タイトル:緑の森に在する鬼子マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/21 22:54

●オープニング本文


もういいか〜い?

ま〜だだよ!

もういいか〜い?

‥‥もうい〜よ!

※※※

その森の中、一人の男性能力者の惨殺された遺体が発見された。

一週間以上も男性能力者と連絡が取れなくなり、不審に思った仲間たちが彼の向かった森へと赴き、奥地の方で男性能力者の遺体を見つけたのだ。

致命傷になったのは左胸――心臓付近を貫いた『何か』による攻撃だと言われている。

「一体何が‥‥」

「鬼子じゃよ‥‥」

森より少し離れた場所にある村の老人は手をカタカタと震わせながら呟く。

「鬼子?」

「いつからじゃろう‥‥随分と昔からだったような気もするし、つい最近の事にも思える‥‥。小さな少年の姿をした鬼が森に居つき始めたのじゃ‥‥その鬼は――‥‥」

老人の震えが激しくなり、心なしか表情も険しく思えた。

「まるで鬼ごっこでもするかのように楽しげに追いかけてくるのじゃという‥‥その子供に捕まったら――死ぬじゃろうな、わしの孫のように‥‥」

「鬼ごっこ‥‥」

老人は男性能力者を探しに来た能力者の手を痛いほどに掴みながら「頼む」と懇願してきた。

「あの鬼子を始末してくれ――頼む! わしの孫の仇を――っ!」

その後、能力者たちは本部へと帰還し、今回のキメラについての話を他の能力者に話したのだった。

●参加者一覧

クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
橘・朔耶(ga1980
13歳・♀・SN
海音・ユグドラシル(ga2788
16歳・♀・ST
青山 凍綺(ga3259
24歳・♀・FT
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
花火師ミック(ga4551
30歳・♂・ST
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN

●リプレイ本文

「今度の敵は鬼‥‥しかも子供なんやな‥‥」
 クレイフェル(ga0435)がため息混じりに小さく呟く。
「そうね、少し緊張するけれどク〜ちゃんと一緒で少し安心したわ。リラックスできるもの」
 ナレイン・フェルド(ga0506)がクレイフェルに笑顔で話しかける。この二人は長い付き合いで、今回久々に同じ任務に就く事になった。
「今日はハリセン持ってきてないの?」
 笑顔で問いかけてくるナレインに「持ってきてへん」とクレイフェルが短く言葉を返す。
 しかし今回、ハリセンを持って来ていない彼だが所持品の中にはメガホンが存在している。
「そういえばさ、鬼は人々を悪しきモノから守護する存在だったはずなのにね」
 橘・朔耶(ga1980)がポツリと呟く。
「あら、そうなの?」
 橘の言葉に海音・ユグドラシル(ga2788)が聞き返すと、橘は「畏怖と恐怖の象徴なんだけど同時に悪しきモノから守る存在なんだよ」と答えた。
「そうだったんですか‥‥そんな言い伝えすらキメラは汚していくのですね」
 青山 凍綺(ga3259)が悲しげな表情で俯きながら呟いた。
「でも――殺された幼い少年は‥‥キメラと友達になろうとしたのでしょうか? もしそうであったなら‥‥胸が痛みます」
「いくら人間の子供の姿をしていても、所詮はキメラ――という事だろうな‥‥」
 青山の言葉に藤村 瑠亥(ga3862)が小さく言葉を返す。
「マズ鬼子を退治するにしても仏さんに会わんといかんな」
 花火師ミック(ga4551)が呟き、鬼子退治を依頼してきた老人に遺体を見せてくれるように頼む。
「孫の遺体――を?」
 老人が躊躇いながら能力者の顔を見ていく。
「死者の眠りは妨げたくないが‥‥鬼子の特徴を掴む為に、頼む」
 神無 戒路(ga6003)が申し訳なさそうに老人に話すと「‥‥わかった」と老人も諦めたかのように首を縦に振り「こっちじゃ」と遺体が安置されている場所へと案内する。
「‥‥俺は聞き込みとかをさせてもらうわ。あと子供にも森に近づかんよにお願いしとく」
 クレイフェルが軽く手を上げて呟くと「私も遺体を見るなんて出来ない〜‥‥」とナレインもクレイフェルと一緒に情報聞き込み班に加わる。
 結局、大人数で押しかけても‥‥という事になり、遺体の検分を行うのは花火師、青山、神無、海音の四人となった。
「さて、こっちは聞き込みをするとしますかね」
 橘が呟くと同時に動き出し、聞き込み班は村の人間たちに話を聞きに向かい始めた。


 老人の孫が鬼子に殺されてしまったのは最近のようで、まだ遺体検分も行われていない状態だった。
 無医村であるこの村では、かなり遠くにある町に行かないと医者がいないというのだ。
「‥‥これがわしの孫じゃ‥‥」
 遺体の上に被せていたシートを剥ぎ取り、能力者達の視界に入ってきたものは――体を穴だらけにされた哀れな少年の遺体だった。
「私も‥‥拝見させていただきます」
 青山が呟き、遺体の状況などを見ていく。その様子を見て「医学に携わった事があるの?」と海音が青山に問いかける。
「え?」
「手馴れたように見えるから、もしかしたらお医者様だったのかなと思って」
「大学院の研究者だった経歴がありまして、医学の知識は少々持っているんです」
 青山の言葉に「そうなの」と海音は呟き、他の能力者と一緒に検分を行っていく。
「マズ一つ分かったよ」
 花火師が呟き「何が?」と神無が問いかける。
「鬼子の攻撃方法の一つだけどね」
 花火師が指差したのは少年の胸の辺りにつけられた傷だった。鋭利な刃物で切り裂かれたような傷があったのだ。
「‥‥これは、手?」
 神無が小さく呟くと「正解」と花火師が人差し指で神無を指しながら答える。一見すると鋭利なナイフか何かのように見えるが、傷は五本の線上になっていて傷付近には爪の欠片のようなものもついていた。
「でもこちらの傷は何でつけたのか分かりかねますね」
 青山が指したのは左腹に開いている穴の部分。よほど勢いよく突き立てられたのだろう、左腹の穴は貫通しており、体を通して向こう側が見えるほどだ。
「これが能力者に致命傷を与えた傷と同じものじゃないかしら?」
 海音が呟く。確かに鬼子によって殺害された能力者の左胸にも鋭い『何か』で貫かれた傷があったと報告にあった。
「これは傷を見るだけじゃ分からんな」
 むー、と唸りながら花火師が呟き「分かっただけでも他の人に知らせましょう」と青山が言葉を返す。
 検分を終え、少年の遺体にシートを被せると「‥‥仇は取ってやるからな」と遺体に向けて神無が呟き、能力者たちは遺体安置室から出たのだった。


 そして、時は少しだけ遡り聞き込み班は村の住人から鬼子についての情報を集めている。
「鬼子を見たことがあるか?」
 藤村が村の住人に話しかけると「僕あるよー」と小さな少年が手を上げて答えた。
「どんな奴で、どこで見たか分かるか?」
 藤村が少年と同じ目線まで屈み、問いかけると「綺麗な男の子だった」と少年は答える。
「綺麗な男の子?」
 橘が聞き返すと「うん、そんで森から出てこないの」と少年が笑って答えた。
「森から出てこない‥‥? 何か森から出られない理由でもあるんかな」
 クレイフェルが首を捻りながら呟くと「明るいものが苦手なようで‥‥」と少年の母親が答え。
「だからこの村では鬼子除けの意味もあって夜でも街灯などで光を絶やさないようにしているんです」
 なるほど、と藤村が周りを見ながら納得したように呟いた。この村の中は昼間であっても街灯の光が絶える事なく点いていることが疑問だったのだ。
「早く鬼子を退治してお爺さんの無念を晴らしてあげたいわ‥‥」
 ナレインが呟いた時に、遺体検分のために別れていた班がやってきた。
「一応、遺体検分で分かったことは纏めてあるわ」
 海音が纏めた資料を聞き込み班に渡していく。
「せや、大事な事言うの忘れとったわ」
 クレイフェルが呟き、少年の母親に「鬼子を退治するまで森に入らんとってな」と話しかけた。
「特に子供。鬼子と間違えたらかなんもんな」
 クレイフェルの言葉に少年の母親は「分かりました、他の子供たちにも伝えておきます」と答え、他の住人に知らせるために小走りで駆けていった。
「これからが本番だね」
 花火師はどこか楽しげに呟き、他の能力者と一緒に鬼子の待つ森へと入っていったのだった‥‥。


 今回、鬼子を倒すために能力者たちが考えた作戦はグラップラー三人が囮となってキメラを誘導してくるというものだ。
 能力者たちが戦いの場として選んだ場所は森の中央辺り、間違っても村に被害が及ばないような場所だった。
「囮の人たちはこれを持っていってね」
 海音が渡したのはインカム型の通信機だ。囮役は動き回るため、手に持つ通信機では誘導に支障が出ると考え、事前にインカム型の通信機を申請していたのだ。
 囮役の三人がそれぞれ一つずつ持ち、待機班が一つの通信機を持つ。
 これで連絡は全員に行き渡るだろう。
「確か、戦闘場所に選んだ所は‥‥能力者の遺体があった所だったな」
 藤村が思い出したように呟く。老人の孫である少年の遺体は限りなく村に近い場所で発見されたが、能力者の遺体は戦闘場所に選んだ森の中央辺りに投げ捨てるようにあったらしい。
「ふふ、つい歌いだしちゃうね。鬼退治とかもう大好き!」
 花火師は鬼子に会えるのが楽しみなのか、表情から笑顔が消えることがない。ちなみに連絡用の通信機は花火師が持つことになっている。
 囮役の三人はそれぞれ森の中へ散っていった。


「待機組から離れすぎんよに注意やな‥‥鬼さんこっちら〜♪ って遊びやないけどもな」
 クレイフェルは一人呟き、警戒を怠らないようにする。
 鬼子にわざと見つかるように気配を隠さず、草木で音をたてながら歩いていると前方に気配を感じ、顔を上げる。
「―――鬼、子‥‥」
 クレイフェルは自分に言い聞かせるように小さく呟く。額にツノのような尖った突起物があるが、それ以外は何ら人間の子供と変わらない少年にしか見えなかった。
「くす――ふふ、ふ――きゃははははは!」
 けたたましい笑い声と共に鬼子が素早くクレイフェルに襲い掛かってくる。最初の一撃を避け、通信機で鬼子に会った事を他の能力者に伝える。
 鬼子は鋭い五本の爪でクレイフェルを攻撃していくが素早さではクレイフェルが勝っているのか紙一重ではあったが避ける事が出来た。
「近くにいるんは‥‥ナレインか――しゃあないけどナレインのところまで行くしかないか‥‥一人やとキツいわ」
 クレイフェルは鬼子の攻撃を避けながら、近くにいるナレインの所を目指す。

 そして、クレイフェルから連絡を受けていたナレインは鬼子を迎え撃つ為に攻撃態勢を取る。
「とりあえず皆のところまで行かなくちゃ‥‥来た」
 近づいてくる気配にナレインが『エリシオン』を構える。
「見た目は可愛い‥‥かもしれないけど、ギュッと抱きしめる勇気はないわね」
 小さくだが見えてきた鬼子を見て、苦笑気味にナレインは呟く。囮役が一人から二人になったおかげで鬼子の攻撃対象が別れ、先ほどよりはクレイフェルの負担は減少した。
「森の中ってのは不利よねぇ」
 ちらりとナレインが鬼子を見ながら呟く。木々を避けながら待機班の所に向かう途中なのだが、鬼子は木々を避ける事もせずにまっすぐナレインとクレイフェルを目掛けて走りよってくる。避けている動作が余分なのか、鬼子に追いつかれそうになったナレインは『瞬天速』を使用して逃げる。
「おおお! 俺は!?」
 ナレインが逃げた事で再度ターゲットロックオンされたクレイフェルは慌てて『ルベウス』で攻撃を仕掛ける。
「命がけの鬼ごっこか‥‥洒落にもならんな」
 鬼子の攻撃がクレイフェルに及ぼうとした時、藤村が木の上から飛び降りながら鬼子を蹴りつける。
 幸いにも待機班の所まで来ていたらしく、青山が最初に鬼子へと攻撃を仕掛けた。
 そして青山が鬼子から離れると同時に、橘が『コンポジットボウ』で鬼子の足を狙い撃つ。
「人型のキメラね‥‥動物型よりも面白い情報があるのかしら?」
 海音が笑みながら『練成弱体』を鬼子に使用して、鬼子の防御力を下げていく。
「それじゃ自分も‥‥いやっはー! スイッチオーン!」
 花火師も覚醒を行い、超機械を構える。
「あれが鬼子かい、倒したくないなぁ、あんなおもろい奴」
 残念そうに呟きながらも攻撃をしていく花火師。
「‥‥被害者と同じ苦しみを味わえ」
 神無はライフルを構え、鬼子の心臓部分を狙い撃つが、動き回っているせいか心臓部分には当たらず左腕を掠めた。
 さすがに八人の能力者に囲まれ、逃げ場を失った鬼子の中に『恐怖』が滲み出てきたのか、表情を苦痛に歪める。
「‥‥ずるいわね。する事は残酷なのに、こんな時だけ『子供』の顔をするなんて‥‥本当に子供を相手にしているみたいでイヤだから――早く終わらせましょう」
 ナレインは呟くと『瞬速撃』で鬼子に攻撃を食らわす。
「さっきはよくも好き勝手に追いかけてくれましたね‥‥覚悟はいいですか?」
 覚醒状態のクレイフェルが冷ややかな瞳を鬼子に向け、ヒット&アウェイの戦法で鬼子を攻撃していく。
「まさか、自分は散々殺しておいて、自分が殺されるのは想定外だとは――言わないよな?」
 藤村が呟き、武器を振り上げて鬼子に攻撃を仕掛ける。鬼子は逃げようとしたが、花火師の超機械による攻撃、そして神無の攻撃を受け、逃げることもかなわず藤村によって斬りつけられたのだった‥‥。
 最後、能力者達の胸にもやを与えた姿は、泣きそうな表情で能力者たちを見て、手を伸ばしてきた姿だった。
 それはまるで母親に助けを求めているような姿にも思え、数名の能力者は視線をそらしたのだった。
(「キメラって悲しい存在ね‥‥人を殺める為だけに生まれてくるんだから‥‥」)
 今はもう動かぬ鬼子の遺体を見ながらナレインは複雑そうな表情をし。
「一応、退治した証拠として――ツノをもらっていくよ」
 橘が鬼子を倒した証拠として持っていくためにツノを切り取る。
「それにしても‥‥鬼って言うからには、悪知恵が回るものだと思っていたけれど‥‥人型であってもキメラはキメラって事か‥‥」
 残念そうに海音が呟き、村の住人に報告するために能力者たちは村へと戻っていった。


「ありがとうございます――しかし鬼子は死んでも孫は‥‥」
 やりきれない思いを胸に老人の搾り出すような声が小さく呟く。
 そんな老人にナレインが青い薔薇を一輪差し出した。
「慰めにもならないかもしれないけれど‥‥花が側にあれば、少しは気持ちが落ち着くと思うから‥‥」
 ナレインの言葉に「ありがとう」と老人は礼を言い、青い薔薇を受け取る。
「鬼子は退治したわけだし、少なくとも今は森中でも安全だとは思うわよ」
 海音の言葉に住人たちは安堵のため息を吐いた。
 能力者たちが住人に鬼子退治の報告をしている中、神無は少年の遺体が安置されている場所へ赴き「無念は残るだろうが‥‥安らかに眠ってくれ」と花を手向けながら呟いていた。


 鬼ごっこが好きな鬼子のキメラはもういない。
 鬼子が死んでも、鬼子によって殺された者は戻ってはこない。
 だから、誰も救われてはいない――。
 けれど、これから鬼子によって殺められる犠牲者は止められたのだから、能力者達の仕事は成功を収めたのだった。


END