●リプレイ本文
―― 寂しい女の末路 ――
「キメラの癖に、キメラの癖にリア充しやがって‥‥」
1人の世界を作りだし、ぶつぶつと文句を言っているのは今回の能力者達に同行して任務を行う筈のマリカという女性能力者だった。
「‥‥久々の‥‥人型だ‥‥楽しませて‥‥もらうか‥‥」
西島 百白(
ga2123)が資料に視線を落としながら呟く。とりあえず隣で騒いでいるマリカについて、西島はあえて何も言わない事にした。
「なんというか‥‥最近、バグアって妙に人類の季柄に合わせたキメラばっかり作ってないか?」
漸 王零(
ga2930)が苦笑しながら呟くと「確かに‥‥」と蓮角(
ga9810)が言葉を返す。
「この時期、ソロの人々の嫉妬心やら焦燥感やらを煽って人間を仲違いさせようとするバグアの陰謀! ‥‥とかだったら面白んですけど」
蓮角は笑いながら言葉を付け足す。数年前の彼ならば嫉妬の炎を燃やしていただろうが、今現在はそれもなくなっているようだった。
「まぁ、普通のバカップルですら迷惑がられんのにキメラだもんなぁ。さっさと片付けるとしよう――‥‥彼女の平穏の為にも」
蓮角は苦笑しながらマリカを見て小さな声で呟いた。
「りあじゅう! ‥‥りあじゅうって何?」
かくりと首を傾げながらエレナ・ミッシェル(
gc7490)が呟く。彼女が今回の任務に参加した理由は嫉妬に狂ったマリカの観察を行おうという好奇心からだった。
ぶっちゃけて言ってしまえば、エレナにとって『キメラ討伐』は二の次でしかなかったりする。
「ふ、ふふふ‥‥ふーん? カップルのキメラ‥‥ねぇ? あははははは、これは久々に気持ちよく暴れられそうだなぁ!」
烈火を振り回しながら楽しそうに叫んでいるのはルーガ・バルハザード(
gc8043)だった。
しかし何故かマリカと同じ雰囲気を持っているような気がするのは気のせいだろうか?
「ひゃくしろ! りあじゅうが何なのか今回の任務を終わらせれば分かるって本当なりか?」
リュウナ・セルフィン(
gb4746)が西島に問い掛けると「‥‥あぁ、分かる」と短く言葉を返す。
「にゃー! それなら頑張るなりよー!」
ぐ、と小さな手で拳を作ってリュウナは任務に対する意気込みを見せる。
「うまく立ち回れば、簡単そうな依頼ですが‥‥マリカ様とルーガ様は何を興奮してらっしゃるのでしょうか‥‥?」
王 憐華(
ga4039)がマリカとルーガを見て、首を傾げるが「‥‥気にしてはいけない」と漸からこっそりと言葉を投げかけられる。
「でも、資料を見る限り‥‥害があるとは思えないんですけど。このキメラって、何か人に危害を加えたりするんでしょうか?」
赤宮 リア(
ga9958)が苦笑しながら呟く。確かに彼女が疑問に思うのも無理はない。まだ被害と言える被害が出ていないのだから。
しかしキメラである以上、いつ人を襲い始めるか分からない為、能力者たちが派遣される事になったのだ。
「さぁ、さっさと行くわよ。キメラの癖にリア充な奴らをぐっちゃぐちゃにしてやるんだから‥‥!」
マリカの言葉を聞いて「大丈夫ですよ。どんな人にだっていつか出会う人がいるんですから、きっとマリカ様にだって王子様かお姫様がいるはずですよ」と王がにっこりと笑顔で言葉を投げかけた。
「や、私は女だからお姫様はいらない。待ってるのは王子様だけだから! むしろお姫様付で来たらぶっ飛ばすから」
マリカの言葉に苦笑しながら「そろそろ行きましょうか」と蓮角が呟き、能力者達は高速艇に乗り込んで目的地へと出発していった。
―― 暗き森に潜む、ラブキメラ ――
今回、キメラが潜んでいるのは森の中であり、能力者達が現地へ到着する頃にはすっかり夜も更けてしまっていた。
能力者達は今回、班分けをする事なく固まってキメラ捜索をする作戦を立てており、それぞれランタンなどの光源を持ち寄っていた。
「さてさて、問題のキメラは何処にいるんですかねー」
蓮角が灯りで地図を照らしながら呟く。
「そういえば、マリカさんはクリスマスのご予定は――‥‥」
赤宮が問い掛けると「ク、リ、ス、マ、ス?」と般若のような顔で凄まれてしまう。
「私、日本人なのでクリスマス知りません。それが何か? 一緒に過ごしたいなと思っていた人にはフラれましたが何か? さぁ笑いなさい。惨めで哀れな私をあざ笑いなさいよ」
は、と鼻で笑われ「や、自棄になってはいけませんよ! 転機は訪れます! ‥‥‥‥多分」と赤宮は最後の言葉だけを極力小さく呟く。
「で、でもカップル型のキメラが夜の森の中‥‥な‥‥何だかとても危険な香りがいたしますけど‥‥例えどんな場面に遭遇したとしても取り乱してはいけませんよ?
何を想像しているのか、赤宮は顔を赤く染めながら他の能力者達に呟く。取り乱すな、という彼女が一番取り乱しそうな気がするのは気のせいだろうか。
「にゅ〜、夜の森は暗いのら! 見えにくいのら! 迷子にならないか不安なり! 迷子になったら大変なり! 怖いのら!」
西島の手をぎゅうっと強く握りしめながらリュウナが呟く、いや、むしろ叫ぶ。
「‥‥ちゃんと‥‥迷子にならないよう‥‥見ていてやるから、安心‥‥しろ」
西島が安心させるようにリュウナに言葉を投げかけると「頼りにしてるのら、ひゃくしろ!」とリュウナも言葉を返した。
「資料を見ると確かにふざけたキメラのようだが、油断は禁物だ。僅かな油断が死を招くのだから」
漸が赤宮と王に言葉をかけると「分かっています、油断なんてしません」と2人は言葉を返す。
「リア充め、どこにいるんだ‥‥」
ぶつぶつと文句を言う言葉が聞こえ、能力者達はまたマリカが1人微妙な空気を振りまいているのかと思っていると――実際に呟いていたのはマリカではなくルーガの方だった。
(かなり面白そうな展開が期待できるなー。出来ればキメラにはこれ以上ないくらいにイチャイチャしていてほしいなー、余計に面白いものが見れそうだから)
エレナは嫉妬心を丸出しにしているマリカとルーガを交互に見比べながら心の中で呟く。
「‥‥む‥‥」
しばらく森の中を歩いてキメラ捜索をしていると、西島がピタリと足を止める。前方から何やら甘い雰囲気が漂って来ていて、その先にキメラがいるのであろう事は何となく気配で分かってしまった。
「あー‥‥確かにイチャついてますねぇ。これ見よがしに堂々と」
苦笑しながら蓮角も呟く。
「ほっ‥‥どうやら、取り込み中ではないようで安心しました――が、あのキメラを退治してしまうのは少しばかり心苦しいような気がしないでもありません」
赤宮がこっそりとキメラの様子を伺いながら呟く。能力者達が近くにいるにも関わらず、べったりとくっついているだけで本当にキメラなのかを疑いたくなるほどだ。
「にゅ? アレがりあじゅうなりか? にゅ〜、よく分からないなり! ひゃくしろ、後で詳しく教えてなり!」
リュウナが首を傾げながら呟くと「‥‥あと10年もすれば‥‥分かるだろ」とぼそりと呟くのだが――「すみません、その子の10年先よりも年齢いってる私ですがリア充がわかりません。それが何か!?」とマリカが西島に凄む。
その真剣な様子を見て、西島は思わず「ごめんなさい」と謝りたくなったのはここだけの話である。
「そんなにベタついているくらいだ‥‥共に葬るというのが人道的かな、そうだろう!?」
ルーガが呟き、キメラに向けて駆け出そうとした瞬間――「テメェェェラァァァァ! よくもまぁこの私の前でリア充を発揮できるなァァァァァ! 覚悟せぇやぁぁぁ!」とマリカが剣を振り回しながらいち早く駆け出してしまっていた。
「まぁ、引き離さずに対応した方がさっさと終わらせられるんだろうけど‥‥引き離した方が面白いよね?」
蓮角も苦笑しながら呟き、蛍火を構えてキメラへと向かって駆けだしていく。
「リュウナは木の上から援護するなり! リュウナ・セルフィン! 黒龍神の名のもとに狙い撃ちます!」
それぞれの戦闘準備が終わったという事で、能力者達は幸せそうなカップルキメラ退治を開始したのだった。
―― 戦闘開始・どっちが悪者かちょっと分からない展開です ――
「‥‥獲物、見つけた‥‥」
西島はジャイアントクローを装着して、姿勢を低くしながら「ガルルルル」と威嚇するように低く吠える。
「さて、それではTrinityの名が伊達ではない所を見せてやるか‥‥行くぞ、2人とも」
漸が赤宮と王に背中を見せながら呟くと「はい」と漸の背中を追うようにして王も赤宮も武器を構える。
「マリカさん、マリカさん。1人で突っ込んだら大変ですよ。サポートはしますんで、存分に憂さ晴らしをどうぞー」
蓮角はマリカを刺激しないように優しく言葉を投げかけ、男性型のキメラに攻撃を仕掛け、マリカが攻撃をしやすいようにサポートする。
「出来る限り、私はキメラを引き離さずに退治したいと思っているんですけど‥‥無理かもしれませんね」
嫉妬に駆られたマリカとルーガの攻撃する様を見て、赤宮が苦笑しながら呟く。
「面白いキメラには違いないんだけど、これもお仕事なんだよね。悪いんだけど、すっぱりさっぱりやられちゃって欲しいな」
エレナは拳銃・CL−06Aを構え、キメラを狙い撃ちながら言葉を紡ぐ――が、もちろんキメラにエレナの言葉を聞く余裕はなかった。
能力者達の攻撃によって、甘い時間を壊されて腹立たしくなったのか、2体のキメラはそれぞれ能力者達を敵とみなし、攻撃を仕掛け始める。
「‥‥少し、俺と遊ぼうか‥‥?」
西島は低く呟き、スキルを使用しながら男性キメラへと攻撃を仕掛ける。攻撃を仕掛けた僅かな隙をついて男性キメラが西島に反撃を仕掛けようとしたがリュウナが木の上からスナイパーライフルD−713で狙撃を行い、キメラの攻撃は西島に当たる事はなかった。
「イチャイチャできなくなって残念だなぁ? リア充じゃない奴らの気持ちが少しは分かるか? 分かるだろう? 分からないというなら分かるまで叩き伏せてやるさ」
普段のルーガからは想像も出来ないような笑い声をあげながら男性キメラへと攻撃を仕掛ける。
「こんな森の中なら誰の迷惑にもならないとでも? 甘いんだよ、雰囲気も考えも甘すぎだ!」
ルーガの攻撃に合わせるようにマリカも男性キメラを斬り伏せた。それはもう遠慮の欠片のないくらいの勢いで。
「あちらのキメラは大変そうですね――でもこちらはキメラとはいえ女性の姿。せめて楽に息の根を止めてあげたいです」
赤宮はスキルを使用しながら洋弓・アルファルで女性キメラを狙って動きを止め、キメラとの距離を詰めた王が機械脚甲・スコルで攻撃を繰り出し、更にエネルギーガンでも追撃をする。
「久々の‥‥狩りなんだ‥‥楽しませて‥‥くれよ‥‥なぁ?」
西島は楽しそうに笑みを浮かべ、女性キメラの背中をジャイアントクローで切り裂く。西島の攻撃を受け、よろめいた所を漸が魔剣・ティルフィングを構え、スキルを使用しながら攻撃を行う。
そして続け様に攻撃を繰り出し、女性キメラはがくりと膝を折る。
「これで‥‥」
「終わりです」
赤宮と王が呟き、女性キメラへと攻撃を行い、比較的楽に女性キメラを退治する事が出来た。
そして、男性キメラの方と言うと‥‥。
「これは‥‥嫉妬に狂った人って、ここまで脅威を見せるものなんですかね。もしバグアにも嫉妬心があったら――今より強くなるのかな」
男性キメラに己の憂さを晴らすマリカとルーガの姿を見て蓮角が苦笑する。もちろん更に暴走されても困るので、きちんとサポートを行いながら。
そして、男性キメラも無事に退治する事が出来て、嫉妬に駆られた能力者達は爽やかな笑顔で「良い仕事をした!」と叫んだ。
―― 実は、仲間にリア充がいたんです ――
戦闘が終了した後、能力者達はそれぞれ傷の手当てをするために少しの休憩を取っていた。
「零! 怪我をしているんですか!?」
赤宮が漸の治療をしている姿を見て王も慌てて駆け寄ってくる。
「リアさんはこの前、デートしたんじゃないですかー! 零の手当てをする権利くらい譲ってください!」
「ちょ‥‥憐華さん、犬や猫とは違うんですから‥‥」
「ほら、2人とも‥‥依頼は終わったんだから、そんなに焦らなくてもこれくらいの傷なら舐めとけば大丈夫だから争わなくてもいいよ。そんな事で我の大事な2人が怪我してもらいたくないしね」
漸の言葉に渋々ながら2人とも『治療争い』は終わったのだが‥‥。
「‥‥あのぅ、あなた達のご関係は?」
桃色マックスで話を進めていた3人を見てマリカが問い掛ける。
「え? 我ら三人、夫婦だけど?」
「え? 私達三人、夫婦ですけど?」
「えっと、夫婦です‥‥」
3人がほぼ同時にマリカへと言葉を返す。
「‥‥リア充がこんな所にもいたのか、き、貴様らァァァ! 私を馬鹿にするのも大概にしろォォォォ!」
マリカが剣を振り回しながら3人を追いかけまわし始める。
「にゅ〜、ひゃくしろ、戦闘が終わったら眠くなってきたのら〜。オンブしてほしいにゃー‥‥」
むにゃむにゃ、と放っておけば今にも寝てしまいそうなリュウナの姿を見て西島は苦笑しながらリュウナをオンブする。
すると余程疲れていたのか、リュウナはすぐに寝息を立て始めた。
「どうです? 少しは気が晴れましたか?」
蓮角がルーガへと言葉を投げかける。そしてマリカの方を見ながら「あっちは更に炎が燃えたようですけど」と言葉を付け足した。
「ふ‥‥私とした事がアベック如きに平常心を乱されるとはな‥‥こうなったら、独り者の能力者で飲みにでもいかないか? どうしようもない飲み会になるのは目に見えているがな」
ルーガの言葉に「‥‥確かに。大参事になりそうですね」と蓮角も言葉を返す。
「とりあえず、嫉妬に狂った女には要注意――と」
うんうん、とエレナは一人納得したように小さな声で呟く。
そして、能力者達は任務達成の報告の為にLHへと帰還するのだが――高速艇の中では行きよりも更に酷い空気を醸し出すマリカの姿があったのだとか‥‥。
END