タイトル:色鬼―赤マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/15 22:17

●オープニング本文


その子供は走る。

赤いすべてに向かって。

※※※

町から遠く離れた山の中。

そこに1体のキメラが現れるという報告が挙げられていた。

「キメラ? まぁ、珍しくもないけどさ‥‥死人まで出てんのか」

男性能力者が資料に視線を落とし、ため息交じりに呟いた。

「死人2人、重軽傷者多数、話を聞く限りキメラは子供みたいね」

「子供?」

女性能力者が男性能力者に追加資料を渡しながら「そ、子供」と言葉を返す。

追加された資料にはキメラと思わしき子供の特徴などがいくつか書かれている。

「着物っぽい服装? なんだそりゃ」

「ほら、時代劇とかで出てくる子供がいるでしょ、あんな感じなんじゃないの?」

「ふぅん‥‥」

「しかも何か赤い色に反応するみたいね、襲われた人たちが言ってたらしいわ」

「赤い色? そんじゃ血の色にも反応すんのかね」

「そうでしょうね、しかも重症者の中には腕の肉、食いちぎられた人もいるみたいだし‥‥」

女性能力者の言葉に「食いちぎられるって‥‥どんだけだよ」と男性能力者が引きつった表情で言葉を返したのだった。


●参加者一覧

アリエイル(ga8923
21歳・♀・AA
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
不破 炬烏介(gc4206
18歳・♂・AA
紅 和騎(gc4354
20歳・♂・GP
麻姫・B・九道(gc4661
21歳・♀・FT
月見里 由香里(gc6651
22歳・♀・ER
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

―― キメラ退治に向かう能力者たち ――

「子供の姿のキメラですか‥‥油断と躊躇を誘う姿ですが、キメラはキメラですから‥‥躊躇はしません」
 アリエイル(ga8923)は資料に視線を落としながら、小さな声で呟いた。
 しかし、彼女の表情を見る限り、まったく躊躇がない――というわけではないようだが、死者を出しているという事もあり、油断や躊躇をする事はないのだろう。
「子供型のキメラですか〜‥‥何とも戦いにくいですね〜‥‥」
 八尾師 命(gb9785)は間延びした声で呟く。
「でも、まぁ‥‥そんなモンで躊躇う程、俺は甘くはないっての」
 紅 和騎(gc4354)がため息混じりに呟く。軽口を叩いているように見えるが、資料を持つ手に力が込められており、彼は今回の事件を口で言うほど軽く見ているわけではないようだった。
「‥‥はぁ」
 麻姫・B・九道(gc4661)はため息を漏らしながら(なんだって子供の外見なのかねぇ‥‥やりにくいったらないぜ‥‥)と心の中で呟いていた。
「はぁ〜‥‥何か俺たちの方が悪役やんなあ〜‥‥くー、人が嫌がる仕事でもやらにゃならない傭兵稼業‥‥ってか」
 村雨 紫狼(gc7632)が盛大なため息を吐きながら呟く。
「でも、実際に亡くなっとる人も出ている以上、そないな事も言っておれませんわ。うちも心を鬼にして、立ち向かわせていただきます」
 月見里 由香里(gc6651)が村雨に言葉を投げかけると「ま、確かにそうだよなぁ」と村雨も頭を掻きながら言葉を返した。
「‥‥赤、追う‥‥子鬼。俺は、赤‥‥ソラは言う‥‥『捻ジ伏セロ‥‥悪鬼‥‥滅ス‥‥獄罰ヲ‥‥』‥‥殺す」
 不破 炬烏介(gc4206)は資料を見ながら、独り言のように呟く。
「場所は山、しかも雨‥‥か。厄介な事にならなければ良いのだが‥‥」
 エイミー・H・メイヤー(gb5994)が呟く。
 そう、今回能力者たちが向かう先は山――地図などは渡されたのだが、あいにくの悪天候という事もあり、能力者たちは念には念を入れての行動を強いられる事になっていた。
「とりあえず、俺は防水対策かんりょー! ホントは懐中電灯とか売ってりゃいーのに、なーぜかショップにねーという!」
 エマージェンシーキットはかさばるし、と村雨が苦笑する。
「あと、赤いものは大丈夫だな、俺‥‥」
 村雨は自分の着ている服などを見ながら「よし、大丈夫、俺」と一人首を縦に振っている。
 今回のキメラは『赤いもの』に向かってくるという情報があり、赤いものを身に着けている能力者、そして――赤い髪の麻姫と不破は他の能力者以上に注意をしなければならない。
「向かってくるなら向かってくるがいいさ。その為に普段の赤メインの格好で来てるんだからな」
 麻姫の言葉に、不破も同じ考えらしく首を縦に振った。
「さぁて、それじゃ行くとするかね」
 紅が呟き、能力者たちは高速艇へと乗り込んで子供キメラが潜んでいる山へと向かって出発し始めたのだった。


―― キメラを探して ――

 今回、能力者たちはキメラを退治するにあたり4つの班に分かれて行動をする作戦を考えていた。
 囮役・麻姫、不破、紅の3名。
 待ち伏せ班A・アリエイル、月見里の2人。
 待ち伏せ班B・村雨、八尾師の2人。
 遊撃役・エイミー。
 最初から別行動するのは待ち伏せ班のみであり、遊撃役のエイミーは最初、囮役の3人と行動を共にする事になる。
「それでは場所を見つけたり、何か異変がありましたらすぐに連絡を入れるようにします」
 アリエイルが呟いた後、能力者たちはそれぞれの班で行動を開始したのだった。

※待ち伏せ班A※
「天候も悪いので‥‥早めに決着をつけたいものですね」
「そうですね、こんな雨の中、ずっと打たれていたら身体が冷えて風邪を引いてしまいそうですし」
 アリエイルと月見里は地図を見ながら、互いに会話を行う。地図を見る限り、戦闘に適した場所はいくつか存在するようで、そのうちの何処を待ち伏せとして選ぶか、という問題が残っている。
 雨という悪天候の中での戦闘、待ち伏せ班が選ぶ場所によって戦闘の優劣が変わってしまう可能性も低くはない。
「雨で、地面がぬかるんでますね‥‥場所によってはひどく滑りそう」
 アリエイルが地面を見ながら小さく呟く。月見里はその言葉を聞いて、地面へと視線を移す。雨でぬかるんだ地面、そして草木などもあり、余計に滑りやすくなっている。
「この辺は開けた場所ですけど‥‥戦いには、向いていませんね」
 アリエイルが周りを見渡しながら呟く。広さ的には問題ないのだが、所々に死角が多く見受けられ、ここで戦闘する事は出来ないだろうとアリエイル同様、月見里も判断していた。
 その時、同じく待ち伏せ場所を探していた八尾師と村雨から連絡が入り、アリエイルと月見里のいる所から少し離れているが、戦闘に適した場所を見つけたという連絡が入った。

※待ち伏せ班B
「しとしと降る雨の音はいいかもしれませんが〜‥‥こうも叩きつけるような雨の音はあまり良いものじゃありませんね〜‥‥」
 相変わらずののんびりした口調で八尾師が呟く。
「確かに‥‥く〜、しかもカワイ子ちゃん揃いのボインボイーンなのにっ! 雨ン中、山奥で捜索なんて生殺しだぜー‥‥」
 がっくりと項垂れながら村雨が呟くと「何が生殺しなんですか?」と八尾師の天然爆発発言が村雨を襲う。
「え、いや、その‥‥ねぇ? とりあえず、キメラと待ち伏せ場所を見つけなくちゃな」
「あ、そうですね〜‥‥」
 村雨は無理やり地図に視線を落として、捜索を再開する。
「地図の通りだと、少し先に開けた場所があるみたいですね〜‥‥戦闘に適した場所だといいんですけど〜‥‥」
「そうだなー、っていうか俺は今自分の服が濡れて透けているのがすっごく気になる‥‥気にしてる場合じゃないのかもしれないけどさ‥‥」
 ぼそっと呟いた村雨の言葉に「大丈夫ですよ〜、戦闘が始まれば気にしてられなくなると思いますから〜‥‥」と言葉を返したのだった。
 それからしばらく歩いた所に、能力者たちが求める開けた場所を見つけ、八尾師は待ち伏せ班Aと囮班、そしてエイミーに「お鍋の準備はできましたよ〜、後は葱を背負った鴨の到着待ちですね〜」と連絡を入れ、他の能力者たちが到着するまで身を隠したのだった。

※囮班※
「雨がうざったいねぇ‥‥キメラ退治の間だけでもパッと止んでくれたらいいのに」
 はぁ、と大げさにため息を吐いて見せたのは紅だった。
「この雨じゃタバコも濡れちまうが‥‥仕方ねぇか」
 少し濡れてしまったタバコを見ながら、麻姫もため息を吐いた。
「‥‥殲滅、対象‥‥見つける‥‥」
 不破は雨音にかき消されそうな小さな声で呟き、周りを見渡す。
「この雨の中じゃ、物音も聞こえにくいし、視界も悪い‥‥本当に最悪だね」
 エイミーは音量をマックスまであげたトランシーバーを見ながら呟く。このトランシーバーの音量も、キメラがこの音に気付いて誘き出される事を願っての事。
「‥‥‥‥ちっ」
 紅が小さく舌打ちをする。
(髪が雨に濡れて気持ち悪ぃ‥‥ほんと、さっさと終わらせたいよ)
 紅は他の能力者たちに気づかれぬよう、眉を顰めながら小さなため息を漏らした。
 その時、八尾師からの通信が入り、待ち伏せ場所を見つけたという連絡が入る。八尾師の言葉を聞きながら地図上に指を滑らせ、場所を確認する。
「後はキメラを見つけるだけ、か」
 麻姫が呟き、囮班は再び目立つように行動を開始する。
「‥‥ま、て‥‥」
 他の能力者たちが歩こうとしているのを、不破が手で静止し、周りを見渡す。

 どうした――。

 そう言いかけて、能力者たちは口を閉ざした。明らかに自分たちに向いている敵意、そして何かが駆けてくるような音が聞こえ、能力者たちは警戒を強める。
 そして、次の瞬間――‥‥物陰からキメラが現れ、真っ先に不破と麻姫に襲い掛かる。
「こちら囮班、ターゲット発見。これより誘導に入る」
 エイミーは待ち伏せ班に連絡を入れ、小銃S−01を構えて、キメラの誘導に備える。
「‥‥誘導、始める‥‥来いよ‥‥子鬼」
 不破が低い声で呟き、噛みつかれた腕をちらりと見るが、表情を変える事なく、装着した篭手でキメラを攻撃して一歩下がる。
 あくまで、今の不破たちが行うのは誘導。それを彼も分かっているから無茶な戦いはしないのだろう。
「ほらほら、鬼さんこちらってか――っと」
 紅はキメラの攻撃を避け「残念、無念、また来てねん♪」とからかうようにキメラへと言葉を投げかけた。
「‥‥ちっ、本当に子供じゃねーか」
 麻姫はため息混じりに小さく呟いた後「お前の好きな『赤色』だぜ‥‥ほら、来な!」とキメラの前へと立ちながら叫んだ。
 攻撃しては下がり、攻撃しては下がり、それを繰り返しながらキメラと能力者たちは僅かずつではあるが、待ち伏せ地点へと近づいて行った。


―― 戦闘開始・キメラ VS 能力者たち ――

 待伏せ場所にキメラが誘導されてきたのは、囮班がキメラを発見してから十数分後の事だった。
「確かに男の子の格好をしているようです‥‥でも、手加減はしません!」
 アリエイルはキメラの姿を確認した後、唇を噛みしめた後に「キメラならば、斬り伏せるだけです!」と言葉を付け足した後、愛用の槍を構えてスキルを使用しながら攻撃を繰り出した。
「赤に引かれるのは、赤い色が好きなのか、それとも嫌いなのか‥‥そんなに赤に引かれるなら、くれてあげるよ」
 エイミーは呟きながらペイント弾を装填し、キメラの目をめがけて狙い撃つ。その際にスキルを使用しながら撃ったため、キメラは避ける事も出来ず、真っ赤なペイントによって視界を塞がれる事になってしまった。
「‥‥全身全霊で‥‥往くぞ‥‥一切合切、ソラは言う。‥‥『慈悲ハ要ラナイ』‥‥殺す‥‥殺して、やる‥‥」
 呟きながら不破はキメラへと攻撃を仕掛け「‥‥潰れろ、砕けろ、死ねよ‥‥真・虐鬼王拳!」と叫び、強力な一撃をキメラへと繰り出した。
 そして不破が下がった後、紅が前へと出てキメラへと攻撃を行っていた。
「‥‥赤色が嫌い? 知らねぇよ、とっとと死に腐れ」
 紅の表情は先ほどまでの軽い感じではなく、明らかにキメラに対しての不快感を露にしたもので、呟いた声も先ほどまでの彼を知る能力者たちが聞いたら驚くほどの豹変ぶりだった。
「ぐ‥‥あっ」
 紅の攻撃を受けた後、近くにいた麻姫がキメラに噛みつかれ、ぶしゅ、と嫌な音を出しながら血が噴き出す。
「一度下がってください、治療します」
 麻姫の負傷に気づいた八尾師が言葉を投げかけ、麻姫は一度後方へと下がる。
「ほらほら、そっちじゃなくて俺にも構ってくれって!」
 村雨が攻撃を仕掛けるのだが、彼の攻撃は避けられてしまう。
「‥‥ふっ」
 キメラに攻撃を避けられて、村雨は悔しがる様子を見せず、どこか余裕すら感じる表情を浮かべていた。
「そっちに避けていいのかな〜?」
 村雨が少し視線をずらすと、そこに立っていたのはアリエイルとエイミー。最初にエイミーが小銃S−01でキメラの足を狙い撃ち、バランスを崩した所をアリエイルが攻撃を行い、キメラは地面へと倒れこんでしまう。
「これがあなたへの鎮魂歌になるんやろか」
 それまで呪歌の使う所をずっと見極めていた月見里がポツリと呟き、スキルを使用するために歌を歌い始める。

 ‥‥ねぇ、私の声が聞こえる?
 あなたへと届くように心の限り歌うから。
 だから私だけを見てよね。
 きっとあなたを虜にするから‥‥。

 月見里が歌い終わった瞬間、キメラの動きが鈍くなり始める。
 だが、月見里は歌う事をやめず、キメラの動きが止まるまで歌い続けた。

「こっちに来いよ‥‥って無理な話か。動けないみたいだからな。素直に言う事聞く子供は可愛いけどねぇ」
 紅が軽口を叩きながらキメラへと攻撃を仕掛け、治療を終えた麻姫が戦線へと戻ってきて、なるべく早めに終わらせるため、全力で攻撃を仕掛ける。
(たとえキメラであろうと、子供が血まみれになる姿なんか見て‥‥喜べる女じゃないんだよ)
 ちっ、と再び舌打ちをしながら麻姫は攻撃を繰り返す。
 一方、不破も攻撃の手を緩める事せずにキメラへと殴りかかる。
 月見里のスキルによって動く事が出来なくなったキメラは、能力者たちの攻撃を受けるだけとなり、しばらく経ってからばたりと倒れ、そのまま二度と起き上がる事はなかった。


―― そして、キメラ退治後 ――

「お疲れ様でした〜‥‥治療しますから、負傷してる皆さんはこっちに来てくださいね〜」
 戦闘が終了した後、八尾師は負傷した能力者たちの治療に追われていた。
「‥‥一般人に紛れて、今回のようなキメラが出てくるとなると‥‥ゾッとしますね」
 アリエイルが倒れているキメラを見ながら小さな声で呟き、あのキメラによって奪われた命、そして傷つけられた人たちを思いながら祈るように目を伏せた。
「たとえ、どんなに姿を似せても所詮キメラはキメラ‥‥人になどなれはしないのに」
 エイミーがため息混じりに呟き、雨で濡れた武器を見つめる。
「‥‥情けや‥‥戸惑いは‥‥死の危険、孕む‥‥だが、情け‥‥優しさ、それもまた、強さ‥‥戦う者、は‥‥感情、あるべき、か‥‥無いべきか‥‥どちら、だと‥‥思う?」
 不破がポツリと呟く。
 だけど、その問いに答えられる者は誰もいない。
 感情があるからこそ強くなれる、そう言う者もいれば、感情があるからこそ情に流され危険を招く、どちらの考えも決して間違いではないのだから。
「‥‥‥‥」
 空を見上げながら、先ほどの問いを考える不破の頬を流れるものが雨なのか、それとも涙なのか、それは本人にも分からなかった。
「まぁ、とりあえずは終わった‥‥か」
 雨で濡れた髪をかきあげながら紅が小さな声で呟く。その表情は冷たいほどに無表情であり、紅が何を思って呟いたのか、他の能力者たちが気づく事は出来なかった。
(‥‥キメラである以上退治するべき、だから仕方ない‥‥だけど)
 麻姫は心の中で呟き、噛みつかれた腕を見ながら(痛い、な)と言葉を付け足していた。
「‥‥後味の悪い依頼でしたわ。雨で身体も冷えた事やし、帰ったら熱いシャワーでも浴びたいですわ」
 月見里が呟く。だけど、その言葉の意味は熱いシャワーでも浴びて気分を切り替えたい、という事なのだろう。
「確かにそうだな。俺もコート着てるから服のほとんどは大丈夫だったんだけどさ。ボタン開けてたせいか、雨で洋服が濡れて気持ち悪いし透けてるし、どうせ透けるなら女の子の服が透けたらラッキーだったのに」
 途中から願望になっている事にはたして村雨は気づいているのだろうか。

 その後、能力者たちは高速艇へと乗り込み、報告の為にLHへと帰還して、それぞれ風邪を引かないうちに温まる事にしたのだった。


END