●リプレイ本文
「‥‥天使ですか‥‥? 今回は男性型とは‥‥いくら似せて綺麗でも‥‥油断はできませんねぇ?」
神無月 紫翠(
ga0243)がポツリと呟く。
「そうですね‥‥バグアは人々の祈る心すら弄ぶつもりなのですね‥‥許せません」
霞澄 セラフィエル(
ga0495)が少し怒りを混ぜた口調で神無月に言葉を返す。
「しかし天使に裁かれた街‥‥情緒的かつ神話的な響きだな。フレーズとしては悪くない」
メディウス・ボレアリス(
ga0564)が呟き「だが」と言葉を続ける。
「人の持ち歌のような真似をキメラにされるとは‥‥そこら中でやられている事とはいえ『天使型キメラ』に『焔』で『街を灰にされる』その三拍子が揃ったのは許せん」
メディウスは煙草の煙を吐き、自らを落ち着かせるように呟く。
「どんなに天使の真似事をしても獣でしかない。そしてあたしは天使も信じない――だって、天使がいるのならば彼らの愚行を赦しはしないだろうから」
葵 宙華(
ga4067)は呟き、己の武器『スコーピオン』を手にする。
しかし隣の金城 エンタ(
ga4154)の様子がおかしい事に葵が気づき「どうしたの?」と問いかけた。
「‥‥いえ‥‥キメラと分かってても‥‥躊躇しちゃいますよね‥‥」
心優しい彼は、キメラが天使の姿をしているだけだと分かっていても複雑な心境なのだろう。
「だけど‥‥キメラに殺されてしまった人たちの為にも‥‥天使型キメラは倒さないと‥‥いけないんですよね」
キリト・S・アイリス(
ga4536)も表情を曇らせながら小さく呟く。
「相手はキメラ。なら罪悪感を覚えなくてもいいわけだし‥‥好きにやらせてもらおうよ」
真紅櫻(
ga4743)が呟くと「そうだな」と烏莉(
ga3160)が短く言葉を返した。
「さて‥‥キメラの捜索と迎撃場所の選定しなくてはいけませんね」
霞澄が空を見上げながら呟く。空を見ると橙色に染まりかけていて、これ以上時間が過ぎていけば天使キメラに有利になるだけだ。
作戦の打ち合わせで金城と真紅の二人が天使キメラの囮・誘導役をする事になっていた。他の能力者達も半壊した街を一通り見て回ったが、特別優位にたてそうな場所はなかった。
「なんて言うか‥‥なるようにしかならないって事だね」
葵が呟き「すぐ近くに開けた場所があるから、そこで戦うってのはどうですか?」とキリトが提案をしてくる。
確かに少し歩いた場所に開けた場所がある。元々は建物が建っていたのだろう。地面が焼け焦げた跡があった。
「じゃあ、その場所に天使キメラを誘導してくればいいわけですね」
金城が呟き、双眼鏡を片手に走り出す。
「暗闇になれば余計にこっちが不利になるからね。早く行くとしますか」
真紅も呟き、双眼鏡を片手に持って金城と同じ方向へと走っていった。
「それでは我らも行くとしようか」
メディウスが呟き、キリトと共に囮・誘導役の二人を追って走り出す。メディウスとキリトの役割は囮役二人の援護・護衛。
空から攻撃してくる天使キメラに二人では分が悪いと考えたのか、メディウスとキリトの二人は囮役から少し離れた場所から援護をする事になっている。
「‥‥それじゃあ‥‥自分達も移動‥‥しましょうか」
神無月が呟き、迎撃班は天使キメラが誘導されてくる場所へと向かい始めた。
囮役二人は双眼鏡でキメラの居場所を捜索しながら半壊した街の中を走り回っていた。
しかし中々見つからず、諦めかけたその時「あそこ‥‥」と金城が街の中央にある教会を指差す。教会の屋根にある十字架に背中を預けて、キメラは眠っているかのように瞳を閉じていた。
「エセ天使様と、ちょっと追いかけっこでもしてきますか♪」
「そうですね――躊躇っていたら‥‥倒されるのはこっち――」
金城は呟き『ドローム製SMG』を両手で持つのはもちろん、反動を抑えるように肩のところにも押し当て、天使キメラの頭上目掛けて発砲する。
そのまま天使キメラを狙っても良かったのだが、綺麗に残っている教会を攻撃で崩してしまうのも気が引けたのだ。
この天使キメラを倒した後に、この場所で生活していく人がいるのだから。
金城の攻撃に天使キメラはゆっくりと瞳を開き、金城と真紅のほうを見た。
もちろん援護・護衛役の二人も金城と真紅から少し離れた場所で様子を見ている。囮・誘導役の二人に危険が及ぶような事があれば、すぐさまキリトは飛び出すつもりでいる。
金城はSMGで天使キメラに攻撃をしつつ、真紅と共に天使キメラを誘導していく。
天使キメラは移動をしながら、攻撃をしてくるが金城と真紅はそれを上手く避けていく。
「流石に無傷で倒せるとは思っていませんでしたが――‥‥直撃すると怪我ですみそうにないですね」
金城が炎の羽が掠った腕を見て、表情を歪めながら呟く。
「そろそろ目的の場所だね」
真紅は呟くと照明銃を天使キメラに向けて放つ。もちろんそれは簡単に避けられてしまったが、真紅は『天使キメラが近い』という事を他の能力者に知らせる為に照明銃を使ったのだ。当たればラッキーのつもりで天使キメラに向けたので、避けられることは予想の範囲だった。
真紅が照明銃を発砲してから数分後に目的の場所に到着し、最初に攻撃したのは霞澄だった。
「人々の祈る心を弄ぶまがい物の天使! 覚悟なさい」
霞澄は呟くと同時に覚醒を行い『鋭覚狙撃』と『強弾撃』を併用した『弾頭矢』で天使キメラを狙い撃つ。彼女が狙った場所は翼の付け根部分。天使キメラは空を飛んでいるせいで狙いは付けにくいが『狙撃眼』を使うほどではない。
「Dies Iraeは我の専売特許(申請中)だという事を刻んでやろう」
メディウスは呟き『練成強化』でスナイパー達の武器強化を行い、他の能力者が怪我をしたらすぐに治療できるように後退する。
「‥‥いい加減、人を上から見下すのを止めてもらおうか」
烏莉は呟き『小銃S−01』で天使キメラの翼を狙い撃つ。彼の攻撃の後に天使キメラが攻撃を行ったが、烏莉は崩れた建物を足場にして、それを避ける。
「夜闇じゃないから、あなたの攻撃は丸見えだよ」
葵が呟き『スコーピオン』で天使キメラを攻撃していく。その後、葵は『ペイント弾』を天使キメラの左目部分に命中させる。
その攻撃が天使キメラの癪に障ったのか、葵に連続で攻撃を行ってくる。
「高慢さは真似なくても良かったのにね」
葵は天使キメラの頭を狙いながら呟く。彼女の放った弾丸は天使キメラの耳を掠める。葵の攻撃のすぐ後、金城が攻撃をする。金城は『当たればOK』と割り切り、積極的に攻撃していく。
その攻撃の仕方は、まるで金城が自分の存在を天使キメラに誇示しているかのようにも思えた。
スナイパー達の翼狙い撃ちにより天使キメラの右翼が嫌な音をたてて剥がれ落ちた。
そして飛ぶ事が出来なくなった天使キメラは地面に落ち、痛む背中に手を当てている。天使キメラが地面に落ちると同時に攻撃を仕掛けていたキリトは『蛍火』で天使キメラの残った翼を斬り落とす。
天使キメラは絶叫のような声をあげたかと思うと拳で能力者達を攻撃してくる。炎を纏わせる羽を持つ翼は両方なく、天使キメラに残った武器は己の拳のみだったのだ。
「そうそう、キメラなら神話上の真似事をせずに自分の拳で戦いな、炎の裁きを下すには――いくら天使さまと言えども自分勝手でしかないんだからさ」
真紅は呟くと『紅』と『刀』で舞うように天子キメラを攻撃していく。
しかし天使キメラはそれを待っていたのか、真紅の攻撃を受けると同時に拳で真紅の顔を狙う――が神無月によってその攻撃は阻まれた。
「ったく動きやがって、当てづらいったらないな? 逃がすかよ!」
神無月が呟いている途中で天使キメラは逃げ出そうと走り出すが、神無月の長弓『黒蝶』が足を狙い、天使キメラは地面に転がる。
「怒りの日は彼の日なり、ダビデとシビラの予言の如く、世界を灰に帰せしめん!」
メディウスは叫びながら『エネルギーガン』で天使キメラを攻撃した。
「逃げようとしても無駄ですよ」
霞澄が呟くと、キリトが天使キメラの退路を断つように、天使キメラの前に立った。
そして反対側に葵が立ち、天使キメラの頭に銃口を当てる。
「貴方に賛美歌はいらない。貴方に相応しいのは銃撃の旋律による鎮魂歌よ」
トリガーに指をかけながら葵が小さく呟く。
「生きたいと思う気持ちは同じなのかもしれない。死にたくないという気持ちも、きっと僕らと変わらないと思う‥‥でも、僕にはまだやらなきゃいけない事がある。まだ死ぬわけにはいかないんだ――償いは全てが終わってから、必ず」
キリトが呟き刃を振り下ろす。
それと同時に葵も「死んで詫びろ」と天使キメラに向けて冷たく言い放ち、トリガーを引いた。
「‥‥お疲れ様でした‥‥しかし段々‥‥人型に近づいてきていますねぇ‥‥? これで知恵もあると‥‥厄介なものに‥‥なるかな?」
神無月が呟く。
「キメラを倒しても人々が受けた心の傷は癒えません‥‥やるせないですね」
他にキメラがいないか霞澄が周りを確認しながら曇った表情でポツリと話した。
「それでも倒したんだ。今後被害はないさ」
烏莉がポツリと呟き、帰るために足を動かし始める。
「天使って本当にいるのかしら? いたら力を貸してくれてもいいじゃない、ね」
葵が天使キメラの遺体を見ながら小さく呟く。
「神様は傍観でもするつもりなのかしらね」
葵は呟いた後、飴を地面に置く。飴を置いた近くには焼け焦げたくまのぬいぐるみが落ちていて、幼い子供も犠牲になったのだろうと葵は置いたのだ。
「倒しても‥‥スッキリした気分にはなりづらいです」
金城がうつむきながら呟くと「あたしは皆の笑顔を取り戻すまで戦い続ける」と葵が言葉を返す。
そこの言葉には彼女の決意のようなものが見え「‥‥そうですね」と金城も顔をあげて答えた。
「そう‥‥すべてが終わるまで戦い続ける。それが僕たちに課せられた使命のようなもの、か‥‥だから僕は後ろを振り返らない」
キリトは自分に言い聞かせるように呟き、他の能力者の後を追っていった。
「焼けた大地には生物が芽吹きやすいっていうし、ここもきっとすぐに元のように再生するさ‥‥」
真紅は生き残った人々に言葉をかけ、他の能力者のところへと小走りで向かう。
そして、本部に帰還する前、負傷した者はメディウスから治療を受け、能力者たちは帰還して行った。
END