タイトル:もやしの家でクリスマスマスター:水貴透子

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/31 01:48

●オープニング本文


まぁ、たまにお世話になってるからね。

今日は私がもてなしてあげるわよ、しもべ共。

※※※

クリスマスパーティーをするから来なさい。
今回は私がもてなしてあげるから、プレゼントとか持ってこなくてもいいからね。
もし持ってきたとしても、私の屋敷の使用人にあげちゃうからね。

――キルメリア・シュプール(gz0278)

※※※

それは突然届いた――――真っ黒なハガキだった。

内容はクリスマスパーティーのお誘いのはずなのに、なぜかお葬式に呼ばれているような気分になるのはきっと気のせいではないだろう。

「うわー‥‥クリスマスまで顔合わしたくねぇよなぁ‥‥」

ハガキを見ながら男性能力者が盛大なため息と共に呟くと「クリスマスに過ごしたくない相手ですが、何か?」と背後から飛び蹴りを食らわせられた。

「いって‥‥誰だ「私に決まってるでしょ!」ぶふっ!」

言葉を途中で遮られたあげく、平手打ちまで食らわされ(俺、今年って厄年だったっけ‥‥)と思わず意識が遠のきそうになる。

「わざわざ、もう一回言うわよ? わ、ざ、わ、ざ! この私が誘ってやってるってのに何その態度。しかもこっちがもてなしてやるって言ってんのに、何その態度。ふざけてんの?」

「え、い、いや‥‥別にふざけては「何言ってんのか声が小さすぎて聞こえないわよ!」がはっ」

再びキリーの鉄拳が炸裂し、男性能力者は鼻を押さえて「すべてにおいて申し訳ございません」と土下座しながら謝り始めた。

●参加者一覧

/ 土方伊織(ga4771) / 百地・悠季(ga8270) / 白虎(ga9191) / 仮染 勇輝(gb1239) / 神咲 刹那(gb5472) / 諌山美雲(gb5758) / ガル・ゼーガイア(gc1478) / 春夏秋冬 立花(gc3009) / 和泉 恭也(gc3978) / スロウター(gc8161

●リプレイ本文

―― もてなすなんて初めてかもしれないわ、感謝しなさい ――

「はわわ‥‥何です? 何なのです? すっごく、すごーく不吉な予感しかしないのですよ」
 届いた真っ黒なハガキを見ながら土方伊織(ga4771)がガタガタと震え始める。
 そして恐る恐る内容を見ると、凄く予想通りの相手から、これまた予想通りの内容で「聖なる夜が邪悪な夜に早変わりですよー‥‥」とがっくりと項垂れながら、平和なクリスマスを過ごす事を諦めたのだった。
(毎度この季節にはキリーと一緒のような気がするのだけど‥‥招待状で呼ばれたからには駆けつけないとねぇ。今年はそれにも増して報告すべき事柄もあるし)
 百地・悠季(ga8270)が苦笑しながら、クリスマスの招待状としては不釣り合いな真っ黒なハガキを見ながら心の中で呟いたのだった。
「ふ、普通におもてなし‥‥だと!? キリーお姉ちゃん、一体何があったのにゃー!」
 普段のキルメリア・シュプール(gz0278)の所業を知っており、その筆頭被害者でもある白虎(ga9191)はハガキを見て、大きな声で叫ぶ。
(これは罠だ、罠に違いない!)
 キリーの優しさを信じて幾度も裏切られてきた白虎としては『おもてなし』という言葉を信じる事が出来ないのだろう。彼は『おもてなし』を誰よりも警戒してパーティーに挑む事になる。
(パーティー、ですか‥‥。今回は純粋に楽しませてもらいますかね。うん、何事もなければ『黒い部分』を出さずに済むでしょうし‥‥)
 仮染 勇輝(gb1239)はハガキを見つめ、恐らくは招待されているであろうメンバーを思い浮かべながら「‥‥大丈夫かな」と少しだけ不安になる仮染のクリスマス前夜だった。
「クリスマスパーティーの招待状が真っ黒なハガキなんて‥‥さすがはキリーって所だね。甘い物が好きだし、ケーキを買って行ってあげよう」
 ふ、と微笑みながら神咲 刹那(gb5472)は明日のパーティーの準備を始めるのだった。
(キリーさんからクリスマスパーティーのお誘いだ。ふふ、楽しみだな)
 諌山美雲(gb5758)は心の中で呟きながら(あ、せっかくだから今日お店で見たアレをお土産で持っていこう)と言葉を付け足した。
「も、もやしからの招待状‥‥! しかももやしがもてなしてくれるのか! こんな事一生に一度かもしれねぇな、こりゃ絶対参加するしかないだろう!」
 もやしによって不名誉な『どえむ』属性をつけられたガル・ゼーガイア(gc1478)は『キリーからのクリスマスパーティー招待』に浮かれて「よっしゃあ、トナカイのコスプレでもしていくか!」とまだ夜も明けていないうちから準備に明け暮れたのだった。
(キリーちゃんからお誘いかー。しかもあの子がもてなしてくれるって‥‥やばい! 地球が滅びる!)
 春夏秋冬 立花(gc3009)は招待状のハガキを見ながら本気で驚き、あまりの驚きに身体をがたがたと震わせている――いや、震えているのはきっと彼女が寒い中、外にいるからだろうが。
「クリスマス、ですか‥‥何か変わった事をした方がいいんでしょうが――いや、やっぱり普通が一番ですよね」
 和泉 恭也(gc3978)が呟く。
(本当はプレゼントを渡した方がいいんでしょうが、大して親しくないのに個人的なプレゼントというのもアレですかね‥‥)
 うーん、と和泉は悩みながら翌日に控えたパーティーをどうしようかと悩んでいた。
「ひゃっはー! まさか知らん奴から誕生日パーティーをしてもらえるとはなぁ! さすが俺様だぜ!」
 スロウター(gc8161)は夜にも関わらず、激しいテンションでハガキを読み上げている。ちょっと、いや多分近隣の人からは(うるさい)と思われているかもしれない。
「とりあえず、何か持ってった方がいいよな。お、これでいいや」
 スロウターは近くにあった『それ』を3パックバッグの中に入れて「ジングッベ! ジングッベ! 俺様の誕生日―!」と歌い続けたのだった。


―― さぁ、今日は思う存分もてなされるといいわよ、愚民共 ――

「とほほ、プレゼントいらないって書いてあるですけど、大丈夫なのです? 真に受けて持って行かないと苛められたりしないのです?」
 何度も何度も悩みながら、土方は結局ウサミミリボンとムートンコートをプレゼントとして持っていく事にしていた。
(でも、使用人さんたちに渡るなら、まおー様に渡すよりマシな気がすっごくするのです。でもこれを言っちゃうと僕の人生も逝っちゃいそうなのでお口チャックしとくのです)
 ぐ、と唇を強く締めながらキリー宅へと入っていく――と「あらわんこ。あんたが一番だわ」と門前にキリーが仁王立ちで待ち構え――いや、出迎えていた。
(はわわわ、すっごく近寄りたくないのですぅ)
 がたがた震えていると「何してるのよ」と後ろから百地が土方の肩を叩きながら話しかける。一人でキリーに近寄りたくない土方にとって百地はまさに天使のように見えた。
「キリー、クリスマス招待ありがとうね」
 着飾る種類が少し早いけど気にしないようにね、と百地は苦笑しながら言葉を付け足した。彼女の格好は淡い桃色地に椿をあしらった振袖を着ていた。
「にゅ、意外と皆来るのが早かったのにゃー」
 ミニスカサンタの格好で来ていた白虎はキリーを見て「はっ、キリーお姉ちゃん大丈夫かにゃ! また頭でも打ったのかー!」とべたべたとキリーの頭を触りながら問いかける。
「この――――バカ虎! 何べたべた触ってんのよ、このせくはら虎が!」
 思いっきりばちーんと平手打ちを受け(よ、よかった‥‥いつものキリーお姉ちゃん、だ‥‥にゃ)と最後の言葉を共にがくりと倒れる。
「‥‥セクハラ、ですか? こんな朝から?」
 ゴゴゴゴゴ、という効果音と共に現れ、白虎に言葉を投げかけたのは仮染だった。彼は人一倍『せくはら』という言葉に敏感であり、相手がキリーだったら容赦する優しさなど持ち合わせてはいない。
「へぇ、白虎くんがセクハラか。やるもんだねぇ」
 神咲が倒れこんでいる白虎を覗き込みながら問いかける。
「もや〜し! 疲れたトナカイさんを癒してく「うるさいわよ!」ぐはっ!」
 ガルがトナカイのコスプレをしながらやってきて、キリーに話しかけるがタイミングが悪かったとしか言いようがない。
(あ、あれ‥‥今日は確かもやしがもてなしてくれるって‥‥)
 がくり、と白虎の横に倒れこみながら心の中で呟いた。
「キリーさん! 今日は招待してくれてありがとね!」
 倒れている白虎とガルを踏みながら、諌山が持ってきた巨大長靴に入ったお菓子の詰め合わせを「これ、使用人さんたちで食べてください!」とキリーの後ろに控えていた執事見習い、サスケへと渡す。
「あ、今日は宜しくお願いしますね!」
 諌山が他の能力者達へと頭を下げて挨拶をする――もちろん持っていた巨大長靴も傾くのは当然というわけで――キリーの頭に直撃してしまう。
「‥‥馬鹿美雲! あんた狙ったでしょ!? 何で長靴持ったまま頭下げんの! 長靴傾くの予想も出来ないわけ?」
 キリーが一気にまくしたて、控えていたサスケが止めようとしたのだが「うるさいわよ、このヘタレグズ!」とぐーの平手打ち(又の名をパンチ)で攻撃を行い、サスケは地面へと倒れこむ。
「やっほー、お呼ばれしたよー‥‥って何があった! 何で3人も倒れてんの!? やっぱり普段しない事するから地球滅亡の道が開かれたんじゃ‥‥」
 春夏秋冬が「あわわ」と焦りながら呟くが、もちろんキリーの怒りボルテージを上昇させるだけである。
「あんた達、良い度胸してんんじゃ‥‥「ま、まぁまぁ‥‥せっかくのクリスマスパーティーなんですから」‥‥ふん、仕方ないわね」
 やってきた和泉が苦笑しながらキリーを宥めた所に「みんなァー! 今日は俺様の誕生日会に来てくれてありがとうー!」と大きく手を振りながらスロウターがやってくる。
「はっ!? 何で私があんたの誕生日会をしてあげないといけないわけ?!」
「え? 違う? ‥‥‥‥みんなァー! 今日は俺様の結婚式に来てくれてありがとォー!」
「違うから! 何で言い直すわけ? 結婚式にするわけ? これが本当に結婚式ならあんた相手いないんですけど! 一人で結婚式とかマジで寒いから!」
「‥‥‥‥みんなァー! 今日は俺様の「これ以上言い直したら血痕式にするわよ」‥‥じんぐるべーる、じんぐるべーる♪ 俺様やってくるー!」
 キリーのツッコミにスロウターは歌いながら屋敷の中へと入っていった。

 屋敷の中に入った能力者達はシュプール家の犠牲者――又の名を使用人たちによって準備されたパーティーを楽しむためにもてなされていた。
「これ、一応ぷれぜんとなので「いらないっつったでしょ!」はうっ!」
 土方がおずおずと差し出したプレゼントはウサミミリボンがサスケに渡り、ムートンコートはメイドのモニカへと渡ってしまう。
「もやしー! これは俺からの「何度言わせるわけ? いらないって言ったでしょ」‥‥そんなつれないお前は本当に薔薇のようだぜ‥‥」
 しくしくと泣きながらガルは床に突っ伏すが、彼の持ってきた薔薇の花束はモニカの部屋へと飾られる事になった。
「これは‥‥プレゼントというより、お屋敷の皆さんでどうぞ。多めに持ってきたので数は十分だと思うんですけど‥‥」
 和泉が差し出したのはマカロンで、使用人たちは「お嬢様と違って心の優しい方ですわ‥‥」とほろりとなってしまい、キリーによって鳩尾を殴られていた。
「これは俺からですね、パーティーの時にでも食べましょうか」
 仮染が差し出したのはチョコケーキ(ホワイトとブラックの2ホール)とレアチーズケーキのホール、そしてキリーが好みそうな色々な種類のケーキを用意していた。
「あ、ボクもケーキを持ってきたんだよ」
 神咲が呟き、ザッハトルテ、キルシュトルテ、ガレット・デ・ロワの3つを使用人に渡していた。
「私は今日もお料理を振る舞おうと思って」
 諌山が笑いながら呟くと「お客様にそんな事をさせる事は出来ません」と使用人たちが申し訳なさそうに言葉を返してくる。
「あたしも配膳とかを手伝うつもりでいたんだけど‥‥普段が忙しそうだし、たまには貴方達も休んだ方がいいわよ」
 百地が使用人たちに言葉を投げかけると「お嬢様にその心配りの100000分の1でもあったら‥‥」と涙を拭いながら呟き、キリーからツボを投げられていた。
「あ、もやし。これは俺様からのプレゼントだぜ、ありがたくもらいな」
 スロウターがバッグから取り出し、キリーに渡したの――――3パックのもやしだった。もちろん3パックのキリーではなく、食べる方のもやしだ。
「俺様マジ太っ腹! あまりの淑女っぷりに全旦那が惚れ直した!」
 スロウターは叫んでいるのだが、彼女の旦那は恐らく1人である。
「‥‥あんたのテンション、流石の私でもつっこみきれないわよ‥‥」
 はぁ、とため息を吐きながらキリーが言葉を返し、能力者たちはまず食事を取る事になったのだった。
「悠季さん、これお願いしまーす」
 キッチンから諌山が顔を覗かせながら言い、出来上がったローストチキン、南瓜のクリームスープ、フライドポテトなどを百地がテーブルへと運んでいく。
 他にもシュプール家で用意したごちそうがずらりと並べられている。
「ご飯を食べたらゲームでもしてあげるから感謝なさい」
 スープを飲みながらキリーが能力者たちに言葉を投げかける。
「お、王様ゲームならぬ魔王様ゲームをするのにゃ! お題と犠牲者を書いたカードを用意してあるから、ね!?」
 白虎が言う『魔王様ゲーム』とはお題に沿った命令をキリーが考え、犠牲者に命令するという何とも理不尽極まりない変則型王様ゲームの事だ。
 ちなみにこれはキリーが不利になる事は決してない。命令するのはキリーだけなのだから。
(はわわ、こ、こんな爆弾みたいなゲーム発案やめてーですぅ!)
 弄られ体質の自分は絶対に犠牲者になる、そう感じた土方は心の底で叫ぶが、キリーが「面白そうね、やってあげるわ」と乗り気になってしまった時点でアウトだ。
(ぼ、僕の平穏が段々と崩れていくのですぅー!)
 土方は心の中で呟きながら、やけ食いのようにがつがつと目の前の食事を食べ始めたのだった。
「‥‥魔王様ゲーム。こんな時に限ってパイ投げマシーンとか出てこないでしょうね!?」
 仮染が慌ててキリーに問い掛けるが「リクエストあるなら持ってくるわよ」と不敵な微笑みを浮かべながら言葉を返す。
「っていうか、死人が出る!」
 春夏秋冬がローストチキンを食べながら『魔王様ゲーム』の様子を想像して、恐ろしさのあまり立ち上がる。
「まさか死人が出るなんて‥‥‥‥ない、はずですけど」
 和泉も苦笑しながら言葉を返すのだが『絶対に出ない』と言えないあたりが怖いと思っていた。


―― 魔王様ゲームを始めてあげるわ、覚悟する事ね ――

(うぐぐ、犠牲者になるのは‥‥かなり嫌だが構われないよりはいいもんっ! どうしてこんな事を思うようになった、ボク!)
 準備をしている白虎は心の中で叫ぶ。ちなみに彼が行っているのは『白虎』と書かれた犠牲者カードを他の能力者達より何倍も入れていた。
 彼のそんな自虐的行動に涙が出そうである。
「私がこの箱から犠牲者カードを引いて、別の箱からお題や命令カードを引けばいいのね。分かったわ――これと、これ!」
 キリーが引いたカードは犠牲者白虎、そしてお題&命令カードは『踏んで恍惚の表情を浮かべる』だった。
「にゅああああああ! しょっぱなから濃いの来たァァァァァァ!」
「これだと、もう一枚犠牲者カードが必要ね――えいっ」
 白虎から踏まれる能力者はガルだった。
「‥‥やっぱり『どえむ』なのね‥‥ドン引きするわよ、あんたのどえむっぷりは」
 やや後ずさりながらキリーが呟くが、ガルにとってはいい迷惑である。
「誰だ、こんな命令カードいれたのはァァァァァ!」
 白虎の叫びに「俺様だ!」とスロウターがドヤ顔をして親指をびしっと立てながら叫ぶ。
((‥‥自分じゃなくてよかった‥‥))
 仮染と神咲は心の中で呟き、他の能力者たちに分からないようにほっと安堵のため息を吐いたのだった。
 それから白虎はガルを踏んで恍惚の表情を浮かべ(途中キリーから何度もNGが出た為、何度もやり直しをさせられた)挙句の果てに写真におさめられてしまった。
「次はー‥‥頬にチュウをするか。犠牲者カードはー‥‥わんこね」
「「「何ィィィッ!?」」」
 叫んだのは白虎、ガル、仮染の3人だ。彼らは土方がキリーにチュウをすると考えたのだろう。
「はわわわ、な、何で僕なのです? 何でなのです?」
「ちなみにもう1人の犠牲者はー‥‥」
 キリーがもう一枚カードを引き始めた事で3人の土方に対する怒りは収まり、逆に憐みの視線を向ける事になった。
「スロウターよ」
「俺様かっ! お、お手柔らかに頼むぜ? 一応人妻だし‥‥」
「わんこ、あんたついに人妻に手を出すようになったのね‥‥」
 引くわぁ、と言いながらキリーが眉を顰めて土方へと言葉を投げかける。
(うぅ、僕ってばこんな時までついてないのです‥‥)
 がっくりと項垂れながら一瞬だけスロウターの頬にチュウをして、すぐに離れたのだった。
「次は命令カードじゃなくてお題カードだわ――寒さ、それと犠牲者カードはゆーき」
 仮染は自分の名前が呼ばれ、一体どんな無茶を要求されるのかとドキドキしていると「そうね、寒さだから1日外にいて」とさらりとキリーが呟く。
 その時の仮染の表情は、言葉では言い表せない程のものでした――と後の能力者たちは語る。
「‥‥というのは嘘、サスケー、アレをゆーきの服の中にいれといてー」
 執事見習いのサスケにキリーが命令して、仮染を始めとした能力者たちは『それ』が何なのかを見る為に視線を移す。
「‥‥ッ!?」
 そこにあったのは、大きな――氷だった。何故ここに氷があるのか、何をするために用意されていたのか、まずはそれを問いたい仮染だったが容赦なく服の中にごろごろと氷を入れられ、服の中に入った氷のように仮染が床をごろごろと転げまわる羽目になった。
「今度はこれね、これならダメージ少ないんじゃない?」
 キリーが見せたのは『魔王様が嫌いという』という命令カードであり、犠牲者は白虎だった。
「あ、それ書いたの自分です」
 和泉が軽く手を挙げながら呟くと「貴様ァァァァァァッ!」と白虎が血の涙を流しそうな勢いで詰め寄った。
「白虎――――――――‥‥‥‥大嫌い」
 素晴らしい笑顔で白虎に『嫌い(しかも大がついた)』をいい、命令だと分かりつつも白虎は「うわぁぁぁぁぁぁんっ」と泣き叫んだのだった。
(哀れだな、総帥‥‥)
(哀れですね‥‥)
(さすがの僕も慰めの言葉が見つからないよ、白虎くん)
 ガル、仮染、神咲は複雑な表情で心の中で呟いていた。
「次はー『魔王様を抱っこする』で犠牲者が「あたしね」そうね」
 キリーを抱っこするという命令をされたのは百地であり、それまで悲惨な命令を受けた能力者たちから羨望のまなざしを受ける。
「次は‥‥『魔王様がラムネ一気飲み(途中で噴いたらもう一本)』‥‥何で私が犠牲者なのよ」
 ぎりぎりと拳を強く握りしめながらキリーが呟くが、使用人たちが良い笑顔でラムネを持ってきてキリーに差し出す。
 ラムネを飲むのは別に構わないが一気飲みは嫌、どうすればこの状況を打破できるか悩みぬいたすえ――――‥‥。
「‥‥ねぇ、ガル。私、ラムネの一気飲みなんて出来ないの。だからガルが代わりに飲んでくれないかな?」
 上目使い、しかもかくりと首を傾げながらキリーがガルへと言葉を投げかけ、その仕草にころっと騙されたガルは「も、ももももちろんだぜ!」とキリーからラムネを奪って一気に飲み干す。
「ぶはっ‥‥」
 途中で噴いた為、もう1本が渡され、結局ガルは6本のラムネを飲む事になった。
(ふっ、ちょろいわね)
 魔王の微笑みを浮かべながらガルを見る彼女を見て(さすがだ‥‥)と春夏秋冬が心の中で呟いていた。
 それから、激痛足つぼマッサージをガルがされたり、和泉が一発芸をさせられたり、最後のゲームでは何故か白虎とサスケのチュウが行われ、お互いに泣き喚くという幕引きだった。


―― 泊まるやつは勝手に泊まっていきなさいよ ――

 ゲームを終えた後、能力者たちが持ち寄ったケーキを食べる事にした。
「ガレット・デ・ロワには指輪が2つと硬貨1枚が仕込んであるからね。ホントはこのケーキ、年明けに食べる物なんだけど指輪が当たった人は年内に結婚を、硬貨が当たった人はお金持ちになれるって言い伝えがあるらしいよ」
 神咲の言葉を聞き、それぞれが指輪、そして硬貨が出る事を願いガレット・デ・ロワを食べた。
 しかし、神様は決して優しくないという事が分かった。指輪は白虎と仮染に行きわたり、硬貨は百地へと渡った。
「へぇ、ゆーきと白虎は結婚するのね。おめでとう」
 キリーがチョコケーキを食べながら祝福の言葉を投げかける。
(‥‥これは一体どういう事なんだ)
(‥‥どっちかがキリーさんと結婚するという事なのか、それとも俺と白虎さんが結婚するという事なのか‥‥後者は嫌だよ!)
 白虎と仮染はお互いの顔と指輪を見て、とても複雑そうな表情を浮かべたのだった。
「あたしはお金持ち、か。まぁ子供の為にもお金はあった方がいいものね」
 百地が呟き「そういえば報告がまだだったわね」とキリーに言葉を投げかける。
「あたしも、この秋にね美雲と一緒で母親になったのよね。いずれ娘を見せてあげるからね」
 百地の言葉に「へぇ、赤ちゃんか‥‥私みたいな淑女になれるといいわね」と腰に手を当てながら、果てしなく上から目線で言葉を投げかける。
 しかし、集まった能力者たちの誰もが思った事だろう。キリーみたいになったら親も周りにも待っているのは『苦労』だけだという事に。
「そうだ、振袖を着せてあげましょうか? 実は持ってきてるのよ」
 百地の言葉に「着たい! あんまり着物なんて着る機会がないのよね」とキリーがはしゃぎながら言葉を返す。その様子は年齢通りの子供に見えて、百地も小さく微笑んだ。

 それから1時間後、百地に手伝ってもらい、菊模様の振袖を来たキリーが能力者たちにお披露目された。
「あ、これはプレゼントじゃないから持ち帰るけども‥‥望めば差し上げるわよ?」
 優しく微笑みながら百地がキリーに言葉を投げかけると「‥‥欲しい」と遠慮がちにキリーが呟き、言葉を返した。
「可愛いですね。似合っていますよ、キリーさん」
 和泉がお茶を飲みながらキリーの振袖姿の感想を言うと「ふ、ふん。別に褒めても何もでないんだからね」と少し照れたように横をついっと向いてしまう。
「皆は泊まっていくんですか?」
 諌山が能力者たちに問い掛ける。
「いえ、自分は帰りますよ。諌山さんはどうするんですか?」
「私も帰りますよ。旦那と娘が家で待っているので」
 そうなんですか、と和泉が諌山に言葉を返す。
「私も帰るかしらね、美雲と同じで旦那と娘が待ってるし」
 百地が呟くと「ボ、ボクはまぁ‥‥泊まって行ってやってもいいかにゃ」と照れながら呟くと「俺も泊まりたい!」とガルが手を挙げながら大きな声で叫ぶ。
「もてなしてもらったお礼代わりに泊まり込みで護衛してやるぜ! ‥‥べ、別に一緒の部屋で寝れるかも‥‥とかそんな事思ってねぇんだからな!」
 ガルが顔を真っ赤にしながら叫ぶと「‥‥そんな事、許すとでも?」と仮染がガルの頭をガシッと掴みながら低い声で言葉を返した。
「おっ、これうめぇな。作ってやったら旦那喜ぶかな? ‥‥‥‥まぁ、作れないんだけどな。精々炭素の塊を錬成するくらいか‥‥はぁ」
 自分で言ってて悲しくなったのかスロウターは大きなため息を吐きながら、しかしそれでも食べる手を止める事はしなかった。

 空がオレンジ色に染まりかける頃、和泉、百地、諌山の3人は帰る準備をしていた。
「今日は招待してくれてありがとね!」
「今度は娘を連れてくるから、遊んであげてね」
「名残惜しいですが、自分もこれで‥‥楽しい時間をありがとうございました」
 和泉が深々と頭を下げてお礼を言い、諌山と百地と一緒にシュプール宅を出て行ったのだった。


―― 夜はこれから ――

「そろそろキリーもお年頃だねぇ。好みの男性はいるのかな?」
 それぞれ用意された部屋に荷物を置きに行く時、神咲がキリーをからかうように言葉を投げかけた。
「好みの男性? ‥‥‥‥それを聞いてどうするっていうのよ、ヘタレ」
(‥‥あれ?)
 神咲はてっきり『馬鹿言ってんじゃないわよ! 全人類が私にひれ伏すに決まってるでしょ!』という言葉が返ってくると思っていた――が、キリーの反応は少しだけ予想外のものだった。
「キリーちゃーん! お風呂どこー! 迷ったー! 何これー!」
 春夏秋冬の声が響き渡り、キリーはため息交じりに「人の家で迷ってんじゃないわよ!」と大きな声で言葉を返し、春夏秋冬の所へと向かい始めた。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
 ガル、白虎、仮染はお互いが抜け駆けをしないように牽制しあっており、用意された部屋に入る事も出来ずにいた。
 誰かが目を離せば、キリーによからぬ事を働くのではないかと疑っているのだろう。
(はわわ、あんな風に廊下でにらみ合いしてると通る方もちょっとつらいのですよ)
 こそこそと土方が「ぼ、僕お風呂に行ってくるのです」と3人に言葉を投げかけ、通り過ぎようとした時「‥‥貴様、覗く気だな?」と白虎の目がぎらりと光る。
「なっ‥‥! 自分だけずりぃぞ! 俺だって覗きてぇ!」
「ちょっと待ってください! 何で覗く前提なんですか! セクハラは駄目ですよ! 大体覗きなんてセクハラを超えてるじゃないですか!」
(はわわ、僕を巻き込まないで欲しいのですー)
 結局、お風呂に到着するまで3人は土方の後ろでぎゃあぎゃあと騒いでおり、4人で覗きに来たのかと勘違いしたキリーによって往復びんた、そして飛び蹴りの刑に処された。

「ねぇねぇ、実際キリーちゃんは誰が気になってンの? まぁみんな一癖も二癖もある人ばかりなんだけど!」
 お風呂の中、春夏秋冬がキリーに問い掛ける――が「答えてあげる義理はないわ」と口を割ろうとはしなかった。
「でも、気になってる人はいるんでしょ? やっぱりあのメンバーの誰か!?」
 きゃあきゃあと騒ぎ、お風呂から上がった後も、キリーの部屋で騒いでいたのだが、春夏秋冬は騒ぎすぎたせいか、途中で電源が落ちたかのようにぱたりと寝入ってしまった。

 そして、翌日――キリーの枕元にはライオンのぬいぐるみが置かれており「おお! 良かったね! 良い子? にしてたからサンタさんからのプレゼントだよ、きっと!」と春夏秋冬がキリーに言葉を投げかけるが、実は夜中に春夏秋冬がキリーの枕元に置いていたのを知っている――というか、トイレに起きようとした際に仕掛けているのを偶然見てしまったのだ。
「‥‥そうね、これを置いてったサンタは私の隣で寝てたみたいだけどね」
「‥‥な、なんのことかなー!」
 じーっと見てくるキリーから視線を逸らし、春夏秋冬は「さぁって起きる準備しないとね!」といそいそと準備を始めたのだった。

(くそう、この手紙は一体いつになったら渡せるのにゃ!)
 朝も早くからうろうろと怪しげにうろついているのは白虎、その手には『初詣に一緒に行こうにゃ☆』と書かれた手紙が持たれている。
(そうだ、キリーお姉ちゃんが出て行ったあと、こっそりと部屋の中に忍ばせておこう)
 我ながら良いアイデアにゃ、と心の中で呟き、キリーと春夏秋冬が出ていくのを確認した後、白虎はこっそりと机の上に手紙を置いたのだった。
 そして更に後日『もやし、お前の竜騎士より』と書かれた箱が届き、中にはキャットスーツとロボガルの目ざまし時計が入っていたのだった。
 ちなみにキャットスーツはサスケに行きわたり、キャットスーツを来たサスケの写真が後日ガルに届く――が、今の時点ではまだそのような事は予想もしていなかったのだった。


END