タイトル:その根性叩き直してやるマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/22 04:39

●オープニング本文



そのキメラは森の中を逃げ回る。

目に見えるものすべてから、逃げ回る。

※※※

「‥‥何なのかしらね、このキメラは」

はぁー‥‥と盛大なため息を吐きながら女性能力者が資料に視線を落としていた。

彼女が見ているのは、小さな森の中に現れたキメラ。

人型キメラなのだが、普通のキメラと少しだけ違うところがあった。

「何そんな盛大なため息吐いてんのさ」

「これ、見ればわかるわよ」

苦笑しながら男性能力者が話しかけてきたのだが、女性能力者は再びため息を吐きながら
資料を男性能力者へと見せた。

「えー、何々‥‥男性型キメラが現れてー‥‥逃げ回ってます‥‥何これ」

そのキメラ、森の中に現れた近隣住人に攻撃を仕掛けたりしたらしいのだが、攻撃を仕掛けた後に全力疾走で逃げ回っているのだという。

「攻撃された住人の方も、軽傷で命に別状はありません、か‥‥や、確かに軽傷なのは喜ぶところなんだろうけど、何でキメラは逃げ回ってんだよ」

「知らないわよ。でも放置しておくわけにもいかないでしょうし、こうして依頼が出てるんじゃない」

女性能力者は何度目になるかわからないため息を吐いた後、再び資料に視線を落としたのだった。

●参加者一覧

アリエイル(ga8923
21歳・♀・AA
風見斗真(gb0908
20歳・♂・AA
ソルナ.B.R(gb4449
22歳・♀・AA
周太郎(gb5584
23歳・♂・PN
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
景倉恭治(gc5842
25歳・♂・DF
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

―― ヘタレキメラ現る ――

「‥‥現在逃げ続けるキメラ、ですか‥‥キメラにしては珍しく攻撃性が低いようですね」
 資料を見ながらアリエイル(ga8923)が小さな声で呟いた。
「確かに‥‥随分とヘタレたキメラだな。久しぶりに珍妙なのに遭うぜ‥‥」
 風見斗真(gb0908)も資料を見ながら苦笑気味に呟いた。
 確かに今回のキメラは『戦う』というより『逃げる事』が得意という珍しいキメラだった。力の強さなどは普通のキメラよりも弱いらしく、そのおかげで襲われた人間も命に別状がないとの事だった。
「逃げる‥‥ねぇ。逃げるという事は己が弱さを知る者さね。中途半端に強い者より余程性質が悪いと思うんだけど、どうだろうかね」
 ソルナ.B.R(gb4449)がポツリと呟き、彼女の言葉を聞いた能力者達は口を閉ざす。弱いから逃げる、つまり自分の強さの位置を知っているから出来る事、確かにソルナの言うように解釈する事も出来るからだ。
 実際にキメラが自分の強さを理解して逃げ回っているのか、それは定かではないのだけれど‥‥。
「まぁ、強いのか弱いのか‥‥知っていようといまいと俺たちは退治する、それだけなんだけどね」
 周太郎(gb5584)が呟く。
(問題はキメラが素早いという事‥‥さて、釣れるか、否か‥‥な)
 資料に視線を落としたまま、周太郎は心の中で呟いていた。
「だけど情けない事に変わりはない。逃げの一手とは‥‥キメラとは言え、男の癖に情けない」
 エイミー・H・メイヤー(gb5994)は眉を顰め、侮蔑の視線を資料に落としていた。それというのも、エイミー自身が情けない男が大嫌いだからなのだろう。
 いくらキメラとはいえ、外見が男なのだからちゃんと男らしく、それがエイミーの本音なのだろう。
「でも、逃げるキメラ‥‥一体何が目的なのだろう‥‥」
 ラサ・ジェネシス(gc2273)は首を傾げながら呟く。あまり害がないかも、と思う気持ちはあったのだろうがそれでも被害が出ているというのが現状。
(軽くても被害が出てるから、見逃せないナ‥‥)
「でも、民間人を殴って逃走‥‥キメラというよりまるで通り魔やね。さすがに酷すぎる被害は出とらんようやけど‥‥黙ってそのまんまにしとくわけにゃいかんわなぁ‥‥」
 苦笑しながら景倉恭治(gc5842)もため息混じりに呟いた。
「確かになぁ‥‥でも何で逃げるんだ? 人類の敵っていうか仇役やんか! 逃げる奴を追いかけて倒す‥‥何か俺たちが悪役っぺーぞ、この展開!」
 村雨 紫狼(gc7632)は納得がいかないらしく、拳を強く握りしめながら少し大きめの声で叫んでいた。
「さて、それじゃ作戦開始――とするか」
 風見が呟き、能力者達はヘタレキメラを退治すべく、高速艇へと乗り込んでキメラが現れた森へと向かって出発したのだった。


―― キメラ捜索 ――

 今回、能力者達はヘタレキメラを退治する為に班を2つに分ける事にしていた。
 待ち伏せ班・景倉、風見、エイミー、アリエイルの4名。
 追撃班・ラサ、村雨、ソルナ、周太郎の4名。
 ただし、周太郎は囮役として動く為、他の能力者達より危険度が高い役割だった。
「それじゃ、何かあったらすぐに連絡するカラ」
 ラサが待ち伏せ班の能力者に言葉を投げかけ、待ち伏せ班と別れてキメラ捜索を開始するのだった。
「ラサ嬢、くれぐれも気を付けて‥‥」
 エイミーがラサを抱きしめながら言葉を投げかけると「エイミー殿も!」とラサが言葉を返す。

※待ち伏せ班※
「とりあえず、どこで待ち伏せをするか‥‥だな」
 エイミーが地図を見ながら小さな声で呟く。
 今回のようなキメラの場合、片面が断崖や絶壁になっている場所に罠を仕掛け、追撃班がキメラを誘導してくるのが理想であり、適した場所がないかを待ち伏せ班の能力者達は地図を見て探し始める。
「こっちはこっちでキメラを探しておかないといけないからね、こっちで見つけられたらそれに越したことはないからさ」
 景倉が呟くと「それもそうだな」と風見が言葉を返す。
「待ち伏せに関してだが、この辺はどうだろう? 崖になってるし、広さも戦闘するには十分だと思うのだが‥‥」
 エイミーが地図上を指しながら問いかけると、その場所を他の能力者達も見る。
 確かにエイミーが言うように罠を仕掛けるのにも、戦闘にも全ての条件に合った場所と言える。
「それじゃあ、追撃班の皆さんにも連絡しておいた方がいいですね。この場所なら誘導する追撃班の皆さんも分かりやすいと思いますし‥‥」
 アリエイルが呟きトランシーバーで追撃班に連絡を入れ、待ち伏せ班はいつキメラが来ても良いように罠を仕掛け始める。
 草を縛って靴を引っかけやすくする罠、カモフラージュして隠した落とし穴。落とし穴の方は深く掘る時間もなく、そして戦闘の事も考えて浅く掘ってある。
「あとは、キメラさえ見つけられれば‥‥何とかなるのですが‥‥」
 アリエイルは木の陰に身を隠し、周りを警戒しながら呟く。
「‥‥これ、間違って自分たちで引っかからないようにしないとねぇ‥‥」
 景倉が草で縛った罠を見ながら苦笑する。落ち着いて見ている今の状況では分かるけれど、戦闘中になったら自分で引っかかってしまう可能性もあるのだから。
「それにしても‥‥」
 キメラはまだかね、と景倉が言いかけた時、追撃班からキメラを待ち伏せ場所まで連れて行くという連絡が入ったのだった。

※追撃班※
「さて、釣られてくれればいいが‥‥」
 周太郎は周りを見ながら小さな声で呟いた。囮として行動する周太郎は迷い込んだ一般人を装う為、非覚醒状態で森の中を歩いている。
 もちろん周太郎がキメラに襲われた場合、すぐに対処できるようにラサ、ソルナ、村雨も周太郎のすぐ近くを歩いて、キメラ捜索を行っている。
「早く現れてくれると、こっちも早く仕事が終わっていいんだけどね」
 ソルナがため息交じりに呟く。彼女も周太郎と同じく非覚醒状態でキメラ捜索を行っていた。覚醒の時に足元に現れる魔法陣を見てキメラが逃げださないように、である。
 もしキメラが能力者を警戒して逃げてしまっては、さらに任務遂行が困難になるかもしれないのだから。
「村雨殿‥‥本当に大丈夫ですカ?」
 ラサが心配そうに村雨に言葉を投げかける。村雨は身軽にする為にほとんどの武装を外してきており、ラサはそれを心配しているらしい。
「大丈夫だってー、逆にこういうの格好の方がキメラも油断して襲い掛かってくるかもしれねーし! 俺は軽装でヘタレを追跡するのに専念するから、攻撃は他の皆に任せた!」
 びしっと親指をたてながら村雨が言葉を返し「俺の覚醒姿は犬歯が伸びるだけだし、こんな軽装だったら能力者って警戒もされないかもだし!」と言葉を付け足した。
 その時、周太郎がぴたりと歩みを止める。
「‥‥来たか」
 小さく呟き、周太郎は深呼吸をした後、キメラをまっすぐ見据えて慌てたような素振りを見せる。
(‥‥さぁ、追ってこい‥‥餌はこっちだ)
 周太郎は心の中で呟き、キメラは慌てたふりをしている周太郎に襲い掛かる。
 その間に村雨、ラサは待ち伏せ班に連絡を入れ、罠の場所などを簡単に聞いておき、追撃班はいっぺんに攻撃するのではなく、時間差で攻撃を仕掛け、用意してあった投網を使用してキメラの動きを封じ、待ち伏せ班と合流する為にキメラが逃げないように牽制を行いながら、待ち伏せ場所まで移動を開始したのだった。


―― 戦闘開始・キメラを逃がさぬように ――

 追撃班が待ち伏せ場所までキメラを誘導して、それぞれが一気に決着をつけるために行動を開始する。
「‥‥タイミングが命ですね‥‥」
 キメラが誘導されてきたのを確認した後、アリエイルが小さな声で呟く。
「奮いたくてうずうずしていたが‥‥やっと動けるさね」
 ソルナは覚醒を行い、愛用の刀を振りかぶりながら呟き、キメラへと攻撃を仕掛ける。大勢の能力者に囲まれたせいか、それとも大勢の人間が現れたせいか、どちらかは分からないがキメラは逃げようとする――が。
「逃がしません。私たちから逃げ切れるとお思いで?」
 エイミーが呟きながら、ペイント弾をキメラに撃ち込む。彼女の放ったペイント弾はキメラの顔面に直撃し、キメラは視界を奪われる。
「足さえ止めてしまえばっ」
 キメラの視界が奪われた後、ラサが小銃・WI−01でキメラの足を狙い撃つ。
「足が早いねぇ‥‥すまねぇが素直に逃がすわけにゃあいかんやね」
 景倉が呟き、キメラの背後へと回り周太郎に使っていない方の刀を投げ渡した。それを受け取った周太郎はキメラを挟む位置に立ち「しゃらぁぁーーッ!」とスキルを使用しながら攻撃を仕掛け、周太郎の攻撃にあわせて景倉も攻撃を行う。
「村雨殿! さすがに何も無しだときついと思うヨ!」
 ラサは煙管刀を村雨へと投げ渡す、それとほぼ同時にキメラから攻撃があり、村雨はとっさに渡された刀で攻撃を受け止める。
「くそー‥‥何で野郎と鬼ごっこなんかしなくちゃいけないんだ‥‥どうせ追いかけっこするなら美幼女を追いかけたかったー!!」
 うわああん、と今にも泣きそうな声で叫び、村雨はキメラへと攻撃を仕掛ける。大声で美幼女を追いかけたいという村雨は、キメラとは別の意味で危ないと思えるのは気のせいだろうか。
「‥‥なんだか弱い者いじめをしているように見えてしまいますが‥‥討伐します!」
 アリエイルは愛用の槍を構え、スキルを使用しながらキメラへと攻撃を繰り出す。反撃よりも逃げようとする行動の方が多いため、アリエイルの言う通り『弱い物いじめ』に見えない事もないのだが、相手は弱くてもちゃんとしたキメラ。
 能力者がキメラを退治するのは至極当然の事なのだから。
「逃がすか、この! その逃げ腰叩き直してやる!」
 風見が叫び「そのままゆっくり飲み込んでー、俺の明鏡しす‥‥いっ!」と明鏡止水をキメラへと突き刺しながら言葉を付け足した。
「いい加減、くたばれ‥‥」
 ソルナはキメラに冷たく言葉を吐き捨て、風見が攻撃した後、追撃するように刀でキメラを斬りつける。
「本当に逃げようとするのがしつこいさね‥‥でも、こっちもしつこい性質なんでね」
 ソルナは再びキメラへと攻撃を仕掛けながら呟く。
「‥‥人の形‥‥ならばそれを奪えばいい、人の急所‥‥人型なら、それを潰せば終わりだ」
 周太郎はキメラの心臓部分を見ながら呟き、攻撃を仕掛けるがキメラが避けてしまったために心臓をわずかにずれて攻撃してしまう。
(‥‥外したか‥‥それでも致命傷に変わりはない、か)
 心臓をそれた為に苦しみだけがキメラを襲う。
「さて、そろそろ鬼ごっこはしまいにしようか‥‥」
 景倉が呟き、武器を構え、スキルを使用しながら攻撃を繰り出す。彼が攻撃を行った後、エイミーとラサが連携でキメラへと攻撃を仕掛け、風見、アリエイル、周太郎もそれぞれ連携しながら動き、キメラへと攻撃を仕掛け、逃げだすという珍しいヘタレキメラを退治する事が出来たのだった。
「お疲れサマー」
 ラサがエイミーに言葉を投げかけながら、ハイタッチをして勝利の余韻に酔いしれた。


―― キメラ退治、その後 ――

「いつもは向かってくる敵ばかりですが‥‥今回のようなキメラの方が厄介かもしれませんね」
 戦闘終了後、アリエイルが苦笑しながら呟く。
 確かに彼女の言う通りかもしれない。向かってくる敵より、逃げだすキメラの方が性質が悪いのかもしれないのだから。
「しかし、キメラによって命を落とした方がいなかったようなのでよかったです」
「そうだな、それに関してだけは俺も同じ意見だな。ま、怪我をした奴はいただろうけど、生きてて何よりだし」
 アリエイルの呟きに風見が言葉を返す。
「しかしまぁ、ああやって逃げ回る人生は送りたくないねぇ‥‥人間なんだったらこう、堂々と歩いていく人生がいいよな‥‥今回の相手はキメラだけどさ」
「そうだね、弱いなら徒らに人を傷つけず逃げ続けていればよかったって事さね」
 ソルナがキメラの死体を見ながら晴れぬ表情で呟く。
「逃げ続けていても所詮キメラはキメラ。どこかで退治される運命だっただろう」
「ま、そうかもしれないさね」
 周太郎の言葉にソルナが肩をすくめながら言葉を返し、空を仰いだ。
「何か色々と動き回ったせいか、いつもより疲れたような気がするね。早く帰ってゆっくりとしたいものだよ」
 景倉がため息混じりに呟く。今回のキメラはとにかく逃げる逃げる、能力者が追いかける追いかける、の状態だったため、疲労感はいつもより激しいのかもしれない。
「うおあっ‥‥」
 村雨の言葉の後『どてっ』という音が響き、能力者達がそちらに視線を向けると、キメラ対策で仕掛けた罠に引っかかっている村雨の姿があった。
「‥‥そういえば、それには引っかからなかったな、キメラ」
 ぼそり、と風見が呟くと「それどういう意味だ!? キメラが引っかからなかったのに俺が引っかかったって‥‥どういう意味だ!?」と風見に詰め寄る村雨の姿が見られた。
「ま、まぁまぁ、村雨殿‥‥とりあえず早く帰ろうヨ」
 ラサが仲裁しながら、能力者達は高速艇へと乗り込み、報告の為にラストホープへと帰還していったのだった。


END