●リプレイ本文
―― キメラ退治のために集まった能力者たち ――
「今回はご迷惑をおかけしますが、どうぞ宜しくお願いします」
ぺこり、と丁寧に挨拶を行うのはオペレーター訓練生の室生 舞(gz0140)だった。
「今日はボクの我儘で一緒に着いて行く事にしちゃて、本当にごめんなさい」
やっぱり引け目があるのだろう。舞はしょんぼりとしながら能力者たちに言葉を投げかける。
「いや、俺は気にしていないから大丈夫だ。俺たちがちゃんとすれば問題ない事だしな」
愛輝(
ga3159)が舞の頭をぽんと軽く叩きながら言葉を返す。
「それに住人たちの為にもキメラを退治しないとな。遠くから眺める花も良いが、近くで楽しみたいだろうし」
「そうですね。それに今は散り頃‥‥散り始めた桜というのも、また風情があっていいものですよ」
加賀 弓(
ga8749)が資料を読み、穏やかな笑みを浮かべながら呟く。
「今回はキメラ退治が目的‥‥ですね。もちろんお花見もする事を忘れてはいませんけど」
まずはキメラ退治からです、加賀は苦笑しながら言葉を付け足した。
「へぇ、今回の場所って桜が綺麗な場所なんだね。桜花乱舞、まさに日本の心だね」
群咲(
ga9968)が資料に挟んであった、昨年の桜の写真を見ながら感嘆のため息を漏らして呟く。
「俺は蓮田 倍章(
gb4358)だ、宜しくな」
蓮田が能力者たちに挨拶を行った後、資料を読み始める。
「桜の中、剣士で女性型ってなんかの比喩か?」
そういえば桜の木の下には死体が埋まってるって話もあったなぁ、と蓮田は心の中で呟きながら資料の続きを読み始めたのだった。
「みんな強いから、ボクの出番はないかも」
苦笑しながらソーニャ(
gb5824)が呟く。
「でも、それはそれでいいかな。だってこんなに素敵な場所に招待してくれるんだから。ね、舞さん」
昨年の桜の写真を見ながらソーニャがにっこりと微笑み、舞へと言葉を投げかける。
「はい! 桜、凄く楽しみです」
「まぁ、私たちがキメラを退治するまではお花見はお預けだけどね。こんなに人がいるんだし、ソーニャくんが言うようにみんな強いから心配は無用だろうけどね」
夢守 ルキア(
gb9436)がソーニャと舞に言葉を投げかける。
(うーん‥‥どうするかな)
エドワード・マイヤーズ(
gc5162)が唸りながら心の中で葛藤している。
(エースアサルト3人、グラップラー1人、フェンサー1人‥‥それに他の面子を見ても、僕自身が戦闘に参加する事は皆無に等しいね‥‥)
エドワードは苦笑しながら、心の中で呟く。
(でもオペレーターの子が危害に巻き込まれないよう、色々な可能性を想定しておかないといけないかな‥‥)
ちらりと、唯一の一般人である舞を見ながらエドワードは小さく頷いていた。
「春だな‥‥。無粋なキメラなどさっさと片付けて、酒宴と行きたいものだな!」
ルーガ・バルハザード(
gc8043)が不敵に微笑みながら呟く。ちなみに今回の花見で彼女は料理を振る舞うつもりでいる。
「さぁ、それでは参りましょうか」
加賀が呟き、能力者たちは高速艇に乗り込んで目的地へと出発していった。
―― 花咲く場所で ――
今回キメラが現れたと報告があったのは、見事な桜が咲き並ぶ広場だった。例年なら、街の住人たちで盛大なお花見が行われていたのだろうが、今年はキメラが現れてお花見どころではないらしく、誰もいなく、はらはらと散る桜がとても悲しげに見えた。
「資料ではこの広場にいるとの事だが‥‥」
愛輝が周りを見渡しながら呟く。広場には子供が遊べるように様々な遊具もあるため、パッと見ただけではキメラを発見する事が出来ない。
「人型の敵、か」
群咲がポツリと呟く。
(人間の姿をした敵ってのは、なんつーか‥‥やりづらいとまでは言わないけど、やっぱり後味は良くないんだよね‥‥)
群咲は心の中で呟きながら、小さなため息を漏らした。
「この桜を火器で傷つけるわけにはいかないね‥‥」
綺麗に咲き並ぶ桜を見ながらソーニャが呟く。
(ボクの役割はキメラが逃げた際の追跡、か)
AU−KVを所持しているソーニャがキメラ追跡の役割を負っていた。
「花見のため、さっさとキメラ退治を終わらせてしまおう」
ルーガは烈火を抜き、周りへの警戒を強めた。
「そんなに複雑な作りの場所でもないですから、少し捜索すればすぐに見つかりそうな感じですね」
加賀が呟き、能力者たちはお互いがあまり離れすぎないような位置を保ちながらキメラ捜索を行う。
「‥‥見つけた」
愛輝が短く呟き、他の能力者たちにキメラの居場所を知らせる。遊具によって見えづらくなっているが、資料にあった通りの外見を持つ女性――が剣を構えて、能力者たちを見据えていた。
「あんまりうろちょろしないでくれ、桜に傷がついたら困る」
愛輝は低い声で呟き、能力者たちも戦闘態勢を取り始めたのだった。
―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――
「行きます」
加賀は小さく呟いた後、鬼蛍を構えてキメラへと接近する。加賀の接近によってキメラが移動しようとしたけれど、愛輝の射撃によってキメラは移動する事が出来なかった。
(ふむ、思っていたような腕の鈍りはなさそうだな)
攻撃を仕掛けた愛輝は心の中で呟き、小銃S−01をしまい、機械剣αを構えてキメラへと攻撃を仕掛ける。
次第に戦闘の感覚を取り戻してきているのか、攻撃を行うたびに少し楽しそうな表情にも見えた。
「ほら、そっちばかりじゃなくてあたしの相手もしてほしい、な!」
群咲はキメラに攻撃を仕掛けながら叫ぶ。彼女の役割は前衛でキメラを引きつけるというものだった。後方には一般人である舞もいるわけで、キメラが後方に行ってしまえば、舞が無事ではなくなる可能性も出てくる。
(だから、あたしがここでキメラを引きつけておかないと‥‥!)
「蓮田流先行術、穿孔! ってね!」
蓮田がスキルを使用しながらキメラへと攻撃を仕掛ける。攻撃の際に舞い散る花びらが攻撃を華麗に見せていた。
「なんだ、キメラだって美しく舞えるじゃないか」
攻撃を受けているキメラを見ながらソーニャがポツリと言葉を漏らした。能力者たちの攻撃を受けている姿がソーニャには舞っているように見え、はらはらと舞う桜の花びらがその美しさを際立たせているように見えた。
「‥‥でも、キメラに美しいなんて言葉は似合わないよ。美しいなんて言葉が似合うのは、毎日を必死に生きている者だけなんだから」
夢守が呟き、能力者たちが早くキメラを退治できるようにスキルを使用して、能力者たちの武器を強化した。
「む、こっちに来るつもりなのかね」
エドワードは後方へと向かってくるキメラに気づき、スキルを使用して自身の防御力を上昇させる。万が一、舞に危害が加えられた時、自分が庇うためだろう。
「そっちは、キミが行く場所じゃないよ」
AU−KVを操り、まるでダンスのように舞い、大鎌を振り上げながらキメラへと攻撃を仕掛ける。
「残念だね。ボクたちは一緒に居られない。もう、お別れの時間だよ」
ソーニャはキメラの背後から攻撃を仕掛けた後、微笑みながら呟く。
「舞くん、もう少し後ろに下がっていてくれるかい? 万が一の事があったら大変だからね」
「わ、分かりました‥‥」
夢守の言葉を聞いた後、舞は頷き、更に後ろへと下がった。
「蓮田流波動剣!」
蓮田は剣の振りにあわせて、隠し持っていた小銃でキメラを狙い撃つ。
「そこで大人しくしていてください。これ以上、綺麗な桜に被害が遭っても困りますから‥‥」
加賀は厳しい視線をキメラへと向け、そのまま振り上げていた武器を下す。最初こそ勢いのあったキメラだが、能力者8人との力量の差があったためか、後からは何もする事が出来ず、能力者たちの攻撃を受けるばかりだった。
結局、その後、能力者たちは無事にキメラ退治を行う事が出来て、毎年花見会場になっていた場所を解放する事が出来たのだった。
―― お花見 ――
キメラ退治が終わった後、能力者たちはそれぞれ持ち寄って来たものを広げ始めていた。
「今日はボクが足手まといになっちゃいましたし、お詫びというわけでもないんですけど」
舞は持ってきた荷物の中からお弁当を取り出して、能力者たちの前へと差し出す。
「あんまりおいしくないかもしれないですけど‥‥食べられない事はない、と思います」
お世辞にも上手とは言い難いお弁当だったが、舞が一生懸命作った姿が見てとれて、能力者たちは互いに微笑みあった。
「私もお弁当を持ってきたんですよ。この人数なら食べきれない事はないと思うのですが‥‥」
加賀もお弁当を用意していたらしく、舞のお弁当と一緒にシートの上に並べる。
「あたしはちょっとあっちで水浴びして、血の匂いを落として来るよ。あ、あたしの差し入れはそこの日本酒。飲める人はみんなで飲もうよ」
「私は甘酒とヴァレニエだよ。お酒飲めない人でも甘酒だったら飲めるだろうしね」
「僕もロシアンティーなら持参して来ていますよ。ちなみに英国ではロシアンティーというのはレモンティーの事を指すんですけどね。それについては、こんな話もあって‥‥」
エドワードは自分の持っている知識を他の能力者達に披露し始める。
「‥‥私も、弁当を作って来たんだが‥‥」
ルーガは恐る恐る料理の入っているお重を能力者たちの前に出した。
「こ、これは‥‥!」
ルーガが出した料理を見て、能力者たちは驚かざるを得なかった。
玉子焼きらしきものは炭化しており、からあげだったであろう食べ物は超硬度の黒鉛と化しており、たこさんウインナーは何故か全て足がもげている。
「おにぎりもあるぞ。中身は塩辛、かんぴょう、うずらのたまご、アンチョビ、もずく‥‥だったかな」
「も、もずく? おにぎりにもずく?」
「あぁ、一応言っておくが、味の保証などはしない。決してしないぞ!」
ルーガの説明を聞き、表情を引きつらせている能力者たちだったが夢守は玉子焼きを取って食べ始めた。
「うん、美味しいよ。きっと、頑張って作ってくれたから!」
夢守はボリボリと玉子焼きを食べながらルーガに言葉を返す。
(‥‥玉子焼きって、ボリボリ音がするものだったかな)
愛輝は苦笑しながら、舞、加賀、ルーガの弁当が並ぶシートの上に視線を向けた。
(生きていれば、室生さんと同じ年頃だったか‥‥)
愛輝は舞を見ながら、死んでしまった妹の事を考えていた。妹も花見に連れてきてやれたら、きっと凄く喜んだだろう、そんな事を考え、散りゆく桜を見るため、彼は桜の木を見上げながら妹、そして染井吉野の地に近い故郷に思いを馳せていた。
「せっかくのお花見ですし、一曲歌わせて頂きます」
アイドルでもある加賀が立ち上がりながら呟く。お花見の催しの一つになればよいと考えていた彼女はカラオケセットを用意して、今回の任務に参加していた。
「わ、ボク、凄く聞きたいです!」
舞がお弁当を食べながら嬉しそうに言葉を返し、加賀は歌い始める。
「お、花見の中で歌ってのもいいね」
水浴びと着替えを終えて群咲が能力者たちの所へと戻ってくる。
「んー、この吟醸香がたまんない。日本酒いいよねぇ‥‥うちの国の黒糖紹興酒も美味しいけど」
ぐい、と勢いよく日本酒を飲みながら群咲は他の能力者たちにお酒を勧める。
「うぐ、あ、あねさん‥‥こ、これなに‥‥?」
「おにぎり(もずく)だな」
「水っぽい! 別な意味でヒリヒリするぜ!」
蓮田はミネラルウォーターを一本もらい、おにぎりを飲み下すようにがぶがぶと水を飲み始めた。
「エルシアンと見てる、空より低いけど、上に来ない?」
お弁当を食べていたソーニャに夢守が言葉を投げかける。
「舞くん、下から見える桜もキレイだけど、桜と同じ目線で見るのもキレイだよ! こっちに来ない?」
舞も誘われ、ソーニャと一緒に桜の木の上に乗り始める。
「うふふ、ほんと、壮絶なまでに美しいセカイだね。こんな風に見上げる空もいいね」
「ホントですね、凄くキレイ‥‥」
「ホント、桜には心を奪う魔性があるのかも。とうに心奪われ誘い込まれたって感じだね」
舞の言葉を聞き、ソーニャが満足そうに言葉を返す。
そんな2人の様子を見て、誘った夢守も楽しそうに笑っていた。
「はじめは小さかったんだろうな‥‥この桜はどんなセカイを記憶しているんだろう」
夢守は桜の木に触れながら、小さな声で呟く。
「ルキア嬢、紅茶の用意が出来たよ」
エドワードが木の下から夢守を呼ぶと「今行くー」とすたっと木の上から飛び降りてしまう。
「え」
「それじゃボクも」
「えっ」
やはり能力者と言う事もあって、夢守もソーニャも木の上から簡単に降りて見せる。
(ど、どうしよう。ボク、あんな風に降りれないです)
どうやって降りようか悩んでいると、群咲が手を広げて「降りといで」と笑いながら舞に言葉を投げかけた。
(まさに見事、だな‥‥)
ルーガは桜を見上げながら心の中で呟き、この平穏がいつまでも続けば‥‥と願わずにいはいられなかった。
結局、能力者たちの花見は夕方を過ぎるまで続き、報告のためにラストホープへと帰還したのは夜遅くになってからだった。
END