●リプレイ本文
「形見を届けろ‥‥めんどくさいな? 形見を届けて、また悲しい事を思い出させなくても、いいと思うが?」
呟くのは神無月 翡翠(
ga0238)、それに言葉を返したのは翡翠の兄である神無月 紫翠(
ga0243)だった。
「確かに‥‥それに、探すの苦労‥‥しそうな気がしますが‥‥それが仕事なら‥‥仕方ないです」
「‥‥でも、想いを寄せる人に贈る品、きっと自分の手で渡したかっただろう‥‥」
依頼の内容を聞き、高村・綺羅(
ga2052)は悲しそうな顔で小さく呟いた。
今回の依頼を成功させる為に、今までキメラ・メデューサの犠牲となり石化した人間の資料、もしくは映像を見せてもらえないかと煉条トヲイ(
ga0236)が本部に問い合わせた所、最初は出し渋っていたものの、能力者達の命に関わると判断したのかOKの返事を貰う事ができた。
「メデューサがどんな風に石化させるのか、それが分かれば戦闘もそれに対処して出来るんだけどね」
出雲雷(
ga0371)が渡された資料をぱらぱらと捲りながら呟き、石化された人の写真の所で手を止めた。
「見たところ‥‥外傷はなさそうだが‥‥?」
沢村 五郎(
ga1749)が石化の写真を指差しながら低く呟く。
確かに沢村の言う通り、目立った外傷はない。神話上に存在するメデューサは相手の瞳を見るだけで、相手を石化するのだとか。
もし、今回のキメラ・メデューサもそのように相手を石化させるのだとしたら‥‥かなり厄介なものになる。
「石化か、確かにこのボクの栄誉を称えて石像を作ろうという気持ちは分からなくもないがね」
鯨井起太(
ga0984)が髪を掻きあげながら偉そうに話す。むしろ称えるというより叩きたいという感情に駆られるのは気のせいだと思う事にしよう。
「まぁ‥‥小箱、そしてメデューサ殲滅! これが最優先事項よね、皆さん大船に載ったつもりでいてね! 私が戦って負けるなんてないのよ!」
オーッホッホッホ、とけたたましく笑うエルゼ・クロイツァー(
ga2066)を横目にメンバー達は今回の作戦を練り始めた。
「でも、資料を見て一つだけ分かったことがあるね」
鯨井が「ふふん」と鼻を鳴らしながら小さく呟く。
「分かったこと? 何だ?」
煉条が問いかけると「メデューサの石化能力が遠距離能力じゃないことさ」と短く答えた。
「‥‥何で‥‥そう言い切れる?」
翡翠が問いかけると「顔だよ」と写真を見せながら鯨井は言葉を続ける。
「石化された人間は、どの人間も恐怖に表情が歪められている。これが遠距離で石化されたのならこんな顔はありえないだろう?」
確かに、と鯨井の言葉に誰もが納得の表情を見せた。
「ただ、メデューサの攻撃が石化だけとは限らないから油断は禁物だけどね」
それから、メンバーは犠牲者が持っていた小箱の件も含めて、現場を見てみるという事に行き着いた。状況を見て、石化範囲などを知るためにも必要だとエルゼが呟いた。
「俺たちは傭兵で、一般人にとってはただの通り過ぎていくだけの存在。だが、せめて――‥‥最後の約束は叶えてやりたい」
その為にもこの作戦は絶対に成功させる、煉条は現場に赴く前に自らを奮い立たせるかのように、拳を強く握り締めながら低く呟いた。
今回集まったメンバーが練った作戦は『僕』のルートを同じように辿っていくというものだった。『僕』が辿った道を同じく辿ればキメラも出てくる可能性が高いと思ったからだ。
しかし小箱の持ち主『僕』は既に死亡が確認されている、道すがら通った人が石化した『僕』の遺体を発見して、命からがら逃げてきたのだと資料に書いてあった。
「この辺からメデューサの領域っぽいですね‥‥」
歩いていくにつれて石となった鳥、獣、草木などが姿を現し始めた。恐らく『僕』が石化したものも近くにあるのだろう。
「ただ‥‥小箱は日数がある程度たっているから‥‥元の形を留めているか分からないがな‥‥?」
翡翠が呟き、確かにその通りだとメンバーも思う。最初は原型を留めていても獣や人に踏まれて壊れている可能性もあるのだ。
「あ、れ‥‥じゃないか?」
出雲が指差した方向には木にもたれている男性‥‥の石像だった。しかもメデューサから攻撃を受けたのか、体半分が千切れかけているような状況だ。
「石像を見る限り‥‥石化してから攻撃を受けたのではなく、攻撃を受けてから石像になったようだな‥‥」
沢村が表情を歪めながら小さく呟く、血液まで石化している為、攻撃を受けてから石化されたのだという事が判明した。
「小箱が落ちているとしたら‥‥この辺だと思うんですけど‥‥」
男性の遺体から目を背けるように高村は呟き、目的の小箱を探し始める。
「小箱探しは俺たちでやるから、綺羅は敵への警戒を怠らないようにしてくれ」
煉条が高村に言い「分かりました」と答え、潜んでいるであろうメデューサへの警戒を強めた。
「待って下さい! 急に殺気が‥‥」
高村が叫ぶように言うと同時に、周りの木々がザワとざわめいた。
「‥‥‥‥来るっ!」
出雲が構えながら呟き、現れたメデューサの攻撃を疾風脚を使いながら避ける。俊敏さの高い出雲はメデューサをひきつけ、他の仲間は攻撃する為に準備を始める。
「そらそら、俺の速さについてこれるか?」
メデューサをスピードで翻弄しつつヒット&アウェイで戦い、他の仲間たちが攻撃出来る隙を作る。
「ほれ、見せてみろよ? 一応強化するが、あんまりもたないと思うぞ?」
翡翠が紫翠の武器、そして他の仲間の武器を強化して戦闘に送り出した。
「戦闘は、任せた。死なないように、気をつけろよ? 死体の墓作り&墓参りなんか、俺イヤだからな」
翡翠はダルそうに呟く、すると他の仲間は苦笑しながらメデューサのところへと走り出した。
スナイパーがきちんと狙撃できるように、陽動役‥‥つまり出雲がメデューサをスナイパーから離れさせる為に動く。
しかし、陽動役が一人な為、十分にメデューサを陽動できていない。その為、煉条も陽動役となり、出雲と一緒にメデューサを仲間たちが攻撃しやすいように誘導していく。
仲間たちはバラバラに攻撃しているように見えても、確実にメデューサを囲むように距離を詰めていく。
大人数の敵にメデューサの標的は次々に変わっていき、此方としては動きやすい状況になりつつある。
だが―――‥‥。
「避けなさい!」
エルゼが叫び、出雲を突き飛ばす。
「ってぇ‥‥」
出雲は頭を押さえながら、今まで自分がいた場所を見る。
すると、そこには石と化した地面の姿があった。
「‥‥どういう事だ? メデューサは目で相手を石化させるんじゃ‥‥?」
翡翠が少し驚いたように呟く、それに言葉を返したのは紫翠だった。
「‥‥‥‥息だ」
息? とメンバー達は顔を見合わせる。確かに犠牲者の表情、そして外傷が無かったことから『石化させる方法は視線』だと思い込んでいた。
しかし、同じ状況を作れる石化方法はもう一つあった。それは相手に息を吹きかける事、これは視線以上に危険なことだ。
「私が囮役になるわ、メデューサが息を吹きかける事で相手を石化するという事が分かったのだから私が動き回ります」
エルゼの言葉に「だったら、俺が!」と出雲が申し出るが、エルゼは緩く首を横に振った。
「出雲さんは俊敏さがあるのだから、敵を撹乱させて攻撃のタイミングを作ってください、煉条さんもね」
囮であるエルゼがメデューサの攻撃をひきつけ、煉条と出雲の二人は仲間が攻撃しやすいように誘導する。
そして、スナイパーがメデューサの動きを止める為に狙撃し、他の仲間がトドメをさす――という作戦だった。
「この後に小箱を探すという仕事もあるのだから、早めに倒そうか」
鯨井が呟く。メデューサを倒したとしても小箱を見つけられなかったら仕事は失敗に終わる。それだけはどうしても避けたかったのだ。
「化物風情が‥‥驕るな、どう足掻こうがボクが狩る側でキミが狩られる側という事実は変わらない」
鯨井は呟きながらアサルトライフルでメデューサを撃ち始める、それと同時に陽動役であった出雲も一度メデューサの前から退き、距離を取ってから携帯していたハンドガンで鯨井、そして彼と同じように遠くから弓で攻撃している紫翠を手伝うように撃ち始めた。
三人によって狙撃され、バランスを崩したメデューサは足を縺れさせる、その隙を見逃さなかった沢村、高村、エルゼに加え、煉条も攻撃に加わり、総攻撃を行った。
「‥‥人の想いを踏みにじり続けた報い、今こそ受けるべきだ」
煉条が低く呟き、メデューサが起き上がる間も与えないほどに攻撃を続け、二つある仕事のうち一つ、メデューサの殲滅を終えたのだった。
「やっと、終わった‥‥疲れたし、腹減った、兄貴、飯作ってくれ〜‥‥」
グゥ、と鳴るお腹を擦りながら翡翠は紫翠に話しかける。
「いいですけど‥‥材料費は‥‥出してくださいね?」
材料費を要求され「へ? 金は俺持ち? ま、いいけど」と話しているとき「仕事はまだ終わってないよ」と鯨井が話しかけてくる。
「小箱を見つけなくちゃ‥‥ってアレは?」
鯨井が男性の石像があるあたりを指差し、沢村が振り向くと、薄暗い中にキラリと輝く何かが視界に入ってきた。
近寄ってそれを見ると、男性の石像のちょうど手の位置にある地面から包装もぐちゃぐちゃ、箱もどろ塗れの小箱が見つかった。
「‥‥これが、この人が命がけで守り通したもの‥‥」
高村が小箱を拾い上げると、箱の中から一枚の紙がひらりと舞う。
「これは――‥‥」
沢村がそれを見て、目を細めた。それは『僕』から指輪を渡す女性にあてた簡単な手紙のようなものだった。
色々大変な時代だけどさ、俺たち上手くやっていけるよな?
たったそれだけの言葉、だけどその言葉にどれだけの想いが込められていたのだろう。
「本当は‥‥これを彼女に渡したくない、宝石だけなら良いけど」
高村は小さく呟く、きっとこの指輪が『彼女』を縛り付けてしまうのではないだろうかと心配しているのだ。
それからメンバーは『僕』の最愛の人、『彼女』に小箱と手紙を渡した。
「‥‥馬鹿ね、上手くやっていけるって‥‥アンタがいなくてどうしろっていうのよ」
女性は涙をぼろぼろと流し、指輪を大事そうに握り締める。
「ありがとう、ございます‥‥本当に‥‥」
『僕』の最後の想いは、きっと彼女に届いただろう。高村は『僕』が託した指輪が彼女を縛り付けることのないように、と祈らずにはいられなかった。
END