力者たちのおかげで幕を閉じることが出来た――‥‥。


「あの、ありがとうございました」
 あれから翔太も目を覚まし、状況を把握すると「ありがとうございました」と頭を下げた。
「でも‥‥すげぇ痛かった‥‥」
 翔太は治ったばかりの傷を押さえながら苦笑して呟くと「男なら泣き言はナシだぜ?」と王城から言われ笑っていた。
「岬から眺める空もいいものだな」
 王城が座り込み、空を見上げながら呟く。
「昔はもっと良かったんだって。少し前まではイルカもいたんだけど‥‥最近は見れなくなっちゃった‥‥」
 ざざ、と波の音だけを響かせる海を見ながら沙里が悲しげに呟くと「いつか帰ってくるさ」と王城は励ますように呟く。
「でも‥‥頑張ったな」
 沙里の頭をポンと撫でながら各務が呟く。彼女はキメラが現れた時点で逃げようと思えば出来たのかもしれない、翔太さえ見殺しにしようと思えば。
「いつか‥‥またこの海にイルカ達が戻ってくるまで‥‥それまでの間、我慢していてくれませんか? そのために自分達は能力者になったんですから」
 トーマスの言葉に「ん」と沙里は短く言葉を返す。
「平和な世界への足がかり、なのかもしれませんね。俺たちは」
 須賀が呟くように言うと「そうかもしれませんね」と篠崎も言葉を返す。
「いつか、帰ってくるさ、こんなに綺麗な空と海なんだからな」
 王城の言葉に全員は空を見上げ、いつかイルカの戻ってきた海を想像するのだった。



END