タイトル:オカマさんのお家事情マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/15 23:00

●オープニング本文


どうしても嫌いな人を助けなくちゃいけない時って、どうすればいいのかしら?

多少嫌いな人くらいだったら、なんとも思わないんだけど‥‥。

どうしても大嫌いで許せない人だったら、アタシはどうするべきなのかしら。


※※※

「竜三」

「鵺よ!」

「貴様の戯言に付き合っている暇はない! 俺の話を聞け、竜三!」

「名前を強調しなくてもいいじゃない! アタシは鵺!」

突然鵺(gz0250)が双子の兄である竜二が本部へとやってきて、ふらふらと歩いている鵺を捕まえていた。

「親父がさらわれた」

「寝言は寝てから言え」

「本当だ」

「誰にさらわれたっていうのよ」

「‥‥知らんからお前に頼みに来た。お前自身はまったくアテにならんが、お前の知り合いには強い奴もいるんだろう?」

「どうやら相手は能力者のようだからな、普通の人間である俺たちがかなうはずがない」

「‥‥やれやれ、何でアタシがアレを助けなくちゃいけないわけ?」

「自分の父親だろうが‥‥」

「アタシは里中家を勘当されてるし、あの人の事をアタシがどう思ってるか知ってるでしょ」

「何でアタシがわざわざ労力使って助けてあげなくちゃいけないのよ。バッカじゃないの?」

「‥‥‥‥」

※※※

(やれやれ、何でアタシったらこんな事してるのかしらね)

鵺は携帯のメール画面を開きながら、誰か助けてくれる能力者がいないか探していた。

●参加者一覧

佐倉・拓人(ga9970
23歳・♂・ER
RENN(gb1931
17歳・♂・HD
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

―― 鵺の父親を助けるために ――

「つーか野郎のツンデレはキモいぞ! 竜三兄さん!」
 村雨 紫狼(gc7632)が鵺(gz0250)に向けて言葉を投げかける。
「子供が親を助けるのはあったりまえだしな〜☆ って痛い痛い!」
 村雨の言葉に「あんなのは親じゃないわよぅ!」とほっぺたをギューッと引っ張りながら言葉を返した。
「ま、ダチが困ってんだ、助けるのに理由なんていらねぇって!」
「しろーちゃん‥‥!」
 村雨の言葉に感激したのかに鵺はうるうると瞳を潤ませながら「ありがとぅ!」と抱き着こうとした――が、あっさり避けられた。
「俺は自分よりでかい男に抱き着かれる趣味はねぇ! 俺の範囲は幼女だ、幼女!」
「‥‥犯罪にならないようにするのよ?」
「あんたらに言われたくねぇよ!?」
 ラサ・ジェネシス(gc2273)を見ながら村雨が抗議するが「いやん☆」と鵺が照れたように顔を赤くする。
「村雨殿、そんな‥‥我輩たちが誰よりもお似合いのカップルだなんテ!」
「言ってねぇよ?」
(父親‥‥か、あたしもちゃんと向き合わないとな‥‥)
 エイミー・H・メイヤー(gb5994)は心の中で呟く。彼女も父親と不仲なせいか、おそらく今回の能力者の中で誰よりも鵺の気持ちがわかる人物だろう。
(‥‥もしかしたら、鵺姉様のご家族の茶番なのかもしれない)
 RENN(gb1931)は心の中で呟く。
 今回の事件は能力者たちにとって納得いかない部分がいくつもあった。
 まずはなぜ警察に行かないのか。なぜ勘当した息子経由で傭兵を集めているのか。
 だからRENNだけじゃなく複数の能力者たちが今回の依頼について怪しんでいる部分があった。
(とにかく、鵺さんが悲しむような結果だけは避けないと‥‥)
 佐倉・拓人(ga9970)は拳を強く握りしめ、心の中で呟いた。
(‥‥もし、万が一助けられなかったら――何も言えません‥‥)
「とにかく、俺は竜二さんに誘拐された顛末を聞いてみる。その時自作自演の可能性も考えてカマをかけてみようかとも思ってんだけど――竜三兄さんも一緒に‥‥」
「行かないわよ」
「それじゃ俺だけでちょっと行ってくるわ」
 村雨はそれだけ言葉を残し、そのまま何処かへと行ってしまった。

――それから待つ事、1時間‥‥。
 がっくりと肩を落とした村雨が能力者たちの所へと戻ってきた。
「どうでした? 何か良い情報でももらう事は出来ましたか?」
 佐倉が問い掛けると、村雨は肩を竦めながら首を振る。
「それがさ、さっぱりだったよ」
「‥‥自作自演の可能性については聞いてみましたか?」
「カマはかけたけど、自作自演って感じはしなかったな。落ち着いているように見えたけど、内心穏やかじゃないって感じが見てわかったし」
「とにかく出発しよう。誘拐は時間との勝負になるからね」
「そーデスネ」
 エイミーの言葉にラサが頷く。
(‥‥我輩みたいにならないように絶対に助けないとネ‥‥)


―― 森の中で ――

 能力者たちはこの誘拐劇に対して迅速に動けるように班をわけて行動する作戦をたてていた。
 陽動(斥候)・村雨、RENN、佐倉の3名。
 救助・エイミー、ラサ、鵺の3名
 陽動班の3名はそれぞれがバラバラに動き、敵側の能力者に見つかった場合は囮として動くようにする――とも話し合って決めていた。
「問題はトランシーバーですよね、こちら側の会話が向こうに筒抜けになる可能性もありますし‥‥」
「そうなんだよな、敵がどこにいるかわかんねぇし下手に使う事が出来ないんだよな」
「私が何か見つけた時には情報伝達を使ってラサさんやエイミーさんに情報を伝えますよ」
「今回は人質がいるんですから、慎重になりすぎるくらいでちょうど良いでしょう」
 佐倉の言葉に他の能力者たちも頷き、行動を開始したのだった。

※陽動(斥候)班

(やれやれ、能力者が相手だなんて――キメラよりも厄介ですね)
 佐倉は心の中で呟き、小さくため息を吐く。
 今回の場所が森だという事から、彼は髪を纏めて服の中に入れ、頭には枝や木の葉、サバイバルベストを迷彩柄にという森林戦仕様の隠密スタイルで任務に挑んでいた。

(とりあえず、佐倉さんたちとの連絡手段としてトランシーバーは繋いでおこう)
(たとえ利害のある物だろうと、茶番だろうと行動はすべて阻止させてもらう)
 RENNは心の中で呟き、アジト、能力者、人質を探して行動を開始した。

(何の情報もない事がこんなに大変だとは‥‥せめてアジトとか能力者の数だけでもわかればいいんだけどなー)
 小さくため息を吐きながら村雨が心の中で呟く。
(――うおっ)
 村雨は前方に見えかけた人影に驚き、木の上へと登り、枝や葉に身を隠す。
(‥‥あれ、どう見ても今回の仲間じゃねぇよなぁ‥‥)
 見回りでもしているのかライフルを持った男性能力者が2人ほど森の中を歩いている。
(トランシーバーを持ってる様子はねぇな)
 村雨はその事にも違和感を覚えていた。
(普通誘拐とかだったら仲間と連絡を取り合う手段を持つもんじゃねーの?)
(やっぱりこれって竜三兄さんを家に戻させるための茶番なのかもしれないな)
(だったら何で能力者を要請させたのかって事になるんだよな)
 鵺を家に戻すだけだったら、わざわざ仲間を集めさせる必要はないのだから。
(あー、もうわかんねぇ! 難しい事は後だ、後!)
 村雨はトランシーバーを使用して、佐倉とRENN、そして救助班に連絡を入れた。

(見回りの人間がいるという事は、これからアジトに戻る可能性もありますね)
 村雨からの連絡を受け、佐倉は心の中で呟く。
(追いかけてみましょうか)
 もしアジトがわかればエイミーやラサに伝えることが出来る。
 そう考え、進路を変えて村雨が見つけた能力者たちを追いかける事にしたのだった。

(あれ‥‥)
 RENNがピタリと動きを止める。
(北、アジト‥‥?)
 佐倉からの情報伝達でアジトの場所が知らされる。それはRENNばかりじゃなく、今頃は他の能力者たちにも伝わっている事だろう。
(能力者の人数もわからないし、どうなるかわからないけど‥‥アジト付近に行った方が他の人とも合流できるかな?)
 RENNは心の中で呟き、アジトの場所を目指して走り始めた。

※救助班
「ふむ、北とアジト――か」
 エイミーが口元に手を当てながら呟く。
「ふん、あんなジジイなんて放っておけばいいのよ」
 鵺はぷいっと横を向きながらエイミーに言葉を投げかけた。
「でも、つばめ嬢にとっては大切な父親なんだろう?」
 エイミーの言葉に「‥‥それは、そうだけど」と鵺が口を尖らせながら言葉を返す。
「つばめ嬢のためと思って頑張ろう」
「しかし、能力者は力無き物の代弁者だというのに恥ずかしくないのカナ」
 ラサがため息を吐き、残念そうに呟く。今回の出来事は能力者に対する見る目が変わってもおかしくないくらいの出来事だ。
「残念な事に能力者は『善人』だから選ばれるってわけじゃないものね」
「そうだね、どれだけの悪人であろうと適用が見られれば能力者になる事が出来るんだから」
 鵺とエイミーは互いに悲しそうな表情で言葉を紡いだ。
「とにかくアジトの方へ向かおう。他のみんなも向かい始めている頃だろうし」
「そーデスネ」
 エイミーの言葉にラサが頷きながら、3人は再び森の中を駆けだしたのだった。


―― 戦闘開始・能力者 VS 能力者 ――

「森の中に廃屋か、いかにも――って感じだねぇ」
 村雨が苦笑しながら呟く。
「あまり大きな家屋ではないですから、人質を見つけるのに苦労する事はなさそうですが‥‥」
 佐倉が呟くと「ここは陽動で能力者の意識を外に向けよう」とRENNが言葉を投げかける。
「その間にラサさんとエイミーさんは中に入って人質を救出してくれればいいし?」
「その方法が一番かねぇ」
(ここで閃光手榴弾を使おうと思ったけど、さすがにリスクの方が強いかな?)
 エイミーは心の中で呟く。
「それじゃ、行くよ!」
 RENNの言葉で行動が開始され、エイミーとラサは陽動班の能力者たちから離れて様子を見る事にした。

「こ、ん、に、ち、はー!」
 RENNが廃屋の前で大きな声で挨拶をすると、中から3人の能力者たちが慌てて出てきた。
「な、何だ?」
「あのさぁ、あんたらがどんな理由で、こんな事をしてるのか知らないけどー、悪い事はイクないと思うなぁ」
「‥‥何だ? お嬢ちゃんみたいなひ弱なガキが――」
「なので、邪魔しますよ」
 既にRENNは戦闘準備として『機装排除』を発動させており、相手を油断させる方法を取っていた。目の前の敵能力者たちはRENNの思惑にハマり、RENNを格下の相手としか見ていない。
「見かけとかで、侮ってると足元掬われるよ?」
 不敵な笑みを浮かべた後、スキルを使用して敵能力者との距離を詰める。
「相手が1人だと思わないように」
 敵能力者がRENNに集中している時、佐倉が敵能力者の腕や足を狙って攻撃を行う。
「私は人間だからという理由で殺害を躊躇う精神はしていませんが‥‥まぁ、UPCの評判もありますし、命まで奪うのはやめておきましょう」
 佐倉はゾッとするほど冷たい声で敵能力者たちに言葉を投げかける。
「つーか! 何でお前らはこんな事をしてんだよ!」
 村雨も敵能力者の攻撃を避けながら言葉を投げかけるが、まだ能力者が納得できるような言葉は得られない。

「よし、今のうちに行こう」
「了解デス!」
 陽動班が敵能力者たちをおびき寄せてくれている間、エイミーとラサ、そして鵺はこっそりと廃屋の中へと忍び込んだ。
「何だ、てめぇらは!」
「外に行った奴らばかりじゃなかったんデスネ」
「とりあえず寝ていてもらおうか」
 エイミーが小さくため息を吐いた後、敵能力者へと近寄り――拳銃・ラグエルの銃身部分で後頭部を殴打し、敵能力者の意識を奪う。
「意外に呆気ないですね」
「外の戦いを見ていても思ったけど、能力者になって日が浅い人たちじゃないのかな」
「とりあえずお義父様を助けなくては!」
 ロープで縛られ、ガムテープで口を塞がれている鵺の父親に駆け寄り、ラサが拘束を解く。
「‥‥鵺嬢!?」
 だけど、鵺がつかつかと近寄り、父親の胸倉をつかみながら「これはどういう事」と問いかけた。
「まさか茶番でこんな事を仕組んだんじゃないだろうな?」
「‥‥なぜ私がそんな事をする必要がある」
「アタシが戻らないから茶番を仕組んで、強制的に戻らせようとしたんじゃないの?」
「お前は馬鹿か、今回の事件が起きる前に何度も脅迫状が届いていた。恐らくは取引を辞めた会社の連中だろう」
 父親は淡々と話しており「何で警察に行かなかったのデスカ」とラサが問い掛けた。
「冗談だと思っていたからだ。今回の誘拐事件に関しても警察が何かを出来るか?」
「能力者が相手なら警察が適うはずがない、それに警察にも行っていない事件の事を本部に救助要請してまともに取り合ってもらえない事も考え、万が一の時には竜三に頼めと言ってあった」
 父親の言葉に3人は黙り込み、小さくため息を吐いた。
「お義父様はここにいてくだサイ! 外の能力者たちを倒しちゃいますので、まな板に乗ったつもりで安心して下さいネ!」
「それを言うなら『大船』ですよ。まな板には乗れません」
「‥‥と、とにかく鵺殿と一緒に待っていて下さい」
「げ」
 血が苦手な鵺は外に出ても戦う事が出来ず、父親と一緒にいるという苦痛を与えられる事になった。

「あなた達が本気で私たちを殺しにかかってくるなら、こちらも容赦しません」
 攻撃を仕掛けながら佐倉が敵能力者達へと言葉を投げかける。
「それは当然ですよね? 私だって自分の命は惜しいですし、最悪の状態を回避するために犠牲者が出るのは仕方ありません」
「そうそう、早めに降参した方がいいと思うよ? じゃないと本当に死んじゃうかもね」
 RENNはからかうように敵能力者の攻撃を避けながら言葉を投げかける。
「俺は不殺で行くぜ! でも、まぁあんまり調子に乗られると死んだ方がマシって状況になるかもしれないけどな!」
 3人対3人の戦いではあるけれど、実力差があるのか敵能力者たちは救助に赴いた能力者たちの足元にすら及ばない程度の実力だった。
「これで、終わり――っとぉ!」
「ぐっ‥‥」
 村雨が敵能力者の腹部を殴り、地面へと沈めたのだった。


―― 帰還へ ――

「結局親父さんが取引を辞めた会社の奴が雇った能力者って事でいいわけ?」
 暴れないよう敵能力者を縛り上げて、村雨がため息交じりに呟く。
「能力者になって日が浅く、一般人相手なら勝てると思って小遣い稼ぎですか」
 佐倉がため息を吐き「怒りを通り越して呆れますね」と言葉を付け足した。
「‥‥それより、きちんとお話しなくて良いのデスカ?」
 ラサが控え目に鵺に問い掛けると「いいのよ、今は何も話す事なんてないから」と言葉を返した。
(何があったのかわからないけど、きっと鵺姉様にも色々と事情があるんだろうな)
(ボクだって――枷はある、この枷を外せるのはまだ先の話‥‥一生消えない咎を抱えながら、ボクは生きて行かなくちゃ)
 RENNは心の中で呟き(でも枷に負けないくらい明るく元気に生きよう)と言葉を付け足した。
「‥‥あたしもそうだけど、いつからすれ違ってしまったんだろうね‥‥」
 エイミーは誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
「鵺殿、これをあげるのダ!」
 ラサが鵺に渡したのは『【OR】アートフラワーレッドローズ』だった。
「お姉さまに手伝ってもらった力作なのダ!」
「うふふ、綺麗! ありがとう!」
「我輩は何と言われようと鵺殿についていくのダ! なので鵺殿は安心して好きな道を歩けば良いのダ!」
 ぎゅ、と鵺の手を握りしめながらラサはにっこりと笑顔を向けながら言葉を投げかけた。
(色々あるだろうけど、家族がいるだけで幸せって事に竜三兄さんはいつ気が付くのかね)
 村雨は鵺を見ながらため息を吐いたのだった。


END