●リプレイ本文
―― ひまわり畑のキメラを退治する為に ――
今回は鵺(gz0250)の兄である竜二からの依頼であり、鵺の母親が眠るひまわり畑にキメラが現れ、それを退治してくれという内容だった。
「宜しくですよ‥‥鵺‥‥」
終夜・無月(
ga3084)が鵺に挨拶をする――が、襲われる事を危惧してか、少し――いや、かなり離れた所からの挨拶だった。
「やだっ! 何でそんなに離れてるの!? 一緒に命をかける仲間じゃないの! もっと親睦を深めましょうよぉ!」
きゃあきゃあと鵺が叫ぶが「いえ‥‥むしろこの位置で精一杯です‥‥」と終夜が苦笑しながら言葉を返す。
「久しぶりやな、鵺。にしても、相変わらずやなぁ」
男性と見れば獲物を狙うハンターのような動きを見せる鵺にキヨシ(
gb5991)が苦笑しながら呟いた。
「きゃあ、キヨシちゃん! お久しぶりだからアタシを嫁にしてぇ♪」
「俺は普通の可愛い女の子の嫁さんが欲しい! 自分よかでっかい男の嫁なんかいらんわ!」
スパーンッと気持ちの良い音が響き、鵺が「いったぁぁぁぁいっ」と腰を押えながら叫ぶ声が響き渡る。説明すれば、抱きつかれる前にキヨシが巨大ハリセンで鵺を迎撃した、というだけなのだけれど。
「もう、それにしてもうちの事情に巻き込んじゃって悪いわねぇ‥‥これでも申し訳なく思ってるのよ」
腰を擦りながら鵺が申し訳なさそうに能力者達に言葉を投げかける。
「お母様との思い出か‥‥守ってあげないとな」
エイミー・H・メイヤー(
gb5994)が少し遠くを見るように呟く。
「そう、ですネ‥‥鵺殿の思い出の場所‥‥頑張って守らないとナ」
エイミーの言葉に返すようにラサ・ジェネシス(
gc2273)も小さな声で呟いた。
(あれが鵺、ラサの想い人かぁ。話に聞いてた以上の奴みたいだなぁ‥‥‥‥身の危険を感じたら制圧しよう)
レインウォーカー(
gc2524)はキヨシにまとわりつく鵺の姿を見ながら、自分を守れるのは自分だけ、と心の中で言葉を付け足す。
「まぁ、あんなふざけた言動をしているが――今回向かう所が大事な場所に違いはないのだろう。思い出の場所、大切な場所など誰にでもあるし、何があろうとも捨てきれないものでもあるよな」
ネオ・グランデ(
gc2626)が独り言のように呟く。その時、彼の頭を過ったのは自分が育った地元だった。
「初めまして、鵺さん。ラサさんからお話は何度か。今回は宜しくお願いしますね」
立花 零次(
gc6227)が握手を求め、手を差し出しながら挨拶をするのだが、なぜか握手ではなく抱きつかれてしまい「きゃあ♪ よろしくお願いねぇ!」と耳に響く声で叫ばれてしまう。
「‥‥‥‥」
そんな鵺の様子をレナ・ミッシェル(
gc7490)は驚きを隠せない表情を見せていた。
(探検家エレナ、オカマに人生初遭遇‥‥! 果たして結末やいかに!? うーん、それにしてもオカマって本当にいるんだねー)
まるで珍妙なものでも見るようにエレナはじろじろと鵺を見る。そんなエレナを見て「‥‥残念、女の子はラサちゃん以外いらないのよね、アタシ」となぜか告白してもいないのに勝手にフッてしまう。
どうやらエレナの好奇の視線を「アタシ愛されてる!?」という視線と勘違いしてしまったようだ。
「エレナにもオカマは必要ないよー!」
「オカマって言うんじゃないわよ、このちびっこ!」
きぃ、と叫びながら鵺が抗議するが所詮オカマはオカマでしかないのだ。
「とりあえず‥‥目的のキメラ退治に‥‥行きませんか? こうしている間にも、ひまわり畑が傷つけられているかも、しれませんから‥‥」
終夜が能力者達に声をかけ、本来の目的であるキメラ退治を行う為、能力者達は高速艇に乗り込んで、目的地へと出発し始めたのだった。
―― キメラを広場に誘導 ――
今回、任務を行うにあたり、能力者達は班を三つに分ける作戦を立てていた。
誘導班・立花、終夜の2名。
待ち伏せ班・エイミー、エレナ、ネオ、レインウォーカーの4名。
鵺押さえ班・キヨシ、ラサの2名。
能力者達の作戦内容は、ひまわり畑の近くにある広場にキメラを誘導して、そこで戦闘を行い、ひまわり畑を傷つけずに任務を遂行するというものだった。
能力者達は高速艇から降り、キメラを誘導する広場まで足を運ぶ。確かにひまわり畑からは離れているし、戦闘をするには十分な広さはあり、ここで戦闘を行えばひまわり畑に被害が及ぶ事はないだろう。
「ここなら、確かにひまわり畑を傷つけずに戦えそうですね」
立花が呟く。
しかし、キメラを誘導する過程の中で多少はひまわり畑に被害が出てしまうだろう、と能力者達は口にこそしないが心の中では恐らく誰もが思っていた。
「行きましょう‥‥」
終夜が立花に声をかけ、キメラを誘導する為にひまわり畑の方へと向かって歩き出した。
「鵺嬢は任せたよ。気絶しちゃったら‥‥キスで起こしてあげればいいさ」
エイミーはラサにウインクをしながら言葉を投げかけた。
「なっ、そ、そうカ、そうすればいいのカ」
顔を赤くしながらラサは「よし、任せロ」と何故か気合い十分でエイミーに言葉を返した。
「アタシ達はこっちで待ってればいいのかしら? それにしても暇ねぇ‥‥ねぇ、だからネオちゃん、アタシを嫁にしない?」
「なにが『だから』なのか分からないんだが、それにあんたは男だろう。なるとしたら『嫁』ではなく『婿』だろう」
ネオが真面目な表情で言葉を返すのだが「あら、婿はダメよぅ」と鵺が「めっ」と言いながら言葉を続けた。
「アタシはラサちゃんの婿になるじゃない? つまり空いてるのは『嫁』の位置しかないのよねぇ‥‥」
「せやから何で『嫁』にも『婿』にもなろうとしてんのや、っていうか今のはただのノロケちゃうん?」
キヨシがツッコミを入れると、ラサがぷしゅうと顔を真っ赤にする。
「あはは、ラサ嬢の顔が真っ赤だ」
「オカマなのに、彼女がいるのか‥‥ねーねー? いつからオカマになろうと思ったの? 生まれつき? ししゅんきって何?」
エレナは思いついた事をすべて鵺に質問する。
「な、何なのよ‥‥このちびっこは‥‥! 大体アタシはオカマじゃないわよ! ちゃんと心が乙女って言いなさい!」
「いや、それを普通にオカマって言うんじゃないのか」
「右に同じく」
ネオが冷静にツッコミを入れると、キヨシも納得したように首を縦に振りながら頷く。
「ホント、予想以上だなアイツ。お前も苦労するねぇ、ラサ」
苦笑しながらレインウォーカーがラサに言葉を投げかけると「んー、実際はそうでもない‥‥のヨ?」と言葉を返す。
しかし語尾が『?』で終わっているあたりが、苦労してないと言い切れない所なのだろうか。
そして、広場でしばらく待っていると物音が響き始め、立花と終夜がキメラを誘導してきた事が伺え、待ち伏せ班・鵺押さえ班の表情が険しく変わる。
誘導班からの通信手段がなかったが、幸いにも開けた場所からある程度の状況が伺え、戦闘前に準備をする時間はあった。
「鵺、頼むから大人しくしててくれよ‥‥」
キヨシがげんなりとした表情で呟き、能力者達は広場に入って来たキメラの姿を確認して、戦闘態勢へと入ったのだった。
―― 戦闘開始・キメラ VS 能力者 ――
キメラ誘導を行う際、立花と終夜は攻撃を避ける事に徹していた。キメラから攻撃を仕掛けられても反撃はせず、ただ避けるだけ。
だけど、少しずつキメラを誘導し、待ち伏せ班や鵺押さえ班のいる広場まで誘導する事が出来た。
「ここから先は‥‥先ほどのようにはいきませんよ」
終夜は小さく呟いた後、スキル・呪歌を使用してキメラの隙を作る。
「ひまわり畑を荒らさせはしませんよ?」
エイミーは動きの鈍くなったキメラを遠慮なく斬りつける。もちろん血が苦手な鵺の事も考慮して、鵺から死角になる場所から斬りつけていた。
「戦闘で一緒になるのは久しぶりだな、ネオ。実力拝見と行こうかぁ」
レインウォーカーが呟くと「仕掛けるぞ‥‥近接格闘師、ネオ・グランデ、推して参る」とネオが呟き、装着した鋭い爪をキメラへと食らわし、その攻撃に合わせてレインウォーカーもキメラを斬りつける。2人からの攻撃を受け、キメラ自身も避ける動作が遅れ、大きな傷を負う事になった。
「ここは鵺さんの思い出の場所、との事です。早々にお引き取り願います」
立花はスキルを使用しながらキメラとの位置を一気に詰め、スキルを使った渾身の一撃をキメラへとお見舞いする。
「さぁ、行くよ、ヘリオドール。Twin Bulletは伊達じゃないって所を見せてあげるっ!」
キメラから能力者が離れた隙をついて、エレナが両手に構えた拳銃・ヘリオドールをキメラへと向けて正確に狙い撃つ。彼女の弾丸はキメラの手に命中し、キメラが持っていた剣を弾き落とす事に成功した。
「‥‥悪く思わないでくださいね‥‥武器を拾うのを待つほど、優しい人間じゃないんです‥‥」
終夜はキメラが武器を拾う前に聖剣・デュランダルをキメラの胸へと突き立てる。
「‥‥ずれましたか」
終夜が呟いた瞬間、鵺の悲鳴も上がる。恐らくは血を見てパニックになっているのだろう。
「鵺! 頼むから大人しくしててや!」
「無理無理無理無理! 血、血、血っ!」
「ほら、コレやるから大人しくしててくれ!」
キヨシがこっそりと撮っていた男性能力者の写真をチラ見せさせながら言葉を返すと「ラサちゃん、アタシ黙るわ!」とラサに抱き着き、恐怖心を和らげながら言葉を返した。
(鵺殿‥‥そのイケメン写真は決して離さないのデスネ)
ラサは少しだけ複雑な心境になりながらも「大丈夫ですヨ、みんながついてますカラ」とぎゃあぎゃあと騒ぐ鵺を安心させるように言葉をかけたのだった。
「こっちは落ち着いたからオーケーや! そっちはそっちで頼むで!」
キメラと戦っている能力者達にキヨシが言葉を投げかけ、能力者達はこの間にキメラを退治すべくそれぞれが攻撃を仕掛ける。
「嗤え」
レインウォーカーの言葉が冷たく響き、彼はスキルを使用しながら自らの技を食らわせ、無事にキメラにトドメを刺す事に成功したのだった。
もちろん、隙を作ったのは終夜の呪歌の効果がほとんどであり、彼のスキルがあったおかげで戦闘が楽に進んだといっても過言ではなかった。
―― キメラ退治後 ――
キメラを退治した後、能力者達は広場からひまわり畑へと移動していた。
「鵺! ここにあるのちょっと貰ってもいいかな?」
キヨシが鵺に言葉を投げかけると「もちろんいいわよ」とあっさりと許可を出してくれる。キヨシがお金を出そうとすると「お金なんていらないわよ。好きなだけ持って行っていいわ」と苦笑しながら言葉を付け足した。
「いい場所だなぁ、ここはぁ。誰かのお気に入りの場所になるのも頷ける」
レインウォーカーは呟きながら去年友人たちとひまわり畑に行った事を思い出していた。
「あの時のひまわり畑と甲乙つけがたいねぇ、ふふ、また行きたいな、あのひまわり畑にも」
「思い出の場所、か‥‥俺も暇を見つけて、たまには地元に帰ってみるか」
ネオもどこか懐かしむように呟く。
「ひまわり、無事みたいですね‥‥良かった」
立花はひまわり畑の姿を見てホッと胸を撫でおろした。さすがに完全に無傷、というわけにはいかなかったけど、それでも被害は予想よりもずっと少なかった。
「鵺さんお怪我は? 他の皆さんも怪我があれば治療しますよ」
立花が能力者達に声をかけると、数名の能力者が「それじゃあ、治療をお願いしたいかも」と名乗りを上げた。
「ねぇねぇ、そういえばオカマさんってオカマになった時何したの? オカマなのにりあじゅうって楽しいの? 今後のオカマさんの予定は?」
エレナが再び怒涛の質問攻めを行い「本当に何なのよ、あんたは! アタシはオカマじゃないって言ってるでしょう!」と再び「きぃっ」と叫びだす。
「そういえば、一番大事な事を聞きたいんだった‥‥オカマさんにちゃんと男性のアレはついてるの? っていうかむしろ聞くんじゃなくて確認した方が早いよね?」
そう言いながらエレナは不敵な笑みを浮かべながら鵺の服を脱がしにかかる。
「きゃあああああっ! 何でアタシが脱がされてんのおおおお!?」
「ちょ、エレナ殿! それはダメ――――――ッ!」
慌ててラサが駆け寄り、最悪の事態だけは免れたが「あの子怖いあの子怖い」と鵺がエレナに対して恐怖心を抱くようになってしまう。
「なんていうか‥‥」
「エレナさんのおかげで俺たちの身の安全が保障されてるような気がしないでもありませんね」
終夜と立花が苦笑しながら呟く。
「まぁ、ボクに襲い掛かってきたら忠告するつもりではいたけどなぁ。ラサだけを見ていてやらないと、誰かに取られるかもしれないぞぉ、ってねぇ」
レインウォーカーが呟くと「なんていうか、あれはもうノリ的な物じゃないかと思うけどね」とエイミーが言葉を返す。
「鵺殿‥‥大丈夫?」
鵺が無理に明るくしているようにラサは感じていて、心配になり問いかける。
「だーいじょうぶよぅ」
「‥‥無理しないで我輩に相談してネ‥‥溜め込むのはソーバッドなのヨ、手伝える事ならヘルプだし! 我輩は家族いないからよく分からないけど‥‥思い出を守りたい気持ちはみんな一緒なんじゃないのカナ」
ラサの言葉に「そう、なのかしらねぇ‥‥ばらばらになりすぎちゃって、よくわかんなくなっちゃったわ、アタシも」と鵺が寂しそうに呟く。
「でも、この場所はアタシがまだ――鵺じゃなくて、里中竜三だった頃、大好きな場所だった。みんながいて、楽しくて、まだアタシがみんなを大好きだった頃の大切な思い出の場所だわ」
そう呟く鵺の表情があまりにも寂しそうでラサは思わず抱き着いて「我輩は鵺殿の家族になりたイ!」と叫んでいた。
「あらあら、アタシってばプロポーズされちゃってる? ふふ、慰めてくれてありがとうね、ラサちゃん――さ、そろそろ帰りましょ」
鵺はラサの手を引きながら能力者達の所へと戻り、高速艇に乗り込む。
(鵺殿、どうしたんだろウ、家族って言った時――悲しそうな顔してた、気がする)
ラサは首を傾げながら心の中で呟くが、高速艇の中では相変わらず男性陣を追いかけ、エレナに追いかけられる鵺に戻っており(気のせいカナ?)と言葉を付け足したのだった。
END