タイトル:シュプール家の災難3マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/15 23:59

●オープニング本文


彼女の我儘は今に始まった事ではない。

むしろ、彼女から我儘という言葉を抜いたら何が残るのかも分からなくなっている最近だ。

※※※

「それじゃ、キリー。
 お母さんは仕事に行ってくるからちゃんと皆の言う事を聞いてお留守番しているのよ?」

「はい、いってらっしゃい」

にっこりと天使の笑顔で母親がキメラ退治に向かったのを確認すると――‥‥。


「サスケ、お茶」

天使がいなくなり、魔王が降臨する。

そんな彼女の名前はキルメリア・シュプール(gz0278)といい、萌えと癒しを持つ事から『もやし』と呼ばれているのだが‥‥。

最近は萌えも癒しも見当たらなくなっている気がするのは、きっと気のせいではない。

「モニカ、何で紅茶のお茶請けが煎餅なわけ?
 この煎餅みたいにあんたの頭もかち割るわよ」

シュプール家の使用人、それはそれなりに数はいるもののキリーの相手が出来るのはごくわずかしかいない。

それもそのはず。
キリーの毒舌暴行に使用人が耐えられなくなり、泣きながら屋敷を出て行ってしまうからだ。

「海いきたい」

「「は?」」

「何聞き返してるのよ。その耳は飾りなわけ?
 耳の形した煎餅なわけ? 人の話は1度で理解しなさいよ。
 カスどもが」


※※※

「‥‥というわけで、俺たちじゃ手に負えません。
 そこらのキメラよりタチが悪すぎです、助けてください。切実に」

あれからさんざんキリーのお小言を聞かされたサスケは、能力者たちに助けを求めるべく、電話をかけていた。

「お嬢様が海に行きたいと言ってるので、連れてってください。
 シュプール家の使用人たちに夏休みください。
 平穏無事に過ごせる日をください。
 むしろ持って帰ってこなくていいで(ゴスッ)ぶふぉ。
 と、とにかくそういう事でよろしくお願いします!」

おそらく電話の途中でキリーに殴られたであろう、サスケは泣きながら電話を切った。

※※※

そして、数日後――‥‥。

「さっさと海に行くわよ、このノロマヘタレども!」

ばっちり海水浴の準備をしたキリーが本部へとやってきていたのだった。

●参加者一覧

土方伊織(ga4771
13歳・♂・BM
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
仮染 勇輝(gb1239
17歳・♂・PN
神咲 刹那(gb5472
17歳・♂・GD
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
ガル・ゼーガイア(gc1478
18歳・♂・HD
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

(はわわ‥‥サスケさん達の気持ちも分からなくはないのですけどー、まおー様をこっちに預けないでー‥‥まおー様と海なんてそんな危険な所になんか行きたくないのですぅ)
 心の中で切実な叫びをあげる土方伊織(ga4771)だった。
 しかし、そんな彼の願いも空しく現在進行形で海に向かっている最中である。
(リリシアママンがいないのは残念だけど、本当に残念だけど、非常に残念だけど、キリーちゃんの相手をする奴は色々いるから大丈夫かな)
 龍深城・我斬(ga8283)は窓の外を見ながら心の中で呟く。
 今回、能力者達が向かうのはキメラ退治でも何でもなく、キルメリア・シュプール(gz0278)によって海に遊びに行こうと誘われたのである、ほぼ無理矢理に。
「くっ、またぞろぞろと毎度のメンバーかっ!」
 くわっと白虎(ga9191)が叫びながら、今回一緒の能力者達を見渡した。
「別に海にこんなにぞろぞろと行かなくてもいいのに!」
 白虎がぶつぶつと文句を言っているが『二人だけで海に行きたかったのにゃー☆』という思いが見え隠れしている。
「うるさいわね。重体らしく大人しくしていなさいよね!」
 キリーが白虎を叩こうとしたのだが「冗談にならない事になりそうだからやめようね」と仮染 勇輝(gb1239)が止めに入る。
「それにしても海か、やっぱり夏は海だよね」
 今日は誘ってくれてありがとう、と言葉を付け足しながら神咲 刹那(gb5472)がキリーに言葉を投げかける。
 ちなみに彼は夏を満喫する気満々らしくアロハシャツに短パン、サングラスにビーチサンダルという格好で来ていた。
「鈴たん、今日は楽しもうねー」
 諌山美雲(gb5758)は愛娘を連れての参加となり、眠っている娘に声をかけていた。
(もやしと海‥‥ようやくこの日が来たぜ‥‥だけど海に行ったらナンパとかありそうだな‥‥もやしの竜騎士(しかしM)として守ってやらなくちゃな!)
 拳を強く握りしめながらナンパ対策を考えているのはガル・ゼーガイア(gc1478)だった。
「この前は大変でしたね、キルメ「何よ、あんた! なれなれしいわよ」‥‥お元気そうで何よりです、相変わらず‥‥」
 立花 零次(gc6227)は挨拶を遮られ、揚句に平手打ちを食らい、頬を押さえながら元気なキリーに安心と痛みを感じていた。
「それにしても何で今回はプライベートビーチじゃないんだ?」
「人のいない海っていうのも面白くないもの」
(金持ちの戯れで庶民の海で遊ぶ、か‥‥)
 納得のいった龍深城は苦笑しながら、心の中で呟いていた。


 それから能力者達は人で溢れる海へとやって来て、最初にパラソルなどを設置する事から始めた。
「まずはスイカ割りなのですけどー、重体の白虎さんは安全の為にも埋めておくのがいいと思うのですよー」
 土方が手を挙げて提案するのだが、彼の提案のどこに安全があるというのだろうか。むしろ別の物で砂浜が赤く染まりそうな気がしないでもない。
「くっ、総帥ばかりに良い所を持っていかれてたまるか! 埋まるなら俺が埋まってやるぜ!」
 ガルが勢いよく手を挙げるのだが、スイカの隣に埋められて危険に晒される事が『良い所』というなら、もはや彼にとっては全てが良い事になるのかもしれない。
「それじゃ、スイカで割り始めるわよ」

 棒の代わりにスイカを持ち、スイカの代わりにガルを埋め、いざ参らんスイカで割。

「でも割っても食べれないから、やっぱりスイカ割りの方がいいわね」
 呟きながらキリーはガルから少し離れた所にスイカを置き、本来のスイカ割りを始めようとする。
「俺を‥‥俺を無視しないでくれぇぇぇぇぇっ!!」
 埋められたガルの悲痛な叫びが響き、哀れに思った立花が掘り起こしてガルを救出したのだった。
 しかし、このメンバーで真面目なスイカ割りになれ、という事の方が無理なのである。
「後々の吊るし上げのネタには事欠かんねぇ‥‥あ、キリーちゃんそこで笑顔‥‥じゃなくて心底楽しげな顔でお願い、うん、魅力的」
 龍深城はスイカ割りなどには参加せず、持ってきたデジカメでの撮影に専念していた。現在、スイカ割りの様子を写真に収めているのだが、白虎、土方、ガル、立花を悪魔の笑顔で追い回すキリーの姿が撮られていた。
 結局、スイカは身の危険を感じた立花によって割られ「‥‥ちっ」とキリーの通り際に「勝手に割ってんじゃないわよ」という言葉と同時に鳩尾を殴られて、砂浜に膝をついて震えたのだった。
「すみません、諌山さんにもスイカ割りをと思ったんですが‥‥身の危険を感じました」
 パラソルの下で様子を見ていた諌山に立花が声をかける。
「あ、私が参加してたらスイカ以外が割れてたかもしれないですし」
 笑顔で応える諌山に(この人も、ある意味怖いですね‥‥)と心の中で呟き、苦笑するしか出来なかった。
 割れたスイカを食べた後、能力者達はビーチバレーをする事になっていた。
「はわわ、ビーチバレーってボールが4つも飛び交う競技でしたかー‥‥?」
 普通ならば1つのボールで行う筈の競技なのだが、なぜかあちこちにボールが飛び交っており、その数4つ。もはや既に何が何やらの状態になっており、どのボールを追えばいいのかも分からない状況だ。
「‥‥すげぇな、あのバレー」
 撮影を行いながら龍深城が呟く。
(‥‥普段見慣れない速さで調子が狂う‥‥)
 構えたまま、仮染は心の中で呟く。先ほどは立花の速球にヘッドスライディングしながらも取りに行ったのだが、普通の速度は感じが違うらしく、なかなか取る事が出来ない。
「鈴たん、将来あんなバレーに誘われてもちゃんと断ってねー?」
 腕の中で眠る娘に諌山は声をかけながら、ボールが飛んでこない所へと移動する。
「あぶねぇ!」
 ボール3つがキリーの方に向かい、ガルが身を挺して庇うのだが‥‥自分にボールが飛んできた事にキリーは怒り始め、能力者達を正座させて説教を始める。
「あんた達、私を狙うなんて何考えてんの?」
 キリーの説教は延々と続き、能力者達は熱い砂浜の上でキリーの説教に耐えていたのだった。
 ちなみに能力者の中にはキリーを助けた筈のガルの姿もあった。
「ふぅ、怒ったら喉も渇いたしお腹も空いたわ、そこのしょぼい海の家でご飯でも食べる事にしてあげるわ」
 正座をさせられ、足の痺れている能力者達を置いて、キリーは諌山、龍深城と一緒に海の家へと向かい始めた。
 もちろん、この後「何座ったままでいるのよ、このヘタレ!」とキリーからの怒号が飛んでくるのは言うまでもない。

「ま‥‥‥‥っずい」
 海の家で焼きそばを食べたキリーは一口食べた後にぼそりと呟く。
「そうか? そこまでまずくはないと思うけどな‥‥食べないんなら、それ貰い!」
 龍深城が言葉を返すと「あげるわ。こんなしょっぱい飯なんか食べてられないわ」と食べかけではあったが、焼きそばを渡す。
「がー君! き、貴様ぁぁぁぁ! き、キリーお姉ちゃんと、か、間接キあああああ!」
「落ち着いて下さい、暴れたら迷惑ですよ」
「で、でも‥‥!」
 今にも暴れだしそうな白虎とガルを宥めつつ、仮染が「俺の焼きそばあげますから」と焼きそばを差し出すのだが、それでは仮染と『間接ちゅう』になってしまう為、白虎とガルは全力で遠慮をした。
「そういえば、その水着似合ってま「うわ。ロリコン」すよ。今度着物も着てみませんか? 十二単とか、きっと素敵で「だったら持ってきなさいよね、ヘタレ」すよ」
 立花の言葉を悉く遮りながらキリーが言葉を返す。
 海の家でご飯を食べた後、自由時間にしてそれぞれ海を満喫する事になる。
「熱中症とかには気を付けてー!」
 離れていく能力者達に仮染が言葉を投げかける。もしかしたら今回のメンバーの中で一番大人なのは彼なのかもしれない。仮染はひたすら雑用を進んでして、キリーが散らかした場所をせっせと片づける姿も見受けられていた。
「キリーお姉ちゃーん。一緒に泳ぐぉ‥‥」
 白虎が泳ぐ為にキリーへと駆け寄るのだが、龍深城に止められてしまう。
「そんな状態で泳いだら傷口に塩になるからやめとけ」
「武士道とは‥‥死ぬ事と見つけたりだーっ!」
 何が何でも白虎は泳ごうとするのだが「やめてください、死んじゃいますから!」と仮染にも止められて、海から遠ざけられてしまう。
「‥‥‥‥‥‥ぷっ、海に来て泳げないなんて可哀想に」
 その白虎の前を優雅にイルカボートに乗って泳ぐのはもちろんキリーだった。
「さすがキリーだね‥‥精神的に傷口に塩塗りこんでるよ」
 苦笑しながら神咲が呟き、結局キリーと一緒に泳ぐという計画は無しになってしまった。

 そして、夜――‥‥能力者達は泊まる民宿へとやって来ていた。
「ぼろっちい民宿だけど、温泉はあるらしいわよ。まぁ、しょっぱい場所だけどね」
 自分の民宿でもないのに、キリーが散々罵倒している事に苦笑しつつ能力者達は民宿へと入っていったのだった。
「とりあえず、ご飯までは時間あるよね。もう少し暗くなったら花火でもしない?」
 神咲が持ってきた花火を見せながら能力者達に声をかける。
(は、はわわ‥‥花火、ですかー‥‥まおー様に花火は危険と思うのですけどー、特に僕がー‥‥絶対花火の的にされちゃうーです、ろけっとーで狙われるのは嫌ですぅ)
 嫌な予感しかしない土方は心の中で色々と断る理由を探したが、うまい理由が見つからない。しかし、キリーの事だから理由を言っても『絶対参加』の言葉で終わらされそうな気がするのは気のせいではないだろう。
「花火か、懐かしいな。ガキの頃、夜の校庭でロケット花火を持って戦争ごっこをしたもんだ」
 昔を懐かしむように龍深城が呟き「ヘビ花火とねずみ花火はお約束だよな」と笑って言葉を付け足した。
「花火かー、鈴たん楽しみだねぇ」
 諌山が娘に向かって言うのだが、その時能力者達の心は1つになった。

『彼女に、花火を持たせてはいけないような気がする』

(‥‥よし、俺は総帥と勇輝にネズミ花火を仕掛けてやろう。どんな顔するか見物だぜ)
 にやり、と悪役的な笑顔を浮かべながらガルが心の中で呟く。
(‥‥みなさん、思うところあり――と言った所ですかねぇ。俺は巻き添えを食わないように静かに手持ち花火を楽しむとしましょう)
 立花は能力者達を見ながら苦笑し、良い具合に暗くなってきたので花火をする為に能力者達は移動を始めた。

「はわわ、や、やめてーですぅ! 説明書読むですー! 人に向けちゃだめー!」
 花火開始早々、土方が怯えながら叫ぶ――が、まだキリーは人に花火を向けていない‥‥というより、まだ火をつけてすらいない。
「キリーさん、白虎さん。線香花火で勝負しませんか? 誰が一番長く続くかってやつ」
 仮染が2人に勝負を持ちかけ「望む所よ」とキリーが言葉を返し、3人の線香花火勝負が開始された。
「「「‥‥‥‥」」」
 線香花火に火をつけてから、3人は黙って静かに動かずに線香花火をジッと見つめている。
「あ、やば‥‥」
 最初に脱落しそうなのはキリーだったが、自分の花火が落ちると同時に仮染と白虎のも落として「あらあら引き分けになっちゃったわね」とさらりと言う。
(‥‥キリーさん)
(な、なんて我儘なのにゃ‥‥)
 それぞれ思う所はあったが、付き合いの長い彼らには『言っても無駄』という事がわかっており、文句を言う事はなかった。
「仕方ないにゃ、次の花火を持ってきてあげよう」
 白虎が手持ち花火を取りに他の能力者達の所へと駆けていく。
「一つ、質問いいですか。キリーさんはその生き方を変えるつもりは、ないんだね?」
 真面目な顔で問われて「当たり前よ。自分で言うのもなんだけど、大人しい私は私じゃないし、アイス屋でアイスの乗ってないコーンを渡されるようなものでしょ」と言葉を返す。
(‥‥どういう例えの仕方なんだろう)
 疑問に思ったけど「そう‥‥答えてくれてありがとう」と仮染は小さな声で言葉を返した。
「ああああああっ、な、何するにゃー!」
 白虎の悲鳴が聞こえ、そちらに視線を向けるとネズミ花火に襲われている姿が視界に入って来た。おそらくガルが仕掛けたものだろう。
「元気ですねぇ、みなさん‥‥昼間あんなに暴れたばかりだというのに‥‥」
 暴れまわる白虎、笑うガルや他の能力者達を見ながら立花が呟く。
「お子さん、俺が見てますから諌山さんも混ざって来てはいかがですか?」
 立花の言葉に「いい、かな‥‥? じゃあ少しだけ。何かあったら呼んで下さい」と諌山は娘を立花に預けて、置いてあった花火を持って能力者達の所へと向かう。
「そういえば、随分と大きい‥‥っていうか太い花火持ってきちゃったけど良かったかな」
 諌山が呟き、点火しようとしているのを土方が見つけ「だめーですー!」と叫ぶが時すでに遅し。諌山が手にしていたのは手持ち式打ち上げ花火であり、その方向はしっかりと能力者達の方を向いている。
「この、バカ美雲!!」
 キリーの怒声は花火の音にかき消され、きゃあきゃあと諌山から能力者達が逃げていくのだった。


 そして、宿に戻った能力者達はご飯を食べ、お風呂の時間となった。
「ぼ、僕はもう部屋から出ないのですぅー! 下手に部屋から出てお風呂の覗きに間違えられたくないですからー!」
 ご飯を食べた後、土方はお風呂にすぐさま入って部屋に閉じこもってしまう。
「キリーさん、一緒にお風呂に行こう♪」
 諌山に誘われ、キリーも温泉へと向かう。
 そして、その後をついていくのは‥‥ガルと白虎、もちろん覗く為ではなく、守る為に温泉の前で陣取って万が一の事がないようにする為だ。
 ‥‥しかし、彼らは気づいていない。その時点ですでに『あんた達、何覗いてんのよ!』というフラグが立っているという事に。
「何よその目は。別に私はあんたなんかに構ってあげなくてもいいんだからね。でも仕方ないから構ってあげてるだけなんだからね」
 妙に苦しい言い訳をしながら、諌山の子供に興味津々のキリー。
(‥‥やっぱり、意外と良いお母さんになりそうだなぁ。でも何となくキリーさんのお母さんみたいになりそうかも)
 子供とじゃれるキリーを見ながら諌山は心の中で呟いていた。

 そして、事件は先にキリーがお風呂から上がった事によって発生した。
 更衣室に虫がいて「きゃあっ!」と叫んだのだが、それを覗きが来たと勘違いしたガルと白虎が更衣室へと突入してしまったのだ。
 その後は、もちろん‥‥言うまでもない。

「阿鼻叫喚をBGMにしながら温泉っていうのも凄い経験だよな」
「そうですね」
「きっと白虎くんあたりが覗きでもしたんじゃない?」
 上から龍深城、立花、神咲の言葉。

 もちろん2人はばっちりお説教をくらい、びんたまでされたのだが、ガルがキリーの部屋の前で寝ずの番をして、翌朝同じように覗きと勘違いされるのは言うまでもなかった。

END