タイトル:春が来て、変人出現?マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/28 00:20

●オープニング本文


春が来た。

長い冬に耐えて、俺にも――春が来た!

※※※

「おおおおお‥‥!」

本部の中で叫ぶのは、変態として有名かもしれない大石 圭吾(gz0158)だった。

彼を見ている他の能力者たちは(また変態が何か叫んでるよ‥‥)とくらいにしか思っていない。

「あ、あの‥‥本部内で騒がれると激しく迷惑なんですが‥‥」

女性オペレーターが控えめに、大石に言葉を投げかける。

「キミ! これが喜ばずにいられるものか!」

拳を強く握りしめながら、大石はオーバーなアクションで言葉を続ける。

「これから春だ。春なんだぞ! 褌一丁でも寒くない、これほど素晴らしい事があるだろうか!」

ずいぶんと安くすむ男だな、とオペレーターは心の中で言葉を返す。

しかし、今までは極寒の中でも褌一丁で行動していたような気がするのは気のせいだろうか。

それとも、もしかしたら、万に一つ、いや億に一つの可能性かもしれないが‥‥。

(この人もまともの部類に入りつつあるのでしょうか‥‥)

オペレーターは心の中で呟いた後(いや、それはない)と首をゆるく振りながら言葉を付け足した。

「こんな素晴らしい気持ちを仲間と分かち合いたい、俺にぴったりな任務はないだろうか!」

無駄に爽やかに言葉を投げかけ、オペレーターは適当な任務を見繕って大石に紹介したのだった。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
香坂・光(ga8414
14歳・♀・DF
千祭・刃(gb1900
23歳・♂・DG
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
ルーガ・バルハザード(gc8043
28歳・♀・AA

●リプレイ本文

―― 春の陽気と相変わらずの大石 ――

「はっはっは☆ 俺の季節がやって来たZE☆」
 きらりんと無駄に爽やかな笑顔を見せながら、大石 圭吾(gz0158)が能力者たちへと言葉を投げかけた。
 これが爽やかイケメンだったら女性能力者からの印象も違うのかもしれないが、所詮は大石、所詮は褌男でしかない。
「大石さん、久しぶり〜♪」
 ばしーん、と大石の背中を平手で叩きながら香坂・光(ga8414)が挨拶をする。
「ぐっ、い、痛いぞ‥‥!」
「あはは、大石さんでも痛みや寒さは感じるんだね♪ とりあえず‥‥今日は轢かれる心配はなさそうで良かったね♪」
 香坂が一緒に任務にあたる能力者達を見渡しながら大石へと言葉を投げかける。何気に「大石でも‥‥」と酷い言葉を言っているような気がするが、付き合いの長い香坂だから許される――いや、馬鹿な大石に対してだからこそ許される言葉なのだろう。
「師匠、お久しぶりです! 戦闘依頼に参加した理由は、より強くなるための修行なんですよね!? 僕は師匠の役に立つために参加しました!」
 宜しくお願いします、ときらきらとした期待のまなざしを大石に向けるのは、彼の弟子である千祭・刃(gb1900)だった。
 しかし、最近では大石の無能っぷりに弟子の彼ですら腹黒い部分を見せるようにもなって来ている。
 その証拠に――‥‥。
(戦闘ではまったくといっていいほど役に立たない事は分かっています。なので僕たちが倒す事になるんですよね。はぁ‥‥キメラが1体だけというのが幸いです)
 これが千祭の心の言葉、本音である。
 弟子からも生温い、むしろ冷たい視線を投げかけられる大石に『師匠』と呼ばれる資格があるのだろうか?
「はっはっは☆ 今日の俺はいつもとは違うぞぅ! なんたって、褌を新調して任務に挑むんだからな!」
 大石が千祭に返す言葉を聞き、普段の大石を知っている人物は(あんた、それいつもじゃん)と心の中でツッコミを入れられている事を大石自身は知らない。
「大石さん‥‥何故か哀れダ」
 ほろり、と同情のまなざしで大石を見るのはラサ・ジェネシス(gc2273)だった。
「昔は褌愛好家なだけで任務もそれなりにこなしていたみたいなのに、今じゃ変態扱いカ。世知辛い世の中なのダ‥‥」
 ラサが同情しているが、恐らく大石本人は全然そんな事など考えていないだろう。
 何故なら、BAKAなのだから。LHには多くの能力者たちが存在するが、その中でも大石のBAKA度を超える能力者はいないだろう。
「‥‥春が近いとはいえ、褌一丁とは‥‥ある意味では気合いの入った御仁だな」
 ルーガ・バルハザード(gc8043)が小さく呟く。彼女自身、共に任務を行う仲間がオカマだろうが変態だろうが褌一丁だろうが、全く気にしない――役に立つ限りは。
「大石殿、簡単な依頼とはいえ、いくらなんでもその格好は危険ではないか?」
 何故、防具をつけない? と言葉をつけたすルーガに香坂や千祭は苦笑しながらその様子を見ていた。
「答えは簡単だ」
 ふ、と大石が薄く微笑みながら――「俺が褌を大好きだからだ!」と胸を張って答える。
「‥‥‥‥そうか、まぁ、簡単な依頼とはいえ油断はしない事だ」
 ルーガは大石に言葉を返す。
「あはは、ルーガさんってば本気で困ってる感じだね」
「師匠の褌一丁なんて今さらなんですけどねー」
 ルーガと大石の会話を聞きながら、香坂と千祭はそんな会話を行っていた。
「そういえば、今回は狼のキメラなんですね――狼、か‥‥」
 終夜・無月(ga3084)が資料を読みながら呟く。
(まぁ、大石さんを含めて6人――‥‥苦労するとは、思えませんが‥‥)
 終夜は集まった能力者達をちらりと見ながら、心の中で呟く。
「そろそろ、出発しますか‥‥? 夜になると、こちらが不利になりますし‥‥」
 終夜が呟き、能力者たちは大石に対して僅かな(かなりの)不安を抱きながら、高速艇へと乗り込んで、目的地へと出発していったのだった。


―― 所詮は褌、所詮は大石 ――

 今回の能力者たちは、人数も大石を入れて6人と言う事もあり、班を分けずにキメラ捜索を行う作戦を立てていた。
「森の中とはいえ、昼間ですから捜索には苦労しないでしょう」
 千祭は足音や木の枝の音などに聞き耳を立てて、不審な音がないかを確認している。
「キメラ退治も大事だけど、大石殿を変態から脱却させ、変人くらいにしたいナァ‥‥。ちょっと変わった人くらいなら傭兵には沢山いるし、警察に捕まらない程度に更生させたいんだけド‥‥」
 ラサの呟きに「師匠は過去に捕まった事がありますよ」と千祭が呟き、香坂も「あったねー」と苦笑しながら頷いた。
(す、既に遅かったのか‥‥!)
 しかし、と心の中で言葉を付け足しながらラサはちらりと大石を見る。後ろから見る姿はとてもじゃないけど、女性であるラサの視界に入れるにはキツすぎるものでもあるのだが。
「森の中はトゲもあるし、虫もいるし、褌だけだと辛そうダ‥‥」
「その辺の感覚は大石さんにはないんじゃない? そういうのがあったら褌一丁で歩いてないだろうし」
「言えてますね」
 何故か辛辣な言葉が香坂と千祭から返って来て、ラサはほろりとした気持ちになっていた。
「しかし、視界が悪いな‥‥」
 木の枝などを避けながら、ルーガが呟く。昼間だし、森の中にしては視界が良い方だとは思うのだが、それでも木の枝などが捜索の邪魔をしている。
「それほど、広い場所でもなさそうですし‥‥いずれは見つけられると思うのですが‥‥」
 終夜が周りを警戒しながら呟く。
 確かに彼の言う通り、歩いていればキメラを見つける事は出来るだろう――が、それが能力者達から仕掛けられるか、それともキメラから奇襲を仕掛けられるか――のどっちかで状況が変わってくる。
 いくら大した事はないキメラとはいえ、奇襲を受ければ立て直すまでに時間がかかるし、どんな被害が出るか分からないからだ。
「やぁやぁ、捜索しているとはいえ、時間を有効に使おうじゃないか」
 きらり、と歯を輝かせながら大石が「じゃーん」と取り出したのは、言うまでもなく褌だった。
「褌はいいぞぅ。開放的で、日本人が忘れている心を持っているんだから! みんなも褌を締めてサムライになろうじゃないか!」
 親指をビシッとたてながら言う大石を見て、能力者達が思う事は1つだった。

『サムライとか日本人を一番馬鹿にしているのは、あんただろう』

 大石はまるで自分が日本人代表、侍代表――のように言っているが、全力で謝れと言いたくなる。
「褌を勧めてくるのは相変わらずだねぇ‥‥あ、あたしは褌してるからいらないよ」
 香坂が苦笑しながら大石に言葉を返す。
(レディ用の褌もあるのカナ? いや、それでもしないけど‥‥)
 ラサは心の中で呟く。
「ふん、私は下着類は『Luneria』で統一すると決めているんだ。他の人に言ってくれ」
 ルーガが言葉を返すが「いや、褌の良さを分かってもらえるまで離れない!」と変態のような(変態だけど)言葉を投げかけ、ルーガは思い切り眉をひそめた。
「‥‥みなさん、キメラが見つかりましたけど‥‥」
 終夜が少し遠くを指差しながら、能力者たちへと言葉を投げかける。彼が指している方にはこちらを見ている狼キメラの姿がある。
「師匠、キメラをさくっと倒して下さい、師匠なら朝飯前ですよね?」
「‥‥‥‥え?」
 弟子から向けられる期待のまなざしを受け、大石が一歩退く。
「退治が終わったら新しい褌をたくさんプレゼントしますよ!」
 千祭は大石が褌につられてやる気を出してくれればいいと思い、名付けて『大石を褌で釣って戦わせちゃおうZE☆』大作戦を実行していた。
(‥‥もし、これでもダメなら幻滅ですね)
 これ以上弟子から幻滅される事があるのだろうか、と問いかけたいが大石は「う〜〜〜ん‥‥」と腕を組みながら悩んでいる。
 もちろん、その間にもキメラは能力者達に向かって走って来ているのだけれど。
「よ、よし! 俺も褌を担う男だ。ここで退いたら褌が廃ってしまう!」
 ぐ、と拳を強く握りしめながら叫ぶ大石を見て「さすが師匠!」と感激に満ちた視線を向ける。
 しかし心の中では(既に廃っています)と弟子が考えている事なんて、大石は夢にも思わない事だろう。


―― 戦闘開始・たまには大石だってやる気を出すんです ――

「キミに恨みはないが、褌のためだ‥‥潔く散ってくれ!」
 武器を構え、真剣な表情で叫ぶ大石はかつてないほどにやる気を見せていた。
「し、師匠があんなにやる気を見せてくれるなんて‥‥!」
「最近任務に出てなかったから新しい褌を買えなかったんだ、弟子から褌をもらうためにも、俺はキミを倒すぞぉぉぉげふっ!」
 叫んでいる間にキメラから攻撃を受け、防御力0に近い大石は派手に吹き飛ばされ、ぷるぷると震えていた。
「しっかり戦わんかぁ、大石ィっ! ‥‥褌ごと、根こそぎもぎ取るぞ!」
 ルーガが大きな声で叫ぶ。一体何をもぎ取るつもりなのか、その答えを能力者たちは恐怖から聞けなかった。
「あ、あはは‥‥流石に大石さんから褌をなくしたら(色んな意味で)危険すぎるよ‥‥」
 苦笑しながら香坂が呟き、そして「あの程度のキメラ、大石さんが出るまでもない!」と叫んで、服をばさっと脱ぎ始め、大石ルック(女性なので上半身は真似していません)でキメラへと攻撃を仕掛けた。
「‥‥行きます」
 終夜は小さく呟きながら、呪歌を使用し始める。
「Unbeaten hero is proud loneliness――無敗を誇る孤高の英雄――」
 詠唱しながら終夜が詠い始める。
「せっかくやる気を出した師匠を攻撃させるわけにはいきません!」
 千祭はスキルを使用しながら、名刀・国士無双と長刀・乱れ桜をキメラへと向けて振り下ろす。
「With no enemy therefore an enemy is the beast of ones inside――無敵故に敵は己の中に巣食う獣――」
「大石殿、しっかりしテ!」
 大石はキメラから受けた傷をラサの救急セットで治療してもらっている。
「お、俺が死んだら‥‥褌を海に流して‥‥」
「そこまでの大怪我じゃないよ! 何故か分からないけど無防備で受けたにしては奇跡的な軽傷だヨ!」
 それにゴミを海に捨ててはいけません、とラサは言いかけてその言葉は飲み込んだ。
「そんな所で寝ている暇があったら、さっさと戦線復帰しろ、大石ィッ!」
 ルーガがスキルを使用しながらキメラに攻撃を仕掛け、大石を叱咤する。
「Therefore I will the body is bound with the CHAIN OF HEARTS――だから私は自らの心を鎖で縛ろう――」
 終夜の詠唱が終わると、キメラの動きが止まり、能力者たちはその隙を見逃さずに攻撃を仕掛ける。
「大石殿! 今ダ、褌と心を1つにするんダ! 褌を信じるんダ! 大石アルティメット褌スパークだ!」
 ラサはキメラの視界を塞ぐようにペイント弾を使用しながら、大石を持ち上げ、やる気を出させる。
「うおおおお、俺だってェェェェェ!」
 やる気を取り戻した大石は能力者たちの援護を受けながらキメラへと攻撃を仕掛ける。
「素晴らしい、やれば出来るではないか、大石殿!」
 大石が攻撃をした後、ルーガも攻撃を仕掛けながら大石を褒める。
「師匠、師匠もただの役立たずじゃなかったんですね‥‥!」
 千祭が涙ぐむように呟く。弟子と師匠、役割が逆になっているような気がするのは気のせいなのだろうか?
(‥‥やる気を見せなかった時のために赤褌を用意してきましたが、使う必要はなかったみたいですね)
 所持品の中の赤褌の事を思い出しながら終夜が心の中で呟く。
 そして、終夜のスキルによって動きを止められているキメラは香坂、ルーガ、千祭、ラサ、そして大石の総攻撃によって無事に退治されたのだった。


―― 大石もやる時はやるんです ――

「師匠、やりましたね!」
 AU−KVを装着したままだったけど、千祭は感激のためか大石に抱き着く。
「‥‥ほぅ、もしや貴公らは同姓あ――「子弟愛です!」――そうか」
 ルーガの言葉に千祭が断固として否定する。それはそうだろう。大石が男にしては美しいと言うのであれば、そういう愛もあるかもしれないが、ムッキムキのムッサムサのおっさんである。千祭としては師匠といえど、そんな男と噂にはなりたくないと思うのが普通である。
「師匠、お約束の褌は改めて用意しますね!」
「おお! 待っているぞ、弟子よ!」
(‥‥大石殿、我々が褌だ――って決め台詞を言おうかと思ったケド、やめておこう。噂になると恥ずかしいし、知られたくなイ)
 ラサは心の中で愛する人を思い浮かべながら、苦笑した。
「あ、これだけは言っておかねバ‥‥大石殿、宇宙に褌だけで行くと死ぬからネ」
 気をつけて、とラサが言葉を付け足したのだが‥‥。
「え? 俺って宇宙に行くの?」
 きょとんとしたような表情で問いかけられ「‥‥地球で大人しくしていて下さイ」としかラサは返す言葉が見つからなかったのだった。
「大石殿、貴公はやれば出来るのだから今後も精進していくといい」
 うん、と後輩であるルーガに言われ「おお、頑張るぞ。褌のために!」と大石は大きな声で笑い始めたのだった。

 その後、報告のために能力者たちはLHへと帰還したが、報告を受けたオペレーターは大石が僅かでも働いた事を知って驚いたのだとか‥‥。
 しかし働いても働かなくても大石が褌一丁なのは変わりなく、変態扱いも当分、いやずっと収まる事はないだろう。

END