●リプレイ本文
―― 能力者&ネコタマ、出発 ――
「‥‥というわけでネコタマが死なないように宜しくなのですよ!」
びしっと敬礼をしながらネコタマが一緒に任務を行う能力者達に挨拶をした。
「‥‥いい加減スキルを手に入れたらどうだ。狙撃眼と隠密潜行、プローンポジションがあるだけでだいぶ違うはずだが、あとアサルトライフル」
キリル・シューキン(
gb2765)が呆れたようにため息を漏らし、ネコタマへと言葉を投げかける。
彼が呆れるのも無理はないだろう。今まで幾度となくネコタマにアドバイスをして修行をつけて、それでも彼女は成長の素振りを見せないのだから。
「いやぁ、何ていうかネコタマ的に毎日の生活がカツカツ過ぎて余裕ないんですよね!」
爽やかな笑顔で言葉を返すネコタマだったが、巻き込まれる能力者達としては冗談ではない。
「我儘言える立場か? 俺達殺しかけたんがなんば言いよいか?」
ネコタマの背後から二刀を突き付け、冷たく言い放つのは守原有希(
ga8582)だった。
「ぎゃあああ! ネコタマは攻撃するものじゃありませんよ! 何て事してんですか!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ、ネコタマが「人殺しィィィ!」と叫ぶが「お前が言うな!」と守原がツッコミを入れる。
「まぁまぁ、任務が始まる前から殺伐とするのもどうかと思うし‥‥」
苦笑しながらエイミー・H・メイヤー(
gb5994)が守原を宥める。
「ネコタマ‥‥可愛らしいニックネームだね。ネコタマ嬢とお呼びしてもいいかな?」
エイミーは恭しくネコタマの手を取り、一礼しながら問いかける。
「も、もちろんですよ! むしろ嬢はいらないですから!」
「噂に違わずチャーミングだ」
真っ赤になるネコタマを見て夢守 ルキア(
gb9436)が呟く。
「麗しいレディ。今日は私に、エスコートさせてくれないか?」
「きゃああ! ネコタマ的に初めて麗しいとか言われましたよ!」
(ご一緒するのは今回で3回目ですが、相変わらずのようですね‥‥)
騒ぎ立てるネコタマを見て、音桐 奏(
gc6293)が苦笑しながら心の中で呟く。
(あそこまでこれまで通りだと観察のし甲斐がないのですが‥‥どうなるのでしょうね)
果たして成長出来るのか、音桐は心の中で言葉を付け足す。
「ネコタマさん、宜しくお願いします。今日も頑張っていきましょう。貴方も強くならないと、どんどん強くなっていくバグアやキメラに負けてしまいますよ」
音桐の言葉に「そうなんですよねー‥‥ネコタマ的に死ぬのは嫌なんですよね」とがっくりと肩を落としながら言葉を返した。
「‥‥今回の任務は賑やかになりそうだな」
黒雛(
gc6456)がポツリと呟いた。
「ふむ、ネコタマ殿はあまりモフモフしていないのじゃな‥‥猫なのに」
フェンダー(
gc6778)ががっかりしたようにネコタマへと言葉を投げかけ「キメラはわんこ‥‥モフモフしてると良いのう」と言葉を付け足したのだった。
「ちょ、ネコタマは名前こそ猫っぽいですけど人間ですよ! だからモフモフしてるわけないでしょー!」
「‥‥まだ猫の方がマシかもしれんね」
ぼそりと呟いた守原の言葉に「酷いっ!」とネコタマが大げさにショックを受けて見せる。
「まぁ、誰にでも新兵の頃はあるさ‥‥」
ルーガ・バルハザード(
gc8043)が苦笑しながら呟く。
(‥‥懐かしいものだな。私はあれから『本当の意味』で強くなったんだろうか)
心の中で呟き、ルーガが黄昏ていると「あいつは既に傭兵になって2年目だぞ」とキリルが言葉を投げかけてくる。
「‥‥2年?」
言われた事実に驚き、ルーガがネコタマを勢いよく見る。2年目ともなれば既に初心者の域から出ていなくてはならない。むしろ中堅に近い位置にいるのが普通だ。
(‥‥私は何も聞かなかった)
ルーガは心の中で呟き、ネコタマを2年目の先輩だと思わないようにしようと決めた。
「そろそろ行かないか? あまり遅くなると夜になってこちらが不利になりそうだ」
黒雛が声をかけ、能力者達は高速艇に乗り込み、ネコタマという危険人物を引きつれての任務に出発していったのだった。
―― 捜索 ――
今回の任務はネコタマが選ぶだけあって、初心者向けのものだった。キメラは犬型キメラが1匹であり、街の空き地に潜んでいるという情報も資料には書かれている。
「住人は既に避難済み‥‥戦闘で住人を巻き込む心配はないと言う事ですね」
音桐が資料を読みながら小さく呟く。
「それは?」
守原の持っている物を見てネコタマが問い掛ける。
「肉屋で分けてもらった血と酢やハバネロを混ぜた水、ネコタマさん‥‥こっちの水を持ってきた狙いは分かる?」
中堅だから分かって当然ですが、と守原が言葉を付け足すと「うっ」とネコタマが言葉を詰まらせた。
「そ、そんなの分かるに決まってるじゃん! 喉が渇いた時に飲むんだよね!」
自信満々で言うネコタマに守原は殴りたい衝動を必死に堪えた。
「経験則だと元の弱点を失くして、長所強化が動植物キメラの常道。犬なら嗅覚強化があれば逆手に取れると思って持ってきたんです。誰がこんな物を飲むか」
丁寧に説明してやると「ま、まぁ‥‥それくらい知ってましたけどね〜」とネコタマは視線を逸らしながら言葉を返した。
「‥‥何というか、我が言うのも変じゃがおさえるのじゃ」
ぽん、とフェンダーが守原を慰めるように言葉を投げかける。
「そういえば、依頼でご一緒するのは久しぶりですね」
思い出したように音桐が夢守に言葉を投げかける。
「あぁ、確かにそうだね。挨拶が遅くなったけど今回は宜しく」
夢守の言葉に「こちらこそ」と音桐も答えた。
今回、能力者たちは班分けをせずに固まって行動すると言う作戦を取っていた。
キメラが一匹だから、という事もあるだろうが理由の大半は恐らくネコタマの事を考えてなのだろう。
「まぁ、気負わずとも我がいれば87.2%の確率で依頼は成功するのじゃ」
がちがちになっているネコタマにフェンダーが言葉を投げかけるのだが‥‥。
「ネコタマ的に100%じゃないと嫌ですよ! 何ですか、その妙にリアルな数字は!」
(我以上にわがままな女なのじゃ‥‥)
心の中で呟きながらフェンダーは小さくため息を吐く。
「どう? 何か分かった?」
エイミーがフェンダーに声を掛ける。街に到着してからフェンダーはスキルを使用して地面や壁に伝わる振動を聞き逃さないようにしていた。
「どうやら、まだキメラは姿を現さないみたいだね」
フェンダーの表情を見て、夢守が呟く。
「ネコタマ、まさか他の能力者がいるから自分が何もしなくても大丈夫‥‥そんな事は考えていないだろうな?」
ルーガが問い掛けると「ま、ままままさか」と挙動不審な言動をネコタマが見せる。
「それぞれ仲間には『役割』がある。敵の攻撃を防ぐ者、その隙を突いて攻撃する者、仲間の傷を癒す者‥‥皆がそれぞれ役割を果たす」
だからこそ戦況を動かせるのだ、とルーガは付け足し、言葉を続ける。
「誰か1人でも甘えて怠けている者がいれば、それこそ全員が巻き込まれ命を失うのだ。そう‥‥『誰か1人』でもな」
お前も与えられた役割をきちんとこなしてみせろ、ルーガはそういう意味合いでネコタマに言葉を投げかけたのだが、彼女が言葉の意味をきちんと読み取る事が出来たのか、ルーガには分からなかった。
「あたしが絶対にネコタマ嬢に攻撃させないから、だから頑張ろう」
エイミーの言葉にネコタマは震えながらだったが、小さく頷く。
「む‥‥」
何かを感じ取ったのかフェンダーがぴくりと動きを止めた。
「ここから60、いや50mほどの所に何か動きがある。数は1つ、人の動きではないから恐らくキメラで間違いないじゃろう」
フェンダーの言葉に能力者達の警戒も強まる。
(そういえば彼女はキメラをもふると言っていましたが、本当にやるのでしょうか)
音桐は興味深そうにフェンダーを見ながら、他の能力者達と同じく戦闘態勢を取り始めた。
―― 戦闘開始、能力者 VS キメラ ――
警戒をしながらゆっくりとその場所に向かうと、確かに犬型キメラがいた。守原の言う通り、嗅覚に特化しているのか能力者達が近づいた途端に、こちらを向いて唸り始める。
キメラが能力者たちの所へ向かう前に守原が嗅覚を潰す為の水をまき始める。人間である能力者たちでさえ、鼻を塞ぎたくなるくらいの匂いを感じているのだから犬型であるキメラはどれだけの匂いを感じている事だろう。
「‥‥コーシェチカ、こちらは正面でぶつかり合うからお前は側面に回ってあいつの頭を吹っ飛ばせ」
キリルがネコタマに指示を出しながら、キメラへと向かって駆けだす。
「ええええ! ネコタマ的にそんな事いきなり言われても!」
「ネコタマ嬢、落ち着いて‥‥落ち着けば出来る筈です」
「標的に銃口を向け、トリガーを引く。大丈夫だよ」
エイミーがネコタマを落ち着かせ、夢守が攻撃を行うように促す。
「私も援護しますので頑張ってください。もし、逃げたら‥‥分かっていますね?」
音桐が微笑みながらネコタマに言葉を投げかける。
だが、その微笑みにはどこか黒いオーラが漂っているような気がしてネコタマは首を何度も縦に振って答えるしか出来なかった。
「俺たちがお前を守る。ネコタマ、お前は攻撃する事だけを考えればいい」
黒雛が盾を構え、ネコタマに言葉を投げかける。
「ふむ、モフれる時間があればモフモフしたかったんじゃが‥‥流石に今の状況でそれをするのは無理そうじゃのう」
残念じゃ、と呟きながらフェンダーは呪歌を使用し始める。
(くっ、キメラそのものは大した事なさそうだが‥‥このまま長引けば万が一、という可能性もあるな)
ルーガはキメラの攻撃を防ぎながら心の中で呟く。
「ネコタマさん! 気を逸らすからその時に!」
守原が声をあげて、ネコタマへ攻撃をするように指示を出す。守原の言葉と同時にフェンダーの呪歌が発動し、キメラの動きが止まり始める。
「ネコタマ殿! 動きを止めたのじゃ、今がチャンスじゃ!」
フェンダーが大きな声で叫び、ネコタマが攻撃を仕掛けたのだが‥‥。
「外した‥‥じゃと? いや、多分、我の見間違いじゃな‥‥そうであって欲しい」
まさか呪歌で動けないキメラ相手に狙いを外すなど誰が予想しただろうか。
「‥‥‥‥」
「え、えへ、は、外しちゃった☆」
笑って誤魔化そうとするネコタマだったが「‥‥コーシェチカ」とキリルが低い声でネコタマを呼ぶ。
「ひぃっ! な、なんですか! ネコタマ的にちゃんと攻撃しましたよ! ただ外れただけですよ! サボってないですから!」
必死に言い訳するのだが傭兵歴2年のネコタマが初心者向けの依頼、しかも相手は動けない状況にも関わらず狙いを外した事――これは許される事ではない。
(そういえば、あたしも狙撃は苦手でしたね)
ネコタマがキリルに怒られる様を見て、エイミーが心の中で呟く。だがエイミーは前衛気質だから狙撃が苦手という事であり、明らかにスナイパーなのに狙撃が苦手という役立たずのネコタマと同列で考えるわけにはいかない。
「ほら、止まっている暇はないよ。早く倒しちゃおう」
夢守の言葉に「次は外さないで下さいね」と守原が笑顔でネコタマに念押しをする。
「まぁ、仲間に当てなかっただけマシなのかもしれませんね」
苦笑しながら音桐が呟く。
「一度外したからと言って諦めるな。まだチャンスはやってくる」
ルーガがキメラに攻撃を仕掛けながらネコタマへと言葉を投げかける。
そして再びフェンダーが呪歌を使用してキメラの動きを止める。
「‥‥まったく私も甘やかしすぎかな、そらっ!」
キリルは呟きながらスキルが切れた後でもキメラが動けないよう、機動力を削ぐ。
「さぁ、頑張って」
夢守がネコタマを励まし、ネコタマがキメラを狙って攻撃を行う。
「今度は外れこそしなかったが、かすめたばかりか‥‥」
苦笑しながら黒雛が呟く。
「だ、だってネコタマ的になんていうか‥‥」
このままこうしていても同じ事の繰り返しだと感じた能力者たちは、自分たちがキメラを退治する事を選んだ。
キリルと夢守が援護を行い、黒雛とルーガがキメラへと攻撃を行う。能力者とキメラの間には元々大きな力の差があったせいか、予想よりも早くキメラを退治する事が出来たのだった。
―― ネコタマ的反省会&修行の道 ――
「‥‥コーシェチカ。能力者になって何年目だ?」
キメラ退治が終わった後、ネコタマは正座をさせられて説教を受けている最中だった。
「えぇと、どのくらいだったかな」
「2年目だ! に・ね・ん・め!! やはり今回も特訓だ! 狙撃中心! こうなったら蛇も食わせてやる!」
「ぎゃあああ! ネコタマ的にあなたが悪魔、鬼、悪代官に見えるですよ!」
キリルの言葉にネコタマがぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。
「次からはもっと役に立つよう、特訓をしてあげます。常に甲冑着用、そしてそのままLH一周走ってもらい、その他にも色々としてもらいます」
守原も笑顔でネコタマへと言葉を投げかけ、逃げだそうとした彼女を即座に捕まえる。
「あたしも一緒に特訓するよ。実はあたしも狙撃が苦手だからね」
一緒に頑張ろう、とエイミーがネコタマに言葉を投げかける。
「私もしようかな?」
途中でサボるかもしれないけど、と夢守は心の中で呟き(特訓はサボるのが醍醐味じゃん)と言葉を付け足した。
「少しずつ、自分の出来る範囲で頑張っていけばいいと思う」
「黒雛さん! だったら助けて! ネコタマ的に今は頑張る所じゃないと思うのです!」
手を伸ばして助けを求めるネコタマだったが「‥‥全く頑張らないというのはどうかと思う」と黒雛からも見放されてしまい、守原から引きずられるようにキリルの所へと連れて行かれたのだった。
「楽しそうじゃ、我も混ぜるのじゃ!」
(若い、な‥‥あの頃の私も若く、そして弱かった‥‥。あの頃より今は強くなってはいるだろうが、何かを失くしているような気がする)
彼女はまだそれを持ち続けているのかもしれないな、言葉を付け足しながらルーガは空を仰いだのだった。
その後、ネコタマの悲鳴が響く中、能力者達はLHへと帰還していったのだった。
END