タイトル:ヘタレが行くヘタレ道マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/28 03:47

●オープニング本文


命を懸けて英雄になる? あ、無理。

可愛い女の子をはべらかす? あ、それも無理。

頭の良い所を見せる? あ、超無理無理。

俺には強い所を見せるのも、頭が良い所を見せるのも、かっこいい所を見せるのも無理。

だから、俺は俺の道――ヘタレ道を究めようと思うんだ!

※※※

「俺、経験も浅いし、強くもないし、立派な作戦もたてられない!
 だけどお金ないから任務に参加しました! よろしく!」

びしっと親指を立てて、挨拶するのはヘタレ男。

きっとちゃんとした名前があるんだろうが、そのヘタレっぷりから『ヘタレ男』としか呼ばれなくなった哀れな男性能力者――――でもない。

なぜなら、本人は『ヘタレの道を究めるからヘタレ男って呼ばれても構わないんだ!』などと自慢気に言っているのだから。

「あ、あのさ‥‥ちゃんと仕事をしようと思わないわけ? 能力者って言ったら任務中に命を落とすことになるかもしれないんだぞ?」

「ない! 俺、ヘタレ位置にいるから死ぬ気が全くしないんだ」

どれだけヘタレ自慢だよ、と男性能力者は心の中でツッコミを入れる。

「でも、あんたがいるせいで他の能力者達に迷惑がかかるかもしれないんだぞ?」

「その辺はちゃんと考慮して仕事に挑んでくれるとうれしいな」

自分でちゃんとする気ゼロだよ、ともうツッコミを入れるのも面倒なくらいに開き直ったヘタレ男に疲れ果てていた。

(とりあえず、どうなるんだろう。この仕事)

資料を見る限り、簡単なキメラ退治だがヘタレ男がいる時点でかなり難易度が高く見える男性能力者だった。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN
月見里 由香里(gc6651
22歳・♀・ER
ルーガ・バルハザード(gc8043
28歳・♀・AA

●リプレイ本文

―― ヘタレ男とキメラ退治に行く能力者達 ――

(何ていうか‥‥どこまでも我が道を行く人なんですね‥‥)
 小さなため息と共に終夜・無月(ga3084)が心の中で呟く。
「‥‥大丈夫かな、あの人‥‥」
 鐘依 透(ga6282)もぽつりと言葉を漏らしてヘタレ男を見る。
(あんな覚悟で戦場に出るのは危険だ‥‥自分だけではなく、周りも――自分が何もしなかったせいで仲間の誰かが死んだ‥‥そんな現実を想像したり、しないんだろうか‥‥怖く、ないんだろうか)
 鐘依は拳を強く握りしめながら心の中で呟いた。鐘依は誰よりもそんな事を考えているせいか、ヘタレ男の異常とも言えるプラス思考が理解できなかったのだろう。
「ヘタレさん、ですか。大人しく後ろに居て頂けると助かるのですがね」
 神棟星嵐(gc1022)が呟くと「そうですねぇ、当初から戦力外として考える方が妥当や思います」と月見里 由香里(gc6651)が苦笑しながら言葉を返してきた。
「‥‥キメラ退治はまあいい、が‥‥何だ、あのふにゃふにゃした輩は?」
 あはは、と能力者達にため息しか吐かせないヘタレ男を見てルーガ・バルハザード(gc8043)が額に手を当てながら呟く。
「やぁ、宜しく! 今日もヘタレ道を貫く為に頑張らせてもらうよ!」
 すちゃっと手を挙げて挨拶するヘタレ男につかつかと近寄り「ついてくるのは勝手だが、邪魔するな」と声を低くしてルーガが言葉を投げかける。
「邪魔をすれば、私は容赦なくお前にも痛い目を見せるぞ」
 ルーガの言葉に「大丈夫! 俺ヘタレだから!」と何が大丈夫なのか分からない言葉を返してきて、ルーガは再び盛大なため息を吐いた。
「とーぅ! 俺様は! ジリオン! ラブ! クラフトゥ! ‥‥未来の勇者だ!」
 ジリオン・L・C(gc1321)がすちゃっと決めポーズと共に能力者達へと挨拶を行う――が、何故かヘタレ男と同じ匂いを感じてしまうのは気のせいだろうか。
(今回は彷徨える魂がいるようだな‥‥ククク‥‥俺様の熱き魂と勇姿を、しかとその眼に焼き付けるがいい!)
 ジリオンは心の中で叫び、ヘタレ男のような人物がいるから自分が際立つのだ――と言葉を付け足したのだが、どう見ても同類にしか見えないのはきっと気のせいではない。
「今回は猪のキメラ‥‥ですね」
 御鑑 藍(gc1485)は呟きながら、ちらりとヘタレ男を見る。
(‥‥う〜ん、本当に何もしない‥‥つもりかな? えっと討伐の邪魔‥‥はしない‥‥ですよね?)
 何もしないだけならまだいいが、もしかしたら邪魔をされるのではないかと不安になったらしく御鑑は(そうなったら、どうすればいいのかな)と心の中で言葉を付け足した。
「やぁ、今回は宜しく――‥‥うむ、いい盾があるではないか」
 UNKNOWN(ga4276)はヘタレ男をガシッと掴み「うむ、私は貧弱な回復役だから、頼んだ、よ」と笑顔で言葉を投げかける。本気で盾にするつもりのようだ。
「それでは‥‥行きましょうか」
 終夜が呟き、能力者達は高速艇へと乗り込み、ヘタレ男と共にキメラ退治の任務へと出発していったのだった。


―― 森の中、潜むはキメラとヘタレ ――

 今回、能力者達は猪型キメラに対して罠を仕掛け、引っかかった所を攻撃する――という作戦を立てていた。
「少し、向こう側を見てきます。何かあったら連絡しますから」
 鐘依が木の上に上り、木々を飛び移って移動を開始する。
「あぁ、猪のようなキメラだったら‥‥木の上にいる事はないでしょうからね‥‥それに索敵もしやすい」
 遠ざかっていく鐘依の姿を見ながら終夜が小さな声で呟いた。
「俺も何かした方がいいのか? ん? ヘタレ道を究めるなら何もしない方がいいのか?」
 能力者達がキメラとの戦闘に向けて準備をしている中、目障りなほどにうろちょろとヘタレ男が動き回る。
「‥‥今回は単純なキメラ退治ですから、是非『後ろで』ヘタレてて下さい」
 神棟がヘタレ男に言葉を返すと「おお、キミも俺にヘタレ道を究めてほしいと願っているんだな!」と親指をびしっと立てながら応えてきた。
(‥‥邪魔をされては適わないから大人しくしていてください、という意味で言ったんですけどね)
 苦笑しながら神棟が心の中で呟く。
「他にはどの辺に仕掛けますか?」
 月見里が他の能力者達に言葉を投げかける。能力者達は幾つか罠を仕掛けており、月見里がバイブレーションセンサーで周囲の索敵を行う予定だ。
「うおおお、勇者‥‥‥‥ファイヤー!」
 ジリオンが大きな声で叫ぶ。恐らくキメラをおびき寄せようという考えなのだろうが、突然大声を出されると少しだけ驚いてしまうというものだ。
「俺様の勇者スキルで‥‥敵を、呼ぶ!!」
 くわっ! とポーズを取るジリオンだったが勇者スキルという物は存在しなく、ただの気合いとしか見えない。
(う〜ん、ヘタレ男さんが2人、と見ていいんでしょうか‥‥)
 御鑑がポーズを取るジリオンを見ながら心の中で呟く。ジリオンとしては『勇者』なのだろうが、他の能力者達から見ればヘタレ男と同じ位置にしか見えていないのかもしれない。
 しかし、奇跡という物は起きるものである。
 鐘依から連絡が入り、能力者達の方へと猪型キメラが向かっているという事が伝えられた。
「うちのバイブレーションセンサーにはまだ届いてません。100m以内にはまだ来ていないようですね」
 月見里が呟き「待ってください、範囲内に入りました――――来ます!」と言葉を付けたし、能力者達は罠の方向を勢いよく見る。
「うむ、戦闘開始、だね――シールドをゲットさせてもらおう」
 UNKNOWNが呟き、ヘタレ男の首根っこを掴み、目の前へと差し出す。
「ぎゃああああ、キメラが来る来る来る! マジでヤバイ! これヤバイって!」
 ヘタレ男がぎゃあぎゃあと騒いでいる所に鐘依とその後ろからやってくるキメラの姿が視界へと入り、能力者達はそれぞれ戦闘態勢を取り始めたのだった。


―― 戦闘開始・キメラ VS 能力者 でもヘタレは役に立ちません ――


「引っかかりましたね‥‥では呪歌を使います」
 月見里が呟きスキル・呪歌を使用する。キメラの動きが鈍った所で終夜が明鏡止水を構えて、キメラへと斬りつける。
「さすがに、身体がそれなりに大きいだけあって‥‥斬るのにも一苦労ですね」
 鐘依は呟きイオフィエルで切り裂く。
「む、傷は大丈夫、かね?」
 後方へ下がってきた鐘依にUNKNOWNが言葉を投げかける。恐らく誘導の際にキメラから攻撃を受けていたのだろう。鐘依には大きな傷こそなかったけれど、小さな傷がいくつも存在していた。
「あぁ、さっきキメラを誘導したの時の傷ですね。大した傷じゃありませんよ」
 苦笑しながら鐘依が呟くと「治療しよう」とUNKNOWNが練成治療を使用して鐘依の傷を治していく。
「ぎゃあああ! やめてやめてやめて! マジでやめて! あいあむひゅーまん! ノーシールド! 俺は盾じゃなくて人間だから!」
 UNKNOWNに掴まれ、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる姿を見て神棟は「ヘタレと名乗るだけの、ヘタレ才能は確かなのですね」とため息混じりに呟き、機械剣βでキメラへと斬りつけた。
「ハアーッハッハッハッハ! 俺様の! 歌を! 聞け!」
 無意味なポーズと共にジリオンも呪歌を使用し、キメラの動きが更に鈍くなり、月見里のスキルの効果もあってか、キメラは完全に動けなくなっていた。
「ハアーッハッハッハ! どうだ! この! 俺様の! 歌声は!」
「ちょっとすみません」
 御鑑はジリオンを少し押しのけて、小銃・シエルクラインでキメラを狙い撃つ。 
 そして、その時ちらりとヘタレ男の姿が見えて(ヘタレさんに使われたエミタが可哀想‥‥そんな気がします)と心の中で呟いた。
「少し離れてくれ!」
 ルーガの声が響き、キメラの近くにいた能力者達が一気に離れる。それと同時にソニックブームを使用してキメラとの距離を詰め、烈火を振り上げてキメラへと攻撃を仕掛けた。
「どんな相手であろうと‥‥油断はしません‥‥」
 終夜は呟きながらキメラへと攻撃を仕掛ける。御鑑は終夜が攻撃しやすいように援護を行っており、終夜の攻撃がまともにキメラへと叩きつけられた。
「そろそろ終わりにしようか。こちらとしてもお荷物を抱えている以上、長引かせるのは得策ではない」
 ルーガが呟きながら鐘依と月見里と攻撃を合わせてキメラへと攻撃を行い、無事にキメラを退治する事が出来たのだった。


―― 任務完了 ――

 キメラとの戦闘が終了した後、能力者達は怪我の治療を行っていた。その中でも無傷と言えたのはヘタレ男1人のみ。UNKNOWNがわずかな負傷しているのに盾とされていたヘタレ男は無傷だった。
「‥‥働かざる者食うべからず、という言葉を知ってますな? まさか1人前に報酬を受け取ろうなんてさもしい了見は持っとらへんわね?」
 月見里はにっこりとほほ笑みながら、しかしどこか恐怖を覚えるような笑顔でヘタレ男に言葉を投げかける。
 彼女の怒りももっともだろう。何もしていない男が自分達と同じ額の報酬を受け取るなんて我慢が出来ない、そう思うのは普通なのだから。
「でも俺という役立たずがいたからこそ、皆が頑張ってキメラを退治できたんだと思う」
 意味が分からん、能力者の中で誰かが呟く。
「あなたは、死ぬかもしれないとは思わないのですか? 戦わずに死ぬという事が、どれだけの事なのかという事も‥‥分からないのですか?」
 終夜が問い掛けると「俺、死ぬ気しないんだよね」と自信満々でヘタレ男が言葉を返してくる。
「死なんてものは何処に居ても逃げる事も避ける事も不可能‥‥自分の背に張り付いているようなものです‥‥対処法は戦う事ですね、敵だけではなく‥‥自分とも」
 終夜の言葉にヘタレ男は理解できていないのか首を傾げる。
「戦場で仲間を傷つけるのは‥‥敵だけじゃないんです。無力も、無能も‥‥そして諦めも、何も出来ない分だけ仲間が負担し‥‥傷つき、死んで行きます」
 何もしない事はこの場では既に裏切りなんですよ、と鐘依が言葉を付け足しながらヘタレ男を強く見る。
「お前‥‥そんな調子では、早かれ遅かれ悲惨な事になるぞ」
 ルーガが呟くが「でも、今までだって大丈夫だったし」とヘタレ男が言葉を返す。
「やれやれ、まったく‥‥覇気もないのにキメラ退治などという危険そのものの依頼に飛びついていく、その無謀さ‥‥蛮勇だけは人一倍お持ちのようだ、勇者殿!」
 ルーガが嫌味たっぷりに言葉を投げかけると「勇者は! この、俺! ジリオン! ラブ! クラフトゥ! ただ1人!」と何故かジリオンが反論してきた。勇者という単語に反応しての事だろう。
「なに、どうしても理解していないというなら、分かるまで盾にしてあげよう。いつか死の危険というものに気が付くだろうさ」
 UNKNOWNが不敵に微笑むと「それは嫌! 俺ヘタレだから無理!」とズザザザザと勢いよく後ろへ後退していった。
「何かあってからでは、遅いんですよ」
 鐘依は酷く傷ついた表情で呟く。彼自身の過去がそう語らせるのだろう。
「まぁ、とりあえず帰りましょう。お説教なら高速艇の中でも十分に出来るでしょうし」
 神棟が苦笑しながら呟き、能力者達は高速艇へと乗り込む。

 その後、ヘタレ男は能力者全員からこってりとお説教を食らいながら、本部へと帰還していった。
 しかし、断固として報酬の事は譲らず「厚かましい」と能力者達に思われながら、ヘタレ男は報酬だけはしっかりと貰い、別れて行ったのだった。


END