タイトル:冷たき微笑みマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/28 00:17

●オープニング本文


『怖い』

『裏切られた』

『仲間だったのに』

そんな言葉ばかりが頭の中を占めていた。

あたし自身の記憶ではないはずなのに‥‥。

まるで『あたし』に恨みを忘れるなとでも言うかのように。

※※※

目の前の男は楽しげに今日も『弟作り』に励んでいた。

「アンタがそこまで『弟』に固執する意味が分からないわね」

ビスタ・ボルニカが男――オーガスタに言葉を投げかけると「わかってもらおうとは思っていませんよ」と楽しげに、だけど冷たい眼差しを向けて言葉を返してきた。

「兄弟なんて血が繋がった他人じゃない。あぁ、アンタの場合、その『弟』は血すら繋がっていなかったわね」

「そこまで『兄弟』という言葉に嫌悪するのは『あなた』の性格ですか? それともその身体の?」

「‥‥さぁ? アタシには特別な感情なんてないわ。ハリー坊やでもアンタでも目の前で死んでも何も変わらない。そう、アンタ達が死んだからと言って変わる事はないわ」

ビスタは忌々しそうに爪を噛みながら「なのに‥‥」と露骨に嫌悪感を露わにしながら言葉を付け足した。

(‥‥本当に固執しているのはあなたの方に見えますけどね、ビスタ)

オーガスタは心の中で呟きながら「まぁ、いいでしょう」と小さく言葉を漏らす。

(そろそろ、やばいかしらね――消えるのは、あたしの方が先かもしれないわね)

震える自分の手を見ながらビスタは心の中で呟く。

(だったら、あたしを悩ます原因を摘み取るだけ――これは『ビスタ』のためじゃないわ。あたし自身のためなのよ)

ビスタが視線を落とした先、その資料にはビスタ・ボルニカの妹であるリタの任務先が書かれていた。

●参加者一覧

RENN(gb1931
17歳・♂・HD
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD
月野 現(gc7488
19歳・♂・GD
大神 哉目(gc7784
17歳・♀・PN
不破 イヅル(gc8346
17歳・♂・DF

●リプレイ本文

―― 相反する姉妹 ――

「お前、一体過去に奴と何があったんだ」
 今回の任務同行者、リタ・ボルニカにイレイズ・バークライド(gc4038)が問い掛ける。彼女は現在バグア側として暗躍しているビスタ・ボルニカ(gz0202)の実妹であり、ビスタの行動の元にもなっている人物だ。
「俺もそれは気になっていた。直接関係はなかったが報告書を通してお前達の関係は知った」
 月野 現(gc7488)がリタに言葉を投げかける――が、リタは手を震わせるだけで何も答えようとはしない。
「厄介な問題ってのは時間を置けば更に面倒になるモノだ‥‥」
 リタの様子を見て、月野はため息混じりに呟く。
「ったく、何か面倒くさい姉妹だなぁ‥‥」
 襲ってくるってんなら戦うしか無いかもだけど、と言葉を付け足して大神 哉目(gc7784)が呟く。
「‥‥俺も‥‥報告書、読んだ‥‥あんたは‥‥姉ちゃんのこと、好きだったんだろ? 今は‥‥あんたの姉ちゃんじゃないかもだけど‥‥今を逃したら‥‥誤解を解く事も、謝る事も‥‥感謝を伝える事も出来なくなるぞ‥‥」
 不破 イヅル(gc8346)がリタに言葉を投げかける。
「まぁ、私にとっては理由なんかどうでもいいですわ。本気で相対してくれるバグアは良き友人とも言えますから」
 ミリハナク(gc4008)が呟く。それは言葉通りリタやビスタにどんな理由があろうとも関係ない。戦えさえすれば良い、そういう意味にも取れた。
「あたしもどうでもいい――って程じゃないけど、正義の味方を自称するあたしとしては人に害為す者は放ってはおけないわね」
 狐月 銀子(gb2552)が呟く。
(姉と戦う‥‥か。僕の姉さんとだったらどうしただろう‥‥まぁ、いい。全力を尽くすだけ、かな‥‥)
 柿原 錬(gb1931)が何も答えないリタを見ながら心の中で呟く。
「まぁ、いいじゃないか。今回の任務は終えたんだから」
 翡焔・東雲(gb2615)が仲間達を宥めるように言葉を投げかける。
「聞きたい事は山ほどあるんだがな。ビスタが死亡した時の任務やその時の状況、何故ビスタをすぐに救出しなかった等、な」
 イレイズの言葉に「それは‥‥」とリタが口ごもる。
「奴は過去に『裏切られた』という言葉を言っている。もしその通りなら撃墜された時、ビスタはまだ生きていたのだろう。そして自分を置いて撤退していった仲間を恨んでいたと考えられる。事実が何であれ、ビスタにとってはな」
「もうやめてよ! 私が悪いんじゃない! あの時は、ああするしかなかったのよ! 私だけを責めるのはもうやめてよ!」
 リタの声が夜の森の中に響き渡る。大声を出す程動揺するという事は『何か』があったのは確実なのだろうと他の能力者達は声にこそ出さなかったけれど、理解する事が出来た。


―― 夜の森に響くは‥‥ ――

(夜の森は静かで好きだわ、何も感じられない『無』の世界だからね。人間の悲鳴が木霊する惨劇も嫌いじゃないんだけど)
 ビスタは木の上から少し離れた先を見ていた。そこに見えるのはいくつかの光源、ランタンの光だったり、懐中電灯の光だったりと様々だったが確かにそこに誰かがいる。
(恐らく、戦えるのは今回――上手く行っても次か、その次まで‥‥能力者達が段々と腕を上げてるもの。あたしにとっては嬉しい事だわ、戦う事こそがあたしの楽しみだもの)
 ふ、と笑みを浮かべてビスタは心の中で呟く。
「さぁ、行きましょう。どちらかが終わるまでの狂宴へと」
 ビスタは呟き、木の上を移動しながらその先にいる者達――リタ、そして一緒にいる能力者達の元へと向かい始めたのだった。


―― 戦闘開始・ビスタ VS 能力者達 ――

 今回、任務を終えて能力者達は帰還するだけだったが――‥‥万が一の事を考えて、それぞれ班分けを行っていた。
 前衛・ミリハナク、大神、翡焔、柿原、不破の5名。
 後衛・月野、イレイズ、狐月の3名。
「‥‥何か、来る!」
 スキルを使用して周囲を警戒していた月野が能力者達へと言葉を投げかけ、それと同時に戦闘態勢を取る。
「あらあら、お久しぶり――元気だったかしら?」
 木の上から能力者達へと言葉を投げかけてくるのは、ビスタ・ボルニカだった。
「ね、姉さん‥‥」
「恨みがないとは言わないわ。あたしにとってはどうでもいい『恨み』なんだけどね。とりあえずさ、もう悩むのも考えるのも面倒になって来たのよ」
 だから死んで、とビスタは二つあるサーベルのうち一つをリタへと向けて投げつける。
「俺から離れるな」
 イレイズがサーベルを槍で弾き落とし、視線だけをリタに向けて言葉を投げかける。
「情けないわね。それでも能力者の端くれなの? 守ってもらうばかりで何も出来ないじゃないの――――あの時と同じね」
 ビスタの言葉にリタがびくりと肩を震わせる。
「そんな事はどうでもいいじゃありませんか?」
 再戦ですわ、ディアフレンド――と言葉を付け足しながらミリハナクがビスタへと攻撃を仕掛ける。
「へぇー、あんたがビスタ・ボルニカか。さすがに生き残ってるだけあって殺気が違うっての‥‥」
 柿原が呟きながら、ミリハナクの攻撃を受け地面に下りてきたビスタへと言葉を投げかける――そして、それと同時に攻撃も仕掛けた。
「ありがとう。でもあたしは運が良かっただけ。今まであんまり目立つ事はしなかったからね。生き残ってるっていうより、生き残れたって方が正しいかもしれないわ」
 柿原の攻撃を受け流し、ビスタが柿原の腹部に蹴りを入れて彼の背後にあった木へと叩きつける。
「あら、坊やを気に入ってた子じゃない」
 あざ笑うように言葉を投げかけてくるビスタに翡焔は拳を強く握りしめながらじろりと睨みつけていた。
(冷静に‥‥何を言われても冷静に‥‥あいつに憎悪しか残っていないとは思わない、思いたくない‥‥が、戦う事でしか止められないなら何度でも戦おう)
 心の中で呟き、翡焔は愛用の二刀小太刀でビスタの攻撃を受け止めた。
「何故‥‥妹を殺しにかかる‥‥!」
 不破がビスタへ攻撃を仕掛けながら静かに問いかける。
「はぁ? あんた馬鹿じゃないの。あたしはビスタであってビスタじゃない。ビスタの姿を借りてるだけ。だからあたしにとってあの女は妹でも何でもないのよ」
 高らかに笑いながら答えるビスタだったが「だったら何で狙って来てるわけ?」と大神がぼそりと呟いた。
「確かにキミにとっては何でもない存在かもしれない。だけど過去の報告書にもあったし、キミがリタを狙って来てるのは間違いない――それでも『何でもない』って言えるの?」
 大神の言葉にビスタの動きが止まる。
「嫌な女。あぁ、本当に嫌な女。人の事を詮索して、あたしの事を知ったかぶりして‥‥」
 ビスタが俯きながらぶつぶつと呟いている間、大神は他の能力者達に合図を送る。
「3、2、1で花火が上がるよ」
 ビスタには聞こえないように呟き、能力者達も首を縦に振る。
「あたしは楽しく戦いたいだけなのに‥‥こんなに苛立たせて、最悪ね‥‥」
 ビスタを取り巻く空気が変わったと思った瞬間、大神が合図を送り『閃光手榴弾』を使用した。
「ぐっ‥‥」
 前もって合図を送られた能力者達は目が眩まないように対策を行う事が出来たが、俯き警戒を解いていたビスタはまともに目を眩ませてしまう。
「リタと‥‥話をさせてやれれば‥‥と思ったが‥‥」
 どうやら無理のようだ、と言葉を付けたし不破がスキルを使用しながら攻撃を行う。
「でもさ、もしかしてキミって馬鹿なの? いくらバグアでも9人いる相手に一人で喧嘩吹っかけてくるとは思わなかったんだけど」
 大神の言葉に「うるさいわよ!」と激昂しながらビスタが言葉を返してくる。
「今のアンタはどっちの『意志』で動いているんだ?」
 月野が問い掛けると「どっちでもないわよ、これはあたし自身の意――ぐっ」とビスタが話している間にミリハナクが攻撃を仕掛ける。
「よそ見ばかりしていては、折角の遊びも台無しですわ」
 ふ、と冷たい笑みを浮かべながらミリハナクが呟くと「こ、のっ‥‥!」とビスタは持っていた武器を振り、ミリハナクは距離を取る。
 そしてミリハナクが距離を取った所で狐月がエネルギーキャノンを使用して派手に攻撃を行う。狐月は精密さを犠牲にする代わりに発砲数を重視し、ビスタの気を自分に引きつける事で他の能力者達が攻撃しやすい状況を作りだしていた。
「おっと、やられるわけにはいかねぇんだよ」
 ビスタの攻撃を避け、彼――柿原がスキルを使用しながら機械剣で攻撃を繰り出す。
「まさか本当に閃光手榴弾を食らうとは思わなかったよ、お前の事だ‥‥食らった振りでもしているのかと思った」
 翡焔は呟き、スキルを使用しながらビスタへと攻撃を仕掛ける。
「‥‥終わらせる‥‥」
「残念ですわ、良き友人である貴方を屠る事になるなんて‥‥所詮、戦う事で繋がっているだけですけれどね」
 不破とミリハナクが呟き、ほぼ同時に攻撃を仕掛けようとする――が、ビスタは自分の周りに能力者達が集まっているのを確認した後、閃光手榴弾を投げる。
 そう、先ほどの能力者達のように。
「不本意だけど、退かせてもらうわ!」
「くっ‥‥逃げるんですの?」
 目を眩まされたミリハナクがビスタへと言葉を投げかけると「そう、逃げるのよ。私から貴方たちに招待状を送らせてもらうわ」とビスタは苦しげに言葉を返す。
「招待状‥‥?」
 月野が呟くと「そう、終宴への招待状――‥‥」と自嘲気味にビスタが呟く。
 それはどちらに対しての『終わり』なのか、どちらとも取れる意味深な口調でビスタは呟き、能力者達の視界が戻った頃には、既にビスタの姿はなかった。


―― 帰還に向けて ――

 ビスタが去った後、能力者達は重い沈黙の中でそれぞれ傷の手当てを行っていた。
(強い想いは本心を伝えないと歪んでしまう――まさにビスタの事だろうな)
 月野は心の中で呟き、ちらりとリタの方を見る。
「‥‥私達が姉さんを殺したんです」
 ぽつりとリタが呟いた言葉に能力者達の間に流れる空気がざわりと変わる。
「あの日、私達が出かけた任務――あれはヘルメットワームとの戦闘任務でした。だけど仲間の一人が誤射をして‥‥それが元で姉さんは撃墜され、私達は姉さんを助ける事なくその場から逃げたんです――自分達が助かる為に」
 リタの口から告げられた真実は、能力者達も予想していた内容だったのかもしれない。驚く者、表情を変えずにリタを見る者、反応は様々だった。
「ふぅん‥‥」
 興味なさげに柿原は呟き、手当ての続きを行う。
(化かし化かされ、いったいこの人達の『本当』は何処にあるのかしらね)
 狐月は心の中で呟きながら、小さくため息を吐いた。
(‥‥だから『裏切られた』なのか‥‥)
 翡焔は心の中で呟く。そしてその時のビスタがどんな気持ちであったのか、どれだけ不安だったのか――それを思うと胸が痛む気がした。
(でも、どんな理由があってもビスタがしてきた事が許されるわけじゃない)
 それは翡焔だけではなく、どの能力者も同じ考えだった。
「極端に言えば、独りぼっちで寂しかったんじゃありません? まぁ、独りが寂しくて遊び相手が欲しいのでしたら、私はいつでも付き合いますけどね」
 ミリハナクが「くっ」と冷たく妖艶な笑みを浮かべながらぽつりと呟く。
「面倒くさいな‥‥裏切っただの裏切られただの‥‥面倒くさいよ」
 私、お腹空いたから早く帰りたいんだけど――と大神はきゅうと鳴るお腹を押さえながらため息交じりに呟いた。
(死に際がどんなに無念だったか、それは本人にしか分からない。それでも超えてはいけない一線があるんだよ、ビスタ)
 月野はビスタが去っていったと思われる方向を見ながら心の中で呟いた。
(ビスタは分かっていない。何で兄や姉と呼ばれる奴が先に生まれてくるのかを‥‥後から生まれてくる妹や弟を護る為なんだ‥‥恨まれるような事はあっても、恨むなど決してしてはならない‥‥ヨリシロとなっても、それだけは変わる事のない役目だろうが‥‥!)
 イレイズは拳を強く握りしめながら心の中で叫ぶ。
「あの時の任務の中で、生き残っているのはもう私だけです‥‥他の仲間達は任務で死んでしまったり、ヨリシロとなった姉さんに殺されたり‥‥もう、私だけなんです」
 リタが泣きながら呟くと「‥‥あんたは、謝れるといいな‥‥」と不破が呟いた。
「え?」
「‥‥俺はあんにゃに何も言えなかった‥‥くだらない喧嘩をして、そのまま‥‥ごめんなさいもありがとうも‥‥さよならも――‥‥何も言えなかった‥‥」
 不破は真っ暗な空を仰ぎながら遠くを見るような切ない視線で呟く。

 ビスタと縁の深い能力者ならば、今回のビスタの行動がおかしかったのは気が付いている事だろう。
 いつもならばキメラを連れてくる筈なのに、今回に限って1人で能力者達を襲撃してきた。
 恐らく、ビスタ自身も、そして能力者達も本能的に気が付いているのかもしれない。
 ビスタの残した『終宴への招待状』という意味に‥‥結局、最後の最後まで喰うか喰われるかの戦いでしか決着をつける事が出来ないという事に。


END