●オープニング本文

その町には２体のキメラが確認されていた。

その姿はすべて、子供の姿をしたキメラ。

※※※

「子供の姿をしたキメラ、か‥‥やりにくいねぇ」

小さくため息を漏らし、男性能力者が資料を見ながら呟く。

「やらなくちゃ殺されるのはこっちだってわかっていても、割り切れない部分があるわよね‥‥」

同じ資料を見ていた女性能力者も「まぁ、人型自体がやりにくいんだけどね」とため息交じりに言葉を付け足した。

「まぁなぁ‥‥どんな風に作られてるのかって考えると、ちょっと――いや、かなり躊躇っちまう部分があるんだけどな」

「考えて躊躇ってると危ないのはこっちなんだってわかってるんだけどねぇ」

「でも、まぁ‥‥負傷者が結構出てるからそういう事も言ってらんないんだろうけどな」

資料によれば、死人こそ出ていないけれど結構な数の負傷者が出ている事が判明している。

「おそらく、ほとんどの負傷者が避難時のパニックで――というパターンなんでしょうけどね」

女性能力者が資料を見ながら呟く。

「ま、外見が何であろうと敵って事には変わりないからな」

退治するだけさ、と男性能力者は言葉を付け足すのだった。

●参加者一覧

●リプレイ本文

――　キメラ退治に赴く能力者達　――

「少年と少女の姿をしたキメラとか、やっぱりいい気はしないわねー」
　でもキメラである以上、容赦はしないけど――とフローラ・シュトリエ（gb6204）が資料を見ながら言葉を付け足す。
「本当デスネ。まったく嫌な気分にさせるキメラダナ。作ったやつをボコボコにしたいところダ」
　ラサ・ジェネシス（gc2273）も表情を歪め、嫌悪感を露にしながら呟いた。
「また人型キメラですか、先日おっさんキメラを退治してきたばかりなんですけどねぇ」
　ジョシュア・キルストン（gc4215）が苦笑しながら呟く。
「‥‥最近‥‥人型キメラが目撃されるケースが増えているようです‥‥何か意味があるのか‥‥単なる偶然なのか‥‥どちらにしても‥‥依頼が出される限りはそれを果たすのみ‥‥です」
　リズレット・Ｂ・九道（gc4816）が首を傾げながら呟く。
「資料を見る限り、私と同じくらいの年に見えるキメラかー。私がキメラになったら今より強くなれるかな？　ちょっと気になるかも――なんてね」
　あは、とエレナ・ミッシェル（gc7490）が笑いながら呟く。彼女自身、冗談で言っているのか本気で言っているようには思えなかった。
「子供の姿の敵、とは‥‥面倒な依代を選んだものだ」
　ルーガ・バルハザード（gc8043）が大きくため息を吐きながら資料に視線を落とす。
「‥‥こ、子供のキメラ‥‥」
　ぶるぶると震える手で資料を読んでいるのは無明　陽乃璃（gc8228）だった。
（た、確か‥‥ひ、人型のキメラは人間を素体にするって‥‥前に聞いた事が‥‥そ、それじゃ‥‥このキメラは、この子たちは‥‥！）
　唇を強く噛みしめ、無明は実際に子供キメラを見た時に戦えるのか不安になってくる。
「あ、あの‥‥こどっ！　子供の‥‥形をしていても‥‥人を襲う‥‥んですよね？　だ、だから‥‥倒さないと何時かは‥‥あのっ！　皆さん‥‥は辛く‥‥無いん、ですか？」
　無明の言葉に「‥‥何故、情を持つ？」と不破　炬烏介（gc4206）が言葉を返した。
「え、え‥‥？」
「‥‥何故、ヒト、は‥‥ヒトの形‥‥する者に‥‥情を持つ？　憐みであれ、殺意であれ‥‥何故、それを‥‥無視出来ない‥‥？　肯定にせよ、否定にせよ‥‥」
　不破は今回殺意以外の感情意志がなく、それゆえに子供の姿をしているからと言って躊躇う能力者達の気持ちが理解できないのだ。
　だけど、それは逆もあり、躊躇う事なく退治――いや、殺してしまえるという不破の気持ちは今の無明には分からなかった。
「あ、そういえばコレを預かってきたんだけど‥‥」
　フローラが見せたのは街の地図。結構詳しく書かれているものであり、彼女はある地点に印をつけて「ここなら広さもあるだろうし、戦闘に適してると思うんだけど」と言葉を付け足した。
「確かに‥‥地図を見る限り広そうな場所ですネ。街の人は避難しているダケなので、こういう場所で戦闘したら最小限の被害で済みマスネ」
　地図を覗き込みながらラサも同意するように言葉を返す。
「そろそろ出発するとしようか、遅くなってもいけないしね」
　ルーガが呟き、能力者達は高速艇に乗り込んで、子供のキメラが徘徊している街へと出発し始めたのだった。


――　無垢なる悪魔たち　――

　今回の任務を受けた能力者達は班を分ける事はせず、皆で固まってキメラ捜索を行うという作戦を立てていた。
「そういえば、資料には動きの早いキメラって書いてあったし、心がける事はキメラに『当てる』事じゃなくて動く先の空間を『削る』感じでいいんだよね？」
　作戦を確認するようにエレナが問い掛けると「そうだな、あとは回り込んで一気に叩き潰す――という事か」とルーガが言葉を返した。
（出来る事なら、た、倒したくはない‥‥き、キメラだって事が間違いであってほしいと願っている私は‥‥まだ傭兵になりきれていないのでしょうか）
　淡々と作戦を確認していく仲間達、街に足を踏み入れた時から『能力者』の顔になっている仲間達を見て、無明は心の中で呟いていた。
「壁とか壊されているのはあるけど、あまり予想していたより被害は少ない方なのかな？」
　フローラがひびの入った壁を見ながら呟く。
「負傷者が多い割に街そのものの被害は少ないみたいだから、資料にあった『パニックの際に負傷した』っていうのが正しいのかもしれないデスね」
　ラサが言葉を返すと「まぁ、被害なんてないに越した事はないんですけどね」とジョシュアも言葉を挟んできた。
「‥‥あそこが‥‥地図にあった場所‥‥でしょうか」
　リズレットが前方を指差しながら呟き、つられるように能力者達も視線を移す。そこにあったのは最初本部を出る時に言っていた広場であり、所々に工事道具などが置かれていたりしていたが、戦闘する上で支障が出るものでもなかった。
「‥‥ソラ、言う‥‥『ソノ村ノ村人ハ‥‥隣ノ山ニ‥‥鬼ガ居ルト話シテイマシタ』‥‥と」
　不破が呟き、照明銃を空へと向ける。
「‥‥ソラノコエ、言う‥‥『アル村ニ勇者ガ居マシタ』‥‥来い、子鬼‥‥手、鳴る方へ‥‥」
　言葉の終わりと同時に不破は照明銃を空へと向けて放つ。彼ら以外誰もいない街の中で、照明銃の音はやけに大きく響き渡った。
　もちろん、街に潜んでいるであろうキメラの耳にも音は届いている事だろう。
「これであちらさんから来てくれると助かるんですけどね」
　ジョシュアが周りを警戒しながら呟く。
「まぁ、でも今回は昼ですし見つけるにしても大した苦労はないでしょう。僕がキリキリ働かずとも上手く回りそうですから、サボれる所はサボっておこうかな」
「‥‥サボるより‥‥早くキメラを退治してしまった方が‥‥早々に帰還する事が出来ますから‥‥そっちの方がいいかもしれませんよ」
　リズレットのツッコミに「まぁ、ちゃんと働きますよ。一応はね」とジョシュアは苦笑しながらリズレットに言葉を返した。
「‥‥来る、ぞ‥‥」
　不破がぼそりと呟き、後ろを振り向く。
　するとそこには資料にある子供が２人、能力者達を見て立っていた。
「さて、まずは確認させてもらいましょうか。人間でしたら失礼。でも、時と場所を選ばない貴方達が悪いんですよ？」
　ジョシュアはペイント弾を構え、子供に向けて撃つ。殺傷能力こそないが、もしキメラならばＦＦが発生するだろうと考えたのだ。
「では、我輩モ」
　ラサも石ころを拾い、人間だった時の事を考えて軽く放る程度の強さで子供に石を投げつけた――が、やはり予想通り、ＦＦが発生して石を弾いた。
「‥‥ほっ、本当に見た目だけなら‥‥人間と変わらないのに‥‥」
　無明が悲しげに呟くと「殺らなければ、殺られるのはこっちなんだ」とルーガが諭すように無明に言葉をかける。
「私も、いくら敵とはいえ‥‥年端もいかぬ者を斬るのは気が進まないが‥‥！」
　ルーガは言葉を付けたし、烈火を構えてキメラへと向かって駆けだした。


――　戦闘開始・能力者　ＶＳ　子供キメラ達　――


「卑しくも人の形を取る異形の物ヨ、その容姿で躊躇すると思ったカ」
　ラサは冷たい瞳でキメラを強く見据え、その言葉通り、躊躇う事はせずに小銃・ＡＸ−Ｂ４で少年キメラを狙い撃つ。
「いくら動きが早いって言っても、周りを固められてちゃ動ける範囲は決まってくるよね」
　ラサの攻撃を受け、その場から離れようとした少年キメラを背後から蹴り、切り裂く。
「‥‥オラ‥‥来いよ餓鬼‥‥『勇者ハ‥‥暗イ夜‥‥鬼退治ヘ出掛ケマシタ』‥‥裁きを‥‥一切合切の慈悲なく、殺す‥‥！」
　不破は炎拳・パイロープを構えてスキルを使用しながら少年キメラへと攻撃を行う。
「そんな姿をして何が目的なんですか？　僕自身、人型であるとかにあまり興味はないんですよ。助けられない者を助けたがる程、偽善者ではありませんからねぇ」
　ジョシュアは呟きながらスキルを使用して少年キメラの腹部へと武器を突き刺す。
「おっと」
　リズレットのハンドサインが見えたのか、ジョシュアは武器を引き抜き、後ろへと下がる。ジョシュアが下がったのを確認するとリズレットはアンチマテリアルライフルＧ−１４１を少年キメラへと向けて構え、躊躇う事なく射撃を行った。
「ほらほら、キミの相方は倒されちゃったよ？　キミも早い所、倒されちゃってくれないかな」
　エレナは呟きながら拳銃・ヘリオドールで少女キメラを狙い撃つ。
「確かに動きは素早い方だろうな。動きだけ、なら」
　ルーガは呟き、少女キメラから受けた傷を見ながら「だがこれだけの傷なら危ぶむ必要はない」と痛みをこらえて少女キメラへと攻撃を仕掛ける。
「い、行きます‥‥！　やああああっ！」
　無明は覚悟を決め、超機械・鎮魂でキメラへと攻撃を行う。彼女の攻撃が当たり、少女キメラが地面に倒れた時、やはり無明の中で『子供を攻撃している』という考えが過ってしまったのか、僅かな隙が出来てしまう。
　少女キメラが無明に襲い掛かろうとした時、エレナが少女キメラの足を狙い撃ち「そっちじゃないでしょ」とフローラが側面からスキルを使用して攻撃を行う。
「残念ながらお前達はここで朽ち果てる運命ネ」
　ラサは至近距離から発砲し「油断するなヨ、無明殿」と背中を見せたまま無明に言葉を投げかけた。
「はっ、はい‥‥す、すみません」
　助けてもらわなければ大怪我を負っていたかもしれないという事に気づき、無明は申し訳なさそうに謝った。
「‥‥『勇者ハ次々ト‥‥鬼ヲ討チマス‥‥』‥‥砕けろ、潰れろん‥‥虐鬼王拳！」
　不破は叫び、スキルを使用しながら己の必殺技を繰り出し、少女キメラへと攻撃を行い、その攻撃に合わせてジョシュアとルーガも攻撃を行い、少女キメラも打ち倒す事に成功したのだった。


――　戦闘終了後　――

「これでお仕事は終わり、かな」
　フローラは大きく伸びをしながら呟く。自分を含めた能力者達を見ると、大きくはないけれど、小さい怪我、小さくもない怪我をした能力者達が視界に入ってくる。
（攻撃力があんまり大した事なかったから、これだけで済んだ‥‥って思うべきかな）
　フローラは心の中で呟く。
（命と心を弄ぶバグアめ、お前達が鬼なら我輩は修羅になろうカ）
　ラサは拳を強く握りしめ、新たに決意するように厳しい瞳で空を仰いだ。
「‥‥人型が多いのは、偶然‥‥であってほしいですね‥‥。能力者達が心を乱さない為にも‥‥」
　リズレットは倒れている２人のキメラを見下ろしながらため息交じりに呟いた。
「でも実際に人型キメラってどうやって作ってるんだろうね。バグアの技術って意外と面白いものばかりなのかもね」
　エレナの言葉に「そっ、そんな事‥‥言わないで下さい！」と無明が声を荒げた。
「も、もし‥‥子供が素体になって作りだされていたとしても‥‥お、同じ事が言えるんですか‥‥！？」
「‥‥善悪、偽善、エゴ‥‥正義。好むにせよ、嫌うにせよ‥‥ヒト、は‥‥其れに思考、巡らす‥‥何故、だ‥‥？」
　不破の言葉に無明は『人殺しに手を貸した』と勘違いしてしまったのだろう、半狂乱のようになって「うわあああっ‥‥！」と叫び始めた。
「無明殿！　落ち着いて！　残酷かもしれないけど、能力者ならこういう事は結構あるネ‥‥無明殿は能力者になって何をしたいのカナ」
　ラサが無明を落ち着かせるように問いかけると「私が‥‥能力者になってしたい事‥‥？」と息を落ち着かせながら繰り返すように呟いた。
「戦う理由、それは人ソレゾレだと我輩は思ウ。だけど今思ってる気持ちは大切にした方がいいヨ」
「良くは‥‥わかりませんが‥‥けれど、なんだか‥‥いえ、でも‥‥傭兵、か‥‥わかんなくなっちゃった‥‥」
　これでいいのかな、お父さん――と無明は声にならない声で呟く。
（どうやら真面目モードのようですねぇ。こんな時にナンパなんてしたら空気読めって言われるんでしょうか）
　うーん、とジョシュアは心の中で呟き、ナンパをするタイミングを計っているのだが結局彼がナンパ出来るような空気には最後までなる事はなかった。
（免疫なさそうな無明さんとかナンパしたらどうなるか見てみたかったんですけどねぇ。後は‥‥頭から花とか生えそうな人とか鬼畜幼女とかはどうやったナンパすればいいのか‥‥身の危険を感じますし、やめときましょうか）
「‥‥何をしているんですか」
　キメラの遺体の所で座り込んでいるルーガを見つけ、リズレットが問い掛ける。
「何か人工的な物が取り付けられていないか、固体に共通した物がないかを調べているんだよ。何故、人型のキメラなのかを調べたくてね」
「何故って‥‥」
　フローラも不思議に思ったのか首を傾げながら「どういう意味？」と言葉を投げかけた。
「動物型のキメラなら、その動物の特性を生かした攻撃が出来る。では何故人間を？　しかも子供のような戦闘力に欠ける個体を‥‥」
　ルーガの言葉の意味が分かったのか「‥‥確かに、動物の方が人を襲わせるには都合が良い物かもしれませんね」とリズレットが言葉を返す。
「でも、見る限り不思議な所とかはなさそうだよね」
　フローラの言葉に「そうだな‥‥ただに思い過ごしなら良いのだが」とルーガは言葉を返す。
「さて、そろそろ帰ろっか！　動き回って疲れちゃったし！」
　エレナが呟き、能力者達は本部に報告に行う為にＬＨへと帰還していったのだった。

ＥＮＤ