●リプレイ本文
―― 洞窟へ向かう能力者達 ――
「‥‥はぁ」
幡多野 克(
ga0444)は資料を見ながら小さくため息を漏らす。
(寒いのは‥‥苦手だな‥‥。だけど‥‥キメラがいるのはそういう所だし‥‥嫌とも言ってられない‥‥か‥‥)
再びため息を吐きながら、幡多野は心の中で呟いていた――がやはり寒い所は苦手らしく憂鬱そうな表情を見せていた。
「キメラは狼型、ですか。狼の格の違いを訓えましょう」
月狼、の異名を持つ終夜・無月(
ga3084)が小さな声で呟く。彼が資料を見る視線は、本当の狼のようで一般人から見ればぞっとするものだった。
「寒い所か‥‥寒いと、そろそろ身体にくる歳なのだよ――南国に次は行きたくなる、ね」
UNKNOWN(
ga4276)は煙草を吸いながら独り言のように呟いた。
(キメラ退治か‥‥今の自分の実力を把握するにはちょうどいいかな)
ラナ・ヴェクサー(
gc1748)が資料を読みながら心の中で呟く。彼女は久しぶりにクラスが戻った為、かつての自分から比べて何処まで成長できたのかを知りたいと願っていた。
(自分の力を知る為にも、全力で挑ませてもらう)
心の中で呟きながら(でも‥‥この寒い中、更に寒い場所に行かなくちゃならないのよね)と憂鬱そうにため息を吐いた。
「どうやら、今回は間に合ったか。町に被害が出る前に確実に倒しておきたいところだが‥‥さて、どうなる事かな」
ヘイル(
gc4085)がため息混じりに呟く。先日彼が赴いた任務では既に犠牲者が出た後だった。その事を気にかけているのだろう。
「寒いのじゃ、まだ現場に行ってないうちからこんなに寒いのじゃ、現場に行ったらどれだけ寒いのか想像もつかんのじゃ、帰りたいのじゃ、コタツが呼んでいるのじゃ」
並べられるだけの我儘を並べているのはフェンダー(
gc6778)だった。彼女は大げさなくらいにがたがたと震えており「寒いのじゃ」を連呼している。
「さむいさむい言うな、言わんでもわかってる」
呆れたように言葉を返すのは犬彦・ハルトゼーカー(
gc3817)だった。
「しかし寒いのじゃから仕方がなかろう」
「‥‥はぁ、だったらさっさと終わらせてコタツでもストーブにでも入ってればいいだろ」
犬彦が言葉を返すと「ストーブは入るものではないのじゃ、そんな事も知らんのか」と逆に言葉を返され「‥‥本気で言うわけないだろ」と盛大なため息を吐いたのだった。
「今回はとても寒い場所みたいですね‥‥しっかりと準備をしてから望みましょう」
エリーゼ・アレクシア(
gc8446)が資料を見ながら呟く。
「それにしても‥‥極寒の中の狼ってゲームとかに出てくる『フェンリル』に似ていますね‥‥」
冷凍ビームとか吐かないといいなー、と言葉を付け足しながらエリーゼが呟く。
「さすがに‥‥そんな攻撃してくるキメラだったら‥‥洞窟自体がなくなってるんじゃ‥‥ないかな‥‥? 対峙したわけじゃないから‥‥はっきりと言い切れないけど‥‥」
苦笑しながら幡多野が言葉を返すと「そ、そうですね」とエリーゼは少しだけ恥ずかしそうに呟いた。
「そろそろ向かいましょうか。まず町に寄るのでしょう?」
終夜が能力者達に言葉を投げかける。
今回の能力者達は、まず近くの町に立ち寄って洞窟内の地図を入手できないかと考えていた。
「そうですね、洞窟内の構造を知る事が出来ればいいんですけど‥‥」
ラナが言葉を返し、能力者達は高速艇に乗り込んで目的地へと出発し始めたのだった。
―― 極寒の地、氷の洞窟 ――
今回、任務に参加した能力者達は寒さに備えてそれぞれが準備をしてきていた。滑らないように、寒くないように――など。
「これでいいですか?」
町の住人は古ぼけた地図を取り出して、能力者達に見せた。
「残念ながら、洞窟内を詳しく書いてる地図は紛失していまして‥‥こんな簡単な物しか用意できないんですが‥‥」
申し訳なさそうに呟く住人に対して「いや、広さやある程度の構造がわかればいいんで」とヘイルが言葉を返す。
そして、能力者達はその地図を人数分コピーしてもらい、問題の洞窟へと向かい始めた。
今回の能力者達は班を3つに分けて洞窟内を歩く作戦を立てていた。もちろん班とは言っても離れて行動するわけではないのだけれど。
前衛・幡多野、犬彦、終夜の3人。
中衛・ラナ、ヘイル、エリーゼの3人。
後衛・フェンダー、UNKNOWNの2人。
「うぅ、寒いのじゃ。寒くてどうにかなってしまいそうなのじゃ」
震えながらフェンダーが呟く。彼女は寒さのあまりキメラなど放置して今すぐにでも家に帰りたい衝動に襲われていたが、ほんの僅かな傭兵としての矜持でそれを踏みとどまっていた。
「我がこの場にいるという事は、すなわち我はコタツに勝利して依頼に来たという事じゃ」
凄いじゃろ、とドヤ顔でふんぞり返る彼女に「仕事だろ」と犬彦からビシッとツッコミが入ってしまう。
「こんな所に‥‥一体だけ‥‥? 単に迷い込んだのか、それとも‥‥「危ない!」えっ‥‥」
考えながら歩いていた幡多野は突然終夜から引っ張られる。どうした、と思う間もなく少し先には落ちてきた氷柱が砕けていた。
「‥‥ありがとう‥‥足場の事ばかり考えてたので‥‥」
すみません、と幡多野が言葉を付け足す。
「こう薄暗いとよく見えないもんな‥‥」
犬彦の呟きに「ちょっと戻ろう」とヘイルが提案を出した。
「入口付近から照明銃を打ち込む。地形の確認と警戒を頼む」
ヘイルの言葉に他の能力者達も頷き、入口付近まで戻った所でヘイルが照明銃を洞窟内部に打ち込んだ。ぱっと明るく見えた洞窟内部には到る所に氷柱があり、キメラ捜索中もだが戦闘中も落ちてくる氷柱に警戒をしなければならないと、それぞれ心の中で呟いていた。
「ちょっと待って、何か聞こえない?」
キメラ捜索を再開しようとした時、ラナが他の能力者達に問い掛ける。彼女の言葉に能力者達が耳を澄ませると、確かに狼の鳴き声のようなものが耳に入ってくる。
「キメラ、でしょうか‥‥でも、はっきりと聞こえますから意外と近くにいるのかもしれませんね」
エリーゼの言葉に「それに、狼は群れるものだから。他にもいるかもしれん、な」とUNKNOWNが呟いた。
「とりあえず捜索を再開しましょう」
終夜が呟き、能力者達はキメラ捜索を再開し始めたのだった。
それから能力者達は捜索を続ける中、思うように洞窟内部を進む事が出来ずにいた。足場も悪いせいか滑りやすく、常に落ちてくる氷柱に気を張り詰めておかねばならない。
「っと、滑りやすいから気をつけろ」
犬彦が中衛、後衛の能力者達に注意を促す。その間にも離れた所では氷柱が落ちたのかがしゃん、という音が洞窟内に響き渡っていた。
「戦闘時が‥‥心配ですね」
終夜が呟いた時――ぐるるる、と獣の唸り声が能力者達の耳に届いた。
「ふむ、この動いている反応は恐らくキメラ‥‥じゃな。50mも離れておらぬようじゃが」
さすが我、我の才能は恐ろしいのぅ――と寒さに震えながら高らかにフェンダーが笑う。
「ここから出すわけにはいきませんし‥‥何とか退治しましょう」
エリーゼが炎剣・ゼフォンを構えながら呟く。
「銃なんて‥‥久しぶり、かな――来る!」
ラナが叫んだ瞬間、氷の影から狼型キメラが飛び出してきて、能力者とキメラの戦闘が開始されたのだった。
―― 戦闘開始・能力者 VS 狼型キメラ ――
「ほんと寒いな‥‥早めに決着つけようか」
幡多野は呟きながら、キメラへと接近する。正面と思わせておいて、スキルを使用しながら側面を攻撃し、そして再びスキルを使用してキメラを地面へと叩きつけた。
「っと‥‥雪原用ブーツを履いてきて正解だったかな」
呟き、幡多野は後ろへと下がる。彼と入れ替わりになるかのように終夜が前へと出て魔剣・フィルティングを振り上げてキメラへと斬りつける。
だが終夜が攻撃を仕掛けている時、氷柱が落ちてくるのを見つけたUNKNOWNは超機械・カルブンクルスで氷柱を狙い撃ち、終夜に直撃するのを防いだ。
「‥‥ふむ、物理銃と違ってこういうのには便利だな」
感心するように呟きながらUNKNOWNは氷柱に注意しつつ、後方から援護射撃を行う。
(砂を採取出来ればよかったかもしれないんだけど‥‥でも、この状況じゃ焼石に水、かもしれないわね)
ラナは呟きながら小銃・WI−01と小銃・DF−700でキメラを狙い撃つ。弾幕を切らさぬように射撃を行いながら(銃を持つのは久しぶりでも、身体は感覚を覚えているものなのね)と心の中で呟いた。
「無理をしてはいかんのじゃ! 我はファンを大事にするのじゃ!」
ひどく果てしない勘違いをしながらフェンダーが支援を行う。彼女に対してツッコミが入らないのは、きっと戦闘中のせいだろう。決して呆れているわけではない、はずだ。
「狼風情が、頭の悪そうな面構えをしてるな。さっさとかかってこい、逃げも隠れもせんぞ」
スキルを使用し、キメラの気を自分に引きつける。そして他の能力者達は犬彦に気が向いている間、態勢を整えて再び攻撃に転じた。
最初に攻撃を仕掛けたのはヘイルだった。犬彦がスキルを使用してキメラの攻撃を弾き、僅かな隙が生じた所を狙い、ヘイルが二つの槍を構えて攻撃を行った。
「あっ‥‥!」
キメラの狙いが犬彦からエリーゼへと変わり、キメラは素早く動きながらエリーゼに襲い掛かる。
「その素早い動きも、足さえ動かなくなってしまえば問題ないですよね」
エリーゼは攻撃を読んでいたのか、キメラの攻撃を受けた後、カウンターのようにして思い切り剣でキメラの足を斬りつけた。
エリーゼの攻撃を受けた後、キメラは冷たい地面へと転がり、苦しそうに呻き始める。もちろんその勝機を逃す能力者達ではない。
「‥‥剣の皇」
終夜が呟き、強力な一撃をキメラへと食らわす。それと同時にヘイルとラナも攻撃を行っており、能力者達は無事にキメラを退治する事が出来たのだった。
―― 戦闘終了後 ――
キメラを退治した後、能力者達は万が一の事を考えて洞窟内を見回る事にしていた。問題のキメラは退治したが、仲間が洞窟内に潜んでいた――という事を考えたのだろう。
「とりあえず、ここの見回りが終わったら町の喫茶店でコーヒーでも飲んで一服したいわね」
寒いのは‥‥もう暫くいいかな、とラナが苦笑しながら呟く。
「今回のように毎回被害が出る前に発見できればいいのだが‥‥そうはいかないのがつらい所だな」
ヘイルがため息混じりに呟くと「そう、ですね‥‥」とエリーゼが言葉を返す。
「余程の事がない限り、能力者は『何か起きてから』しか行動出来ませんから‥‥」
エリーゼは悲しみに表情を歪めながら呟くと「‥‥そうだね」と幡多野がポツリと言葉を返す。
「でも、安心するのはまだ早いんじゃないかな? キメラはまだ潜んでいるかもしれないし、例えキメラがいなくても氷柱という自然の敵がいるから、ね」
UNKNOWNの言葉に能力者達は首を縦に振った。
「フッフッフ、先ほどは我の支援によって見事な勝利を飾ったのじゃ。我の輝かしい歴史がまた1ぺ‥‥って誰もいないのじゃ! ま、待つのじゃ! こんな所に我一人を置いていかないでくれなのじゃー!」
既に遠くなっている能力者たちを慌ててフェンダーが追いかけていく。
「あんな毛皮着てたら‥‥寒くはないよね。ま‥‥キメラは元々‥‥寒さなんて関係ないのかもしれないけど‥‥」
幡多野は倒れているキメラの死体を横目に見ながら呟く。
「俺から見れば、あのキメラは狼というより犬――と言った方がふさわしいかもしれませんがね。本物の狼はあんなに生温い相手ではないのですから」
終夜がポツリと呟く。それは聞き取れない程の小さな声だったせいか、他の能力者たちの耳には届いてはいなかったようだった。
(‥‥私は、前と比べてどれくらい強くなれたんだろう)
自分の手を見ながらラナが心の中で呟く。
「ここの捜索が終わったら、皆さんで温かい飲み物でも飲みましょう。私、ポットセットを持ってきているので」
エリーゼの言葉に「それはありがたいな」と犬彦が言葉を返し、能力者達は洞窟内の捜索を再開し始める。
それから1時間ほど、洞窟の中を捜索していた能力者達だったがキメラらしき相手は洞窟内に潜んではいなかった。
その後、能力者達は身体を温めてから高速艇へと乗り込み、報告の為にLHへと帰還していったのだった。
END