●リプレイ本文
今回の企画はクイーンズ記者の土浦 真里(gz0004)が能力者の休日を取材するというものだ。
「張り切って行くわよ!」
取材を翌日に迎えたマリは一人ガッツポーズで叫んでいた。
●朝が早い、あなたは老人ですか?
現在の時刻は午前六時、こんな朝早い時間から行動するアッシュ・リーゲン(
ga3804)はきっと老人なのだろうとマリは寒さに震えながらアッシュが来るのを待っていた。
「一体こんな時間に何をするって言うんだろ、運動に適した服って言ってたけど‥‥」
アッシュから連絡を受け、マリの今の格好はジャージの上下を着ているという物凄く動きやすい服装だった。
「おー、おはよう‥‥ってツラじゃねぇな、おい」
眠そうなマリの表情を見て、アッシュが苦笑しながら呟く。
「別にぃー、滅茶苦茶眠いんだけど! なんて全然思ってないから」
「‥‥思ってるワケね、でも朝の空気も良いモンだろ?」
アッシュの問いかけに「まーね、結構空気澄んでるし」とにっこり笑って答えた。
「さて、これからジョギング行くか、マリはこれで伴走してくれ」
アッシュは持って来た自転車を指差す。
「自転車に乗るのも久しぶりかも〜♪」
マリは楽しそうに自転車に乗り、走り始めたアッシュの横を自転車で走る。
「どのくらい走るの〜?」
「んー‥‥今日は2時間くらいかな、バテるなよ?」
息も切らさずに走っている姿を見ているとさすがは能力者なのだとマリは心の中で思っていた。
それから2時間、延々と走り続けたのだが、疲れているのは自転車で走っていたマリの方だった。
「はー‥‥こんな運動してればダイエットになるかも」
マリは息を切らしながら呟くが「まだトレーニングは終わってないぞ?」とアッシュが答える。
「うっそ‥‥この後に何をするの!? 私はご飯食べてお風呂入りたいくらいよ?!」
「この後はトレーニング室で筋トレとかだな」
「‥‥シュリケンさんの活躍を写真に収めときますので、わたくしめにはお構いないようお願いいたしたいでござるな」
「何人だよ、お前は‥‥シュリケンの罰だな、一緒に筋トレしてもらおうか」
マリの腕を引っ張り、トレーニング室へと向かう。
結局、アッシュの筋トレに付き合う事になったマリは腕立て伏せなどをやらされていた。
「うぎぎぎぎ‥‥も、もう無理――ぃ!」
マリは腕立て伏せ27回の時点で叫びながら床に突っ伏したのだった‥‥。
「オラ、どうした。その程度で記者が務まんのかあ?」
アッシュは苦もなく腕立て伏せをしていきながら、マリをからかうように呟く――いつもならば反論が来るのだが、かなり疲れているのだろうか、マリは言葉を返す事もなくぜぇぜぇと息切れしていた。
「そろそろやめとくか、そっちにシャワールームがあるから汗を流してから帰ろうや」
アッシュの言葉に「次は何処で筋トレ?」とマリが問いかける。
「筋トレは終わりだ、買い物した後で昼食作ってやるよ」
昼食という言葉にマリは飛び起き「アッちゃん! 早くご飯!」と慌ててシャワールームへと走っていった。
「‥‥早ぇ‥‥」
苦笑しながらアッシュは呟き、自分もシャワールームへと向かっていった。
「あー、今日は一年分くらい動いたかも〜‥‥絶対明日は筋肉痛だよ‥‥」
アッシュが持って来た自転車で彼の自宅へと向かう、もちろんマリは後ろに乗り、アッシュが自転車を漕いでいる。
「お腹すいた〜、お腹すいた〜」
後ろで『お腹すいた』を連発するマリを見て『‥‥取材に来たんじゃなかったか、こいつ』と心の中で呟く。
「ほい、フレンチトーストとサラダ」
あれから買い物をした後、アッシュの家でマリは昼食をご馳走になっていた。
「それとコレを貸してやる」
アッシュが言いながら渡してきた物は刃渡り十センチくらいのサバイバルナイフとベルト付きの鞘だった。
「これを見て対処法を覚えな」
サバイバルナイフを渡した後に、アッシュ自作のサバイバル教本も渡された。
「これくれるの?」
マリがサバイバルナイフとアッシュを交互に見比べながら問いかけると「違う」と短い言葉が返ってきた。
「ナイフはお前に『貸す』から取材に持ってけ、いらねーなら必ず『自分の手』で返しに来い。間違っても形見にして返すんじゃねぇぞ?」
マリの無鉄砲な性格を知っているから、アッシュなりに心配しているのだろう。
「使い方とか色々とそれに書いておいたから、ソレよ〜く読んどけよ?」
「ありがと!」
「はぁ、危険にゃ近づかないのが一番だが‥‥そりゃ無理だかんな」
ため息を吐きながらアッシュが呟く。
「ふふ、マリちゃんは危険なんて怖くないもんね♪ でもこれは常備しとくようにする♪ ありがとね、アッちゃん」
マリは礼を言い、用意された昼食を食べた後に次の取材者の所へと向かい始めたのだった。
●小鳥ちゃんの意外な休日?
「ここかぁ‥‥」
マリはラストホープ内にある貸しスタジオの前で呟く。二番目の取材者、小鳥遊神楽(
ga3319)と待ち合わせた場所は貸しスタジオの中だった。
「音がする‥‥ギターかな」
そぉっと中に入って行き、音が聞こえる方へと進むと広い場所に出て、部屋の隅で小鳥遊がギターで演奏をしていた。
「‥‥腕が落ちているわ‥‥こんなんじゃ戻っても幸香達に顔向け出来ないわね」
ふぅ、とため息を吐き小鳥遊がギターを置いた所で「小鳥ちゃん!」とマリが話しかけた。
「あら、マリさん。もしかして来てた?」
「数分前にね、小鳥ちゃんの演奏初めて聞いたけど上手なんだね!」
マリが感動したかのように拍手しながら言うと「結構腕が落ちてたわ」と苦笑気味に呟いた。
「小鳥ちゃんは仕事がない日はいつもこうやって練習してるの?」
マリがメモを取り出しながら取材を開始すると「そうねぇ‥‥」と小鳥遊は考えながら答える。
「‥‥休みの日っていうか‥‥時間があれば、こうやって貸しスタジオで練習しているわ、いつか戦いが終わって、傭兵じゃないあたしに戻れる時が来た時に後悔しないようにね」
小鳥遊が少し遠くを見るように答えると「傭兵になる前はバンドしてたの?」とマリが問いかける。
「マリさんは聞いた事ないかな? TWILIGHTってバンド、インディーズとはいえ、それなりにファンもいて、業界では一目置かれていたんだけど」
小鳥遊が問いかけると「ご、ごめん。音楽には疎くて‥‥」と申し訳なさそうに答えた。
「別に気にしなくてもいいわ、かつてのメンバーと作り上げたナンバーなんだけど、良かったら聞いてくれるかしら?」
小鳥遊が再びギターを持ちながらマリに話しかけると「是非聞きたい!」とマリは手を叩きながら答えた。
それから小鳥遊は暫くの間、練習も兼ねてマリに曲の披露をした。
(「何か‥‥凄いけど、懐かしむような感じがするのは気のせいかな‥‥?」)
演奏している小鳥遊の姿を見て、マリは心の中で呟く――が、それを口にしてはいけないような気がして、口にする事はなかった。
「さて、練習も終わった事だし馴染みのフルーツパーラーでも行かない? 結構美味しいのよ?」
小鳥遊が呟き「行く行く!」とマリも椅子を片付けながら答え、二人はフルーツパーラーへと向かい始めたのだった。
「マリさんはどれにする? あたしは『季節のパフェ』にするけど」
「あ、じゃあ私もそれ! あとメロンソーダ♪」
注文を終えた後は他愛ない雑談で盛り上がっていたが「そういえば‥‥」とマリが思い出したように呟く。
「小鳥ちゃんが甘い物が好きだっていうのは意外だったかも、どっちかといえば甘い物は嫌いな方なのかなって思ってたから」
マリが呟くと「あたしのキャラに合ってないとか思ってる?」と苦笑しながら答えた。
「イメージに合ってないって思われても好きな物は好きなの。こればかりは自分に嘘をつけないから」
「ふふ、でも小鳥ちゃんの言う事は分かる気がする。私だって自分に嘘はつけないから」
マリが笑って呟くと「マリさんは少し押さえた方がいいかもだけど」と小鳥遊が返してくる。
それに反論しようとした時に注文の品が届いて、二人は「美味しい♪」と舌鼓を打っていた。
「ここはあたしが奢るわ」
小鳥遊はお金を払った後に「また一緒に来ましょ」と言って別れたのだった。
●最後は新たな戦場へ赴く!?
取材1日目最後の取材者は叢雲(
ga2494)だった。
「いっけなーい! 遅れちゃった!」
バタバタと慌てながらマリは叢雲との待ち合わせ場所である喫茶店へと入ってきた。
「えぇと、どこにいるかなー‥‥」
店内を見渡すが、人が多いためか中々見つけられない。大声で『叢雲さん!』と叫ぼうか悩んでいる時に奥のテーブルに座っている男性が手を挙げた。
その男性こそが叢雲だった、彼は待ち合わせ時間より早く着いてしまったため、本を読んで時間を潰していた。
「ごめんねー、遅れちゃって」
「いえ、お気になさらず。初めまして‥‥ですよね? 叢雲といいます。今回は宜しくお願いします」
ぺこりと丁寧に頭を下げながら挨拶をする叢雲に「此方こそヨロシクね、むらくっちゃん」と笑顔で言葉を返した。
「‥‥‥‥むらくっちゃん?」
「『むらくも』が名前でしょ? だから『むらくっちゃん』、いい感じでしょ」
得意そうに言うマリだが、そのネーミングセンスは毎度の如くゼロだ。
「ウェイトレスさーん、こっちに梅昆布茶宜しく!」
ウェイトレスに梅昆布茶を注文した後に「休日の過ごし方を教えて♪」と話し始めた。
「休日、ですか。そうは言っても大した事はしてませんよ?」
苦笑しながら叢雲は答える。ちなみに彼が休日に行っているのは掃除と洗濯が多いらしい。傭兵を生業としている以上、家を長く空けたりする事が多いから纏めてやるようにしているのだと叢雲は答えた。
「‥‥傭兵辞めてクイーンズで家政婦さんにならない?」
「は?」
「や、何でもない、コッチの話だから気にしないで」
慌てて言葉を濁すマリに叢雲は首を傾げながら「はぁ‥‥」と答えた。
「でも掃除とか洗濯を一日しているわけじゃないでしょ? 他には何かしている事とかないの?」
マリが問いかけると「自炊しているから材料買ったり‥‥図書館かな」と答えた。
「本が好きなの?」
「えぇ、何処に行くにしても本は持っていくようにしてるくらいに。後は買い物をしたりですね」
叢雲は今日も持って来ている本を見せながら答えた。
「本が好きならうちの編集室に来ればいいのに〜。結構昔の本から最近の本まで揃えているよ?」
「そうなんですか、あ――」
叢雲が答え、時計に視線をやる。
「ん? どうかしたの?」
「すいません。この後少し用があるのですが、もし良かったら付き合っていただけますか? 取材内容に沿った事、になると思いますよ」
苦笑しながら叢雲は呟き「別にいいけど」とマリも席を立ちながら叢雲のあとを着いていく。
そして着いた先は――スーパー、店員らしき男性が『タイムセール』の看板を持ちながら呼び込みをしていた。
「よし、では行ってきます」
髪を縛りなおし、呟くと同時に叢雲はバーゲンという名の戦場へと走り出していった。能力者に匹敵するのではないかと言うほどに勢いのある主婦のオバちゃんの中を駆け抜け、叢雲は目的の品物を手にする。
叢雲が戦場へと旅立ってから数十分後、揉みくちゃにされた叢雲が『俺はやったぜ』というオーラを出しながら帰って来た。
「能力者に拮抗する主婦の力‥‥毎度の事ながら恐ろしいですね」
(「どうしよう、私はあなたの方が怖いわ‥‥その笑顔が怖いわ」)
「あ、いつもこうやっているわけではないですからね?」
叢雲は呟き、彼の取材は終わったのだった。
●歩く狸さん登場!
(「目の前のコレは何? 何処かでヒーローショーでもやってたかな」)
マリは目の前を歩く狸――もとい八界・一騎(
ga4970)を見て心の中で呟く。
「なンだよ、珍しいもん見たような顔して」
じろりと見る狸――八界だったが外見は狸、首にはタオル、そして手には鮭。
「きゃーーーーっ、もふもふもふもふもふもふもふ!」
いきなり叫んだかと思うとマリは八界に抱きつき、ふわふわの毛や肉球に触れて喜んでいた。
「うぉぁっ! や、やめろう!」
突然抱きつかれた事に驚いた八界は慌てて人型に戻りそうになる。
「あれ? 戻らないの? はっかいさん」
「はっかいじゃない! やさかい!」
「知ってる知ってる」
ぷぷ、と笑いながらマリが答える。
「‥‥ま、いいけど。鮭‥‥食うか?」
八界が鮭を差し出しながら問いかけると「本当に食べるよ?」とマリがにっこり笑顔で答えてきたので「やっぱ、やらない」と鮭を引っ込める。
「そうそう、取材だった。はっかいさんは狸の着ぐるみで筋トレしてるの?」
「着ぐるみじゃない!」
「知ってるよ〜」
(「何かもうツッコミはやめよう」)
「はっかいさ〜ん?」
「‥‥こんな感じの筋トレが日課だな。あと鮭茶漬けのご飯も」
「ねぇねぇ、クイーンズのマスコットキャラになってよ。狸はっかいさん」
「は? いきなり脈絡ない話をするなよ、思わず「いいよ」って言う所だったじゃないか」
八界が首を振りかけて、慌てて首を止める。それを見てマリは「ちっ」と舌打ちをしていた。
その後もマリからからかわれつつ、取材は無事に終了したのだが「マスコット諦めないからねー」と手を振りながらマリは帰っていった。
「‥‥なんか、別の意味で危険な気がするんだが‥‥」
●休日も仕事の事を考える能力者の鏡!
取材も2日目に入り、本日2件目の取材者はコー(
ga2931)だった。
「どうも、新年会以来ですかね、あんまり久しぶりって感じでもないですが、とりあえずお久しぶりです」
コーが頭を下げながら挨拶をすると「相変わらず真面目だねぇ、コッちは」とマリがけらけらと笑いながら答える。
「コッちは休日何して過ごしているの?」
「今日は買い物をして過ごそうかと‥‥その前にご飯にしたいのですが、マリは食べましたか?」
コーの問いかけに「まだ、一緒に食べようよ」と誘い、通り道にあったカフェに入る。
「俺はコーヒーとサンドイッチ」
「私は〜‥‥オレンジジュースとホットケーキ♪」
二人の注文を受けた後にウェイトレスは「暫くお待ち下さい」という言葉を残してオーダーを厨房に伝えに行った。
「何かコッちの休日って家でボーっとしてそうな感じだったかも」
「‥‥そんな引きこもりでもないですけど」
「やだなぁ、だからイメージだってば」
けらけらと笑うマリを見てコーはため息を吐きながら「マリは?」と問いかける。
「え?」
「マリの休日は何をしているんですか?」
突然コーからの質問に予想していなかったのか戸惑いながらマリは考えこんだ。ちなみにマリは仕事が一番楽しいという考えの持ち主なので休日は存在していなかった。
チホなどが無理矢理休ませても資料集めをしたりなど、記者の自分から離れて行動するという事がないのだ。
「私は毎日が仕事だから休みってのはないかも! でも一番楽しいから苦じゃないけど」
その時持って来た飲み物と食べ物を口に入れ、楽しそうにマリは呟いたのだった。
食事が終わった後、コーは仕事時に使う装備品など、必要な物を買っていた。
だが、弾薬を買うのには少し時間がかかっていたようで、買い物を終えた後にマリがコーに問いかける。
「弾薬を買うのに時間かかってたみたいだけど、何かあったの?」
「弾は気をつけて買う事にしているんですよ、よく見てから買わないと動作不良を起こされると此方の命に関わりますからね」
「そうなんだ‥‥でもコッちの休みって休みになってなくない? 買い物も仕事に使う物だしさ〜」
マリが呟くと「でもこれが俺の過ごし方ですし」と苦笑気味に答えた。
「今回は取材に付き合ってくれてありがと、また会えるといいね♪」
そう言って次の取材者のところへと走るマリを見て「多分、明日?」とコーは呟いたが、その言葉がマリに届く事はなかった。
●怪しげなガンマン、グリりん登場!
2日目最後の取材者は翠の肥満(
ga2348)だった。彼の休日は『訓練班アイアンサイズ』本部ビルの自室で映画を見ている事が多いのだと言う。
「こーんばんわー、グーリりーん!」
大声で呼ばれた事のないあだ名に驚き、翠の肥満は見ているコメディ映画の主人公のように大げさに転んだ。
「ぐ、グリりん!?」
扉を開けると、にぱっと笑って「グーッドイーブニーング」と手を挙げて挨拶するマリの姿があった。
「どもー、初めまして! クイーンズの記者・マリちゃんでーっす。今日はグリ――」
「とりあえず中に入ってください!」
マリを自室に招きいれ、扉を閉める。
「映画見てたんだ?」
マリが一時停止されたコメディ映画を見て問いかける。
「気が休まるんですよ。仕事が仕事ですからね、銃をバリバリ撃つような流行の映画も好きなんですが‥‥バタバタ死んでいく脇役を見ると、少し縁起が悪くて‥‥明日はわが身といいますか」
翠の肥満の言葉に「へぇ、意外〜」とマリは答え、聞いた内容をメモしていく。今回、翠の肥満の部屋に呼ばれたわけだが、何故か不可思議なものも転がっている。
DVDケースなどが転がっているのは分かる。映画好きだというから色々なDVDを持っていると判断できるのだから。
しかし、何故にマジックハンドが転がっているのだろう? あと牛乳瓶も。
「さすが能力者‥‥結構変わった人なんだね」
マリが床を見ながら言うと「我々は常人と変わりませんよ」と翠の肥満はシリアス100パーセントの表情で呟く。
「戦場に立つのは『適正』があったからというだけで、他は何一つ。決して常人と違う存在だと思わないで欲しい‥‥‥‥」
マリは翠の肥満の言葉に感激していた――のだが! 手に持っているマジックハンドで感激も『喜劇』に変わりつつある。
「ところで、突然ですが僕を永久取材する気はありませんか? 称号こそアレですが、比較的、常識的でハンサムと言えなくもないナイスガイですよ、僕は」
マジックハンドをわきわきさせながら翠の肥満は格好良く呟く。マジックハンドさえわきわきさせていなければばっちり決まった場所だった。
マジックハンドさえ―――。
「次の取材があるので失礼しまっす! それじゃご機嫌よう! マジワキさん」
グリりんから『マジックハンドをわきわきさせる人→マジワキさん』になった彼のあだ名だった。
「訓練班アイアンサイズ、常時班員募集中の宣伝もお願いしますねー!」
立ち去るマリに翠の肥満は叫び、再びコメディ映画を見ながら牛乳を飲んでいったのだった。
●メイドさんは和風?
取材最終日の朝、マリはキョーコ・クルック(
ga4770)の指定してきた屋敷の前に立っていた。
ちなみにこの屋敷はキョーコの持ち物という事ではなく、家主は別に存在していて、家主の不在の間、建物の維持管理を任されているという事らしい。
「マリ、いらっしゃ〜い」
朝8時前にマリがキョーコの住んでいる家へとやってきた。後からキョーコに聞いた話だが、彼女は朝五時に起床して庭で日本刀を使っての素振りと型の練習を行っていたらしい。
「朝五時って‥‥早くから起きてるのねぇ‥‥」
「朝に運動すると気持ちいいからさ〜、仕事のない日も毎日欠かさずしているしね」
そう言って素振りをするキョーコを見て「やっぱり能力者って凄いなぁ‥‥」と小さく呟いたのだった。
「マリもやってみるかい?」
キョーコが日本刀を差し出して言うが「え、私には無理だって!」とマリは手を振って断る。
「慣れればそんなに大変でもないさ」
実は、初日のアッシュとの筋トレの筋肉痛が今日の朝にやってきたのだ。筋肉痛が2日後にやってくるのは『年寄り』を意味している事にマリはあえて気がつかないフリをしていた。
「マリは朝ごはんは食べたかい? まだなら一緒に食べる?」
キョーコの嬉しい申し出に「食べる〜!」と手を挙げる。実はもう用意してあったのか、リビングには2人分の朝食があった。
メニューは白飯に味噌汁、焼き鮭、ほうれん草のお浸しの純和風朝食だった。
「‥‥キョーちゃんって洋食派じゃないの? メイドさんの格好してるのに」
「あはは、この格好をしていると洋食派に思われるけど、朝はしっかり食べないと力が入らないからねぇ」
言いながら「いただきます」と手を合わせて二人はご飯を食べ始めた。
「屋敷の手入れとか綺麗にされているけど業者とかに頼んでいるの?」
マリが外の庭木などを見ながら問いかける。
「あぁ。手入れはあたしがやってるよ」
キョーコの言葉に「ええっ!」とマリは驚いて味噌汁のお椀を落としそうになる。
「だって‥‥大変じゃないの?」
「慣れてくると庭木の剪定とかも楽しくなってくるよ」
笑って答えるキョーコに「そんなものなのかな‥‥」と唸るマリの姿があった。
朝食を食べた後、キョーコは鼻歌混じりで屋敷の掃除をしていく。家事全般をするのが好きなのだろう。
「何か今回の取材をさせてもらった人、皆が意外な一面を持ってるなあ‥‥」
マリは取材記録を見ながら小さく呟く。
「あ、クレイやんとの時間に遅れる! キョーちゃん、またね!」
時計を見るとクレイフェル(
ga0435)との約束時間まであとわずか。
「あぁ、また今度ね」
今度が今日の夜などマリは夢にも思っていないだろう。キョーコは驚くマリの顔を想像しながら掃除の続きを始めたのだった。
●芸人は休日でも芸人だった!?
「いらっしゃいませ」
クレイフェルとの待ち合わせ場所は喫茶店『Lucky Days』だった。ここで待ち合わせ‥‥というか、クレイフェルはここでウェイターとして勤務していた。
「クレイやん! 何の冗談? 口調がおかしいって〜!」
背中をバシバシと叩きながらマリが叫ぶと、クレイフェルはにっこりと笑って「口調が可笑しい? そないなことないですよ?」と答えた。
しかしその言葉の裏には『黙って席につかんかい、アホンダラァ』という意味が込められていそうなほどに爽やかな笑顔だった。
「じゃあ店員さん、オススメは何ですか〜?」
「オススメはオリジナルブレンドとモンブラン。店の、やのうて俺の、ですけど」
クレイフェルが答えると「じゃあ、それくださいな」とマリが注文をする。
「かしこまりました。暫くお待ちください」
クレイフェルは丁寧に頭を下げて奥へと引っ込んでいく。その姿を見てマリは何故か鳥肌が立ってしまった。
それから少しした後に注文の物が届けられた。
「ねぇ、なんでクレイやんはウェイターをしてるの?」
マリが問いかけると、クレイフェルは店内を見渡しながら「人の幸せな時間に触れられるんは幸せですよね」と答えた。
「そしてモンブラン好きになってもらえればこれ幸い。うちのモンブランは天下一品です」
きっぱりと言い切るクレイフェルを横目にマリがモンブランを食べる。
「‥‥美味しい」
確かにクレイフェルが言い切るだけのことあってモンブラン、オリジナルブレンドのコーヒーも美味しかった。
「ランチタイム過ぎたら仕事上がりやから、買い物に付きあってや」
マリの所から戻る途中でクレイフェルが呟き「OK」とマリが了解の言葉を返した。
そして、ランチタイムも終わり、客が満員だった状態もだいぶ落ち着いた頃「待たせたな」とクレイフェルが戻ってきた。
「お疲れ! 買い物って何か目当ての物とかあるの?」
マリが問いかけると「ん〜、なんやろな」と曖昧な言葉を返してきた。
「意味がわかんないなぁ、芸人クレイやん」
「芸人ちゃうし」
マリがツッコミをいれ、クレイフェルがツッコミ返しをする。
それを何度も繰り返すうちにショッピングモールへと到着した。
「ねぇねぇねぇ! これ可愛くない!?」
マリが指差したのは薄いピンクのワンピース。
「‥‥確か今日は『俺の』取材やったよな?」
クレイフェルが呆れたように言うと「あ、そうだった」と思い出したようにマリが呟き「クレイやんの行きたい所へさぁどーぞ!」と大げさに道を開けて見せた。
そう言いながらもクレイフェルは特に行きたい場所を決めていなかったのか、ぶらぶらと冷やかしをしては次の店に入るを繰り返していた。
「あ、買いたいもんがあったわ」
呟いてクレイフェルが入った店は本屋だった。
「何かオススメの本ってないん? 出来れば推理小説で」
クレイフェルの問いかけに「推理小説が好きなんだ?」とマリが呟き、店内を見渡す。
ちなみにクレイフェルは『必ず事件が起きて解決する』という型にハマっている推理小説が安心して読めるのだと言う。
「あった、これは結構面白かったよ、最後まで犯人がわからなかったもん」
マリが手渡してきたのは『最後の決断』と書かれた小説だった。作者はマイナーなのか、あまり聞いた事のない名前だった。
「あと私が気に入っている推理小説とか結構あるんだけど、古い本だから置いてないねー‥‥クイーンズの資料部屋に結構あるから今度来た時に持っていっていいよ」
「へぇ、おもろいんやったら読んでみる。後は料理の本とかオススメあったら教えて欲しいんやけど」
料理本もマリに見繕ってもらい、クレイフェルは数冊の本を購入した後マリと分かれたのだった。
●最後の最後でドッキリ企画!?
「あー‥‥もうこんな時間、これから記事の編集したりだから寝るのはまだまだ先だなー」
時計を見ながらマリは愚痴るように呟き、自宅、クイーンズ編集室の扉を開けた。
「ただいまー」
靴もポイッと適当に脱ぎ、何か食べる物がないかと冷蔵庫を漁るが何もない。
「あ、リビングに昨日買ったパンがあったっけ」
昨日買ったパンの事を思い出し、リビングの扉を開いた時「おかえりー」と今回の取材を受けた能力者達が鍋を囲んでマリを出迎えた。
「いらっしゃーい、ゆっくりしていってねー‥‥あ、あったあった」
マリは答え、目的のパンを取った後でリビングから出て行く――が、数秒後に「何でいるの!?」とばたばたと走りながら戻ってきた。
「あかん、芸人としては最悪のリアクションやで、それ」
がっかりしたようにクレイフェルが首を振りながらため息を吐く。
「まぁ、腹減ってるんなら鍋を作っておいたから食え食え」
アッシュがマリを鍋の前に座らせて食べるように促す。
「ねぇ、この尾は何?」
鍋からはみ出ている魚の尾を箸で刺しながら問いかける。おそらくそれは八界が持って来た鮭である。
「まぁ、いいや。いっただきまーす―――(ぱく)――――うん、意外と美味しいけど――なんかこう、もっさりというか、もう一声欲しかったような、闇鍋になってない闇鍋だね」
にや、と不敵な笑みを浮かべながら能力者たちに話すマリ。これだけ怪しさ満点の鍋があったら『闇鍋』だという事は簡単に判別できる。
その後、宴会に変わり、マリの休日を聞いたりなど質問などが飛び交っていた。
ちなみにマリは八界ののんびりほにょり状態を見て驚いたというオチまでついていたのだった。
END