タイトル:少年の墓標マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/16 02:59

●オープニング本文


俺と同じ状況になった人の中で、どれだけ『能力者』らしく出来るんだろう。

※※※

七海・鉄太(gz0263)は資料を見ながら、がたがたと震えていた。

今回の任務、それは女性型のキメラを退治してほしいという内容であり、他の能力者たちから見ても難しい内容ではないように思えた。

(‥‥何で、何で、何で‥‥!)

鉄太は呼吸を荒くして、資料をぐしゃりと握りしめながら心の中で何度も叫んでいた。

今回のキメラは他の能力者たちから見れば、ただの女性型キメラなのかもしれない。

だけど、鉄太にとってだけは違っていた。

(おかあさん‥‥)

資料に写るキメラを見ながら、鉄太は動揺を隠す事が出来なかった。

他の能力者たちの声を聴けば「苦労する事はなさそうだな」などと呟いているのが聞こえてくる。

(おかあさんじゃない、これはおかあさんじゃない‥‥)

頭で理解しようとしても、鉄太にはキメラの顔が母親にしか見えなかった。

(どうしよう。俺、みんなの邪魔をしちゃうかもしれない)

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
雪代 蛍(gb3625
15歳・♀・ER
篠崎 宗也(gb3875
20歳・♂・AA
神名田 少太郎(gc3155
12歳・♂・CA
エドワード・マイヤーズ(gc5162
28歳・♂・GD
ルーガ・バルハザード(gc8043
28歳・♀・AA
不破 イヅル(gc8346
17歳・♂・DF

●リプレイ本文

―― キメラを退治する為に集まった能力者たち ――

(‥‥これは、おかあさんじゃない‥‥分かってるのに)
 七海・鉄太(gz0263)は震える手で資料を見ながら、心の中で何度も呟いていた。
「このレベルの相手なら‥‥さほど苦労はしないはず‥‥」
 幡多野 克(ga0444)は呟き「だけど」と言葉を付け足しながら、ちらりと鉄太を見る。
(七海さんの様子が‥‥少し気になるな‥‥不安があるなら話して欲しいけど‥‥)
 鉄太は自分の気持ちを誰にも言っていないため、何に不安そうな顔をしているのか幡多野を含めて、今回集まった能力者たち誰にも知る事が出来なかった。
「‥‥大丈夫、ですか?」
 終夜・無月(ga3084)が様子のおかしい鉄太に言葉を投げかけるけど「う、うん! 全然平気!」と引きつった笑顔で言葉を返す。
(大丈夫なようには見えないんですが‥‥言いにくい事なんでしょうか‥‥?)
 鉄太自身が何も言おうとしないため、終夜もそれ以上は突っ込んで聞く事が出来ない。
「よぉ鉄太! 久しぶりだな!」
 篠崎 宗也(gb3875)が軽く手を挙げながら鉄太へと言葉を投げかける。彼自身、鉄太と一緒の任務になるのは久しぶりで、鉄太が自分の事を忘れていないか、それが少し心配でもあった。
「あっ、久しぶり!」
(おお、良かった。ちゃんと覚えててくれたぜ‥‥)
 ホッと胸を撫で下ろしながら篠崎は心の中で呟き「何か心配事でもあるのか?」と言葉を投げかけたけれど――。
「‥‥ううん、何でもない」
 心配させないようになのか、聞かれたくないからなのか、鉄太は笑いながら曖昧に言葉を濁してきた。
「ふぅん‥‥まぁ、何があったか分かんないけどさ!  そういう時は笑うのが一番だぜ! ダーッハッハッハ!」
 鉄太の背中を叩きながら篠崎が大きな声で笑い、つられるように鉄太も寂しそうに笑い始める。
(そういえば、七海さんは僕とは正反対なんですね)
 神名田 少太郎(gc3155)が心の中でぽつりと呟く。彼は自身が思うような体の成長が望めず、眠っている間に体が成長していた鉄太の事を少しだけ羨ましいと思っていた。
「ふむ、今回は人型のキメラ退治――弓使い、か」
 エドワード・マイヤーズ(gc5162)が資料を読みながら呟く。
「単純なキメラ退治、に思えるが‥‥何故、震えている?」
 ルーガ・バルハザード(gc8043)が鉄太に声をかけるのだが、彼女の問いに鉄太が答える事はなかった。
(‥‥攻撃を躊躇させるような、人型キメラ‥‥よくあるバグアの手口だけど‥‥胸糞悪い)
 不破 イヅル(gc8346)は資料をぐしゃりと握りしめながら心の中で呟く。
(たとえ、どんな姿をしていてもキメラである限り、躊躇う理由にはならないんだがな)
 不破は心の中で言葉を付けたし、小さなため息を漏らした。
「鉄太‥‥どうしたの? 顔色が、凄く悪いけど‥‥」
 鉄太の彼女である雪代 蛍(gb3625)が心配そうに鉄太へと言葉を投げかける。
「大丈夫だよ、何でもないから」
(全然大丈夫そうに見えないから聞いてるのに‥‥)
 蛍は小さくため息を吐きながら、心の中で呟いた。
「それじゃ、出発しましょうか‥‥」
 幡多野が呟き、能力者たちはキメラ退治のために出発したのだった‥‥。


―― 朽ちた村で待ち受けるのは‥‥ ――

 今回の能力者たちは班分けをせず、固まってキメラ捜索を行う事に決めていた。
「‥‥不安そうだね?」
 俯きながら歩く鉄太に幡多野が言葉を投げかけると、鉄太は「え?」と答えてきた。
「いや‥‥なんとなく‥‥そういう気がするだけなんだけど‥‥何かあれば、遠慮なく言って‥‥」
 助けになりたいから――幡多野が言葉を付け足しながら言うと「お、俺‥‥」と鉄太が口を開きかけた。
 だけど、すぐに口をぎゅっと閉じ「なんでもないんだ、本当に何でもない」と言葉を返した。
「鉄太君、気をつけたまえ。この先に待ち受けているかもよ?」
 エドワードの言葉に鉄太が過剰とも呼べるくらいの反応を見せた。
(‥‥? 初めての任務でもあるまいし、何をあんなに怯えた表情を見せるんだ?)
 後ろから見ていたルーガが首を傾げながら心の中で呟く。
(鉄太、もしかしてキメラの事で何か考えてるの‥‥?)
 ルーガと同じく、鉄太の反応を見逃さなかった雪代が心の中で呟く。だけど鉄太本人が何も言わないため、あくまでそれは予測の範囲を出る事が無い。
(何か気になる事があれば言ってくれればいいのに‥‥)
 何も言おうとしない鉄太に雪代は心の中で毒づく。
「廃村ではありますけど、元々が広いわけでもないですし‥‥キメラを見つけるのは容易そうですね‥‥」
 終夜が周りを見渡しながら呟く。
「‥‥見つからなければ、いいんだ」
「え?」
 鉄太の呟きは小さくて、他の能力者たちには聞こえなかったけれど神名田だけには聞こえたらしく聞き返す。
「今、なんて――」
「何でもない! 俺は何も言ってない!」
 問いかける神名田から逃げるように、彼の横を通り過ぎて、鉄太は他の能力者たちの所へと向かう。
 鉄太の呟きを聞いた神名田は言いようのない不安に駆られるけれど、他の能力者たちも鉄太の事は気にかけている事は知っていたので、突っ込んで聞く事はしなかった。
(あまり、目を離さないようにした方が良さそうですね)
「‥‥ッ!」
 終夜が何かを感じたのか、聖剣・デュランダルを抜き、飛んできた矢を叩き落とす。
「どうやら、向こうの方から来てくれたみたいですね」
「‥‥あ、あ‥‥」
 弓を構え、自分たちを狙うキメラを見て鉄太がガタガタと震え始める。
「いやだ! 絶対にいやだ! 俺は戦いたくない!」
 その場に蹲りながら鉄太が叫び、戦闘態勢に入った能力者たちは鉄太に対して僅かな動揺を抱きつつ、キメラとの戦闘に突入した。


―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――

「キメラと言えど、人の形をしたものを斬るなんて気持ちは良くない。けど、誰かが死ぬのはもっと嫌だ‥‥だから‥‥俺は斬る」
 月詠を構え、キメラへと攻撃をしようと幡多野が動いた。
 だけど――。
「やめろぉぉっ!」
 鉄太が幡多野に抱き着き、幡多野は驚きのため動く事が出来なかった。
「なっ‥‥」
 その行動に驚いたのは幡多野だけではない。他の能力者たちも驚き、一時戦闘中にも関わらず、動きを止めてしまっていた。
「鉄太! 何してんの!?」
 雪代が慌てて鉄太を引っ張るけれど、男と女では力が違うのか雪代では鉄太を動かす事が出来なかった。
「何やってんだ! お前、自分が何したか――‥‥っと」
 篠崎が鉄太に言葉を投げかけた時、キメラからの攻撃を受け、肩を抑える。
「あー、もう! とりあえず詳しくはキメラを退治した後に聞く!」
 篠崎は鉄太を掴み、雪代たちがいる所へと無理矢理連れて行く。
「‥‥‥‥」
 不破は唇を噛み、鉄太の頬を強く叩く。言葉こそ何も言わないけれど、彼の怒りは相当なものなのだろう。
「七海殿。おまえは何を考えている。これは『キメラ退治』だぞ? 単純な作業のようだが、それでも一瞬の油断が命取りになる」
 ルーガが責めるように言うと、鉄太は蹲り、泣いているだけで何も答えようとはしなかった。
「‥‥無理に戦おうとしなくていい‥‥今は、目を瞑って‥‥耳を塞いでいればいい‥‥すぐに、済ます‥‥」
 不破は言葉を残し、戦線へと戻っていく。
「不破さんの言う通りです。見たくなければ目を閉じてもいいです。聞きたくなければ耳を塞いでもいいんです。今は耐えられなければ、逃げてもいいんです! 次があればやり直せますから」
 神名田の言葉に、鉄太は子供のように声を大きくして泣き始める。
「どういう事なのか‥‥分からないけど‥‥長引かせると七海さんにとってつらそうだ‥‥」
 幡多野は小さく呟き、躊躇う事なくキメラを斬りつける。
「‥‥子供を惑わす、罪深きキメラ‥‥」
 終夜は呟き、スキルを使用しながら攻撃を繰り出す。
(何とか、戦闘が終わるまで鉄太君が暴走しなければ良いんだが‥‥)
 エドワードは隣で泣き喚く鉄太を見ながら心の中で呟く。
(万が一の時にはスキルを使用してでも彼を止めなくちゃいけないのかね)
 出来ればそんな事はしたくない――と言葉を付け足しながら、エドワードはため息を漏らした。
「逃げても、無駄だ!」
 能力者たちから攻撃を受けているキメラが逃げ腰になりかけると、ルーガが追撃しながら大きな声で叫ぶ。
「‥‥我が疾風が、お前を切り裂く!」
 ルーガは強力な一撃をキメラへと食らわし、その攻撃で怯んだ隙に不破と篠崎が手を狙って攻撃を仕掛ける。
「弓も矢も持てねぇんなら、もう勝負は決まったようなもんだぜ!」
「これ以上長引かせると、彼の心にも悪そうだ。早々に退場願おうか」
 篠崎と不破が呟き、神名田がキメラの背後から攻撃を繰り出し、倒れたキメラにトドメを刺すため、それぞれ能力者たちは攻撃を行い、キメラを退治する事が出来たのだった。


―― 戦闘終了後 ――

「何であんな事したの!?」
 今にも掴みかかりそうな勢いで雪代が鉄太に言葉を投げかける。
「この頃、鉄太おかしいよ! 普段は素直なくせに‥‥依頼で会う時は‥‥」
 雪代の言葉が震える。
「いい加減、大人になってよ!」
「‥‥大人って、何」
 それまで黙っていた鉄太が俯きながら雪代に言葉を返す。
「どうすれば大人になれるの? 俺は――俺は‥‥」
「もう、いい‥‥鉄太なんか、鉄太なんか、し‥‥んじゃえば!!」
「お、おいおい。落ち着けって」
 雲行きの良くない流れに言葉を挟んできたのは篠崎だった。
「鉄太? あんな行動に出たのは何か理由があったんだろ? 乱暴な事はしないから話してくれないか?」
 篠崎が諭すように言葉を投げかけると「‥‥おかあさん」と鉄太がポツリと呟いた。
「さっきの、キメラ‥‥おかあさんに、似てたんだ‥‥」
 鉄太がポケットから取り出したのはくしゃくしゃになった家族写真。まだ鉄太が幼い姿なのは、きっと眠り続ける前に撮った写真だからだろう。
「おかあさんに似てたから、退治される所は見たくなかったんだ‥‥。それってそんなに悪い事なの? 蛍のいう『大人』って何? 知ってる人に似てるから嫌だなって思うのは俺が子供だから? 大人になるためには、そういう事を考えちゃいけないの?」
 鉄太が雪代に向けて言葉を投げかける。
「あ‥‥」
 雪代は鉄太に返す言葉が見つからず、口ごもり、視線を彷徨わせていた。
「動揺するのは悪い事ではありません。その感情は尊いものですから‥‥」
 終夜が鉄太に言葉を投げかける。
「僕は何を言えばいいのかわからないけど‥‥鉄太さんの気持ちはわかります」
 神名田が俯きながら呟く。
「‥‥‥‥」
 エドワードは鉄太にかける言葉が見つからず、口をつぐんでいる事しか出来なかった。
(こういう時、一体どんな言葉をかけてやれば良いのか‥‥。こういう場面じゃ思いつかないな‥‥ここは黙って何も言わない方が正解なのかな)
 下手に言葉を投げかけ、傷つけてしまうよりも黙って状況を見ていた方がいいのかもしれない――エドワードはそう判断した。
「私から、一つ言わせてくれ。キミの抱える不安は相当なものだったんだろう。だけど、キミの混乱は、共に戦う仲間を危険に曝したんだ」
「あ‥‥」
 ルーガの言葉を聞き、鉄太はバツが悪そうに俯きながら「ごめんなさい」と呟く。
「キミがいくつであれ‥‥能力者として戦場で戦うつもりなら。もう、このような事がない事を願いたいものだな」
「鉄太!」
 篠崎が大きな声で鉄太を呼び、がばっと土下座をしてきた。
「事情も知らずに無神経な事をして悪かった! でも、次からはそこにいる可愛い彼女にでも相談してくれ、一人で抱え込もうとしなくていいんだから」
 篠崎の言葉に、鉄太は小さく頷く。
「七海さんには‥‥大事な人がいるんだね‥‥一人じゃないなら、きっと大丈夫だよ‥‥」
 幡多野が優しく言葉を投げかけると「‥‥うん」と言葉を返す。
「それに、似ているだけだとしても‥‥誰かがやらなくちゃ、犠牲者が増えるだけなんだ。キメラは‥‥キメラでしかない。どんなに似ていようとも、母親じゃないんだよ」
 幡多野の言葉を鉄太はわかっていた。けれどやっぱりキメラを見ると母親の事を思い出して、納得する事が出来なかった。
(あたしだって、色々不安な事はあるのに‥‥)
 けれど、そこで雪代も気がついた。彼女自身も不安な事を鉄太に伝えてはいないと言う事を――。
「鉄太、これからは何でも言って。どんな些細な事でもお互いに支え合って行こうよ」
 雪代は鉄太の手を取りながら言葉を投げかける。
「‥‥うん。みんな、ごめんなさい」
 鉄太は深く頭を下げながら、能力者たちに謝る。
「次、同じような事がなければいい。誰だって迷いや過ちはある物なんだから」
 ルーガが呟くと「そうですよ、僕に頼ってくれてもいいんです!」と神名田が胸を張りながら頷き、呟く。
「こう見えてもあなたよりお兄さんなんですから!」
 みんなから優しい言葉を投げかけられ、鉄太の瞳からは涙が溢れてくる。
(それにしても、母親に似たキメラ――これは偶然なんだろうか)
 幡多野は疑問に思ったけれど、それを口にする事はなかった。理由は徒に能力者たちの不安を煽るような事を言いたくなかったからだ。
「帰りましょう。そろそろ暗くなってきますから‥‥」
 終夜の言葉に頷き、能力者たちは高速艇へと乗り込み、報告のためにラストホープへと帰還していったのだった。


END