●リプレイ本文
「今回はまた面倒そうな相手ですねぇ‥‥」
鋼 蒼志(
ga0165)が呟く。
「なるほど‥‥人の潜在的恐怖を利用すると言われるキメラとして納得出来るあり方だ‥‥猟奇的な嗜好はそれだけで恐怖の対象になりえるのだから‥‥」
尤も私には程遠い話だが、と呟くのは御影・朔夜(
ga0240)だった。
「囮役‥‥気をつけてくださいね」
如月・由梨(
ga1805)が恋人である終夜・無月(
ga3084)に話しかける。残虐なキメラへの囮役として動くのは御影・終夜・崎森 玲於奈(
ga2010)の三人だった。
もちろん、如月は恋人を含め、仲間のことを信じていないという事はない。けれどやはり拭いきれない不安が心に残るのだ。
「大丈夫だよ‥‥皆がいれば大丈夫だから」
終夜が如月に応えると、彼女は安心したように首を縦に振った。
「しかし、人狼とは‥‥世界もファンタジーになったものですね」
叢雲(
ga2494)が泥や草木を体に塗りつけながら呟く。彼はそうやって森の匂いを体に塗りつけることで、自分の匂いを誤魔化そうとしているのだ。
「今回のワンちゃんは楽しそうね。この子の知識や記憶は是非見てみたいわ‥‥」
楽しそうに呟くのは海音・ユグドラシル(
ga2788)だった。
「人狼――そういえば人の本質は獣である‥‥ある者が言っていたね。現実は人は獣よりも恐ろしい存在、だ。その証明‥‥かね」
UNKNOWN(
ga4276)が呟き「しかし‥‥」と言葉を続ける。
「――仲間がいる。その意味を、考えるんだ」
アンノーンが能力者に話し、キメラ討伐へと向かい始めたのだった。
最初にキメラを見つける為に動き始めたのは、囮班の三人だった。
「さて‥‥向こうはわざわざ皮膚を剥ぎ取った末に屠るという手間をかけてまで、己の渇きを癒す事だ」
崎森が夜の森を歩きながら小さく呟く。彼女の考えは、相手が皮膚を剥ぎ取り葬るという方法を取っている以上、単純な方法で倒させてくれるほど甘い相手ではない――という考えだった。
そして御影が持って来た血糊をコートに塗り、傷を負っているように振舞う。そしてその後ろを殲滅班がついてきており、キメラを見つけると同時に奇襲をかける。
そうやって隙を見せながら森の中を歩き回ったおかげか、背後からキメラの気配を感じる。
恐らくは血の匂いがしているせいか、傷を負っていると勘違いしているのだろう。唸り声をあげ、殺気を隠すことなく背後からひたひたと近寄ってきている。
「―――後ろ‥‥」
崎森が御影と終夜に教えるように小さな声で呟く。
「あぁ‥‥」
二人も気がついているのか、真剣な顔で視線だけを後ろに向ける。すると口から涎をたらしながら、此方を木の影から見ている人狼キメラを見つけた。
崎森は借りていた通信機で殲滅班に連絡をいれ、攻撃態勢を取る。
「‥‥よほど渇いているらしいな――お前も‥‥私も!」
崎森は呟くと同時に刀を手に構え、キメラへと攻撃を仕掛ける。
「‥‥これが噂の人狼か‥くくっ、笑えないな‥‥」
御影は嘲るように笑い、小銃『シエルクライン』を手に持ち、キメラに向けて発砲する。それと同時に終夜も月詠を構え、御影の攻撃の後に斬りかかる――が人狼も簡単に攻撃を受けてくれず、弾かれて終夜は木の方へと投げ飛ばされてしまう。
「大丈夫ですか!?」
その時、殲滅班が合流して人狼キメラと能力者全員の戦いになった。
「さて‥‥上手く行きますかね‥‥」
言いながら鋼は覚醒して、ドリルスピアを構える。
「さぁ、散々殺してきたお前の殺される番だ!」
鋼は言いながら攻撃を仕掛ける。その間に如月が「大丈夫ですか!?」と終夜に駆け寄る。
「あぁ‥‥大丈夫、それよりキメラを‥‥」
「あれが四人を惨殺したキメラ‥‥ですが、退くわけには――」
如月は呟き、月詠を構えて攻撃態勢を取る。
「やれやれ‥‥人狼退治には銀の弾丸と相場が決まっているのですが‥‥‥‥ねっ!」
叢雲がライフルで人狼キメラを撃ちながら呟く。
「あらあら、本当に『ワンちゃん』と『坊や』どっちの呼び方がいいのか困るわねぇ」
海音は後ろで怪我人が出たときなどの為に超機械一号を両手で持ち、待機している。
そして、アンノーンは海音と叢雲を守る為に動いている。キメラからの攻撃が来たら彼は身を持って守る覚悟がある。
そしてアンノーンは護衛役に回りながらも、攻撃をする事を緩めず、スコーピオンでキメラを狙う。
「月は魔力を持つ、と聞きますが――それに勝てなくて私達は能力者になった意味がありません――」
如月は呟き、攻撃を仕掛けようとしたが、それを終夜に止められる。
「由梨‥‥確かにあいつは強い――だが、能力者同士の連携に対応ができなくなっている」
その言葉に如月はキメラの様子を冷静に見る。確かに終夜の言葉通り、押されているのは人狼キメラの方だ。
「俺は、お前のような世界の異物を打ち砕く!」
鋼が叫び『紅蓮衝撃』を使い、キメラに攻撃を仕掛ける。
「‥‥赤いオーラっていうのは気に入らないな‥‥」
攻撃を終えた後、鋼は小さく呟く。彼のイメージカラーが蒼なこともあり、赤いオーラを放つということが気に入らないのだろう。
「そろそろトドメに向かうか―――アクセス」
御影は呟き、覚醒をして小銃・シエルクラインを構え、視線を終夜に向ける。
「無月‥‥っ!」
「あぁ‥‥奴の月を打ち砕いてやろう」
そうして二人は連携技『破月』を使い、キメラに攻撃する。破月、それは御影が敵にダメージを与えて、如月と終夜が左右からの攻撃でキメラに攻撃する――というものだった。
しかし、その後で御影に向けて人狼キメラが爪を飛ばす――攻撃が当たる刹那、崎森が刀で人狼キメラの爪を叩き落とす。
「ハハ‥‥! 双つの月を背にして、命尽きるまで踊ろうじゃないか!」
崎森は叫びと同時にキメラに攻撃を仕掛ける。叢雲も崎森を撃たぬように気をつけながらアサルトライフルで攻撃する。
「もう少し頑張ってくれるかと思ったんだけれど‥‥所詮は『ワンコの坊や』がぴったりな子って所なのかしら」
呟く海音に気づいたのか、人狼キメラが御影に飛ばした爪を海音に向けて飛ばす――が、護衛役に徹していたアンノーンが海音を突き飛ばし、爪の攻撃から彼女を守る。
「前には仲間がいる。私がいる――恐れるな」
アンノーンは呟き、人狼キメラからの攻撃に備えた。
「しかし‥‥つくづく度し難い‥‥初めて見る敵を、すでに見たことがあると感じてしまうとは‥‥」
御影は呟き、長い戦いに決着をつける為に能力者達も動き出していく。
「‥‥無月、此処で終わらせるぞ」
「あぁ‥‥双月の狼の恐ろしさ――あの身に刻み込ませてやる――」
叢雲は終夜たちの言葉を聞いて、彼らがトドメを刺すために時間稼ぎを行う為にアサルトライフルで攻撃を始めた。
「その身に刻め――これが悪評高き狼の爪牙だ――」
他の能力者達の支援を受けながら、御影と終夜は人狼キメラへトドメを刺すために再び『破月』で攻撃を行ったのだった―――‥‥‥。
その後に聞こえたもの、それは人狼の耳を劈くような悲鳴だけが夜の森に響いたのだった‥‥。
●その後‥‥彼は。
人狼キメラを倒した後、能力者達は最初に人狼キメラを退治しにいき、生き残った能力者のお見舞いに来ていた。
「あなたを苦しめた人狼キメラは退治してきましたよ‥‥」
鋼が病室のベッドで蒼白い顔で横たわる能力者に話しかける。
「そうか――倒したのか‥‥」
彼は一時のような錯乱状態から回復して、体の方の回復はまだまだだが、面会できるほどまでに精神状態を落ち着かせた。
そして医師の話だと、毎日のように自分を責めているのだという。他の能力者に今回犠牲になった4人の能力者と彼は、昔からずっと仲が良かったのだと聞かされた。
その仲の良かった有人が自分を残して死んでしまったのだ。普通の人間ならば自分を責めない筈はないだろう。
「‥‥どうにかして彼を元通りの彼にしたいですね‥‥」
如月はその正義感からか、能力者の男性の状態を見て心を痛めていた。
「俺達に出来るのは‥‥キメラを倒すことまでだ‥‥」
終夜の言葉に「そうだね」と崎森が言葉を返してくる。
「私たちに出来るのは、立ち直る切っ掛けとしてキメラを倒すことだけ‥‥。そこから立ち直るかどうかは自分自身で決めなくちゃいけない」
崎森の言葉は尤もだ。どんなに他人が彼を説得しても、立ち直る為に必要なのは『彼自身』の心なのだから。
「そうね、それは間違いではない。他人がどう足掻こうと彼の気持ちなんて分かりっこないもの」
海音の言葉に能力者の男性は視線を逸らしながら小さく呟き始める。
「俺が‥‥足を引っ張ったんだ‥‥本当なら死んでいるのは俺の方だったんだ‥‥」
仲間が自分の為に死んだ、その事実が彼の心を異常なまでの責任感を与えていた。
「あなたがこのまま生きもせず、死にもせずの状態を続けたら――仲間はどう思うでしょうか。あなたは仲間のためにも生きなければならないのですよ」
アンノーンは呟く。彼が言っている『生きる』というのは能力者としてではない。彼にそれを言う権利はないのだから。
「‥‥俺は、能力者としては生きられない‥‥それでもいいのかな――」
「能力者だけが生きるすべではないでしょう。あなたが思うように生きていいのですよ」
叢雲の言葉に能力者は泣き始め「ありがとう」と呟く。
「やれやれ、これで本当に夜明け、だな――晴れぬ闇はない、か」
戦いに勝ち、能力者の心をも救った彼らの事を、男性は忘れる事はないだろう。
END