●リプレイ本文
―― ようやく成長し始めた魔王様 ――
「今日からの私は大人なの、だから無闇に肉体的に人を傷つけたりしないのよ」
能力者達が集まった直後、キルメリア・シュプール(gz0278)が尊大な態度で呟く。
「キ、キリーお姉ちゃんがやる気出すとかどうしたにゃー!」
白虎(
ga9191)は大慌てでキリーに「何か悪い物でも食べたにゃ!?」と言葉を投げかけている。
(はわわ、まおー様がご乱心ですぅ〜! ご自身から良い子になるとか言ってるのです〜! 偽物ですか!? それにもう手遅れだと思うのです〜!)
土方伊織(
ga4771)が心の中で叫ぶが、きっと彼の言葉をキリーが聞いていたら、冒頭の言葉は確実に覆されていただろう。
「問題児達を見る事も多々ある私ですが、能力者が戦いの花形だった時代は間もなく終わり、色々な意味で混沌とした時代が来るのでいかにして生きていくのか、キリーさんには考えてもらいたいですね‥‥」
辰巳 空(
ga4698)が呟くと「難しい事はわかんないわよ! このドヘタレ!」と辰巳の言葉を一蹴する。
「まともに参加したかと思えば、相変わらずか。足を引っ張るんじゃないぞ、このくそ女」
Anbar(
ga9009)がキリーに言葉を投げかけるが、言葉の悪さではキリーも負けてはいない。
「あら? 私はまだ貶されるような事は何もしてないけど? まぁ、いつもの私ならすぐに手が出てただろうけど、今日からの私は大人だから七代先まで感謝してのた打ち回ると良いわよ」
「‥‥この、クソ女が!」
「お――ッと! そこまでだぜ! いやぁ、もやしが真面目にキメラ退治をするなんてな」
キリーとAnbar、険悪な雰囲気になりかけた所でガル・ゼーガイア(
gc1478)が2人の間に割って入り、話を逸らした。
「バグアとの最終決戦が始まるからか? それとも気まぐれか? まぁ、戦うって言っただけでも成長を感じるよな! よし、もやしの騎士は卒業したが今回も守ってやるぜ!」
「ふん、自分の命よりも私を優先して守りなさいよね、まぁ、治療くらいはしてあげるわ」
ガルに言葉を返した後「キリー、本当に戦うつもりですか?」と南 十星(
gc1722)が心配そうな表情で言葉を投げかける。
「キリーが戦闘に参加するなんて、もし身体に傷でも残ったらと思うと凄く心配です‥‥」
「いや、そこは能力者なんだから戦うのは当たり前だろ‥‥」
南の言葉にAnbarがツッコミを入れる。
「きゃ〜♪ キリーちゃん! お久〜♪ 会えて嬉しいわぁ♪」
雁久良 霧依(
gc7839)が叫ぶと同時にキリーを強く抱きしめ、その豊満な胸にキリーの顔が押しつけられる。
「はぁ〜、やっぱり小っちゃい子は最高ね! テンションあがって来た!」
雁久良の言葉に「誰が小っちゃい子よ! 今日から私は大人なのよ!」とキリーが抗議するが、そんな言葉など雁久良の耳に届いているはずがない。
「今日も元気だ、酸素が美味い! さぁ、頑張りましょー!」
ジョージ・ジェイコブズ(
gc8553)が深呼吸をしながら能力者達に言葉を投げかけるが、何故か能力者達、そしてキリーは目を瞬かせながら眉をひそめている。
「え? な、何かした!? 開始数秒で俺何かした!?」
「いや、別に何もしてないけど空気が本当に美味しいの? トイレの前なのに」
「うおおおお! トイレの前で深呼吸とか何してんの、俺!? 誰か止めてよ!」
「止める暇もなく深呼吸を始めてしまいましたので、止められませんでした」
「そんな冷静な分析やめて! 他の人も俺を哀れな目で見ないで! っていうか何でトイレの前で集まってるわけ、俺たち! 集合場所ちょっと変じゃない!?」
「まぁ、人生色々あるものにゃ。ボク達だって色々あるんだからにゃ」
「そ、そうなのですー。まだまだ人生色々あるから気にしない方がいいのですー」
「何で30歳超えてる俺が小っちゃい子に諭されてんの!?」
「まぁ、そういう事もあるわよ。元気出しなさい」
「俺小っちゃい子に囲まれてるんですけど!」
「あんまり気にせずに行こうぜ!」
ジョージの肩をガルがポンと叩き、励ますように言葉を投げかける。
「何で俺初っ端からこんなに弄られてんの!?」
「とりあえず早く任務に向かおうぜ、このままだと夜になるからな」
「そうですね、ただでさえ今回向かう場所は森の中ですし‥‥」
Anbarの言葉に辰巳が賛同し、能力者達は高速艇に乗り込み、キメラが闊歩している森へと出発していった。
―― 森の中、響く獣の声ともやしの罵声 ――
今回、能力者達は班を分けずに行動する事になり、昼間でも鬱蒼としている森の中を9人で固まって歩いていた。
「今のキリーさんは前線に出る事は難しいでしょう、その事はわかっていますか?」
「当たり前じゃない、私はサイエンティストだもの。前衛に出るわけないでしょ」
「後衛にいるからと言って支援だけすれば良いという事でもありません、自分の身を守る事で普通の人達の役に立てる事もあると思うので、前衛を支援しつつ自分の安全も確保できるようにレクチャーしますよ」
「はぁ、暑いからこの格好で来たけど、ちょっと失敗だったかも? 虫に刺されそうだし」
雁久良の格好はマイクロビキニの上に白衣という大胆なものだ。もちろん露出が多いので、他の能力者達よりも余計に虫刺されの心配があるだろう。
「まぁ、細かい事は気にしないわ! それよりどうして今回に限って真面目になろうって思ったのかしら〜?」
「私はいつも大人だけど、今日からは特に大人の女になる事にしたのよ」
ふふん、と威張りながらキリーは言葉を続ける。
「へぇ、大人の女ねぇ」
ニヤリと雁久良の表情が悪戯っぽく歪む。
「大人の女を目指すより先にまともに戦える能力者を目指せよ」
「あんたには話しかけてないわよ、っていうかちゃんと戦うって言ってるじゃないの」
キリーの手が振り上げられたけど、もう片方の手でそれを制止し「ふん、殴らないでいてあげるから感謝して地べたを這いつくばると良いわよ!」と近くにあった木を殴る。
(い、一体まおー様に何があったんですかー)
いつものパターンならば自分に八つ当たりが来ると構えていた土方だったが、キリーの八つ当たりは木へと向けられ、土方自身が殴られる事はなかった。
「‥‥人に手を挙げるという事は反撃されても文句は言えないという事だ、分かったら態度を改めるんだな、くそ女!」
Anbarがキリーに言葉を投げかけると「悪口は見逃してやるが、暴力だけは許さねぇぜ!」とガルが言葉を挟んできた。
「私もガルさんに同じく、ですね。キリーに手を挙げようものなら許しませんよ」
「俺はそのくそ女とは違うからな。何もされてないうちから手を出す事はねぇよ」
ただ、殴られたら約束は出来ないけどな――とAnbarが言葉を付け足す。
「き、貴様らー! さっきからキリーお姉ちゃんが殴られそうなら飛び出そうと待ち構えていたボクの気持ちをわかるにゃー! いつ出ればいいかわかんないだろー!?」
言葉通り、キリーを庇おうと待ち構えていた白虎だったが実際に誰も手を挙げる事がないため、妙なポーズのまま構える事になってしまい、直視すれば笑いが出てきそうな程だ。
「庇おうってやる気を出したら出したでこれだよ! いっそ笑いを堪えるくらいなら思いっきり笑えばいいにゃー!」
「ねぇねぇ、シュプールさんだっけ?」
「何――(むにゅ)――‥‥‥‥」
ジョージに呼ばれ、キリーが後ろを振り向くとジョージの指がキリーの頬をつつく形になった。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
キリーは無言で地面の草を引きちぎり、何かに耐えるようにジョージを睨みつける。
「ひぃぃ、何か俺の悪戯が怒らせたのはわかる! わかるから無言の重圧やめて!」
「ダメよ、悪戯っていうのはこういう事を言うのよ!」
雁久良がキリーを自分の胸に押しつけながら叫ぶ。
その時、その出来事を見ていた能力者達の心が一つに重なる。
『それはセクハラだと』
―― 戦闘開始・キメラ VS 能力者達 ――
それから暫く経った頃、森の最奥にて問題のキメラを発見した。問題なく発見出来たのはAnbarとジョージの『探査の眼』があったおかげとも言えるだろう。
「‥‥敵が一体なら、練成弱体が基本だろ!? 掛けるのが遅い!」
Anbarは前衛で戦う能力者達の支援をしながら、キリーへと言葉を投げかける。
「大体戦闘開始と共に味方に『練成強化』を掛けるのは、駆け出しでも分かる事なのに、その程度もわかんねぇのか! 最低だな!」
「ごちゃごちゃとうるさいわよ! 集中出来ないから話しかけないでくれる!?」
慣れない事でもたもたとしているキリーが苛立ったように言葉を返す。
「ふっふっふ! やっとお揃いの武器で戦えるのにゃー♪」
キリーが所持している武器は以前特注で白虎がオーダーして作らせた物であり、白虎の持つ『【OR】ぬいぐるみ型超機械・虎きゅん』と対になっている。
「くそ、もやしとお揃いの武器か‥‥! べ、別に羨ましくねぇぞぉぉぉ!」
ちくしょう、と叫びながらガルは怒りと悲しみをすべてキメラへとぶつける。
「ほら、もやしが対応できるようにしろよ!?」
ガルが呟き、南はエナジーガンでキメラの足を撃ちぬく。
(折角やる気を出しているんですから、キリーにトドメを刺させてあげたいですね)
南はキリーがトドメを刺しやすいように出来るだけキメラの機動力を奪おうと考える。
「まぁ、ここまでキメラは来ないと思うけど一応用心しておきましょうね♪」
雁久良の言葉に「わ、わかってるわよ!」とキリーが声を荒げて言葉を返す。
雁久良もスキルを使用し、キメラの防御力を低下させた後、能力者達の武器を強化する。
「まぁ、俺もふざけたりはしてますけど意外としっかりしてるんですよ、どや!」
ジョージは呟いた後、愛用の槍でキメラを攻撃する。
(トドメを任せる為に戦うっていうのも多少疲れますね‥‥)
辰巳は心の中で呟きながら、キメラへと攻撃を仕掛ける。相手が余り強くないという事もあるだろうが、ベテラン能力者らしく無駄のない動きでキメラを翻弄する。
(はぅぅ、相変わらずキメラさんが影うすいーなのですぅ。悪く思わないでーなのですー)
土方は愛用のトンファーでキメラを攻撃しながら、ちらりとキリーの方を見る。
(このくらいなら、まおー様でもトドメを刺せそうな感じですー)
「‥‥ちっ」
他の能力者達がキリーを甘やかしている状況を見て、Anbarは小さく舌打ちをする。
(本当にどこまでも甘い連中だな)
ドローム製SMGで射撃を行いながら、Anbarは心の中で呟く。
その後、能力者達の連携でキメラは無事に退治された。問題のトドメは前衛能力者達が行ったが、キリーにも攻撃をさせて、キリーがトドメを刺したように見えるように行い、キリーはきっと自分がトドメを刺したと思っている事だろう。
―― 戦闘終了、キメラ退治を終えて ――
「おい、まさかたまたまトドメを刺せたからと言って自分の手柄とでも言うつもりか? だとしたら本当に救えないな、貴様は」
「‥‥誰もそんな事言ってないでしょ、勝手に勘違いしないでくれる?」
ぷいっと横を向きながらキリーが言葉を返すと「普段の態度を見てれば、そんな風に思ってると思ったからな」とAnbarが言葉を返した。
「まぁまぁ、無事にキメラ退治も終わったんだしさー! 仲良くしよう、よっと!」
すぱーんとジョージはハリセンでAnbarの腰を叩く。
「何する!?」
「お、反撃か? やる気か? よろしい! 獲物を選ぶが良い!」
腰を痛めるんじゃないかというくらい反り返り、無意味で理解不能なポーズを取りながらジョージが言葉を返し、ハリセン、ピコハンを取り出す。
「上等だ、待てコラァァァッ!」
ピコハンを手に取り、Anbarはジョージを追いかけていく。
「キリー、ちょっとよろしいですか?」
「は? 無駄に疲れてんだから後にしてくれない?」
「いいえ、どうしても今じゃないと駄目なんです」
真剣な表情で南がキリーに言葉を投げかける。
その事を不思議に思いながらもキリーは南の後を着いていき、他の能力者達から少し離れた場所へと向かい、歩き始める。
「キリーの事を今まで妹と思って接して来ました、だけど暫く傍を離れて気づきました」
南は一度言葉を止め、そして小さく深呼吸をした後に再び言葉を紡ぎ始める。
「キルメリア・シュプール、私は貴方を愛しています。心から」
「‥‥‥‥」
「もしOKを貰えるのでしたら、これを受け取ってください」
南は『ローテローゼ』をキリーに差し出す。
「‥‥無理、受け取れない」
「‥‥‥‥」
キリーは申し訳なさそうに俯きながら言葉を返す。
「そうですか。それなら、これを‥‥」
南は穏やかに微笑みながらキリーに『ウサミミリボン』をつける。
「とっても似合っていますよ」
すっきりとした表情で「というわけで、私はフラれてしまいました」と後ろを見ながら呟く。
「ば、馬鹿虎!?」
「にゅ、にゅあー‥‥! べ、別に盗み聞きしてたわけではなくてたまたま偶然通りがかったしっと団総帥なのにゃー?」
「白虎さん、よろしくお願いしますね」
南はキリーに差し出した『ローテローゼ』を白虎に渡しながら、その場から去っていく。
「‥‥ふん、さっさと帰るわよ。今日はかなり疲れたからゆっくりお風呂に入りたいし」
「そ、そうなのにゃ。ゆっくりした方がいいのにゃー」
お互いに話を逸らしながら、2人は他の能力者達の元へと戻っていく――が、戻ってきたキリーを茂みに連れ込もうとした雁久良が他の能力者によって止められたり、ハリセンで叩くジョージを追いかけたりで、色々と騒がしい任務になってしまっていたのだった。
(‥‥あんな風に甘やかすから、あのくそ女みたいな勘違いが生まれるんだ。最後まで面倒を見きれるのか?)
盛大なため息を吐きながら、Anbarは他の能力者達の後を着いていったのだった。
END