タイトル:紅―覚悟の色マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/05 00:09

●オープニング本文


俺には戦う理由もある。

そして、戦う為の力もある。

だけど――‥‥俺に足りなかったものは。

※※※

能力者になった者たちには、それぞれ戦う理由があるはずだ。

そして、理由と一緒に戦うすべも持っている。

俺は『理由』と『力』――この二つだけで戦うには充分だと思っていた。

けれど、足りないものがある事を思い知らされた。

「逃げ帰ってきた能力者?」

女性能力者は本部内で仕事を探しながら、男性能力者に問いかけた。

「何か初任務だったらしいんだけどさ、怖くなって帰ってきたんだと」

「へぇ〜‥‥まぁ、最初は緊張するモノだけど、逃げ帰ってくるなんて結構弱虫さんなのね」

「おい、アイツだぜ」

男性能力者がアイツと呼んだスナイパー・啓太を指差しながら呟いた。


そう、俺は確かに逃げ帰ってきた。

ちゃんと普段から訓練していたし、実戦でも大丈夫――根拠のない自信だったけど、最初はそんなものだと思っていた。

だけど、実際にキメラを目の前にして、恐怖で足が竦んだ。

死にたくない、そんな思いに駆られ、足は勝手にキメラとは逆方向に走り、がたがたと震えながら本部へと帰ってきた。

「何で、俺は――‥‥」

拳を強く握り締めながら啓太は呟き、俯いたまま「‥‥能力者、やめよう」とポツリと零したのだった。

●参加者一覧

愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
烏莉(ga3160
21歳・♂・JG
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
NATZ(ga6948
19歳・♀・SN
聖・綾乃(ga7770
16歳・♀・EL
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
櫻杜・眞耶(ga8467
16歳・♀・DF
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG

●リプレイ本文

「‥‥俺が行っても、役にはたたないと思うんだ」
 任務拒否の言葉を吐く啓太に愛輝(ga3159)と御崎緋音(ga8646)は顔を見合わせ、困ったような表情を見せた。
「理由は――人づてで聞いてるけど‥‥戦い慣れた能力者だからと言って必ずしも恐怖を感じないワケではない」
 愛輝が話しかけると「‥‥でも、俺は‥‥」と俯きながら啓太は言葉を濁す。恐らく最初の任務で受けた恐怖が心に焼き付いているのだろう。
「気持ちが負けそうになった時、俺は自分の力と‥‥それ以上に仲間を信じる事にしている」
「仲間‥‥?」
 啓太が少し顔をあげて言葉を返すと「任務は一人で行うものじゃないよ」と愛輝は呟いた。
「私は‥‥戦闘を行う仕事は今回が初めてです」
 御崎がポツリと呟く。
「恐怖は、ないのか?」
 啓太が問いかけると「怖くない‥‥と言ったら嘘になります」と御崎は苦笑気味に言葉を返した。
「だけど、何事にも負けない精神力があれば、敵を恐れ、戦う前から逃げる事はないでしょう。啓太さん――貴方に強い精神力はありますか?」
 御崎の言葉に「‥‥強い精神力‥‥」と繰り返すように啓太は呟いた。
「貴方はなぜ戦うのですか? 戦う理由、差し支えなければ教えていただきたいです」
 御崎の言葉に「‥‥大切な人を奪われたから」と短く啓太は呟いた。
「私はやっぱり『大切な人を護りたい』から‥‥戦う。この想いがある限り、私は戦えるよ」
 愛輝と御崎の説得により、啓太は「‥‥もう一度だけ、頑張ってみる」と言葉を返し、任務に同行する事になったのだった。


〜それぞれの想い・先行班〜

「此方に向かっているそうですよ」
 木場・純平(ga3277)は説得を行う二人から入った状況を、先に現場に来ていた能力者達に伝えた。
 木場自身は啓太の『逃げ出した』行動について悲観などはしていない。むしろ自分の力量で勝てる相手かを判断し、撤退という行動を取った彼の事を良く思っていた。
 勝てる相手かわからない相手に戦う事を選ぶのは簡単だが、逃げることを選ぶのは意外と難しいものなのだ。
「オッケー、後は啓太が逃げ出さずにちゃんと戦えるかだね」
 NATZ(ga6948)が呟くと「啓太さんには何の覚悟が足りないのでしょうね」と聖・綾乃(ga7770)がポツリと言葉を返した。
「もし、自分が死ぬ覚悟、傷つく覚悟‥‥それが足りないと思っているなら‥‥履き違えていると思う」
 聖の言葉に「そうですね」と乾 幸香(ga8460)が言葉を返した。
「私も能力者になる前は、普通の一般人で‥‥武器すら持った事なかったんですから」
 だから怖いのは誰も当たり前、乾はそう呟いて見せた。
「まぁ、初めての実戦で怖くなるのも判らんでもないけどね? 実戦と訓練は違う、それは当たり前やし」
 櫻杜・眞耶(ga8467)がため息を吐きながら呟いた。
「そろそろ来るんじゃないのか」
 烏莉(ga3160)が低く呟き、啓太と共に愛輝と御崎が合流したのだった。


〜戦う理由、力、覚悟〜

 問題のキメラがいる場所、それは廃墟であり、原型を留めない建物が無数にあった。キメラさえ現れなければ、この場所も普通に平和に人が暮らしていた場所なのだろう。
「あれが‥‥問題のキメラですね」
 木場が呟き、能力者達も前を見ると黒髪を妖艶に靡かせながら此方を見る女性型キメラの姿があった。
 ここに来るまでに能力者達がたてた作戦はスナイパー、エクセレンターを後衛に置き、ダークファイターに後衛の護衛を任せて、他の能力者達は前衛で攻撃を行う――というものだった。
 もちろん、啓太に関しても特別扱いはせずに一人のスナイパーとして扱うことにしている。
「では、行きますね」
 乾が小さく呟き『バスタードソード』を構え、女性型キメラに攻撃を仕掛けようと歩き出した――所で啓太が「怖くないのか?」と問いかけてくる。
「怖いですよ‥‥考えて震えてしまうほどに」
 そう言って乾は自分の手を啓太に見せる。その手はカタカタと小刻みに震え、乾が怖いと思っている事を証明している。
「でも逃げてしまったら、どこかでツケが回ってくると思うんです。だから、私は戦います」
 乾は言い終わると女性型キメラに向けて走り出し『流し斬り』を使用した。
「あんたが存在していい場所なんて、この世界の何処にもないんだから! 大人しくやられてしまいなさい!」
 乾が武器を振り下ろしながら叫び、それと同時に愛輝が『疾風脚』と『瞬即撃』を使用して連携で攻撃を行った。
 女性型キメラは攻撃を受けた後で、反撃として鋭い爪で攻撃を繰り出すが愛輝はそれをうまく避けて後ろへと下がる。
 そして背後から走りよってきた木場がレスリングの低空タックルで女性型キメラに組み付いて地面に叩きつける。
 女性型キメラが地面に叩きつけられた後、御崎が『レイバックル』を使用して攻撃を行う。御崎の援護を受けながら櫻杜が『流し斬り』で攻撃を仕掛ける。
「あ‥‥あ‥‥」
 能力者達と女性型キメラの戦いを見て、啓太は武器を持ったままがたがたと震える。
「怖い‥‥ですか? 私も怖いです」
 聖はにっこりと落ち着いた笑みで啓太に話しかけた。
「でも、力を合わせて一緒に戦う仲間を‥‥私は信じています――啓太さんは信じられませんか? 私たちが」
 聖の言葉に啓太は自分の手がいつの間にか震えなくなっている事に気づき、聖と自分の手を交互に見比べた。
「やる気がないんだったら、下がってくれる? 邪魔、だからさ」
 NATZが洋弓『リセル』を構え、援護射撃を行いながら啓太に向けて小さく呟く。
「でも、此処で貴方が退いたら‥‥此処にいる仲間たちは何のために戦っているんだろうね、それにあなたを説得してきた二人も馬鹿みたいじゃないか」
 NATZの言葉に啓太は俯き、武器を握る手に力がこもる。
「弱音を吐く前に動く、当たり前でしょう。どうしても弱音が吐きたいんなら、私が渇を入れるために撃ってあげようか」
 少し不敵に笑むNATZに「‥‥大丈夫、だと思う」と呟き、武器を女性型キメラへと射撃軸を合わせて発砲する。
 しかし啓太の攻撃は女性型キメラに避けられてしまった。だけどこれは問題ではない。啓太が『戦う意思』を見せた――これが一番大切なのだから。
「やれば出来るじゃん」
 愛輝がポツリと呟きながら女性型キメラに攻撃する手を緩めない。
「あらあら、意外としぶといんやねぇ‥‥大丈夫よ、何度でも起き上がってきなさいな。起きる度に――倒してあげるから」
 櫻杜は『刀』を振り上げ、攻撃を行いながら楽しそうに呟く。
 その後、女性型キメラの素早さに苦戦しながらも能力者達は無事に撃破する事が出来たのだった。


〜少し遅れたスタート地点〜

「やれば出来るじゃないか」
 女性型キメラを倒した後、木場が啓太に向けて賞賛の言葉を送った。
「‥‥俺一人だったら、また逃げ出してたよ‥‥仲間がこんなにも大事なんだって知らなかったから」
 啓太が「ありがとう」とまっすぐに能力者達の目を見ながら、心からの礼を述べた。
「一番大切なのは‥‥仲間を信じ、己を信じる‥‥という事です。そのためには『何があっても必ず生き残る』覚悟が必要なんです」
 聖の言葉に「そうだな、確かにそうだ、生き残る覚悟、か」と啓太は苦笑しながら言葉を返す。
「そんな事、訓練じゃ教えてくれなかったから‥‥わからなかったよ」
 啓太の言葉に「当たり前やん」と櫻杜が可笑しそうに言葉を返した。
「訓練と本番が違うなんて当たり前やん、そんな判りきった事が事前に覚悟できてなかったくらいで落ち込むなんて、啓太はんも『あかんたれ』やねぇ」
「あかんたれか、確かにそうだな。他人が、自分が信じられない奴に任務は遂行できないよな」
「私は、啓太さんのことを信じていますよ」
 自嘲気味に呟く啓太に乾が穏やかな笑みで話しかける。
「ありがとう、次はきっと大丈夫なような気がするよ」
「恐怖を恥じるな‥‥恐怖こそが自分を護る最高の防具になる」
 烏莉の言葉に「そうだな、でも俺は皆を護りたいから――もう逃げることはしないよ」と笑って言葉を返した。
 その後、能力者達と共に報告するために本部へと帰還していったのだった。


 きっと、これから啓太は逃げ出す事はないだろう。
 どんなに強くても、どんなに弱くても、仲間がいなければ任務を全うに遂行する事は出来ないと教えられたのだから。


 END