タイトル:お肉食べたい!マスター:水貴透子

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/13 04:11

●オープニング本文


お肉食べたい!

最近は成長のためとか言われて、野菜ばかり食べさせられてるのよ!

たまにはパーッとお肉を食べたいのよ!

だから、パーティーをするから、あんた達! ちゃんと来るのよ!

※※※

バーベキューパーティーする事になったから。
プライベートビーチまで来なさいよ。

これは先日、キルメリア・シュプール(gz0278)から届いたハガキの内容だ。

何故か真っ白なハガキに血文字のように書かれ、不気味さだけは満点の招待状になっている。

「うわ、何だこの不吉感満載の招待状は‥‥。こんなんに行くわけねぇだ――イダァッ!」

男性能力者の言葉は最後まで続かなかった。

なぜなら、キリーが男性能力者の脛を蹴っていたからだ。

「何それ、せっかく私が誘ってあげてるのに来ないつもり? あんた何様? はぁ?」

いつもの如く罵声を浴びせながらキリーが背は小さいのに態度はLLサイズで男性能力者に言葉を投げかける。

「い、いや、その日は俺別に用事があって」

「あんたに用事? あるわけないじゃない!」

「ふぐっ」

鳩尾を思い切り殴られ、男性能力者は呻きながらその場に蹲る。

「とにかく、来なさいよ!? いい? ちゃんとお菓子持参で来なさいよ!?」

びしっと指さしながら、キリーはパーティーのための買い出しに向かうのだった。

●参加者一覧

/ 土方伊織(ga4771) / 百地・悠季(ga8270) / 白虎(ga9191) / 仮染 勇輝(gb1239) / ガル・ゼーガイア(gc1478) / 南 十星(gc1722) / ルーガ・バルハザード(gc8043) / エルレーン(gc8086) / 勇馬(gc9051

●リプレイ本文

―― バーベキュー大会、始めるわよ! ――

「バーベキューなんて、もやしも良いイベントを考え付くんだな!」
 ガル・ゼーガイア(gc1478)が大きな声で叫ぶ。
(いや、でも冷静に考えてみると怪しいよな? 買い出しに付き合って正解だったか?)
 ガルはキルメリア・シュプール(gz0278)の買い出しに付き合うため、他の能力者たちよりも先にキリーと合流していた。
「もやしに大荷物は持たせられねぇからな! 今日は俺が荷物持ちになってやるぜ!」
「当然でしょ? まさか女の子1人に荷物持たせるつもりだったわけ? 信じらんない」
「相変わらずのもやしで安心したぜ‥‥」
 まだキリーと合流して数分も経っていないうちから心が折れそうなほどの罵声を浴びせられ、ガルも苦笑しながら言葉を返した。
「支払いはコレで済ませるわ」
 ビシッとキリーが取り出したのは、金色に輝くカードだった。
(や、やっぱりもやしって並大抵のセレブじゃねぇんだな‥‥)
「本当は黒い方を持ってきたかったんだけど、こっちにしておけって使用人がうるさかったのよね」
「ぶ、ブラックカード!? ブラックカードってもやしみたいな年でも持てるわけ!?」
「私のじゃないわよ、私のお母さんよ」
「へ、へぇ‥‥」

 それからガルは『荷物持ち』の称号を与えたいほどに荷物を持たされていた。
 むしろガルではなく荷物が歩いていると言った方が正しいのではないかと思うほどに。

「うぅ、呪いのお手紙が届いたのですぅ。でも行かないという選択肢はとーい未来の平穏のためには選択できないのですよ」
 せめて何事もないと良いのですけど、と哀愁たっぷりで呟くのは土方伊織(ga4771)だった。
(でも、きっと何もないとか天変地異が起こる確率で無理なのですー)
「あらあら、せっかくのバーベキューなのに何でそんなに深いため息?」
 くすくす、と笑いながら土方の前に姿を見せたのは百地・悠季(ga8270)だった。
「はわわ、百地さんは先に来てたのです?」
「えぇ、材料の買い出しはキリーとガル君にいってもらって、私は料理の準備って所かな」
 百地はほとんどの料理の下ごしらえを終わらせて別荘の方に送っていたので、あとは仕上げをするだけなのだと土方に説明をした。
「冷蔵庫は空いてるかにゃ?」
 大きな荷物と一緒に現れたのは白虎(ga9191)だった。
「充分空いてるわよ、何を持ってきたの?」
「母上と一緒にスイカのゼリーを作って来たのにゃ」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「にゅ? 何でそんな反応なのかにゃー!?」
「いや、だってねぇ。意外とマトモな物が登場したからちょっとびっくりしてるだけ」
(僕もですぅ、てっきりバナナでも持ってきているのかと思ったのに‥‥)
「おや? 皆さんこんな所でどうしたんです?」
 南 十星(gc1722)が穏やかに微笑みながら土方や百地、白虎に言葉を投げかける。
「にゅ、にゅあー‥‥!」
「キリーにはフラれてしまいましたが、お兄ちゃん的立場を放棄したわけではありませんので」
「あら、フラれたって‥‥キリーに告白してたの?」
「えぇ、結果は残念な物になってしまいましたけど、別に引き摺ってはいませんから」
「へぇ、そうなの」
 百地は意地悪そうな笑みを白虎に向ける。
「告白‥‥」
「うわっ、び、びっくりしたにゃ。いきなり現れるにゃー!」
 ぼそりと呟きながら現れたのは仮染 勇輝(gb1239)だった。
(告白、まさか俺がいない間にそんな事になっていたなんて‥‥!)
 仮染自身も告白するべきか悩んでいるので、南の告白話を聞いて少しの焦りを見せた。
(くそぅ、何であんな魔王なおねーちゃんにここまで人が集まるのにゃー!?)
 もちろん焦っているのは仮染だけではなく、しっと団総帥の白虎も同じだった。
「何故、玄関先で話し込んでいるんだ?」
 ルーガ・バルハザード(gc8043)がケーキの箱を差し出しながら、玄関先にいる能力者たちに言葉を投げかける。
「あ、これはねケーキだよ? ルーガと一緒にたくさんケーキを買ってきたんだ♪」
 ルーガの後ろからぴょこんと現れたのはエルレーン(gc8086)だった。
「ケーキね、それじゃスイカのゼリーと一緒に預かって冷蔵庫に入れてくるわ」
 百地たちは別荘の中へと入っていくが、その後でもう1人の能力者が姿を見せた。
(ここで間違いないんだよな? 俺にも招待状が届いたし、参加しても大丈夫だよな?)
 勇馬(gc9051)は大きな別荘に気後れしたのか招待状と別荘とを交互に見る。
「何してんのよ。さっさと入りなさいよね! 後ろが閊えてるんだから」
「わ、悪ぃ」
 後ろに立っていたキリーに急かされ、勇馬は慌てて別荘の中へと入る。
「とりあえず、ようこそ。私による私のためのバーベキューパーティーへ!」


―― 野菜なんて食べ飽きたわよ、肉が食べたいのよ、肉! ――

「それにしても海が目の前なのにプール完備、不思議ですー」
 土方は首を傾げながら呟く。
「とはいえ、これで泳ぎたい人は泳げるですね。さすがにもう9月ですし海じゃ冷たいでしょーし」
「‥‥‥‥」
 海やプールの話題が出て、白虎は自分の荷物の中を覗きこんでいた。
「‥‥えーと、こ、これは封印だにゃ」
 白虎はスクール水着と母親から持たされていた『大人なビキニ』をバッグの中に入れていた――が、どちらもキリーには合わないと思い、白虎は持って来なかった事にしよう、そうしようと心に決めた。
 しかし、悲劇は次の瞬間に起きたのだ。
「何こそこそとしてんのよ。あ、もしかして1人でお菓子を食べるつもりじゃないでしょうね! 私にもお菓子を寄越しなさいよ!」
「にゅああああ! ダメダメダメ! 今はそれを見ちゃダメ――――ッ!」
 しかしキリーによってバッグの中身は砂浜の上に広げられてしまい、もちろんその中にはスクール水着と大人なビキニの姿がある‥‥。
「白虎さん、スクール水着はまだわかりますが‥‥そっちは‥‥」
 仮染もやや引き気味で白虎に言葉を投げかける。
「ち、違うのにゃ! これは母上から持たされただけで――! うおおおい、そんな目でボクを見るにゃ――――ッ!」
 白虎以外の能力者は、ほぼ全員が白虎に対して『うわぁ、ないわぁ‥‥』という冷めた視線を向けていた。
「こっちなんて今のもやしには絶対無理だろ! こう、この辺が!」
 胸のあたりを指しながらガルが『大人なビキニ』を見て、大きな声で笑う。
「‥‥人間の頭ってスイカと同じくらいの大きさだと思わない?」
「‥‥はっ」
「間違って人の頭を割ってしまっても、今なら事故で済まされるわよねぇ?」
 キリーは鉄の棒を素振りしながらガルへと近づいていく。
「わ、悪かった! 別に胸がないから着れないとか、そういう意味じゃないんだ!」
 恐らくガルは気づいていない。今の言葉がキリーによってトドメになった事に――。
(ふぅ、標的がボクから外れて良かったのにゃー。さぁ、お肉食べるにゃ、お肉〜)
 白い砂浜、青い空、ガルの悲鳴、なんとも妙な組み合わせで能力者たちはバーベキューを続けていたのだった。
「ソースは何種類もあるから、好みで食べてちょうだいね」
 カルビソース、バーベキューソース、タルタルソース、甘辛ソース、チリソース、醤油、マヨネーズ、豆板醤、など誰の好みにも合うように百地は幾種類ものソースを用意していた。
「はい、この辺はもう焼けてると思うから食べちゃって大丈夫よ」
 野菜と肉が刺さった串を取り、キリーや他の能力者たちの皿へと取り分けていく。
「おいし〜い! ルーガ、このお肉すごくおいしいよ〜!」
「お前、また肉ばかり食べて‥‥。野菜も食えと常日頃から言っているだろう?」
「だ、だって‥‥お野菜、嫌いなんだもん‥‥」
「うるさい。さっさと食え」
「あぁっ! ルーガの馬鹿! 何でお野菜ばかりいれるの〜!?」
 エルレーンは野菜だらけになってしまった自分の皿を見ながら、大きな声で叫ぶ。
 だけど文句を言われているルーガは慣れているのか、気にする様子もなく肉を食べている。
「自分ばっかりお肉食べてるし! ルーガもお野菜食べなくちゃダメだよ!」
「ば、馬鹿! そんなに入れるな!」
 仕返しと言わんばかりにエルレーンはルーガの皿にも野菜を沢山入れていく。
「キリー、このタレで食べてみませんか? きっと気に入ってくれると思いますよ?」
「何それ、あっちのソースとは違うものなの?」
「えぇ、私特性の魔法のタレとでも言っておきましょうか」
 ちなみに材料は内緒です、と言いながら皿の中に肉を入れてキリーに渡した。
「美味しい! 何これ、こんなソースで食べた事ない」
「ふふ、喜んでくれて何よりです。こちらの肉も焼けたようですし、はい、どうぞ」
 あ〜ん、と言いながら南はキリーに肉を差し出す。
「させるかぁ〜〜!」
 ばく、と勢いよく肉を食べたのはキリーではなく、白虎だった。
「にゅははは、そんなリア充の定番『あ〜ん』などさせるわけないにゃー!」
 もしゃもしゃと肉を食べながら勝ち誇る白虎だったが、彼は背後に立つ魔王にまだ気づいていない。
「白虎、あんた今‥‥私の肉を取ったわね?」
「にゅああああんっ!? い、今のはしっと団総帥としての威厳を見せるために――!」
「問答無用よ!」
(暑いのに元気だなぁ、白虎さんとキリーさん)
 追いかけるキリーと追いかけられる白虎を見ながら仮染は野菜を食べながら心の中で呟いていた。
(僕は何も見てないですー、目の前のお肉とお野菜しか見えてませーん)
 八つ当たりが来ないように土方は目の前で焼けていく肉と野菜のみに視線を向けながら、心の中で呟く。
「そういえばわんこ、あんたお菓子も何も持ってきてないの? わんことしてどうなの?」
「うぅ、持ってきているのにこの言われようはあんまりなのですぅ〜!」
 土方は涙混じりの声で呟き、キリーにトリュフチョコを差し出す。
「チョコ‥‥あんた、乙女を太らせるつもりなの?」
「へっ、べ、別に僕はそんなつもりは‥‥」
「大体目の前にチョコがあったら食べるでしょ? あんたはそれを狙ってチョコ持ってきたんでしょ!?」
 もうどうしようもないくらい理不尽な事を言われて、土方はどうすればいいのかわからなくなってくる。
(こんな事で責められるなら何を持ってきても同じじゃないですかー)
(その前に、太るのが嫌なら食べなければいいだけの話なのですぅ‥‥)
 土方は心の中で反論をしたが、それは『心の中だけの反論』なのでキリーに土方の言葉が届く事はない。
(うぅ、面と向かって言えない僕が悲しいのです‥‥)
「そういえば、プールがあるんですよね? 皆さんは泳ぐんですか?」
「あたしはパスかしらね、片づけとかあるから。あ、皆は泳いで来てもいいわよ?」
「あ、俺も手伝いますよ。片づけが終わったら俺もプールは参加するつもりですけど」
 百地は肉を乗せていた皿を片づけながら仮染に言葉を返す。
「俺も泳ぐ! やっぱり夏って言ったら海、プールだよな!」
 ガルも言葉を返すが、その時彼の皿を見てキリーが悪魔の微笑みを浮かべた。
「ねぇ、何であんたはキノコばかり残してるの? もしかして嫌いなの?」
「‥‥い、いや、それは別に嫌いなわけじゃなくて‥‥」
「嫌いじゃないなら食べなさいよ」
「‥‥う、い、いや、それは‥‥」
「‥‥キリーからのお願いなのに、ガルはキノコを食べてくれないの‥‥?」
 久しぶりに出た、もしくはガルの前では初めてかもしれない『天使』のキリーがかくりと首を傾げながらガルに言葉を投げかけた。
「うおおおおおお、食うよ! 今すぐ食うよおおおっ!」
 その時の様子を見ていた能力者は後に語る。
 まるで血の涙を流しながら食べているようであった、と――。
「はっ、ちょろいもんだわ」
 ガルが必死に食べている間、キリーは悪魔に戻り、ガルの姿を見てせせら笑っていた。
「白虎さん。これをどうぞ」
 南はにっこりと微笑みながら野菜ばかりが盛られた皿を渡す。
「な、な、何だこりゃあああっ! 野菜ばっかりじゃないか! 肉はどこに消えた、肉!」
「あぁ、肉の方が良かったんですか。それではこれを‥‥」
 南は激辛とうがらしを包んだ肉を白虎に渡し、その事に気づいていない白虎は勢いよくその肉を食べた。
「うおおおおお! か、辛いィィィッ!」
「おや、少々調味料の加減を間違ってしまったみたいですね」
「ま、間違ったってレベルじゃないにゃー! 唐辛子がそのまま入ってるにゃー!」
「すみません、これでもどうぞ」
 南はセンブリ茶を渡し、もちろん白虎はそれを一気飲みする。
「――――――ッ!?」
 もはや悲鳴すら出ない白虎はそのままパタリと倒れてしまう。
「ちょ、ちょっとこの子倒れちゃったよ!? 食べ過ぎ!? 飲みすぎ!? どっち!?」
 エルレーンが慌てて白虎に駆け寄り、水を飲ませてやる。
「‥‥にゅおおお、助かったのにゃ‥‥」
「何か複雑な人間関係になってるわねぇ‥‥。キリーも罪作りな子だわ‥‥」
 百地は苦笑しながら呟き、キリーと一緒に片づけの続きを再開し始めたのだった。


―― 青い空! 白い雲! プール! ポロリはないよ! ――

(僕は被害が来ないように隅っこで泳いでおくのですぅ〜)
 土方は言葉通り、八つ当たりが来ないような場所で1人泳ぐ事にしているらしい。
(キリーお姉ちゃんがどんな服を着るのか、ドキドキなのにゃ)
(プール、3年前を思い出しますね。久しぶりに泳ぎを見てあげようかな?)
(もやしとプールか‥‥!)
(プール、白虎さんは後でプールに放り投げてあげましょう)
 それぞれ思いを馳せながらキリーの準備が終わるのを待っていた。
「何よ、あんたたち。別に待たなくても良かったのに」
 ピンクのフリル付の水着を着たキリーが能力者たちの前に姿を現す。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「何よ、4人揃ってアホ面晒してみっともないわね」
 ウサギの絵が描かれた浮き輪を持って、キリーは4人の横を通り過ぎながら言葉を投げかける。

「お前は泳がなくても良かったのか? 水着は用意してあるらしいぞ?」
 プールサイドに置かれている椅子に腰かけながらルーガがエルレーンに言葉を投げかける。
「ううん、いいの。泳ぐなら海がいいから‥‥。さすがに今は泳げないだろうし‥‥」
「そうだな、時期が過ぎてしまっているから諦めた方が良さそうだな」
「‥‥だよね」
 しょんぼりとしながらエルレーンは言葉を返す。
「‥‥エルレーン、お前は海が好きなのか?」
 ルーガは表情を変える事なく、いつもの無表情でエルレーンに問い掛ける。
「え? うん! 綺麗だし、大好き!」
「‥‥そうか、それならまた連れて来てやろう。また、来年な」
「ほんとう? うふふ、嬉しいな‥‥!」
 エルレーンはまるで子供のようにはしゃぎながら「約束だよ」と言葉を付け足す。
「あぁ、違える事のない約束をする」
(来年、か。その頃はきっと世界も平和になっているだろう)
 ルーガは平和になった世の中で、はしゃぐエルレーンの姿を想像し、穏やかに微笑んでいた。

「にゅあああっ! 何をするか――――ッ!」
 白虎が南によってプールに投げ捨てられ、どぼーんという音が響き渡る。
「畜生! お前らなんてこうしてやる!」
 バシャバシャと白虎と仮染に水をかけながら、ガルが大きな声で叫ぶ。
「‥‥っ、お、俺にかかった‥‥」
 しかしガルの水攻撃は白虎や仮染ではなく、平和に泳いでいた勇馬に被害が及んでいた。
「お、俺なんてな! キノコを食わされたってのに、後は放っておかれたんだぞ!」
「それは同情するにゃ」
「キリーさんにとっては『食べさせるまで』であって『食べさせた後』は興味がないでしょうからね」
 うんうんと頷きながら白虎と仮染がガルに言葉を返す。
「ち、ちくしょう! お前らのそういう所が嫌いだー!」
「ふふん、ボクがいつまでもやられっぱなしだと思うな! にゃははははっ!」
 すちゃっと水鉄砲を取り出し、白虎は普段の鬱憤も込めて周りの能力者たちに水鉄砲攻撃を仕掛けていく。
「にゃははは! 水鉄砲をくらえーーっ!」
「‥‥何すんの」
「にゃあああっ! な、なぜキリーお姉ちゃんがそこにいるにゃー!?」
「あぁ、お約束ですね」
「だな。お約束だ」
 仮染とガルは頷きながら「ご愁傷様」と白虎に向かって言葉を投げかける。
「ちょ、ちょ、お、お前らー! ボクだけのせいにするつもりかーーっ!」
「はぁ? 水鉄砲してたのはアンタでしょ? 髪の毛セットしてたのにどうしてくれんの」
「ぷ、プールで遊ぶのに髪の毛セットなんて必要「うるさい!」にゃふん!」
 至近距離から水鉄砲を食らわされ、白虎の鼻と口に水が思いっきり入ってしまう。
「にゅおおお、何だこの言い表せない苦しさはーっ! くそぅ、わんこめ!」
「な、何で僕を巻き込むですかー! 僕は大人しく隅っこ族になっていたのにー!」
(気のせいかな。何で誰も俺が巻き込まれている事に気づいてくれないんだ‥‥)
 プールの水を飲みこんでしまい、咳き込んでいる勇馬は少しだけ悲しくなりながら騒ぎの原因である能力者たちから離れたのだった。


―― 別荘IN肝試し! ――

「って、何で人の別荘で肝試し計画なんて立ててんのよ!」
 キリーが開始早々ツッコミを入れる。
「え? 夏の夜って言ったら定番かなと思いまして」
「だからって人の別荘を幽霊スポットみたいにするのはやめなさいよ!」
 キリーは妖怪屋敷のように様変わりしてしまった別荘を見ながら呆れたように呟く。
「白虎さん、白虎さん」
「にゅ、何だ何だ」
「今回はばなな禁止でー。もう、えちぃー子になるのは嫌なのですよー」
 土方は毎回バナナ被害に遭っている事から、白虎に念押しをする。
「そんな事はしないにゃ!」
「本当に本当にお願いなのですぅー」
「ええい、しないと言ったらしないのにゃ!」
 白虎の言葉に土方は安心したように胸を撫で下ろす。
(しかしわんこめ、やらないと言っているにも関わらずしつこいにゃ)
 白虎は拳を握りしめながら、とある事を決意していた。
(こうなったらアイツの荷物や部屋にバナナの皮を仕込んでくれる!)
 心の中で白虎は叫ぶが、別な意味でのフラグが立ってしまった事に彼は気づいていない。
「あたしは明日の朝ごはんの支度が終わったら帰るわね」
「あれ? 泊まって行かないの?」
「子供と旦那がいるから帰らせてもらうわ」
「泊まって行けばいいのに」
 キリーの言葉に百地は困ったように笑みを返し、キッチンへと向かって行った。
「あれ? ゆーきは?」
「脅かす側の人間がいないからって脅かす側に行ったらしいですよ」
 南が「多分、どこかに隠れているんじゃないでしょうか?」と言葉を付け足しながら答えた。
「逆にこの広い屋敷の中に1人だけ幽霊役がいるっていうのも怖い話だよな‥‥」
 ガルが警戒しながら周りを見渡した時だった。
 ――ポン。
「え?」
「‥‥‥‥」
 ガルの肩を叩いたのは骸骨男――もとい、骸骨男の衣装を着た仮染だった。
「うおわっ!」
「キリー、ちょっと後ろに――」
 ――べちん!
 南がキリーを下がらせようとした時、物凄い勢いで南の頬をこんにゃくが打つ。
「あ、勢いをつけすぎた」
 物凄く痛そうな音が響き、仮染が「やりすぎたか」と小さな声で呟いているのが聞こえる。
(め、目の前を物凄い勢いでこんにゃくが通り過ぎて行った‥‥! 別な意味で怖い!)
 勇馬はドキドキとする心臓を抑えながら、心の中で呟く。
「とりあえず、ここを抜ければゴールって事になってるみたいね」
 キリーが離れた場所に見える大きなドアを指差しながら呟く。
(ふぅ、別に怖いってわけじゃないがこういう心臓に悪い事は早く終わらせたいな)
 最後のドアを前に勇馬が心の中で呟く。
「さっさとこんな事は終わらせてデザートにするわよ、デザート」
 キリーが勢いよくドアを開けた瞬間――。
「わっ!」
「‥‥っ!?」
 待ち構えていた仮染が大きな声で驚かせてきた。
 きっとこれが最後の仕掛けという事だったのだろう。
「‥‥っ、う、うっ‥‥」
 しかし、突然の出来事であり、キリーは目に涙をいっぱい溜めながら、屋敷がひっくり返るくらいの大きな声で「馬鹿ァッ!」と叫んだのだった。


―― デザート、お風呂、就寝! そしてバナナ、覗きは駄目だよ! ――

「それじゃ、明日の朝ごはんの準備も出来てるからあたしは帰るわね」
 肝試しから帰って来た後、百地は能力者たちに冷たい飲み物を出しながら言葉を投げかける。
「私たちも帰らせてもらうとしよう」
「う〜ん、ちょっと眠くなってきちゃった‥‥」
 ルーガはため息を吐きながら、眠そうに目を擦るエルレーンを見つめ、穏やかな笑みを浮かべる。
「俺も帰らせてもらおうかなって思ってる」
 勇馬が自分の荷物を持ちながら百地やルーガ、エルレーンに続くように言葉を紡ぐ。
「結局残るのはいつものメンバーという所ですかね」
 苦笑しながら仮染が呟く。

 百地、ルーガ、エルレーン、勇馬が帰って行った後、泊まる事になっている能力者たちはそれぞれが持ち寄ったデザートを食べて、まったりとした時間を過ごしていた。
「私はお風呂に入ってくるから覗くんじゃないわよ、どヘタレ共」
 ぎろり、と睨んだ後にキリーは部屋から出て行く。
「――よし」
 最初に立ちあがったのはガルだった。
「何が「よし」なんですか!? セクハラダメ!」
「真っ先に覗きに行こうと言うのか、貴様はー!」
「何を考えているんですか! 嫁入り前のキリーに!」
「はわわ、八つ当たりが来るのでやめてーなのですぅ!」
 立ちあがったガルを羽交い絞めにしながら他の能力者たちがそれぞれ言葉を投げかける。
「ち、違う! 別に俺は覗きに行くために立ちあがったわけじゃねぇ!」
「じゃあ何のために立ちあがったんですか!」
 仮染がくわっと険しい表情でガルに言葉を投げかける。
「もやしが覗かれないように警護をするつもりだったんだよ!」
「そんな事を言って真っ先に覗くつもりだろう! そうはさせるかー!」
「そんな事言って白虎こそ覗くつもりなんだろうが!」
「そ、そんな事があるわけないのにゃー!」
「それじゃ、お互いを牽制するためにもみんなで警護するのはどうですか?」
 南の提案にお互いがお互いを監視し合う為にも、全員で警護をする事を了承する。
「あ、あのー。僕はまったく関係も興味もないのでー‥‥」
 土方が恐る恐る手を挙げて警護を辞退しようとしたのだが――。
「さてはそう言ってもやしの風呂を覗くつもりだな!?」
 ガルが掴みかかるような勢いで言葉を投げかけてくる。
(な、何でそうなるのですかー!)
「そうですよ、1人で抜け駆けなんて許しませんよ」
 南が呟くが、土方は心から平穏を望んでおり、別にキリーの裸になど興味はない。
(とほほ、こうなったら一緒にいかないと濡れ衣を着せられそうなのです‥‥)
 哀れな土方は望んでもいないのに、お風呂の警護という恐ろしい場所に向かう事になった。

「‥‥全員揃って、お風呂の前で何をしているわけ?」
 もちろん、キリーが『全員で覗きに来た』と勘違いしてしまうのは必然とも呼べる出来事である。
「ち、違うんです! これは‥‥!」
「にゃー! ご、誤解なのにゃー!」
「み、皆で覗かないように警護を‥‥」
 南、白虎、仮染が慌てて否定するが、それを聞き入れてくれるキリーではない。
「ほらー! やっぱりこんな事になるじゃないですかー!」
「やっぱり俺だけで警護する方が良かったんじゃないか!?」
「うるさぁい! このスケベ共! さっさと消えろ――ッ!」
 洗面器に水をたっぷり入れたものを能力者たちに向けて投げつけた。

「にゅあー、酷い目にあったのにゃ‥‥」
 ずぶ濡れのまま白虎が呟き、こそこそと土方が泊まる部屋へと向かい始めていた。
 もちろん、バナナはしないというのにしつこく『するな』と迫っていた土方に復讐をするためである。
 しかし白虎は気づいていない。
 その時点で既に土方のお願いを無視しているという事に。
「‥‥白虎さん? 何をしているんですか――ってバナナ!?」
 部屋中に散らばったバナナの皮に土方の顔色がさぁっと引いていく。
「な、何でバナナなのです? 今日はやめるって言ってたのにー!」
「う、うるさい! あんな風に言われて引き下がれるかー!」
「何なんです、その妙なプライドー!」
「うるっさいわよ! 何の騒ぎ!?」
 バーン、とドアを開けながら部屋に入って来たのはキリー。
「にゅあああ、は、入って来ちゃダメなのにゃー!」
「バナナとまおー様、最悪の組み合わせなのですぅ〜!」
 もちろん、その後の事は言うまでもなく――。
「きゃっ!」
「‥‥‥‥!」
 キリーがバナナの皮に滑り、望んでいないにも関わらずぴんくのぱんつを見てしまった。

「‥‥な、何があったんですか。あれは」
「さぁ‥‥。でも今向こうに行けば確実にとばっちりを受けますね」
「触らぬもやしにたたりなしって奴だな」
 往復びんたを何度もされる土方と白虎を南、ガル、仮染は生温い目で見守っていたのだった。


END