●リプレイ本文
―― 連絡の途絶えた街で待つ者 ――
「結構大きな街なのに連絡が取れなくなったって相当大参事って感じー?」
資料を見ながらエレナ・ミッシェル(
gc7490)が軽い口調で呟く。
「大量のキメラか、それと同等の強化人間、キメラなのか! ワクワクドキドキ!」
不謹慎とも取れる言葉だが、幼さゆえの言葉なのだろう。
(嫌な予感がする、一体この街で何があったんだろう‥‥)
イスル・イェーガー(
gb0925)は心の中で呟き、ざわつく胸を抑えるように強く拳を握りしめた。
(何もなければいいけど‥‥)
イスルの妻である瑞姫・イェーガー(
ga9347)は複雑そうに資料を見つめる夫を横目で見ながら、街の異変がただ『連絡が取れなくなった』だけで収まっている事を祈るだけだった。
(何だろう、何故か嫌な予感がしてならない‥‥)
過去にも似たよう経験をしている翡焔・東雲(
gb2615)は、資料に添付されている地図を見ながら心の中で呟く。
「まるでこちらを誘っているような状況は、過去にも経験がありますわね。色々と覚悟して向かいましょうか」
ミリハナク(
gc4008)が資料を見つめながらポツリと呟く。それは恐らく彼女だけではなく、他の能力者誰もが思っていた言葉だった。
(何事もなければ良いがな)
ミリハナクの言葉を聞き、イレイズ・バークライド(
gc4038)がため息を吐きながら心の中で呟く。
「とりあえず何があったのかは現地に向かうまでわからないから考えないとして、住人の安否が気になるな‥‥ただ連絡手段を断たれただけで、被害がなければ良いんだが‥‥」
月野 現(
gc7488)が呟くが、それは心からの願いであり、心のどこかでは最悪の事態を想定している能力者も少なくはないのかもしれない。
「それじゃ、しゅっぱ〜つ☆」
エレナが呟き、それぞれの想いを抱えながら、能力者は高速艇に乗り込み、現地へと赴いた。
―― 夜の闇に溶け込むは氷の微笑み ――
「‥‥!」
現地に到着し、街に足を踏み入れた途端に能力者たちの表情が強張る。
「これは、一体何があったんだ‥‥?」
月野が目を大きく見開き、周りを見渡しながら震える声で呟く。
能力者たちの視界に入って来たのは、夜でもはっきりとわかるほどの惨劇の爪痕。
鼻に届く血の匂い、崩れかけた家もあり、この街を襲った『何かが』いる事だけは確かだ。
「とりあえず、不意打ちを受けないように警戒しないといけないね」
「‥‥そうだね、ここには街の住人を襲った『何かが』いるんだから」
エレナの呟きにイスルが警戒を行いながら言葉を返す。
「まさか、予定通りになるとはな」
イレイズがため息交じりに呟く。
能力者たちは何かあった時のため、という事で班分けを行っていた。
A班・瑞姫、イスル、エレナの3名。
B班・月野、イレイズ、翡焔、ミリハナクの4名。
B班は翡焔の車に乗り、A班は瑞姫がバイクに乗り、他の2人と離れすぎないような位置を保ちながら捜索を行うという事になった。
「何があるかわからない、だから連絡はこまめに取り合うようにしよう」
「わかった、何かあったらすぐに連絡する」
翡焔の言葉に瑞姫が頷き、能力者たちは『何か』を探して行動を開始した。
※A班
「イスル、ビスタとはタイマンをしたいから支援に徹して欲しい。でないとキミすら斬りかねないから」
班で行動を開始した直後、瑞姫がイスル、そしてエレナに言葉を投げかける。
「瑞姫‥‥?」
「‥‥なんてね、エレナもいるし、欲張って孤立したら足手纏いよりたちが悪いよね」
「個人的にはタイマンをさせてあげてもいいと思うんだけどな〜。あ、もちろん劣勢だってわかったらB班に場所伝えて、照明銃打ち上げた後にソッコーヨコヤリいれるよ?」
「でも、照明銃を打ち上げたらすぐにB班が来てくれるわけじゃないから危険じゃない?」
イスルがエレナに言葉を返す。
「まぁ、瑞姫がそれを望んでいるなら、そのための行動を第一に考えるけどね」
「‥‥ありがとう、2人とも」
※B班
「まさかとは思うが、これがあの時の招待状か、ビスタ‥‥!」
車で移動をしながら、翡焔が怒りを押し殺したような声で呟く。
「先ほどから壊れた建物や街を見ていますけど、躊躇いが一切ありませんわね」
「それに妙に綺麗な襲い方です、まるで考える意志がある者が襲ったかのように」
ミリハナクの言葉に「‥‥ビスタ」とイレイズが低い声で呟く。
(生存者がいてくれればいいんだが、見る限り絶望的だろうな‥‥)
鼻を襲う血の匂い、目を背けたくなるほどの酷い惨状、どれもが希望を打ち砕く要因になっている。
(元凶がキメラであれ、何であれ、本星での決戦が近づいている中で動く者にろくな奴はいないだろうがな)
「‥‥特にまだ何も感じられない、か。もう少し回って見る必要があるかな」
月野がぽつりと呟く。彼は探査の眼を使用しており、異変にすぐ対処できるように行動をしていた。
「もう少し中央側まで行ってみようか」
翡焔が呟き、命を一切感じる事が出来ない夜の街を疾走し始めた。
※A班
今、A班の能力者達3人は緊張に包まれていた。
あれから街の中を捜索していて、見つけたのは――ビスタ・ボルニカ(gz0202)だったのだから。
「あら、いつものメンバーじゃないみたいだけど‥‥まさか、あんた達3人で来たってわけじゃないでしょ?」
ひゅん、と刃を抜き、風切音をさせながら3人へと言葉を投げかける。
「‥‥私たちの他に4人の能力者が別行動している、でも‥‥私は感謝するよ」
瑞姫は妖刀・天魔を抜き、地面を蹴ってビスタへと向かう。
「まさか1対1でやろうっていうの? 随分とあたしも舐められたものね」
瑞姫の刃を自身の愛刀で受けながら、ビスタが苛立ちを募らせたように言葉を返す。
「ビスタ、私が勝ったら、その刀を貰い受けてもいいかな?」
「これを?」
「そう、それを」
「これは私が認めた奴にしか渡さないわ、あんたは私に認められる事が出来るかしらね」
冷たき微笑みを浮かべながら、ビスタは再び刃を振るい始めた。
※B班
「‥‥あれ? 何か妙だ」
月野が呟いた時、照明銃が2発打ち上げられ、夜の空を明るく染め上げた。
それとほぼ同時に「現在ビスタと交戦中」というイスルの短い通信が入り、翡焔は車を照明銃が打ち上げられた方向へと向かわせた。
―― 戦闘開始・冷たき微笑みの裏側に見える確かな意志は ――
「くっ、あんた達は傍観するんじゃなかったわけ!?」
瑞姫が押され始め、ライフルで支援に入ったイスルを強く睨みつけながらビスタが叫ぶ。
「卑怯と言われても構わない。僕は彼女みたいに武人じゃないし、言うなら軍人だからね」
皆が生き残る方が最優先だ、とイスルは言葉を付け足してビスタに返した。
「そうそう☆ 誰が目の前で仲間を見殺しに出来るっていうのかな?」
「‥‥世の中には見殺しに出来る奴もいるのよ、クソガキにはわからないでしょうけど」
「アレから随分と時間が経過したが、いまだに心の整理は出来ていないみたいだな」
ビスタがエレナに襲い掛かろうとした時、月野の声が響く。
「お久しぶりですわね、今宵はいつものように逃げずに最後まで戦っていただけます?」
ミリハナクが言葉を投げかけると「そのつもりよ、今日はね」とビスタが意味深に笑みながら呟いた。
「‥‥お前はやっぱり変わらないんだな」
翡焔が悲しそうに呟く。
「変わる? もしかしてあたしに同情してくれるの? 哀れまれるなんてまっぴらよ」
「あたしは強い奴と戦いたい、この街の人間は全員手ごたえがなくてつまらなかったわ」
ビスタの言葉に能力者達の纏う空気がざわりと揺れる。
「全員、殺したのか‥‥?」
「えぇ、女子供、老人、全員差別する事なく平等に」
「そんな事、平等だなんて言わない!」
翡焔が叫び、言葉を続ける。
「ビスタに妹を憎む気持ちがあったというなら、それはそうなんだろう。でも、それだけだとも思わない」
「おめでたい頭をしてるみたいで羨ましいわ」
「今のビスタはお前だ、戦う事でしか埋められないっていうなら何度でも戦ってやるさ!」
「‥‥‥‥」
翡焔の言葉を聞き、イレイズはただ黙って鳴神を構える。
「行くよ!」
エレナは呟き、拳銃・CL−06Aを構えてスキルを使用しながらビスタへと攻撃を仕掛ける。
「今日は練力の出し惜しみなんて一切なし! ガチで殺りにいくよ!」
エレナはその言葉通り、すべての力を出し切るように惜しむ事なくスキルを使用する。
「さぁ、あなたの全力を見せて下さい」
ミリハナクもM−183重機関銃でビスタの動きを牽制するように射撃を行う。
「妹や仲間に裏切られるのはショックだっただろう、だがそれを後悔するのは生者も同様」
「‥‥」
「姉を見殺しにして生き残ってしまった、その事実は生涯、心を抉り続ける」
月野が小銃・ヴァーミリオンで射撃を行いながら、ビスタへと言葉を投げかけるが、ビスタからの言葉は返って来ない。
「お前にとって、この戦いは何の意味がある? まるで――」
死を望んでいるようだ、とは言う事が出来なかった。
(これを言ってしまえば、ビスタも被害者にしてしまう)
この街の人間、過去の資料を見る限り、ビスタが手に掛けた人間は数えきれない程いる。
(その人たちのためにも、ビスタを被害者にするわけにはいかない)
「ビスタァッ!」
翡焔が二刀小太刀・疾風迅雷を振りかざしながらビスタへと襲い掛かる。翡焔の攻撃に合わせて瑞姫も攻撃を行う。
「くっ!」
ビスタが後退しようとした所で、イスルがビスタに生じた僅かな隙を突いて射撃を行う。イスルの放った弾丸はビスタの足を貫通し、体勢を崩したビスタはその場に倒れ込む。
「ビスタ!」
イレイズが隙を突いて攻撃に向かう――が、イレイズの攻撃が当たる寸前、ビスタは持っていた剣でイレイズの腹部を貫く。
「‥‥っ!」
「無防備に突っ込んできたあんたが悪いのよ、あたしは――」
呟いていたビスタの言葉が止まり、ビスタが眉をひそめながらイレイズを見る。
「騙したつもりだろうが、騙されたのはお前だ」
鳴神をビスタの足に突き立て、イレイズが苦しげに言葉を投げかける。
「正直に言えば、お前を殺せれば俺にはもう思い残す事はない。守りたかった相手一人守れない俺にはもう何も残っていない――なら、せめて‥‥」
「地獄に1人で行くのが嫌なら、付き合ってやるよ、ビスタ」
「‥‥っ! あんた、最初からこれを狙っていたのね!?」
ビスタの表情に焦りが見え、イレイズから離れようとするが足は上手く動かず、おまけにイレイズの武器によって地面に縫い止められている。
「くそっ、あたしがこんな事で――!」
咄嗟に隠し持っていたナイフでイレイズを攻撃しようとしたが、エレナとイスルの射撃によって手を撃たれ、ビスタはナイフを落としてしまう。
「くっ‥‥」
ビスタは鳴神を引き抜き、イレイズを蹴り飛ばした後に、武器を拾い、ミリハナクへと襲い掛かる。
「そんな動きで私を倒そうなんて、甘いにも程がありますわ」
ミリハナクは攻撃を避け、滅斧・ゲヘナに武器を持ちかえて攻撃を行う。
普段のビスタなら避けられるような攻撃でも、今は機動力を奪われ、避ける事すら困難な状況になっていた。
「ビ、スタ‥‥!」
再び武器を持ち、イレイズがビスタへと攻撃を仕掛ける――が、それは避けられてしまう。既に立っている事が、いや、意識がある事自体が奇跡に近い状況だ。
「これで、終わりだ」
月野が呟く。ビスタの周りには武器を構えた能力者達が囲んでおり、どうあっても今のビスタが勝てる、そして逃げられる状況ではない。
「あ〜ぁ、やっぱり正々堂々となんてあたしには合わなかったんだわ、キメラくらい連れて来れば良かったかしら」
呟いた後、ビスタは最後の力を振り絞るかのように走り出し、一番負傷しているイレイズへと向かう。
「ビスタ!」
ミリハナクはM−183重機関銃に持ち替え、ビスタを狙って射撃を行う。
「‥‥っ!」
ビスタの攻撃はイレイズに届く事なく、そのまま地面へと倒れてしまった。
「流石に、この傷じゃ助かりそうにないわね。そこのクソガキもやってくれたし」
胸の辺りを抑えながら、ビスタがヒュウと掠れた吐息で言葉を紡ぐ。
ミリハナクがビスタを射撃した時、エレナも発砲しており、その攻撃は致命傷になる。
「妹に、リタに伝える事はないのか?」
「‥‥生きて、苦しめと伝えてくれる? この手で殺せなかったのは残念だけど‥‥」
「それと、あんたに‥‥この剣は、渡せない‥‥。そこで意識失ってる奴に、渡して」
ビスタは視線だけをイレイズに向ける。
「まさか、特攻してくるとは‥‥思わなかったわ‥‥」
ビスタは呟き、それ以上の言葉を言わなくなった。
「‥‥‥‥」
「彼女の言葉や態度を見る限り、この戦いは満足していただけたのかしら」
ミリハナクがポツリと言葉を漏らす。
「そうだね、でも‥‥それより先にイレイズさんを病院に連れて行かなくちゃ!」
エレナの言葉にハッと我に返ったように能力者達は意識を失っているイレイズを病院へと連れて行く。
キメラを連れてきていない、というビスタの言葉を疑っているのか、能力者達は高速艇に戻る間も決して警戒する事を忘れず、そのまま高速艇へと乗り込んだ。
そして、イレイズを病院に連れて行った後、能力者達はビスタ討伐の報告を本部に行い、月野がリタにビスタの言葉を伝える。
「あなたに与えられたのは死よりも辛い罰かもしれないが、生き残ったあなたが出来る事を探してくれ」
少しでもリタが救われるように、月野は言葉を残したのだった。
END