タイトル:白―全てに染まる色マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/29 21:44

●オープニング本文


白は怖い‥‥何故だか怖いの‥‥

※※※

「あたし‥‥雪って嫌いだなぁ‥‥」

ぽつりと呟いたのは親友の千歳だった。

「何で?」

「白は怖い。全てを真っ白にするから‥‥かと思えば全てに押しつぶされる色だから‥‥」

「そっか‥‥」

私・冴子はそれだけ答えると黙りこくる。

私には千歳が『白』を嫌う本当の原因が解っているからだ。

二週間前、千歳のお姉さんがキメラに殺された。即死ではなかったらしいので、千歳は外に出て助けを呼ぼうとした‥‥けれどその日は運悪く過去最大に雪が降った日。

雪が積もり、目の前に広がる白い色――‥‥結局助けを呼びに行く事は出来なくて、千歳は家にある救急箱でお姉さんの治療をしていた。

けれど、キメラが少し時間が経った頃に戻ってきて、再び襲い掛かってきたのだと言う。

千歳のお姉さんはキメラから攻撃され、窓ガラスを割って外に放り出された。

千歳はお姉さんがキメラに攻撃される前に隠れさせたらしい。

静かになった後に千歳が見たものは‥‥真っ白な雪の中で広がる赤い色‥‥。

そして、物言わぬ遺体となった千歳のお姉さんの上に降り注ぐのは雪、まるでお姉さんの姿を隠すかのようにそれは降り続けたのだという。

それからだ、千歳が雪、白色に対して異常なほど怯えを見せるようになった。

「ねぇ、千歳。もう寝よっか」

「ん、そうだね――‥‥」

電気を消そうとしたとき、玄関の方から物凄い音と冷たい風が入ってきた。

「な、何――‥‥?」

私が玄関の方を扉を少し開けて覗き、そして勢いよく閉める。

「冴子、どうしたの?」

「‥‥き、キメラが‥‥」

がたがたと震える体を押さえるようにして私達は押入れに隠れた。

キメラが気づかずに立ち去ってくれることを祈りながら‥‥。


●参加者一覧

不破 梓(ga3236
28歳・♀・PN
シュヴァルト・フランツ(ga3833
20歳・♂・FT
祈宮 戒(ga4010
23歳・♂・FT
キリト・S・アイリス(ga4536
17歳・♂・FT
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
如月(ga4636
20歳・♂・GP
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA

●リプレイ本文

「すぐに踏み込むので先に言っておく‥‥二人の安全を確保したらすぐに連絡をくれ、それを合図に殲滅に移る」
 突入班の一人、不破 梓(ga3236)が能力者達に向けて呟く。
「キメラが複数いたらどうしますか?」
 不破と同じ突入班のキリト・S・アイリス(ga4536)が問いかけると「‥‥その時考えるさ」と短い言葉を不破は返した。
「急がないと‥‥手遅れになるのは、御免だわ」
 リン=アスターナ(ga4615)が表情を変えずに呟く、しかし彼女自身も焦っているのだろう。
「そうだな、大切な人をこれ以上奪わせてはいけない‥‥奪われるのは自分だけで十分だ」
 最後の言葉は小さく、そして低い声で呟くのは如月(ga4636)だった。
「こんな時代です‥‥何処にでもある悲劇なのかもしれない――でも、それを少しでも和らげるのが俺達能力者の役目だと思います」
 レールズ(ga5293)はしんしんと降る雪を見ながら呟いた。
「どうか、二人の無事と皆さんにご武運を‥‥」
 突入直前、黒い十字架を額に当てながら祈るように呟くのはシュヴァルト・フランツ(ga3833)だった。
「それじゃ‥‥頑張ろう」
 諫早 清見(ga4915)が呟き、能力者達は助けを待っているであろう二人の救助とキメラ殲滅を行う為に動き出したのだった‥‥。


●突入班、キメラをおびき出せ!

「まずは釣りだな‥‥上手く食いつけよ‥‥」
 不破は玄関からキリトと共に突入して、自宅内にいるであろうキメラを探し始める、キリトもなるべく家の中のものを壊さないように気をつけながら戦闘を行うように心がける‥‥が、まずそのためにはキメラを見つけなければならない。
「不破さん、あそこ‥‥」
 キリトが指差した方向は台所、そこで見境なく破壊をしているキメラの姿は熊のようなキメラだった。
「‥‥とりあえず救出班が二人を保護するまでは、引き付けておかないとな」
「えぇ、なるべく破壊は控えたいのですが‥‥難しいかもしれませんね」
 不破とキリトはそんな会話を交わし、キメラとの引き付け戦闘を開始した。


●救出班・二人を救助しろ!

「キメラとの戦闘が始まったみたいだから‥‥俺達も救助に向かいましょう」
 レールズは同じ救助班のシュヴァルトと如月に話しかけ、突入班が入った玄関ではなく、裏口――と言っても窓からなのだが、家の中に入り、冴子と千歳を救助する行動に移った。
「さて、何処から探したものですかね‥‥あまりゆっくりと捜索する時間もないのですが‥‥」
 シュヴァルトは呟きながら、人が隠れそうな場所を考え始める。
「考えられるのは押入れ、洋服箪笥、あとは思いつきませんね。此処は普通の家だから隠し部屋があるとも考えにくいですし‥‥」
 如月は呟きながら部屋の中にある箪笥などの人が隠れられそうな場所を探していく。家の中はそんなに広い場所ではなく、探せばすぐ見つかると彼らは考えていた。
 そして、考え通りに人の気配がする場所を見つけ、三人はソッと押入れを開いた。
「きゃ――っ」
 冴子が叫びそうになったが、シュヴァルトが口元に手を当てて「静かにお願いします」と二人に話しかける。
「もう大丈夫、よく耐えた。怖かったろう、さぁ‥‥此処から出よう、命に代えても守って見せるから」
 如月が二人に優しく話しかける。すると二人の瞳からは大粒の涙がこぼれ始めた。張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れたのだろう。
「こちら救助班、二人を保護しました」
 レールズが予め借りていた通信機で突入班に連絡をする。突入班は二人が何処に隠れているか分からなかったから全力で戦う事ができなかった。
 しかし、二人を見つけた以上、気を使う必要がなくなる。
『了解、これよりキメラを外に誘導して戦います』


●待機班・警戒と戦闘

「‥‥まったく‥‥憎らしいほどよく降るわね、今日の雪は‥‥」
 リンは空を見上げながら忌々しそうに呟く。呟く口からは喋るたびに白い息が吐かれる。待機班は突入班からの連絡を受け、戦闘準備を行っていた。
「‥‥俺は‥‥白は嫌いじゃありません。今は中々会えてないけど、大切な人の色‥‥悲しい出来事が幸せな記憶まで塗り潰してしまわないよう、今出来ることをやらないと、ね」
 諫早は呟き、救助者を乗せて運ぶ為の車などの確認を始める。今回は家の中にいるキメラ以外に敵の気配は感じない。
「来たわよ‥‥」
 先に家の中から出てきたのは救助者を連れた救助班の方だった。外の寒さと恐怖に震えているためか彼女たちの顔色は悪い。
「これを‥‥そして車の中で戦闘が終わるまで待ってて」
 諫早は二人に毛布を渡し、車に乗るように促しながら話しかける。
「諫早君、来るわよ!」
 リンの言葉と同時に家の中から不破とキリト、そしてキメラが姿を現した。
「獣風情が‥‥勝てると思うな」
 不破は低く呟くとディガイアでキメラに攻撃していく。
「‥‥許せない、お前達バグアやキメラは許せないよ‥‥」
 底冷えをするような冷たく低い声でキリトは呟き蛍火を構えて攻撃に出る。
 そしてシュヴァルトは車の前に立ち、救助した二人を守るようにソードを持ち、キメラが襲撃して来た時に備えていた。
「戦いは好きじゃないんですが‥‥四の五の言っている場合でもないですよね」
 如月は苦笑しつつもファングを装備し、キメラに向かっていく。早くこの戦いを終わらせて二人を安全な場所まで連れて行く為に。
「俺も護衛役に回ります、万が一の時に一人じゃ対処し辛いかもしれないですし」
 レールズもシュヴァルトと共に車の前に立つ。
「守る‥‥守るんだ‥‥」
 拳に爪が食い込むほど強く握り締め、キリトはまるでその言葉しか知らないかのよに連呼して呟いている。
 以前、クリスマスに失った恋人とのことが頭の中にフィードバックして、多少冷静さを欠いているのかもしれない。
「上からの攻撃に対処できる――かなっ」
 諫早は塀の上からキメラに向かって飛びかかるような形で攻撃をする。
 突然、予想もしていなかった場所からの攻撃にキメラは多少驚き、隙が出来て、それを見逃さなかったキリトは横からキメラを貫く‥‥が、致命傷には至らなかったのかキメラは苦しそうに唸りながらも此方を攻撃してこようと腕を振るう。
「‥‥いい加減諦めて欲しいね‥‥」
 リンもファングで応戦し、嘲るように呟く。
 結局、能力者達の数に対応できず、キメラは総攻撃を受けて倒されたのだった‥‥。


●白――雪解け

「キメラを倒せてよかったです、これで彼女たちの心に傷を負わせずに‥‥」
 シュヴァルトは戦闘が終わり、能力者を労いながら呟く。
「ありがとう‥‥でも――」
 千歳は車から降りて、自分達を助けてくれた能力者に礼を言う。
「でも‥‥?」
 リンが問いかけると「何でかな」と千歳が呟く。
「何で‥‥お姉ちゃんは助けてくれなかったの‥‥? 何で‥‥」
 千歳は涙をぼろぼろと流しながら能力者を責めたてるように呟いた。
「千歳――」
 冴子も心配そうに千歳を見て、表情を歪める。
 きっと、千歳自身も頭の中では分かっているのだろう。千歳の姉を助けてくれなかったのは、今回助けてくれた能力者のせいじゃないという事、そして自分がどんなに酷い事を言っているのかも‥‥。
 千歳の姉を助けれなかったのは、どの能力者のせいでもない。
 何故なら、能力者は千歳の姉が殺された事件を知らなかったのだから。通報されたのは全てが終わった後、誰がどんなに頑張っても千歳の姉は助ける事は出来なかっただろう。
 けれど、千歳は理解する事は出来ても認めることが出来ないのだ。
 しゃくりあげながら呟く千歳の前に立ったのはレールズだった。
「ごめんなさい、分かっているの。お姉ちゃんが死んじゃったのは誰のせいでもない、それは分かっているけど‥‥」
 泣きながら謝る千歳の頭をレールズは優しく撫で、話し始める。
「お姉さんを助けれなかったこと、本当に残念に思います。そしてあなたの心にも乗り越えられない傷が出来てしまった。つらい過去を乗り越えるのは簡単ではないでしょう」
 ですが、レールズは言葉を止めて、千歳の目を確りと見据えて再び話し始める。
「溶けない雪はないように、あなたが望めば春は必ず訪れます。時間はかかるかもしれない。少しずつでも、その心を覆う雪を溶かしてみませんか?」
 レールズの言葉に「そうだよ」と不破が話しかける。
「私達がもう千歳のような人を出さない為に頑張る、だから――‥‥千歳も自分を許してやったら?」
 不破の言葉に千歳ははっと顔を勢いよくあげる。
 不破は見抜いていたのだ、言葉では能力者を責めながらも、心の奥底で責めていたのは千歳自身なのだという事に。
「憎しみに駆られてはいけない――きっと、そのうち自分自身も滅ぼすから‥‥」
 如月は呟き「あなたには憎しみなんて似合わない」と千歳に優しく話しかける。
「‥‥ありがとう、ありがとう‥‥」
 きっと、千歳は誰かに言ってほしかったのかもしれない。

 お姉さんが死んだのはあなたのせいじゃないよ――と。

 気がつけば雪は止み、夜の闇に星たちが瞬いていたのだった‥‥。


END