●リプレイ本文
―― 週刊記者マリ、最後の取材 ――
「よぉしっ! 最後の取材を頑張ってみよう!」
ぐ、と拳を強く握りしめて意気込みを見せるのは週刊個人雑誌クイーンズの編集長兼記者の土浦 真里(gz0004)だった。
色々な事情から1番の取材処を逃してしまった彼女は、最後くらいはきちんと取材をしたい――と願い、能力者達に『これから』の事について取材をさせて欲しいと申し込んでいた。
「最初の取材者は村雨 紫狼(
gc7632)くんか、よしよし、マリちゃん頑張っちゃうよ!」
村雨は取材時に鵺(gz0250)も呼んでくれ、と言われていて既に彼は到着している。
「まったく突然呼び出されるから何事かと思えば取材なんて‥‥! お化粧直さなくちゃ」
バッグからファンデーションを取り出しながら化粧直しをする鵺は、既にマリよりも『女性』として生きているような気がしなくもない。
「ちわーッス! 邪魔するぜ!」
玄関のドアを開けながら、村雨がクイーンズ編集室へと入ってくる。
「いらっしゃい‥‥ってケーキ! お土産ね? お土産なのね? 頂いてもいいの?」
マリは目を輝かせながら、村雨の持つケーキの箱を凝視しながら言葉を投げかける。
「お、おぅ‥‥好きなモンかは分からねぇけど、ど、どうぞ?」
マリの勢いに押されながら、村雨はケーキの入った箱を渡す。
「取材は奥の部屋でするから、先に行っててくれる? あ、鵺ちゃんも来ているからね〜」
ケーキの箱を大事そうに抱えながら、マリは台所に、村雨は取材室に向かい始めた。
「やだぁ、久しぶりじゃない、しろーちゃん♪」
取材室に向かうと、鵺は村雨にひらひらと手を振りながら、紅茶を飲んでいた。
「そういえば、何でアタシがしろーちゃんに呼ばれるのかしら? 何かアタシに用事?」
「俺のこれからの人生設計とも大いに関係があるんだよ!」
村雨は拳を強く握りしめながら、ぷるぷると身体を震わせ、鵺に言葉を投げかける。
「はいはーい、しろーくんが持って来てくれたケーキを持って来たよー‥‥おや、修羅場?」
マリがわくわくと目を輝かせながら、村雨と鵺を交互に見つめる。
「修羅場じゃねぇよ、まだ何も話なんてしてねぇし‥‥」
「そう? とりあえず美味しそうなケーキでも食べて機嫌を直してよ」
3人分のケーキをテーブルに置き、マリが「何を話していたの?」と村雨に問い掛ける。
「マリさん、だっけ? アンタは知ってるだろ、最近傭兵のトラブルが多いって事」
「‥‥実際に見たわけじゃないけどね、何か多くなってるみたいだね」
「だけど、最近多くなっただけで、能力者のトラブルは昔からあったよ?」
実際にエミタから得た能力を悪用している者を、マリも実際に見た事があるのだから。
「‥‥傭兵の誰もが大なり小なり自分の抱え込んだ力の向け所に悩んで、なのに1度得た超人の力を捨てる事に怯えているのさ」
村雨は複雑そうな表情を見せながら、マリに言葉を投げかける。
「ある意味、こんな取材を自分から受けようって奇特な奴は中々いねぇと思うぜ」
「‥‥だったら、どうしてしろーくんは取材を受けてくれたの?」
「マリさんは記者なんだろ? だから雑誌を通して他の皆に訴えかけて欲しいんだ」
「‥‥俺達は生まれついての超人じゃねぇ、エミタ所持を決めただけの、皆と変わりない希望や夢を持つ――ただの人間なんだって」
村雨は瞳を伏せながら呟き、そしてキッと鵺に視線を向けた。
「俺は嫁と平和な家庭を築いて、子供もたくさん持ちたいと思ってる」
村雨は頬を赤く染めながら、照れたように言葉を続ける。
「嫁はまだ子供だから無理だけど、16歳になったら婚姻届を出して‥‥俺は子作りに励む!」
ぐ、と拳を握りしめながら宣言された言葉にマリも鵺もキョトンと目を瞬かせる。
2人が言葉を返せないのも無理はないだろう、いきなり子作り宣言をされているのだから。
「最低3人――いや、4人は子供が欲しいんだけど‥‥俺も若くないからなぁ」
「し、しろーちゃん? それで何が言いたいのかアタシにはちょっと分からないんだけど」
鵺が狼狽えながら村雨に言葉を返す。
「俺は世界平和の前に、個人の幸せを実現する事が、去って逝った多くの命への報いになると考えているからだ」
「‥‥そうね、自分自身や個人を幸せに出来ない人が世界平和なんて大それた事が出来るはずないと、マリちゃんも思うよ」
「‥‥だから竜三、鵺じゃねぇ1人の男として俺はお前に問う!」
「へっ、あ、アタシ?」
「竜三という男として、幸せにするべき誰かがいるんじゃねぇのか?」
村雨の言葉を聞き、鵺はどうして自分がここに呼ばれたのか分かった気がした。
「親父さんと上手くいっているのかも分からなかったからな、お前自身も年貢の納め時だって分かってるだろ? 男なんだからグズグズするなよ!」
ビシッ、と村雨は鵺を指差しながら言葉を投げかける。
「‥‥あらあら、ラサちゃんを驚かせようと思っていたんだけど、これを見せなくちゃアタシが殴られちゃいそうな勢いねぇ‥‥」
鵺はため息を吐きながら、バッグの中に入れていた1枚の紙を村雨に見せる。
その『紙』を村雨とマリが見た瞬間、クイーンズ編集室に大きな声が響き渡っていた。
「あ、いらっしゃい! ちょっと汚い所だけど適当に座ってくれるかな!」
次の取材者、ラサ・ジェネシス(
gc2273)とエイミー・H・メイヤー(
gb5994)に向けて、マリが言葉を投げかける。
「マリ嬢、今日はお招きありがとう」
エイミーは恭しく頭を下げた後、マリの手の甲に軽くキスをしながら挨拶をしてくる。
(‥‥インタビューですと!? し、しかも本に載っちゃウ‥‥!)
冷静なエイミーとは真逆で、ラサはわたわたと慌てているようだった。
「まずはエイミーちゃんから取材って事でOK? ラサちゃんは別室でゆっくりしててね」
「わ、わかりましタ‥‥!」
ラサだけが部屋から出て行き、エイミーがにっこりと微笑みながら、ソファに腰掛ける。
「取材内容は以前も伝えた通りだけど、エイミーちゃんは『これから』をどう考えてるの?」
「‥‥以前なら戦後はエミタを外して一般人に戻ろうと思っていたよ、でも‥‥あの赤い月が落ちてもまだこの力が必要だと分かったから、まだ外すわけにはいかなくなったかな」
エイミーは少し悲しそうに微笑みながら言葉を返してくる。
「この力でお助けできる女性がいる限り、あたしは当分騎士をやめられないみたいだ」
「その力を外せない事は悲しいけど、エイミーちゃんの力で救われる人がいるんだね」
「‥‥とは言っても、以前のように戦ってばかりいなくてもいいようになったからね、以前の夢は追いかけたいかな、デザイナーとして自分のメゾンを作りたいんだ」
エイミーは照れたように頬を赤らめながら言葉を返してきた。
「夢が叶った時は是非改めてマリ嬢の取材を受けたいかな、その時はよろしく頼むよ」
「もちろん! その時はクイーンズで大特集組んで色々な人に読んでもらうから!」
「はは、それは光栄だね、直近の夢としてはラサ嬢と鵺嬢のウェディングドレスを作る事かな」
「‥‥ふふ、その夢だったら意外と簡単に叶うかもしれないよ?」
「‥‥え?」
「よ、よろしくお願いしまス‥‥!」
エイミーの取材が終わった後、ガチガチに緊張したラサが入れ替わりで入ってきた。
「簡単な取材なんだから、そんなにガチガチに緊張しなくてもいいのに」
あまりの緊張具合に、マリも苦笑を漏らしながら言葉を投げかける。
「こういう取材を受ける機会なんて普段はないカラ‥‥我輩は何を答えればいいですカ?」
「ラサちゃんが考えている『これから』の事だったら、何でもいいよ」
「‥‥我輩が考えているこれから‥‥学校にも行きたいし、結婚もしたいナ‥‥」
「でも、わが――ごほん、私が1番やりたい事は、私のような人を減らす事、皆が幸せであればいいナァ――と思いマス」
ラサは優しく微笑みながら、必死に自分の言葉でこれからの事を語る。
「戦争は終わったけど、世界にはまだまだキメラやバグアがいるし、それに復興が遅れている所もあるし‥‥そういう所で私はこの力を役に立てたいと思いマス」
ラサは気持ちを落ち着かせるため、出されたお茶を一口飲み、再び言葉を続ける。
「そうして1人でも多く笑顔に出来たら、それはとても素敵な事なんじゃないかな――それが‥‥私の目標であり、これからやりたいと考えている事デス」
「そうなんだ、私よりも小さいのにしっかりとした目標があって素敵だね、尊敬しちゃう」
「たまにはマリちゃん殿も取材に来てくれたら嬉しいナ、あとマリちゃん殿は宇宙の取材をしたいと風の噂で聞いたので、もし行きたい時は一声かけてくれれば案内とボディーガードをするよー」
「‥‥本当に!? それなら今すぐにでも頼みたい! マリちゃん、宇宙って行った事がないから凄く興味があるの! ‥‥でも、私の旦那様の許可が降りてからかなぁ」
「‥‥旦那様、幸せそうで羨ましいナァ」
「うふふ、やぁねぇ、ラサちゃんも『幸せ』になるに決まってるでしょ?」
突然、ラサを背中から抱きしめたのは、今まで隠れ潜んでいた鵺だった。
「ぬ、ぬぬぬ鵺殿!? な、何故ここに!?」
「しろーちゃんの取材の時に呼ばれたんだけど、ラサちゃんもここに来るって聞いていたから待たせてもらっていたのよ」
「そ、そうだったのカ‥‥でもわが――私も『幸せ』ってどういう――」
ラサの言葉を遮り、鵺は1枚の紙をラサの前に差し出した。
「‥‥っ!」
ラサの前に差し出された紙、それには『婚姻届』と書かれたモノだった。
「‥‥鵺殿?」
「アタシはこんな感じだし、まだ家族との問題も残っているから、ラサちゃんには迷惑を掛けると思うわ‥‥だけど、アタシはラサちゃんを幸せにするって約束する」
鵺はポケットから小さな箱を取り出し、ラサに差し出す。
「だから、アタシと――‥‥ううん、俺と結婚してくれる?」
鵺の言葉を聞いた途端、ラサはぶわっと瞳に涙を浮かべながら鵺に抱き着く。
「鵺殿の言葉を待っていたのダ、不束なモノですけど、これからも末永くよろしく‥‥っ!」
「ラサ嬢、鵺嬢、おめでとう‥‥! ずっと幸せになるんだよ‥‥?」
プロポーズシーンを見ていたエイミーが微笑みながら、鵺とラサに言葉を投げかける。
「鵺嬢。ラサ嬢をお願いします、誰よりも幸せに‥‥」
「もちろん、色々と問題は山積みだけどラサちゃんを誰よりも幸せな奥さんにするわ!」
「よぉし! クイーンズで桃色大特集を組んじゃおう! 他の桃色組を合わせて!」
本来の目的とは別の方向に動き始めてしまい、マリは他の記者達に指示を出していく。
マリの様子を見ながら、ラサだけがわたわたと慌てて、そんなラサの姿を見て、エイミーと鵺は優しく微笑んだのだった。
「ふむ、取材場所はここで大丈夫なのか?」
3人の取材を終えた後、4人目の取材者、各務・翔(
gb2025)が編集室にやってきた。
彼はラサ達の事を知り、用意していた花束をラサと鵺にプレゼントをしていた。
「はいはい、さっそくインタビューさせてもらっちゃうよ!」
「インタビューか‥‥君は運が良い、この素晴らしい俺に出会えたのだからな」
髪をかきあげながら、各務はマリに視線を向けながら呟く。
「さきほどはイベントがあったようだが、君は良い相手などいるのかな?」
マリをリラックスさせるつもりで各務は質問を投げかけるが、能力者のインタビューで緊張するほどマリは柔な性格はしていなかった――が、各務はその事に気づいていない。
「マリちゃんは既婚者だよ、ちゃんと愛する旦那様がいるのだよ、ふふふっ」
結婚指輪を見せると、各務は「それは残念だ」と肩を竦めながら言葉を返してきた。
「さて本題、あなたが考える『これから』って何なのか聞かせてくれる?」
マリはメモを取りながら、各務に言葉を投げかける。
「これから、か、素晴らしい目の付け所だな――と相手を褒められる俺は素晴らしい」
後半部分は各務の心の声なのだが、自分をほめるあまり言葉に出てしまっている。
「俺はこれから世界を放浪するつもりだ、幸いにも今までの稼ぎがあるから金には事欠かないだろうからな」
「世界を放浪? ‥‥つまり、それって世界の状況を自分の目で見るつもりなの?」
「どうだろうな、自らの生きる世界を自分の足で歩いてみたい、そう思ったのでな」
「‥‥ふぅん、あなたは凄いね」
「はは、一休みを兼ねて、これからの夢を探す‥‥そんな余裕を持てる俺は素晴らしい、そうは思わんか?」
各務はマリに質問を投げかけ、マリはしばらく考えた後に「凄いね」と言葉を返した。
「ところで、1つだけ質問を返してもいいか?」
「ん? どうぞ?」
「土浦君の今後の夢は何だ?」
「‥‥マリちゃんの夢?」
「他人の夢を参考にするわけではないが、興味があるものでな」
各務は紅茶を飲みながら、視線だけを向けてマリに問い掛ける。
「マリちゃんの夢は、今まで通りで行く事、かな?」
「‥‥今まで通り?」
「キメラやバグアは残っているし、まだまだ苦しめられている人はいる、だからそんな人達の助けになるような雑誌を作りたい、それがマリちゃんの最初から変わらない夢だよ」
マリの答えを聞き、各務は満足そうに微笑む。
「お互いに『これから』の夢を叶えられると良いな、健闘を祈るよ」
各務は紅茶を飲み干し、そのまま席を立ち、マリを握手をした後に編集室を去った。
「えぇと、待ち合わせはここでいいのかな?」
取材道具を持ってマリがやってきたのはLHの広場。
ここで待ち合わせをしているのは雪代 蛍(
gb3625)だった。
「あ、いたいた! 待たせてごめんねー!」
「‥‥いえ、別にあたしもさっき来たばかりですから」
雪代は軽く頭を下げながら挨拶をして、2人は近くのベンチに座る。
「さっそくだけど、蛍ちゃんの『これから』について聞かせてくれる?」
「‥‥あたしは声楽の勉強をしています、あまり才能はないって断言されていますけど」
雪代は苦笑しながらも、そのまま言葉を続ける。
「あたしは、昔、1人で色んなモノを恨んで戦っていたけど‥‥今は争いのない世界に出来るようにしたいから、誰かの心に陽だまりを作れたら――と思っています」
これからの事について言いよどむ事なく答え続けていた雪代だったけど、表情は浮かなく、何かに悩んでいるようにも見える。
「‥‥何か悩んでいる事があるの?」
「別にっ、な、悩み事はない‥‥けど、私事だけど、彼氏の事で‥‥」
雪代は彼氏、七海鉄太(gz0263)の事で考えている事がある、とマリに告げる。
「このままじゃダメになりそうで、だからお互いのために1度距離を置くべきなのかなって‥‥」
雪代の声が震えている事に気づき、マリも困ったような表情を見せる。
「ちゃんと本人と話はしたの?」
「‥‥え?」
「不安に思っている事、これからの事、どうしたいのはちゃんと話すべきだと思うよ?」
マリは後ろを指差しながら、にっこりと微笑みながら、雪代に言葉を返す。
雪代は不思議に思いながら後ろを振り向くと、そこには気まずそうな表情の鉄太が立っていた。
「て、鉄太‥‥!?」
まさか鉄太がいるとは思わなかった雪代は慌てながら言葉を投げかける。
「ほ、蛍の姿を見かけたから来てみたんだけど‥‥」
「蛍ちゃん、とりあえず2人で話してみたら? 思い切り自分の気持ちを打ち明けちゃえ」
マリは雪代の背中を軽く押し、鉄太の方へと進ませた。
「それじゃ、マリちゃんはこれで帰るね、インタビューさせてくれてありがとう!」
「‥‥俺、色々と準備をしていたんだ」
鉄太はしょんぼりと俯きながら、雪代へと言葉を投げかける。
「‥‥準備?」
雪代は首を傾げながら呟き、その呟きを聞いた後、鉄太は1つの鍵を取り出してきた。
「戦争は終わったし、俺達が一緒に住める所、探していたんだ」
「‥‥え?」
予想もしなかった言葉を返され、雪代はぱちぱちと目を瞬かせながら呟く。
「蛍の都合なんて聞かないまま、勝手に決めちゃってたけど、何も言わなくてごめん」
「俺のこれからは蛍と幸せになりたい、だから一緒に暮らしたいって思ったんだ」
「鉄太‥‥」
「まだ仕事とか決まってないけど、ちゃんと仕事が決まったら、蛍に言うから‥‥結婚して下さいって言うから‥‥」
鉄太の言葉を聞き、蛍の顔は真っ赤になり、恥ずかしさからそのまま俯く。
「‥‥鉄太は凄いな、あたしは強がってみせたり、調子のいい事ばっかり、鉄太は苦しんで悩んで決めていたんだよね――子供なのは、あたしだね」
ごめん、と言葉を付け足しながら、雪代は頭を下げて謝る。
「俺、これから蛍を幸せに出来るように頑張るから、一緒に暮らそう」
「‥‥うん、もちろんだよ、あたしももう少し素直になれるようにするから‥‥!」
LHの広場、多くの人が見ていたけど雪代は鉄太に抱き着いていた。
「‥‥最後は函館、まさかここまで取材に来る事になるとは思わなかったなぁ」
マリは函館の地に降り立つと、青い空を見上げながら小さく呟いていた。
「しかも片道分しかチケットが入っていなかったけど、まさか帰りは実費になるのかな?」
取材だから仕方ないけど、と言葉を付け足しながらマリは待ち合わせ場所まで向かう。
「マリ、あんまりはしゃいで迷子になったりしないでよ?」
「‥‥チホさん、いくらマリさんでも良い大人なのに迷子なんて無いと思いますけど‥‥」
今回はチホと室生 舞(gz0140)も同行しての北海道取材。
(‥‥3人分のチケット、ちゃんと経費で落とせるよね?)
マリは引きつった笑みを浮かべながら、チホと舞に気づかれないように小さくため息を吐いた。
「お久しぶりです、マリさん。あと初めまして、舞さん、チホさん」
待ち合わせ場所に行くと、椎野 こだま(
gb4181)が丁寧に頭を下げて挨拶をしてきた。
「お久しぶりですわね〜、ようこそ函館へ〜」
おっとりとした口調だけど、何処か有無を言わせない雰囲気を持つ椎野 ひかり(
gb2026)が車の窓を開けながら言葉を投げかけてきた。
「インタビューでしたわね、のぞみの待つ場所に行きますから車に乗って頂けます〜?」
ひかりに促され、マリ、舞、チホの3人は後部座席へと乗り込む。
「のぞみちゃんは何処で待ってるの? てっきり3人で待ってるかと思ったんだけど‥‥」
「‥‥うふふ、何処って校舎裏ですわよ〜? ふふふふふ〜」
「え?」
「そうそう‥‥校舎裏‥‥マリさんなら、お腹周りが美味しそう‥‥」
「チホ、舞! 今すぐ車から降りなくちゃ! 食べられる! 骨までばりばりと食べられる!」
マリは慌てて車から降りようとするけど、チホと舞によって止められてしまう。
「ば、ばか! ここで降りたら逆に危ないでしょ!」
「そうですよ! 食べられる前に車に轢かれてミンチになります!」
「いやぁぁぁっ! ミンチにされてハンバーグにされちゃうぅぅっ!」
ひかりとこだまの雰囲気に、マリはパニックを起こしていて、のぞみが待つ場所に到着するまで、車内はマリの叫び声に満ちてしまっていた。
「マリさん、舞さん、チホさんいらっしゃい! ‥‥ってマリさんどうしたの!?」
ひかりが運転する車に揺られて30分、マリは顔面蒼白になって目的地に到着していた。
尋常ではないマリの様子を見て、椎野 のぞみ(
ga8736)が駆け寄る。
「‥‥マリちゃんはハンバーグにされて食べられる、だから帰りのチケットもなかった」
ガタガタと震えるマリを見て「さすがにそれはないよ」とのぞみが苦笑しながら言葉を返してきた。
「帰りのチケットに関してはボクが入れ忘れただけ、マリさん達が来たら、ちゃんと渡そうと思ってたんだよ?」
3人分のチケットを渡しながら、のぞみは「入れ忘れてごめんね」と言葉を付け足す。
「とにかく長旅で疲れたでしょ? ご飯の用意がしてあるから、入って入って」
「‥‥これって、のぞみちゃんのキャンピングカー? 随分と大きいね‥‥」
のぞみ達の母校だった場所に停められていたのは、全員が入ってもまだ広さに余裕のある大きなキャンピングカー。
「だけど寝るのは校舎の中だよ‥‥掃除が大変だった‥‥」
掃除の時の事を思い出しているのか、こだまはげんなりとした表情を見せながら呟く。
「‥‥美味しそう」
キャンピングカーの中に用意されていたのは、いかめし、いかそーめん、荒煮、あら汁など美味しそうなものばかりだった。
「お腹空きましたわ〜、取材は食べながらでもよろしくて〜?」
「うん、大丈夫だよ、それじゃのぞみちゃんから取材させてもらえる?」
マリはペンとメモを取り出し、のぞみに話を聞き始める。
「ボクのこれからだよね? もちろん田舎の復興が第一! ‥‥なんだけど、田舎は壊滅状態でね、なのでまずはここ函館の復興を頑張ってるんだよ!」
のぞみ達が住居にしている学校の校舎も驚くほど綺麗にされていた。これものぞみ達の呼びかけや頑張りがあったからなんだろう。
「基幹となる函館市街地の復興が進めば、田舎の復興にも着手できる。だから一心不乱に頑張ってる感じかな、とりあえずまずは魚市場で水中キメラの目利き&食べられない物の処理、あとは土木工事にもいってるかな?」
最後に会った時よりものぞみが陽に焼けているのは土木工事のせいだったのだろう。
「ねぇ、どうしてこの学校の校舎裏に住んでるの?」
「それはいつでも田舎の集落に帰れるようにするためだよ」
のぞみはそれ以上の言葉を言わなかったけど、そのために落ち着く場所を作らないようにしているのだろう――という事だけは伺う事が出来た。
「‥‥そっか、ありがとう、次はひかりちゃんで大丈夫?」
「構いませんわ〜、お腹も少しは落ち着きましたし、何でも聞いて下さいませ〜」
「マリちゃん的に聞きたい事は1つ、ひかりちゃんが考える『これから』についてかな!」
「まぁ、この格好を見れば分かると思いますけど〜、私はUPCの北海道軍に入隊しましたわ〜」
「‥‥えっ! ひかりさんって軍人さんになったんですか!?」
ひかりの言葉を聞き、舞が驚いたように言葉を返してきた。
「私は‥‥肉親を失う、妹を一瞬でも恨む、遠く離れた地で何も出来ない悔しさ‥‥そんな思いはもうしたくはないのですわ」
先ほどまでのにこにことした表情から、ひかりは真剣な表情へと変えて呟く。
「だからこそ‥‥私は育てる。今度こそ、この大地を守る、見つめる、育てる‥‥そんな防人を‥‥ですわ」
ひかりは真剣な表情のまま、真っ直ぐマリを見つめながら『これから』について語った。
その真剣な表情を見て、マリはひかりの決意の固さを感じた気がしていた。
「だから〜、私、これから鬼軍曹ひかりですわ〜! がんばりますわよ〜!」
ひかりは冗談めかして呟くけど、冗談が冗談になっていないという事に本人だけが気づいていないのだろう。
「最後はうちですね‥‥うちは‥‥今アメリカの医学部を受けて、医学の再勉強中です」
こだまは薄く微笑みながら、自分の『これから』について語り始める。
「いつかは‥‥田舎に戻って地域医療に携わる予定です、かなり前にマリさんの取材で言ったこと‥‥今はその先の道へ向かっている所です」
「こだまちゃん‥‥」
「だから‥‥この命が尽きるまで‥‥医の道を突き進みますよ」
のぞみ、ひかり、こだま――3人の『これから』の事を聞き、1つだけ共通している事をマリは見つけていた。
それは進む道は違えども、それにかける信念は3人が同じだという事、故郷の事を思い、故郷のために何が出来るかを考えているからこそ、強い信念を持つ事が出来るのだろう。
「これで取材は終わりかな? マリさん! 今日は泊まって行ってくれるよね?」
「‥‥うん! 久しぶりにのぞみちゃん達に会えたんだし、もっと色々な話をしたいから」
その日、マリ達3人はのぞみ達が寝泊まりをしている校舎で色々な話をしていた。これから先の頃、他愛のない話、色々な話をしている間は時間が短くて――いつの間にかみんな寝入ってしまっていた。
「起きて下さい‥‥」
こだまはマリの身体を揺すりながら、懸命に起こし始める。
「ん〜、あと5分――はっ、鬼軍曹ひかりちゃんにお仕置きされるから起きる! ‥‥あれ? こだまちゃんだけ?」
「はい、ひかねぇは休暇がお終いだからと札幌に帰り‥‥のぞねぇはもう仕事に出ている時間なので‥‥ご飯を食べた後に、うちが空港まで送りますよ」
こだまの言葉を聞き、キャンピングカーに戻ると、そこには10人前以上の料理がずらりと並べられていた。
「‥‥こ、これって1人前だけで3人前はあるわよね?」
「あ、朝からこれだけ食べられるほど、ボクはパワフルじゃないです‥‥」
チホと舞は表情を引きつらせながら呟き「あ」とこだまが思い出したように呟く。
「のぞねぇから『マリさんの子供を楽しみにしてるよ〜』と伝言を預かっています」
「なっ! なななっ‥‥! こ、子供なんて‥‥!」
「あんたも結婚して数年経っているんだから、そろそろ考えてもおかしくないでしょ」
「そうですね、戦争は終わって世界は平和に向かっているんですから」
「それと、これはひかねぇから‥‥のぞみは故郷を作り直し、私は故郷を守り、そしてこだまは故郷を癒す――3姉妹だからこその夢、だそうです」
「そうだね、しっかりと雑誌に載せさせてもらうよ」
そしてあっという間に北海道取材は終わりを告げ、こだまが空港まで送ってくれている車の中――。
「そうそう、3人にうちら3姉妹からもう1つ言う事があったんだった」
運転をしながら、こだまが思い出したように呟く。
「え?」
「うちら3姉妹に出会ってくれてありがとうございます‥‥! 私達の今、そして未来の一端は‥‥3人に作ってもらったものだから‥‥! そしてこれからも‥‥!」
こだまは笑顔で呟き、言葉が終わると同時に空港へと到着した。
「‥‥ありがとう、またクイーンズで取材をさせてもらうからね!」
名残惜しかったけど、マリ達3人はこだまに別れを告げ、そのまま空港へと向かった。
新たな時代を切り開いた能力者達が作る、そして激動の時代を生き残った一般人達が作る、新たな未来を思い描きながら――。
一方、LHでは‥‥。
「おおおおおいっ! 俺の存在忘れてないかぁぁぁぁぁぁっ!」
ぼたぼたと涙を零す褌一丁の男が嘆き叫んでいたとか――。
END