タイトル:境界線 僕と化物マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/09 20:44

●オープニング本文


キメラやバグアを倒す能力者――‥‥彼らとバグア達とどんな差があるのだろう?

※※※

「ねぇ、あなたたちはどう思っているの?」

UPC本部にて一人の少年・ヒカルが突然話しかけてきた。

「どうって‥‥何が?」

男性能力者がヒカルに聞き返すと「あなたとバグアの違いって何?」と言葉を返してきた。

「バグアがいる今は能力者たちは英雄、だけどバグアがいなくなった後でも英雄でいられると思うの?」

ヒカルは虚ろな瞳で男性能力者に言葉を投げかける。

その瞳は確かに男性能力者を映してはいるが『何も見ていない』ように感じられた。

「俺達は――‥‥別に英雄でいたいわけじゃない」

「でも今は英雄じゃない。バグアに対抗できるのはあなたたちだけなんだから」

「‥‥悪いけど急ぐから」

男性能力者は不気味なヒカルから逃げるように仕事を探しに行くという理由で、ヒカルから離れた。


「よう、あの子に捕まってたみたいだな」

別の男性能力者が苦笑しながらヒカルに捕まっていた男性能力者に話しかけた。

「何なんだよ、あの子‥‥こう言っちゃ悪いが気味悪かったよ」

「あの子の父親なぁ、能力者で結構強かったらしいんだけど‥‥この前のキメラ退治で倒されちまったらしいんだよ――それだけなら良かった‥‥」

男性能力者は首を傾げて「どういう意味だ?」と問いかけた。

「あの子の父親、自分の家族をも省みずにバグアやキメラと戦っていたんだが‥‥彼の死後、周りにいた奴らは『役立たずの英雄』と呼んでいたらしい」

「役立たず?」

「要は生きていれば自分達を守ってくれる便利な道具だけど、死んだ今となっては、自分達を守ってくれなくなった『役立たずの英雄』だとさ」

酷いな、男性能力者は呟きながら別の能力者に話しかけるヒカルを見つめる。

「それで今回はこんな依頼があるんだけど‥‥」

そう言って見せられた依頼内容は‥‥ヒカルを連れてのキメラ退治の仕事だった‥‥。



●参加者一覧

ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
ヴァルター・ネヴァン(ga2634
20歳・♂・FT
クリストフ・ミュンツァ(ga2636
13歳・♂・SN
海音・ユグドラシル(ga2788
16歳・♀・ST
不破 梓(ga3236
28歳・♀・PN
真紅櫻(ga4743
20歳・♀・BM
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD

●リプレイ本文

(「ヘビーな話だねぇ‥‥」)
 ミア・エルミナール(ga0741)は隣を歩く少年・ヒカルを横目で見ながら心の中で呟く。
「ヒカル殿、そんな薄着で寒くないでおざるか?」
 ヴァルター・ネヴァン(ga2634)がヒカルに問いかけると「別に気にしないでいいよ」と素っ気無い言葉が返ってくる。
 ヴァルターとヒカルの様子を見ながら、クリストフ・ミュンツァ(ga2636)が事前に調べておいた情報を他の能力者に伝えていく。
「キメラは一匹と見て間違いないかと思います。情報通り素早い相手らしいので気を引き締めて行きましょう」
 クリストフの言葉に能力者は首を縦に振り、目的の場所まで足を進めようとした所でヒカルが「あなたたちはどう思っているの?」と聞いてきた。
「能力者って何‥‥って聞かれてもね。報酬もらってキメラ・バグアと戦う雇われ戦士、なんだよね。何で戦うのか聞かれても『それが仕事ですから』としかあたしは答えようがない」
 ミアの言葉にヒカルは何も言葉を発する事なく黙って聞いている。
「私は‥‥」
 不破 梓(ga3236)が呟くとヒカルは不破の方へと視線を向ける。
「常軌を逸した力を持つ点では能力者とバグアに差はないだろうな。だがな‥‥力というものは使う者次第だ‥‥私だって出来る事なら、こんな力など欲しくなかった」
「じゃあ何でその力で戦っているの?」
 ヒカルの問いかけに不破は「約束を果たす為にこの力が必要なんだ」とはっきりとした眼差しで答えた。
「俺も不破さんの話に同感だな〜‥‥」
 諫早 清見(ga4915)がポツリと呟く。他の能力者が『何が?』と言った表情で諫早を見ると「能力者の話」と短く答えた。
「一般人が能力者をバグアを倒す道具にしか思えなければ、何も違いなんてないかも‥‥って思った。バグアがいなくなったら俺達は脅威でしかないと思うから」
 諫早の言う言葉に「じゃあ何で戦うの?」とヒカルが問いかける。
「戦う理由――能力者が戦う理由はそれぞれが持っているはずだよ。同じ人間じゃないんだから」
 それでも納得しないヒカルを見て月神陽子(ga5549)は自分の武器・蛍火で腕を傷つける。
「ひっ――」
 ヒカルは目の前で流れる血に短い悲鳴をあげる。
「見なさい、貴方と同じ赤い血です。私達は緑色の血をした化物でも、神様でも、ましてや英雄などという幻想の中の生物でもなく、ただの弱い人間なのです」
 月神の言葉に「弱くなんてないじゃないか‥‥」とヒカルが俯きながら呟く。
「本当に弱いのは僕たちのような一般人だ! 能力者は英雄だ! 父さんは周りの人からそう言われていたんだから!」
 ヒカルは瞳に涙を浮かべながら叫ぶ。
「ふふ、真実を知る事が良い事だけとは限らないわよ?」
 海音・ユグドラシル(ga2788)がヒカルに意味深な笑みを向けながら小さく呟く。
「手っ取り早く『能力者とは何か?』を知る方法がある――今から起きる事を自分で確かめて決めな‥‥」
 真紅櫻(ga4743)が低く呟き、ヒカルはごくりと喉を鳴らした。


●能力者の戦い――始まり

 この場所に来るまでに決めた作戦では諫早と真紅がキメラを誘導する事――‥‥だった。
「さて、地図もあるから迷いはしないだろうけど‥‥っとビックリしないでくれよ」
 ヒカルに向けて呟きながら諫早は覚醒を行う。
 それと同時に青緑灰色の毛並みを持った狼獣人に変身する。ヒカルは突然の変身に目を大きく見開き、言葉さえも出ないほどだった。
「でも肝心のキメラと会わない事には誘導のしようも――」
 真紅のぼやくような呟きに「心配はいらないわよ」と海音が言葉を返す。
「え?」
 真紅は海音の指差す方を見ると灰色の狼の姿をしたキメラが此方を見て警戒している。
「それではお二人に誘導を頼むでおざります」
 ヴァルターが呟き、誘導役の二人はキメラの方へと駆けていった。
「正義の味方‥‥能力者はそんな感じなんだね」
 駆けていく二人を見てヒカルがポツリと呟く。
「正義の味方の戦いというものは、勝ち負けで言うなら最初から負け戦、におざりますよ」
 ヒカルの呟きを聞いたヴァルターが言葉を返す。
「負け戦? それなのに戦うの?」
「負け戦とは言っても‥‥その意義は勝ち負けというものとは少し違うところにあるのではないかと存じます」
「?」
「人一人に出来る事は所詮限界があります。その行為によって撒かれたものが、未来に繋がっていく――それこそが正義の味方の『勝ち』なのではないかと‥‥」
 ヴァルターの諭すような言葉にヒカルは首を傾げ「難しいや‥‥」と呟いた。
「そういえば僕にも分からない事があります‥‥『今まで多くの人の助けになった事』と『死んだから今誰かを助けられない事』を一緒くたにしてしまう理屈がよく分かりません」
 それとこれとは別の話なのに‥‥クリストフは呟く。
「‥‥それほどこの子の周りに愚かな人が多いって事でしょう」
 海音の言葉にクリストフは苦笑して「そうなんでしょうか‥‥」と言葉を返した。
「そんな一面だけを殊更に取り上げて、それまでの行為や人格まで一まとめにしてしまうのは乱暴な話だと思います。評価などはそれぞれを区別して行うべきだと思いますけどね‥‥」
「僕は――――‥‥」
 ヒカルが何か言いかけようとした時、不破がヒカルの前に立つ。
 何事かと思い、ヒカルが前を見ると目的の広い場所へキメラを誘導し、能力者達は戦闘準備を始めたのだった‥‥。


●能力者の戦い――傷つきながらも

「せぇーのぉーっ!」
 ミアがバトルアックスを振り上げ、キメラに向かいながら『流し斬り』で攻撃をする。
 だが、キメラは紙一重でミアの攻撃を避け深い傷を負わせる事は出来なかった。
「私も行くでおざります」
 ミアが下がり、交代するかのようにヴァルターがバトルアックスを振り上げて攻撃を行う。ミアの攻撃に続き、ヴァルターの攻撃も避けられそうになったが、クリストフがスナイパーライフルで射撃をして動きを鈍らせる。
 そのためにヴァルターの攻撃を直撃で受けてしまった。
「ふふ、元気なワンちゃんね――」
 海音は楽しげに呟きながら『練成弱体』をかけ、キメラの防御力を低下させる。
「危ないっっ!!」
 不破が突然叫び、ヒカルを突き飛ばす。
「いたっ!」
 ヒカルが何事かと思い、目の前を見ると自分を庇って血を流す不破の姿があった。
「一つ言っておく。他人の言葉に惑わされるな。本当に大事なのは、お前が父の事をどう思っていたのか‥‥それだけだ」
 腕から血を流す不破はヒカルに言い聞かせるように痛みに表情を歪めながら呟く。
「‥‥貴様らバグアに‥‥これからを生きる命をこれ以上奪わせてなるものかっ!!」
不破は叫び『紅蓮衝撃』と『豪破斬撃』をキメラに叩き込む。
「大丈夫?」
 途中で真紅も加勢に入り、紅と刀を使用してキメラに斬りつける。
「ヒカルを狙うなんて‥‥結構卑怯な奴だよな、お前って」
 諫早は呟きながら『流し斬り』と『獣突』を使いキメラに攻撃をする。
「何で‥‥何で皆‥‥僕なんかを‥‥」
 己の傷にも構わず自分を守る能力者達に涙をぼろぼろと零しながら震える声で呟く。
「答えは簡単だよ、皆‥‥ヒカルを守るのが仕事だから――それに、ヒカルに生きていて欲しいからだよ」
 ミアが呟き、アーミーナイフに持ち替えてキメラに攻撃をする。
「理由なんて10人いれば10通りあるものよ。傭兵にしても同じこと‥‥―――本当にあなたの父親は『役立たずの英雄』だったのかしら?」
 海音が、ヒカルが怪我をしないように後ろに下がらせながら小さく呟く。
「父さんは―――‥‥」
 ヒカルが言いかけた時、海音は言葉を止める。
「言わなくていいわ、真実はあなたが分かっていれば良い事なんだから」
 海音が呟いた時、キメラの最後の悲鳴のようなものがヒカルの耳に入ってきた。
 それは戦いが終わったことを知らせるものであり、ヒカルはほっとしたように地面に座り込んだ。


●能力者とは――それぞれの理由

「ヒカル、大丈夫か?」
 戦いが終わった後、不破がヒカルに話しかけてくる。
「あ、う、うん‥‥大丈夫‥‥お姉さんこそ血が‥‥」
「これくらい大丈夫さ」
 不破が苦笑しながら呟くと「お姉さんの約束って何?」とヒカルが問いかけてきた。
「約束か? ‥‥何があっても生き続けること‥‥妹との約束だ‥‥お前は? 父親と何か約束はなかったのか?」
 不破の言葉に「あ」とヒカルが呟く。
「何かあるんですね?」
 クリストフが問いかけると「うん」とヒカルは俯きながら話し始める。
「母さんを守れって‥‥それが出来るのはいつも母さんと一緒にいるお前だけだって‥‥」
 ヒカルの言葉に「それを守れている?」と諫早が問いかけ、ヒカルは首を横に振る。
「バグアがいなくなった時、それは平和になった時です。誰も泣くものがおらず、武器を取らずとも済む世界を、わたくしは目指しています。貴方のお父様も、きっと貴方とお母様に平和な世界を差し上げたかったのでしょう」
 月神の言葉にヒカルは「僕は‥‥」と泣きながら呟き始める。
「僕は‥‥父さんに英雄でなんかいてほしくなかったんだ‥‥いつも家にいてほしかった‥‥僕は何も父さんに伝えられないまま、父さんは‥‥」
 ヒカルは子供らしく大きな声で泣き始め、月神に抱きつく。
 その泣き顔はヒカルが初めて見せた『子供らしい』表情だった。
 諫早はヒカルのそんな姿を見て考えさせられたのだと後から語った。
「人に夢を与える仕事をやりたい身としては考えさせられるな‥‥目指す方向は、誰かの背中を押す力、かな――‥‥」
 そうなれたらいいな、諫早は呟き、他の能力者と一緒にUPC本部へと帰還したのだった。

END