タイトル:紫暗―侮蔑の色マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/31 23:17

●オープニング本文


極限状態に陥ると、人は簡単に信じていた人、命を預けられると思った人を裏切る。

※※※

「最低だわ」

親しい女性能力者の言葉と共に平手打ちを右頬に受けた。

「‥‥‥‥」

「何とか言ったらどうなの? 言い訳くらいしてみなさいよ」

女性能力者の言葉に俺・椿は黙ったまま、ただ俯いていた。

女性能力者の後ろにあるベッドで眠っている女性――俺にとっては命よりも大事だと思っていた女性・珊瑚――彼女を見捨てたことが全ての原因だった。

俺と珊瑚はいつもUPC本部で依頼を受けるときに一緒に行動していた。

かけがえのない『相棒』だった――けれど。

キメラに襲われて『死』が身近に感じた時、俺は自分でも信じられないような行動を取っていた。

後ろにいた珊瑚をキメラの前に突き飛ばし、そのまま逃げ帰ったのだ。

幸い、珊瑚は通りがかった能力者に助けられたのだが――今だに意識を取り戻すことがない。

医者が言うには「植物状態になる事も覚悟してくれ」と遠まわしに言われたらしい。

「帰って、あんたがいたら珊瑚も目を覚ますに覚ませないかもしれないしね」

女性能力者は俺を突き飛ばし、病室の前でみっともなく座り込んでいた。

そして、俺は立ち上がるとふらふらと珊瑚を見捨てた場所へと赴いていた。

●参加者一覧

劉黄 柚威(ga0294
27歳・♂・SN
ライアン・スジル(ga0733
25歳・♂・SN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
真紅櫻(ga4743
20歳・♀・BM
クラウド・ストライフ(ga4846
20歳・♂・FT
冥姫=虚鐘=黒呂亜守(ga4859
17歳・♀・AA
木花咲耶(ga5139
24歳・♀・FT
ソウ・ジヒョウ(ga5970
27歳・♂・SN

●リプレイ本文

 劉黄 柚威(ga0294)は椿がした行動を聞き「仲間は己の命より大切だ‥‥と俺は思っている」と短く呟いた。
「確かにそうだと思うが‥‥このての事はごまんとあるな」
 ライアン・スジル(ga0733)が劉黄に言葉を返す。
 だが、戦う事を生業とする以上、本当にこういう事は少なくないためライアンは少し嘆いた気持ちになる。
「でも俺は椿という男を一方的に責めるつもりはないが‥‥極限状態に陥ったら人間何をするか分からないしな」
 威龍(ga3859)は呟き「だが‥‥」と言葉を続ける。
「発作的とはいえ、現場へ身一つで行くとは‥‥そちらの方が信じられないな」
「確かにそれは言えるかもね。確か法律で緊急避難だったかな、事件や事故に巻き込まれて己の命が危険に晒された場合、他人の命を犠牲にしても罪に問われないってのがあるね」
 真紅櫻(ga4743)が呟き「でも‥‥その場合犠牲にされた方もした方も悲しいよね」と呟いたのだった。
「恐らく‥‥キメラとの戦闘や椿の保護は問題ないとは思うが‥‥問題はその後だな」
 クラウド・ストライフ(ga4846)が煙草の紫煙を燻らせながら低く呟く。
「そうだな‥‥人は思わぬ事をしてしまう‥‥故に、人の心は難しい、か‥‥」
 冥姫=虚鐘=黒呂亜守(ga4859)が呟き「でも‥‥それが人間なんですよね」と木花咲耶(ga5139)が短く呟く。
「だな、それに極限状態での判断力なんて後悔しても始まらないさ、少しはそれを椿って奴にわかってもらいたいな‥‥自分が今、何をするべきなのかを」
 ソウ・ジヒョウ(ga5970)が呟き、キメラがいる場所‥‥そして椿がいる場所へと向かい始めたのだった‥‥。


「恐らくはキメラがいる場所に椿はいるだろうね」
 真紅が呟く、場所は鬱蒼と木々が生い茂る森の中。
 恐らく椿はキメラがいる場所へと向かっている、もしくは到着しているだろう。いくら能力者と言えども精神面がマトモではないため、戦いの場で役に立つことはないだろう。
 むしろ襲われている可能性の方が高いのだ。
「裏切ったの裏切られたの‥‥って話は怒るのも許すのも当人達の問題だと思うんだけどね、外野が何と言おうと被害妄想でしかないんだしさ」
 真紅の言葉に「そりゃそうだな」とソウも言葉を返した。
「さてキメラは何処にいるかな――‥‥」
 クラウドは紫煙を燻らせながら空を見上げる。
 今回のキメラは烏のような黒い鳥型キメラということだと能力者は聞いている。
「ま、キメラが飛んでりゃ見えるモンは見えるだろうさ」
 ソウも空を見上げながら呟く。
 今回の作戦内容は、椿もしくはキメラを発見次第、全員で行動しているのを止め、椿の保護班とキメラ戦闘班とに分かれることになった。
「あそこを見てください!」
 木花が空を指差して呟く。するとそこには空を飛んでいる黒い鳥がいた――が、なにやら様子がおかしい。
「何か‥‥攻撃を仕掛けているようにも見えますけど‥‥」
 木花の言葉に能力者達は互いに顔を見合わせあい、急いでキメラが飛んでいる場所へと向かい始めたのだった。

「此処からはそれぞれの班で分かれて行動しよう」
 クラウドが呟き、彼はキメラと戦闘する能力者・ライアン、冥姫、ソウと一緒にキメラの方へと向かう。
「それでは此方も椿の保護に回りましょうか」
 劉黄が呟き、椿の保護班・真紅、木花、威龍と共に椿を見つける為に動き出した。
「すまないが、椿の事は任せる。私達はキメラ撃破に向かう」
 冥姫は椿の保護班に在籍する能力者に向けて呟き、他の能力者の後を追いかけて走っていった。
「椿は何処に――‥‥」
 劉黄は呟き、周りを見渡す。先ほどキメラが攻撃態勢を取っていたことから椿が襲われていると考えた方が普通だ。
「見つけた! あそこだ!」
 真紅が叫びながら指差した方向はキメラの真下で現在交戦中だった。
 だが、交戦中とは言っても椿が一方的にキメラから攻撃を受けているだけ――としか見る事はできない。
「椿様、ここはおさがり下さい。魑魅魍魎達を黄泉の国に帰します」
 木花が椿に向かって話しかけると「だれだ、お前は‥‥俺の事なんかほっとけよ!」と木花を突き飛ばして、再びキメラに向かおうとする。
「私が行く」
 真紅が呟いたかと思うと『瞬速縮地』を使って椿の元まで一気に駆け抜ける。
「目を覚ませ!」
 真紅が叫び、それと同時に平手打ちで椿の頬を強く打つ。
「な―――‥‥」
 椿が驚きで行動を止めた隙にキメラから離し、椿を木にもたれさせるようにして座らせる。
「あんたはここに何しにきたんだ?」
 椿の前に立ち、劉黄が冷たく鋭い声で椿に問いかける。
「無防備に死で償うのか? それとも‥‥キメラを前にしてまた逃げるのか?」
 逃げる、この言葉に椿の肩がびくりと震える。その隣には木花が椿の腕を掴みながら劉黄の話を聞いていた。
「あんたは珊瑚に対して罪の意識を感じているんだろう? 償いたいなら目を逸らしてはいけない」
「‥‥じゃあ、俺に何をしろって言うんだ! 俺が死んでしまえばもしかしたら珊瑚も目を覚ますかもしれない!」
 その言葉を聞いて木花が「冗談を言うのは止めてください」と少し怒ったように呟く。
「あなたが死んで‥‥それで何が変わるというのですか、あなたの命を引き換えに珊瑚さんが目を覚ますと本気で思っているのですか?」
 珊瑚を犠牲にして助かった彼が、自分の命を粗末にしている姿を見て木花も怒りがこみ上げてきたのだろう。
「人間は間違いを必ずしてしまう生物だ。だが、そこからどうするかで変わっていく」
 威龍が椿に向けて話しかける。
「間違ったなら、次からは間違わないようにすればいい。何の為に自分が生きているかを考えるんだな! それに――お前の命はお前だけで守ったものでもないだろう」
 威龍が悲しそうに呟く。そして彼はキメラ退治を行う為に戦闘班がいる場所へと向かっていった。
「今ここであんたが何を出来るか考えるがいい。命を粗末にする以外なら、俺はあんたを止めはしない」
 劉黄の言葉に椿は俯き、涙を流しながら震えていた。
「こっちの仕事は完了しているけれど‥‥戦闘班はどうなっているだろうね」
 真紅は上空を飛び回るキメラの姿を見ながら小さく呟いた。


「目標確認‥‥‥‥狙い撃つ」
 ライアンの低い声が響いたかと思うと彼が所持している武器『ドローム製SMG』でキメラを攻撃する。
 今回の敵は空を飛ぶ鳥型のため、後方から攻撃出来る彼のような能力者が重宝する。
「お前らキメラを見ていると煙草が不味くなる‥‥ここはさっさと終焉としよう、椿の為にも‥‥」
 クラウドが煙草を消し『月詠』を装備して降下してきたキメラに向けて攻撃を仕掛ける。
 クラウドが攻撃をして、ライアンがキメラが再び上空に逃げないように援護射撃を行う中、冥姫が『バトルアクス』でキメラの翼を叩き折る。
「堕ちろ‥‥この空から、この世から――‥‥この空はお前のようなモノが飛ぶには‥‥ふさわしくない」
 冥姫が攻撃している中、ソウは援護射撃を行う為にライアンと同じく後衛に回っていた。
「初任務‥‥初戦闘か、何処までできるかわからないが‥‥やれるだけ、やるさ!」
 自分を奮い立たせるようにソウが呟き『ハンドガン』でキメラに向けて発砲する。
「逃がさんよ!」
 折れた翼で懸命に空へ逃げようとするキメラに向けて発砲する。
 その時、椿が物陰から姿を現した。手には自分の武器を持って。
「何だ?」
 クラウドが問いかけると「あの、俺‥‥」と俯きながら何かを言いたそうにしている。
「まだくよくよしているのか? お前がいつまでもくよくよしていたら彼女は幻滅するだろうな――そんな調子じゃ彼女は目を覚まさない」
 クラウドの言葉に椿の武器を持つ手に力が入る。
「だが――彼女もキミを信じている部分があるはずだ。それに応える為にも――目の前の敵にお前の気持ちをぶつけてやれ!」
 クラウドの言葉を合図に椿が弱ったキメラに向けて攻撃をしたのだった。
 だが、トドメには至らなかったのかライアン達、今回の仕事を引き受けた者達がキメラにトドメを刺してキメラ退治は大きな傷を受けることなく終了したのだった。
「お前にはまだ義務が残っているんだから、自ら死に勇み行くことなんかする事ない。お前には彼女が起きたとき、彼女からの言葉を聞く義務があるんだから‥‥死ぬようなマネはまだ早いよな」
 ソウの言葉に「だな‥‥俺は馬鹿なことをしようとしていた」と椿も反省しているように自嘲気味に笑ってソウに言葉を返した。


 後日――能力者達は珊瑚が入院している病院へと椿を連れてきた。
「何しに来たのよ‥‥来ないでって言ってるでしょう」
 女性能力者が椿の姿を見た途端に怪訝そうな表情を向ける。
「それは当事者である彼女だけが吐くことを許されている言葉、当事者ではないアナタに彼を責める権利はない」
 真紅の厳しい言葉に女性能力者は言葉を詰まらせ、珊瑚が寝ている場所への道を譲った。
「‥‥これが漫画とかの世界なら、奇跡が起きて珊瑚が目を覚ますんだろうケド‥‥やっぱり現実には奇跡なんて起きやしないんだな」
 椿が呟き、眠り続ける珊瑚の手を握り締めながら「目覚めるのいつまでも待つから」と呟いた。
「そうだ、絶望するのはまだ早い。まだ何も結果が出ていないんだからな。まずは最後まで結果を見てから動け」
 ライアンは小さく呟き、眠り続ける珊瑚の顔を見る。
「私にはこの問は難解だ。知識だけで、計り知れるものではないか」
 冥姫は誰にも聞き取れぬ小さな声で呟き、今回の仕事は終わっていったのだった‥‥。


END