●リプレイ本文
「大切な人を失う悲しみは‥‥誰にも知って欲しくありません」
黒い十字架を額にあて、小さく呟くのはシュヴァルト・フランツ(
ga3833)だった。
「確かにそうですね‥‥運命の恵み、偶然の再会が‥‥永遠の別れの始まり‥‥そんな悲しい結末は――絶対に迎えさせない」
小さく、そして何処か物憂げに呟いたのは青山 凍綺(
ga3259)だった。恐らくすぐると自分とを重ねてしまったのだろう。
彼女の大切な人もバグアに殺されてしまったのだから‥‥。
「今のところは運が良いようだが‥‥まぁ、急いだ方が良さそうだな?」
神無月 翡翠(
ga0238)が呟き「そうだね、全く鳥なら大人しく魚でも食ってりゃいいものを‥‥」と橘・朔耶(
ga1980)がため息混じりに答えた。
急いだ方がいい――確かにそうなのだが、如何せん情報が少なすぎるのだ。
「これは‥‥怪しい所を一つ一つ潰していくしかないね」
真藤 誠人(
ga2496)が呟くと「目撃者に聞いてみるのもいいかもね」と小鳥遊神楽(
ga3319)が言葉を返した。
「そんな暇はねぇよっ! こうしている間にもセナは‥‥」
すぐるが怒鳴るように言うと「落ち着いてください」と比良坂 和泉(
ga6549)が宥めるように話しかける。
「逸る気持ちは分かりますが‥‥まずは落ち着きましょう」
比良坂の言葉に「‥‥ごめん、焦ってもしょうがないのに‥‥」とすぐるが申し訳なさそうに謝る。
「それでは、班分けしたメンバーで行動していきましょうか」
青山の言葉に能力者達は首を縦に振る。
今回は急を要する為に班を三つに分けて行動する事になったのだ――‥‥。
●消えたキメラと客を探せ!
〜A班〜
「そんな事言われてもねぇ‥‥」
ホテルから運良く逃げる事が出来た中年女性にA班の能力者・神無月、橘、比良坂は話を聞いていた。
「何でも構いません。俺達に話してくれませんか?」
比良坂が中年女性に問いかけるが「逃げるのに夢中だったから覚えてないのよ」と困ったように言葉を返してくる。
「そうか‥‥悪かったな、次の奴に‥‥話を聞こう」
神無月が呟き、次の目撃者に話を聞きに行く。
「あのさ、キメラと連れ去られた人が何処に向かったか分からない? 方角だけでもいいんだけど」
橘が問いかけたのは小さな少年を連れた若い女性だった。
しかし彼女の答えも「ごめんなさい、分からないわ」と言うもの。
「あのねー、僕知ってるよ。大きな鳥さんがあっちとあっちに向かって飛んでいったの」
小さな少年は右と左の空を指差しながら舌足らずな声で能力者に話しかける。
「分かれて行動しているんですか――厄介ですね‥‥坊や、ありがとう」
比良坂が少年の頭を撫でながら呟くと、少年はくすぐったそうに笑った。
「此方A班、目撃者の証言から‥‥キメラは別行動をしている事が‥‥分かった」
神無月が通信機を使ってB班とC班に連絡をいれ「ホテルから向かって右の方向を捜索する」と言葉を残して通信機を切ったのだった。
〜B班〜
「セナ‥‥」
B班もろくな情報を得ることが出来ずに、無情にも時間だけが無駄に過ぎていく。
「すぐるさん、セナさんの命が失われていると示すものは、今は何もありません。彼女はきっと無事です。私も全力を尽くして救出にあたりますから頑張りましょうね」
青山がすぐるを落ち着かせるように話しかけると「あぁ‥‥気を使わせて悪いな‥‥」と言葉を返した。
「こういう時、一番の敵は焦りだよ。落ち着いて探せばきっと見つかります」
真藤もすぐに話しかけると「そうだな‥‥俺達が確りしていないと」とすぐる自身も自らを落ち着かせるように深呼吸をする。
そんな時だった、A班からの連絡が入り、キメラの目撃証言を得たという通信が来たのは‥‥。
B班はA班が向かった方向とは逆の方向を捜索すると言って、通信を切って走り出したのだった。
〜C班〜
「どんな些細なことでも構いませんから、何かありませんか?」
C班の小鳥遊は目撃者に話を聞いていると、一人の女性が「そういえば‥‥」と思い出したように呟く。
「向こう側にいったキメラが連れて行った女性が『あんたなんかすぐるがやっつけちゃうんだから!』って叫んでいたわ」
その女性が指差した方向は、偶然にもすぐるのいるB班が向かった方角だった。
「そういえば‥‥此処から少し歩いた先に廃ビルがありますね」
シュヴァルトが地図を見ながら呟く。此処から先、人を抱えていけるような場所はその廃ビルのみだ。
「すぐるさん達もその廃ビルに向かっているはずよ‥‥急ぎましょう!」
小鳥遊が呟くとシュヴァルトも首を縦に振り、B班が向かった方向へと走り始めたのだった‥‥。
●キメラを倒し、一般人を保護せよ――!
此処はホテルより少し歩いた場所にある森の中――A班がキメラの足取りを追って辿り着いたのは不気味な静けさを醸し出す森の中だった。
「そういえば‥‥昔見た妖怪辞典に書いてあった妖怪に人間を持ち運べる巨大鳥のようなものがいたな‥‥」
橘が周囲に注意を払いながら自嘲気味に呟く。
「それにしても不気味なほどに静かですね」
比良坂が呟いたその時だった。
「きゃああああっ!」
女性の甲高い悲鳴が聞こえ、能力者達は悲鳴が聞こえた方向へと慌てて走りだす。
「人――っ!」
橘が呟き、足を止める。そこには怪我をした男性と震えながら泣いている女性の姿があった。
「楯を装備している俺が人質保護に回ります。お二人にはキメラの気を引いてもらっていいですか?」
比良坂の呟きに「分かった」と橘が短く答えた。
「強化と治療は、してやるから、思い切りやれよ?」
神無月が覚醒を行い、それと同時に『練成強化』を施す。
「とりあえず翡翠も走ってくれ、俺があのキメラから翼を奪って見せるからさ」
橘が呟くと同時にコンポジットボウでキメラに向けて攻撃をする。その矢はキメラの肩に刺さり、ゆっくりとキメラが能力者の方を振り返る。
キメラの標的が一般人から能力者に変わったのを確認すると、比良坂は一般人を保護する為にキメラに見つからぬよう、一般人に走って近づく。
「大丈夫ですか?」
比良坂が一般人の二人に問いかけると「わ、私は大丈夫だけど‥‥」と女性が男性の方に視線を移す。男性の方は足を怪我しており、とてもじゃないが走って逃げれるような傷ではない。
「とりあえず、これで応急処置を‥‥」
比良坂は持って来ていた救急セットで男性の怪我を治療する。
「これで何とか‥‥「危ない!」」
救急処置が終わった後、これから逃げようとしている時に橘の声が耳に響く。
振り返るとキメラがこちらに気づき、先に此方を殺ってしまおうと上空から急降下してくる。
「この人たちの命を奪う権利は―――あなたにはない!!」
比良坂が『豪力発現』を使い、急降下してきたキメラを上空へと押し戻す。
「今のうちに――一般人の保護、完了しました! 思いっきり戦ってください!」
比良坂が叫ぶと、橘は『鋭角狙撃』でキメラの翼を横から討ちぬく。横からだったため二枚の翼を貫通し、キメラから飛行能力が奪われた。
次の攻撃を仕掛けようとしている橘に向けて、キメラが空から落ちてくる。それを避け切れなかった橘は神無月から突き飛ばされたおかげで怪我をする事なく、次の攻撃に移ることが出来た。
「これで終わりだ!」
橘は『強弾撃』でキメラを攻撃し、何とか一般人を保護して、尚且つキメラまで倒すことが出来たのだった。
●B班・C班の戦い――
「目立たずに潜めそうなのは、この廃ビルくらいのようだね‥‥」
真藤が廃ビルの中に入りながら、小さく呟く。問題はこのビルのどの階にいるかという事だ。
片っ端から探すしか方法はないのだが、この広いビルの中を探すのには時間が掛かりすぎる。
「セナ‥‥っ!」
すぐるの焦りが最高潮に達したのか、唇を血がにじみ出るほど強く噛み締めている。
「すぐるさん、私はこの世でたった一人の大切な人をキメラに奪われました。だから貴方の焦りは分かります――けれど貴方はまだ彼女の為に出来る事が残されています。それを頑張りましょう」
青山がすぐるに話しかけると「あんた‥‥」とすぐるは少し同情の混じった表情で青山を見た。
「私にはもう助けられません‥‥だけど貴方はまだ彼女を助ける事が出来るでしょう?」
青山はにっこりと笑うと「あ」と真藤が小さく呟く。
「今、何か―――」
真藤が耳を澄ませると、女性の悲鳴のようなものがすぐる、そして青山の耳にも届いた。
「セナっっ!」
すぐるは聞き知った声に悲鳴が聞こえる方向へと駆け出した。
「待って! 僕がキメラを引き離すよ! 保護と通信頼みます!」
そう言って走り出した真藤にキメラ引きつけを任せ、青山とすぐるが一般人保護に回ろうとしたとき、C班の小鳥遊とシュヴァルトが合流する。
「私もキメラ引きつけに回るわ」
小鳥遊は呟くと先に向かった真藤の後を追っていった。
「自分は保護を優先にしたいので、此方をお手伝いさせていただきますね」
シュヴァルト、青山、すぐるの三人は小鳥遊と真藤がキメラをひきつけている間に一般人を保護するため、息を忍ばせながら走りだす。
一般人が囚われている場所は三階の一番奥の部屋だった。
元は資料室だったのだろう、汚れて読めなくなった資料が散乱していた。
「‥‥私達、どうなるの――すぐる―――」
セナは震えながら呟き、隣の女性を見る。彼女は先ほどキメラに攻撃され、重症を追っていた。
このまま放っておけば確実に死んでしまうだろう。セナもポケットに入っていたハンカチなどで出血を抑えようとしたのだが、出血が多くてハンカチはすぐに血でぐっしょりとなる。
その時、保護班がセナのいる部屋に入ってきた。
「す―――す、すぐる‥‥」
セナは驚きに満ちた表情ですぐると能力者を見た後に、涙で瞳を潤ませる。
「ど、どうしよう‥‥この人が――」
セナの言葉に青山が救急セットで女性の応急処置をする。
「大丈夫ですか? もう少しだけ我慢してくださいね」
シュヴァルトが怪我をしている女性に話しかけると、女性は苦しそうに首を縦に振った。
「とりあえずこれで何とか‥‥あとは一刻も早く病院に連れて行けば命は助かると思います」
青山の言葉に「此処で大人しく待ってろ」とすぐるが呟き、静かに立ち上がる。
「戦いは屋上のようですね、すぐに行きましょう」
青山が呟き、すぐると共に屋上へと駆け出していった。
「我が弾丸で地に伏せるがいい、キメラ!」
小鳥遊は覚醒を行い『鋭覚狙撃』でキメラの翼を狙って攻撃をする。
そして真藤は小鳥遊の攻撃のすぐ後に『鋭覚狙撃』『強弾撃』を発動して、持って来ていた弾頭矢を使用してキメラを撃ち落す。
「油断大敵‥‥ってね!」
真藤は得意気に呟くと、次の攻撃に移る。
その時、すぐると青山が合流し、二人は接近戦で戦い始める。最初に戦っていた小鳥遊と真藤のおかげでキメラから飛行能力は奪われ、接近戦を得意とする二人にとって戦いやすい状況だった。
「すぐるさん!」
青山がキメラへ攻撃した後に叫び、攻撃するように促す。青山の攻撃を避けた後なので、すぐるが攻撃してきたら、キメラは避けきれない。
「おぉぉりゃああっ!!」
すぐるは持てる全ての力でキメラに殴りかかり、キメラを見事打ち倒したのだった。
●キメラ倒し、その後‥‥。
キメラを倒した後、能力者達はホテルの所へと戻ってきていた。
「今回は間に合ったようだな? それにしても――言いたい事あるなら、はっきり伝えておけよ? ずっと言えなくて後悔するよりマシだろ?」
神無月の言葉に「なっ‥‥」と顔を赤くしながらすぐるが口をぱくつかせている。
「そうですよ、どうかお互いを大事にしてください。常に寄り添う事が出来ないとしても、生きているという事は全ての始まりなのですから‥‥」
青山がにっこりと笑ってすぐるに話しかける。
「‥‥病院に運ばれた女性も恐らく大丈夫でしょう。皆、無事で何よりです。えぇ、本当に良かった‥‥」
シュヴァルトは安心したように呟いた。
その後、能力者達は帰還した。
その途中「二人が上手くいくと良いんだけど‥‥」と呟く小鳥遊の姿があった‥‥。
END