●リプレイ本文
―― キメラ退治に向かう能力者たち ――
「師匠、お久しぶりです! 今回もキメラ退治、頑張りましょうね!」
きらきらとした表情で大石 圭吾(gz0158)に声を掛けたのは弟子であり、大石を理解してくれている数少ない人物でもある千祭・刃(
gb1900)だった。
「おお! 弟子よ、今日も爽やかに褌だな!」
「大石さんも、今日も元気に褌だねー!」
大石の背後から思い切り平手で叩きながら香坂・光(
ga8414)が元気に挨拶をしてくる。
「‥‥ぐ、ぅっ! きょ、今日も元気だな‥‥。しかし俺はほとんど裸なのだから平手は勘弁してもらえると‥‥」
「今日もキメラ退治頑張ろうねー!」
大石の懇願は香坂によってスルーされる。
「‥‥‥‥」
そんな大石の姿を時枝・悠(
ga8810)が怪訝そうに眉をひそめて見ていた。
「む、もしかしてキミも褌が悪いと思っている人間か!? いいか。褌というものは――」
「いや、別に褌は悪くないよ。洋装が流行った関係で廃れたってだけで、別に褌に罪はない」
「おお! キミは中々話の分かる人間のようだ! そうとも、褌は悪くない!」
「そうだね、そういう格好で参加する祭とかもあるし、それ一丁で活動するなら他の下着よりはマシな部類だよ」
時枝の言葉に気に良くしたのか、大石は腕組みをしながらうんうんと頷いている。
「それにあんたの場合、真っ当な服装でも多分、暑苦しいから近づくなって言われてるよ」
「ん?」
「ん?」
「つまり、大石が全面的に悪いんだよ。あれ? フォローのつもりが着地点を間違えた。前提がおかしいとやっぱりダメなのか、まぁ、別にいいけど」
首を傾げながら時枝が呟き、理解されていると勘違いした大石にとっては大ダメージだった。
「根は悪い人じゃないんだけどナァ‥‥。でもあの格好は能力者じゃなくてもマズいと思うし、何とかしないト‥‥」
ラサ・ジェネシス(
gc2273)は小さくため息を吐きながら呟く。
「‥‥褌一丁と海パン一丁か。正直キメラと大差ないぞ、大石殿」
ルーガ・バルハザード(
gc8043)が呆れたような視線を大石に向け、ため息交じりに呟く。
「大石さん、世の中は既に能力者の仕事も次の段階に来ています。戦争が終わったら今のあなたでは能力者として残る事は難しいと思われますが、どうするつもりですか?」
辰巳 空(
ga4698)が真面目な表情で大石に問い掛ける。
「私は‥‥ここまで能力者というより、1人の『修羅』として破壊に人生を捧げてきました。医学もそのためのものですね、それは多分これからも変わらないと思いますが、大石さんはどうするつもりですか?」
「俺もこれまでと変わらず褌大好き人間でいたいと思う」
(真面目な回答は求めていませんでしたが、ここまで言いきられると腹立たしいですね)
辰巳は怒りをグッと堪えて小さくため息を吐く。
「今日の任務地は海だよね? イエ〜イ! 海だ海だぁ〜! ラサさんとも久しぶりに会えたし、頑張るよ〜!」
吉田 友紀(
gc6253)がラサと抱き合いながらハイテンションで叫ぶ。
「とりあえず、我が天敵でもある海パンを退治に行こう!」
普段から役に立っていない大石がなぜ仕切るのか、という疑問が能力者たちの心の中であったが、本人がやる気になってくれているのかもしれない――と淡い期待を胸に任務を行うため、能力者たちは高速艇へと乗り込み、出発したのだった。
―― 褌と海パン、正直どっちもどっちなんです‥‥ ――
「海だ――――――ッ!」
腰に手を当て、大石が大きな声で叫ぶ。
「ムッ、大石殿! 危ないっ!」
ラサが『何か』に気づき、大石を強く突き飛ばす。そのせいで大石は『海の家』と書かれた看板に強く顔面を殴打したが、次の瞬間――。
「‥‥‥‥ちっ」
大石が立っていた場所にUNKNOWN(
ga4276)が乗ったサーフボードが突っ込んできていた。
「‥‥‥‥」
UNKNOWNは何事の無かったかのようにサーフボードを抱え、能力者たちの前から姿を消した。
「い、今あんのんがいたよなっ!? 俺の気のせいじゃないよなっ!?」
「き、気のせいデスヨ。我輩がちょっとぶつかっただけだシ、誰もいなかったヨ」
揉め事にならないようにとラサは大石から視線を外しながら言葉を返す。
「それより大石殿、我輩は褌の復権に関して考えた事がありマス」
「む、それは?」
「やっぱり褌一丁でも実力があれば皆が褌を認めてくれるのではないでしょうカ?」
「それは一理あるな」
ラサの言葉にルーガが話に入ってくる。
「他の人間に認められたいと思うならば、敵に完全に勝ちたいと思うのならば、貴殿が強さでも上‥‥という事を見せつけてやれ」
「‥‥俺も戦うのかー、嫌だなぁ」
(露骨に戦闘する事を嫌だと言うこの人って本当に能力者なのかな)
ラサとルーガの話を聞いていた吉田は苦笑しながら心の中でツッコミを入れる。
「まさか、貴殿は我々だけに戦わせるなどと考えまいな? その勇ましい恰好が泣くぞ」
(‥‥でも師匠ですし、絶対無理だと思いますけどねー‥‥)
ルーガの言葉を聞きながら千祭が心の中で呟く。
もし、ここで彼女の言う事を聞いてくれるならば、今までのうちに更生していたはずだ。
それは大石と付き合いの長い能力者ならば誰もが心の中で思っている事なのだから。
「ねぇねぇ、皆が大石さんを焚き付けている間に出て来たよ、キメラ」
香坂が苦笑しながら海辺を指差す。
そこには大石と同じように腰に手を当てて海を眺める変態――いや、キメラの姿があった。
「大石さんだけでも充分暑苦しいのに、キメラまであんなのが来たら鬱陶しいとかいうレベルじゃないね――というわけで暑苦しいキメラはさっさと倒すのだ♪」
香坂は武器を取り出し「あ、大石さんには期待してないから別に後ろにいてもいいよ」と言葉を投げかけた。
「そうか? それなら俺は後ろで観戦――」
「大石殿、まさか本当に我々だけに戦わせようという考えをお持ちなのか?」
「お、俺は俺のタイミングで攻撃を仕掛けようと思うんだ。ムリに慣れない事をしても仕方ないだろう?」
「‥‥それは、確かにそうだが‥‥」
「だろう? だからキミたちは俺の事なんか気にしないで戦ってくれ! 俺も出来るだけ頑張ろうと思うから!」
(あー、無理だなぁ、アレ)
時枝は言い訳がましい大石の言葉を聞き(戦う気ないな、あれ)と心の中で言葉を付け足す。
「師匠の物真似をしないでほしいな。海パンだけじゃ師匠の格好には適わないよ?」
千祭は愛刀を構え、キメラを強く睨みつけながら言葉を投げかける。
ちなみにキメラとしては大石の物真似をしたつもりはないだろうし、心外もいい所なんじゃないか――? という疑問は置いておこう。
「って、なぜにUNKNOWN殿はそんな所でバカンスを満喫しているんデスカ!?」
攻撃を仕掛けようとしたラサが浜辺でバカンスを満喫しているUNKNOWNにツッコミを入れる。
「くぅ〜〜、良い匂いがして戦闘に集中出来ないよぉ〜〜!」
吉田は「キメラさえいなければバカンス楽しめるのに〜!」と叫びながらキメラに向かって走り出す。
「全くこの暑い中、あのような暑苦しいキメラと戦わなくてはいけないとは‥‥能力者というのも辛いものだ」
ため息交じりにルーガが呟き、吉田の攻撃と合わせるように駆け出した。
「‥‥大石さんに戦闘をさせる前に倒したいですね、本当の能力者の戦いはこの程度のキメラでは問題外ですからね」
辰巳は低い声で呟き、スキルを使用してキメラに接近し、攻撃を繰り出す。
「近接しかないなら射撃には対応できないでしょ♪ と言いつつ、隙アリなのだ♪」
香坂はデヴァステイターで射撃を行い、前衛能力者たちの為に隙を作る。
「悲しいかな‥‥もはや濃い顔は過去のイケメンになりつつあるのダ――とはいっても、キメラのあなたがイケメンとは言わないのデス」
ラサは小さく呟いた後、小銃・AX−B4でキメラを狙い撃つ。
能力者たちが戦っている場所から少し離れた所ではUNKNOWNがバカンスを満喫しており、パラソルの下でビールを飲みながらそれを見ていた。
「ふむ、別に邪魔さえしなければバグアだろうが同席しても、いいのだがね」
つまみを食べながらUNKNOWNは優雅に呟く。
「正直言ってこの程度のキメラに時間をかける事そのものが恥です。一気に終わらせてしまいましょう」
辰巳が呟いた後、能力者たちは頷き、それぞれ攻撃態勢に入る。
「前衛に十分の戦力があって良かったよ。筋肉モリモリマッチョマンの変態とか近づきたくないし」
時枝は小さな声で呟いた後、スキルを使用しながらアンチマテリアルライフルG−141でキメラを狙い撃った。
「逃がしませんヨ」
時枝の攻撃を受け、逃げようと一歩退いたキメラに向けて言葉を投げかけ射撃を続ける。
「おっとぉ、攻撃ってのは当たらないと意味ないよぉ〜っと!」
吉田は2人の射撃によってキメラの足が止まった所を狙い、天照と蛍火で攻撃を行う。
「それにしても、まだ戦う意志がある分だけキメラの方がマシではないのか‥‥?」
ルーガはキメラと大石を見比べ、首を傾げながら攻撃を行う。
「今回も大石さんは何もしなかった〜っと、うん、いつも通り過ぎて何も言えないね!」
香坂がキメラに攻撃を行い、そのまま海パンキメラは地面に倒れ込む。
「まぁ、あたしは大石さんが褌馬鹿だろうが別に構わないと思うけどね〜。ちゃんと毎日褌を洗って履き替えてさえいれば」
「‥‥それを怠っているとしたら、私は今すぐにここから立ち去りたいです」
香坂の言葉に辰巳がやや引きつった表情で言葉を返す。
「大丈夫だと思うよ。無駄に褌は沢山持ってるみたいだし? それに、何て言うか大石さんが褌以外を付けているのを見たら、世界の終りかと思っちゃうかもしれないね」
世界が平和になったのにすぐに終わりが来られても困るし! と香坂は笑いながら辰巳や他の能力者たちに言葉を投げかけた。
「師匠! やりましたね〜!」
千祭が大石に向かって駆け出し、ぎゅ〜っと抱き着く。
それを見た能力者たちは「‥‥やっぱり、弟子とか言いながら実は‥‥」という視線を2人に向ける。
「ち、ちがいます! これは同性愛じゃありません! 師弟愛です!」
だけどむきになって否定する所が怪しさを増し、誤解は更に酷くなってしまったように見える。
「‥‥そうだ、これはプレゼントです! 師匠! 僕お手製の褌です!」
「おおおっ! 弟子よ、まさか俺に褌をプレゼントしてくれるとは‥‥! それではお礼に俺のつけている褌を「いりません」‥‥そうか」
「大石殿、何というか世界の終りが来る日までそのままでいそうダナ‥‥」
「そうだね‥‥何て言うか、うん、もう諦めた方がいいんじゃないかな。あの人の事は」
ラサの傷の手当てをしながら吉田が言葉を返す。
「というわけで、キメラ退治も終わったし皆で遊ぼうよ! スイカも持ってきてるんだ♪」
吉田は私物からスイカを取り出し、ラサに見せる。
「わぁ、美味しそうなスイカですネ!」
「うん。海なんて父さんと母さんと行って以来だから、楽しみだったんだ」
「‥‥そう、ですカ」
「キメラ退治が終わったなら一緒にどう、かね?」
UNKNOWNは全員分の水着を用意しており、それを能力者達に渡す。
「この場合、なぜサイズが一致しているのかを疑問に思うべきでしょうカ」
「気にしたら負けのような気がする」
水着を見ながら、吉田とラサは首を傾げながら呟いている。
「大石さん、なぜまともに戦闘が出来なかったのか聞いてもいいですか?」
「それは皆が強かったからさ!」
びしっと親指をたてながら答える大石を辰巳は冷めた目で見る。
「大石殿、やはり戦闘時は防具を身に着けるべきではないか? 正直足手纏いだった‥‥いや、足手纏いより酷い状況だったぞ」
「‥‥‥‥」
戦闘が終わり、辰巳とルーガ以外の能力者たちは夏を満喫し、大石は砂浜の上に正座させられてお説教を受けていた――が、誰も助ける者はいなかった。
END