●リプレイ本文
―― まだいたよ、褌男 ――
「はっはっは、今回は宜しく頼むんだぜ!」
きらん、と白い歯を輝かせながら大石・圭吾(gz0158)が今回の任務を一緒に行う能力者達に挨拶する。
「あはは‥‥大石さん、久しぶりなのだ! 相変わらず変わってないねー、色んな意味――でっ」
苦笑しながら香坂・光(
ga8414)が小さく呟いた後、挨拶代りに大石にハリセンダッシュをお見舞いする。基本褌一丁の大石にはすべてが急所であり、すべてが弱点であるため、バシーンという良い音が響き渡り「うおおおおお!」という見苦しい声も響いた。
「師匠、ご無沙汰してます。相変わらずお元気そうで何よりです!」
千祭・刃(
gb1900)は大石に挨拶した後「‥‥馬鹿さ加減もですが」と小さな声で呟く。もちろん大石はBAKAなので、聞こえていない。
むしろ聞こえていたとしても都合の悪い事など聞く事が出来ない体質だから、千祭のブラック発言に気が付く事はないだろう。
(こ、これが初めての依頼‥‥! キメラを倒してちゃんと出来るって自分に自信を持ちたいな――‥‥そ、それにしてもあれが大石さんなんだ‥‥)
東 リア(
gb3943)はちらりと大石を見た後、顔を赤くしながら心の中で呟く。
(お、幼馴染の人から‥‥大石さんの事は何となく聞いていたけど‥‥本物を見ると、その、は、恥ずかしいな‥‥)
東は大石から視線を外しながら(この依頼、ちゃんと出来るかな‥‥)と少しだけ不安な気持ちが浮上してきたのだった。
「ふむ、あれが大石か」
湊 雪乃(
gc0029)が大石を見ながら呟く。
(確か、どんな状況でも己の信念を曲げない真の魂を持つ男だと聞いているが――確かに筋肉質で爽やか、実に海が似合いそうな男だ。戦闘でも頼りになるんだろうな)
湊は心の中で呟くが、彼女が聞いたという情報がかなりの偏りがあり、己の信念を曲げない部分以外ははっきり言って偽りでしかない。
「常に褌姿なのは己の防御術に絶対の自信があるから、か」
口元に手を当てながら湊が呟くが、彼女は大石という人物を知らないせいか大石を過大評価しすぎな気がしてならない。
「‥‥‥‥現実でも褌男が出た‥‥が、こちらはまだまとも、だな‥‥まさか、殴られたり縛られたりして喜んだりはしない、よな‥‥」
そうでないのなら良し、と天水・夜一郎(
gc7574)が言葉を付け足したのだが、本当にそれでいいのか? と問いかけたい気分になるのはなぜだろうか。
「てかやーっぱ、どこにでも1人はいるよな、褌マン! よろしくな! 大石さん!」
村雨 紫狼(
gc7632)がバシバシと大石の背中を叩きながら挨拶を行う。
「俺はどんな姿だからって大石さんを邪見にしたりしねーぜ! どんな見てくれだろーが、俺もみんなも兄さんも独立した個性だろ? 俺だって兄さんを馬鹿に出来るぐれー上等な人間‥‥ってもねーからな」
「だが俺はキミを馬鹿にしていいだろうか」
村雨が良い事を言ったはずなのに、大石の発言ですべてが台無しである。
(‥‥兄さん、兄さんがバカに出来る人間なんか、この世にいるとは思えねえぜ‥‥それがたとえ俺であろうとな)
「まぁ、俺を馬鹿にする話は置いといて――これだけは譲れねぇ‥‥俺はブリーフ派だ! あと集めるんなら、褌よりも美少女のおぱんつ――はっ‥‥褌姿の美少女――!」
あると思います! と鼻血を噴き出しながら村雨が何やら興奮している。まだ任務も始まってすらいないが、もはや村雨は大石と同等と考えてもいいのかもしれない。
「大石さんに働いてもらう為には‥‥いや、しかしそれでは‥‥」
一人でぶつぶつと呟いているのは辰巳 空(
ga4698)だった。彼は大石が今までまともに戦った事がないという話を聞いて、少しでも大石を傭兵として貢献させようと考えを巡らせていた。
ある意味ではキメラ退治より、大石を働かせるという事の方が遥かに何倍も難しい任務なのかもしれない。
「さぁ、それじゃキメラ退治に向かおう! 新しい褌も買いたいからな!」
きらん、と再びウザスマイルを振りまいた後、なぜか大石が仕切って本部の外へと出ていく。
「おおう、褌が取れてしまう」
外に出た後、大石が褌の紐を締め直すために立ち止まる――しかし、その時けたたましい音をさせながら一台のバイクが通り過ぎていく。大石が褌の紐を締め直す為に立ち止まらなければ、派手に吹っ飛んでいた事だろう。
「‥‥‥‥チッ」
小さく舌打ちをして見せたのはUNKNOWN(
ga4276)だった。恐らく彼は大石を轢く為に綿密な計画を立てたのだろう。大石が立ち止まらなければ、彼の予測通りになったのだろう。
「あんのおおおおんっ! また俺を轢こうとしたなぁぁぁぁぁ!」
大石がぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるが、UNKNOWNは大石に捕まる前に颯爽と去って行った。
「まぁまぁ、とりあえずキメラ退治に行こう、ね?」
香坂が宥めながら、能力者達はキメラ退治をすべく高速艇へと乗り込んで目的地へと向かって出発を始めたのだった。
―― キメラ捜索 ――
今回、キメラが現れたのは廃村となった小さな村だった。もともと人口も少なかった村なのだろうが、キメラ襲撃によってか、それとも別の理由があったのか、既にこの村に住んでいる人間は1人もいない。
「く〜、光たん、リアたん、湊たーんっ! こんな可愛い女の子が揃ってるんなら、大石兄さんのきったねー、ハイレグ半ケツにも耐えられるZEEEEE!」
「あんな格好ですが、師匠は強いんですよ?」
千祭りが大石の名誉の為にこっそりと村雨に言葉を投げかけるが、その言葉に同意してくれる能力者が何人いるだろうか。
(しかし、かなり変だがアレでも先輩だ。歴戦である筈で褌最強伝説にも根拠があるはず‥‥)
天水が真面目に心の中で呟くが、彼はまだ知らない。大石が今まで生き残れたのは一緒に任務に行った能力者達が頑張ってくれたから、という事に。
「しかし、キメラも物好きなものだ。こんな場所で何がしたかったのか」
湊が周りを見渡しながら小さく呟く。
「あ、あの大石さん! あ、えっと、その‥‥き、キメラを頑張って『一緒に』退治しましょうね!」
東が大石に言葉を投げかける。本人に自覚があるかないか、それは定かではないが『一緒に』という言葉が妙に強調されていた。
「こんなに小さな場所だし、きっとすぐにキメラなんて見つかっちゃうのだ♪」
香坂はハリセンを勢いよく振り回しながら呟く。
今回のキメラは人型で大剣を所持しているという情報が能力者達に与えられていた。だから能力者達以外でこの廃村にいて、尚且つ大剣を持っていればキメラである可能性が高い。
「ふんふんどしどしふんどしあいらぶゆううううっ」
ズレた音程で歌いながら大石が機嫌よく歩いている。
(あれほどまでに褌を‥‥そういえば研究所で強化すると大成功がつきやすいような気がする、そういう意味では優秀な武具だが――しかしあそこまで褌を愛用しているのなら、他に何か、使い道が‥‥?)
天水は色んな考えを巡らせているが、所詮褌は褌、それ以上にもそれ以下にもならない。
「それにしても、かなり朽ち果ててますね‥‥人も住まなくなって長いのでしょうか。まぁ、こちらとしては遠慮なく動き回れるし、後片付けの心配もないんですけど」
千祭が呟く。
「しかし褌は傷つけてはならんぞ」
きりっとした表情で大石が千祭に言葉を返すのだが、褌一丁の大石以外はその心配はない。
その時だった、がさ、という物音が聞こえ、能力者達が一斉に音の方を見る。
すると、そこにいたのは資料にあった通りの男性型キメラだった。
「お前の力を見せてもらうぞ、大石」
湊は小さく呟き、武器を構えてキメラへと向かい、戦闘を開始したのだった。
―― 戦闘開始・キメラ VS 能力者 ――
「おおう、戦闘か、なら俺は――‥‥」
戦闘になった途端、後方へと下がろうとした大石だったが笑顔(黒)の辰巳によって後退を遮られてしまう。
「戦って下さい」
「いや、俺戦えないし」
どんな傭兵だよ、と辰巳は思わずツッコミを入れたくなったが、ぐっと堪えて「戦って下さい」と柔道の技で肩をロックする。
「ぎゃあああ、痛い痛い痛い痛い、力強い! 褌破れるだろう!」
「妙な所をロックしてるように言わないでください! 私がロックしてるのは肩です! 怪我しないように援護してあげますから戦ってください」
他の能力者達がキメラと戦っている中、辰巳だけは大石と戦っていた。
「ありゃりゃ‥‥頑張るなぁ、大石さんが戦う筈ないのに」
香坂は辰巳の方を見た後、苦笑をもらし「さて、キメラは邪魔だしさっさと終わらせちゃおう♪ 褌仮面がささっと退治してしまうのだ♪」と言葉を付け足し、キメラへと攻撃を仕掛ける。
「師匠‥‥師匠は弟子である僕がお守りします!」
きっと強い瞳でキメラを睨みつけ、キメラが大石の方へ行かないように千祭が立ちはだかる。
「こんな雑魚、師匠が手を出すまでもありませんよ」
千祭が大石を立てる為に言うのだが、恐らくそれはキメラが言いたい台詞なんじゃないかと普段の大石を知っている者は心の中で呟いていた。
「はっ‥‥!」
湊は華麗な蹴りでキメラを攻撃し、自らが攻撃を受けそうになると「必殺、村雨シールド発動!」と近くにいた村雨を盾にして攻撃を防ぐ。
もちろん村雨は攻撃を防ぐ事が出来ないので、痛い思いをしているのだけれど。
(‥‥奴はなぜ手を出さん‥‥まさかこちらの実力を見て自ら手を出すまでもないと判断したのか‥‥侮れん奴だ)
湊は心の中で呟く。しかし大石はそんな立派な能力者ではない。相手の実力はおろか自分の実力もよくわかっていないのだから。
「これだけの能力者を前にして、勝てると思うか‥‥」
天水は愛用の槍を振るいながらキメラへと攻撃を行う。今回のキメラは大剣を扱う、破壊力とリーチは脅威に思っていたが、ふり終わりなどに隙が出やすいなどデメリットの面もある事を天水はあらかじめ予測していた。
(やはりな、大剣を扱うと言っても武器と使い手の力量が見合っていない)
武器を振り回すキメラを見て、天水は冷静に状況などを把握していた。
「み、湊たん‥‥俺、そろそろ限界ぽくね?」
「まだ5回目だろう。それでよく男を名乗れるものだな」
村雨シールドもすでに5回発動しており、湊はともかく盾になっている村雨はそろそろやばいような気がしないでもない。
「‥‥落ち着いて‥‥狙って‥‥」
深呼吸をした後、東がスキルを使用しながらキメラへと狙い撃つ。彼女が放った矢はキメラの手に命中し、キメラが武器を落とすという最大の隙を生んだ。
「大石さん! いい加減に腹を括って下さい!」
「褌は括ってるが、腹は括れん! キミは俺をなんだと思ってるんだ!」
大石がかっこよく言葉を返すのだが、自分で自分をヘタレだと宣言しているようなものであり、辰巳は(もうどうすればいいんですか、むしろ傭兵やめてください)とがっくりと肩を落としながら心の中で呟いていた。
「話の途中ですまんが、大石――その実力、見せてもらうぞ!」
湊がキメラを大石の近くまで誘導してきて、キメラと大石が戦うように仕向ける――のだが‥‥。
「ああああああああんっ! 痛いいいいいい、褌破れたぁぁぁぁぁぁっ」
ありとあらゆる効果音が響き渡り、その効果音と共に大石の悲鳴も響き渡る。
「あ〜あ、やっぱり大石さんは大石さんだねぇ」
「なぁ、素手でボコボコにされてるけど大丈夫なのか、大石兄さん」
「とりあえず、結果オーライなんでしょうけど、あのまま放置したら大石さんもヤバイ事になりそうですね」
上から香坂、村雨、辰巳の言葉。
「‥‥それより、女性陣は見ない方がいいんじゃ‥‥その、褌が、破けて――酷いことになってしまっている」
天水が視線をそらしながらポツリと呟く。
「なぁ‥‥俺はひょっとしてとんでもない勘違いをしていて、それゆえに取り返しのつかない事をしてしまったんじゃないか?」
大石は出来る奴、大石は凄い奴、そう思っていた湊だったが別の意味で凄い奴だと理解して湊は少しだけ青ざめる。
「し、師匠―――――ッ!」
ボコられる大石を見て千祭が慌ててキメラへと駆け寄って攻撃を行う。彼の行動にハッと能力者達は我に返って、キメラを退治する為に再び戦闘を開始した。
結局、キメラは無事に退治できたが、残された大石(褌無し)をどうやって本部に連れ帰ろうか能力者達は悩む事になった。
―― キメラ退治後 ――
「お、大石さん! 大丈夫ですか!?」
戦闘が終わった後、使用前・使用後みたいに顔の変わってしまった大石を見て東が心配そうに駆け寄るが「きゃあああっ」とすぐさま後退してしまう。
それもそのはずだ。ただでさえ褌一丁で恥ずかしい格好の大石が、その褌すらなくなってただの変態に成り下がってしまったのだから。
(さすがにあそこまで何もできない人だと思わなかったので、良心が痛みますね‥‥)
辰巳が苦笑しながら心の中で呟く。
「そういえば、あたし新しい褌をつけてきたんだよ、でもあげないけどね。っていうか普通にあげないからね」
香坂は「その褌くれ」と言われる前に『あげない』ときっちり断りの言葉をいれる。
「師匠! 褌を犠牲にしても身を張って僕達を助けてくれたんですね!」
AU−KVを装着したまま、千祭が大石を抱きしめる。
「ちなみにこれは同性愛じゃありません! 師弟愛です!」
千祭が誤解のないようにと叫ぶのだが、誰も何も言ってない状態で『同性愛じゃないYO』と言われても言い訳にしか聞こえないのは気のせいだろうか。
「‥‥俺は今回大切な事を学んだ。あいつはただのふんどしマニアの変態だったと」
湊が脱力したように呟く。
「確かに。先輩というだけで優秀とは限らんのだな‥‥1つ、学んだ」
湊の言葉に相槌を打つように天水も呟いた。
「村雨くうううん! 俺も守ってくれぇぇぇ!」
「嫌だよ! 俺のガードは美少女専用なんだよ! 何が楽しくてすっぽんぽんのおっさんを守らなくちゃいけねぇんだよ!」
その後、能力者達はどうにかしてすっぽんぽんの大石を連れて帰ったのだが、本部に入る直前で待ち構えていたUNKNOWNによって再び轢かれかけ、その姿のまま追いかけていってしまい、大石が警察のお世話になる事が確定したのだった。
END