●リプレイ本文
―― キメラ退治のために ――
「‥‥足首まで水に浸かった状態での戦闘か。スピードでかき回す戦い方を好む俺としては少々分が悪そうだな」
榊 兵衛(
ga0388)は資料を見ながら、ため息混じりに呟く。
今回の戦闘場所となる町、そこは水が溢れている場所だった。溢れているといっても、大人の足首くらいまでが水に浸かっている状況なのだが、そんな中、その町にはキメラも現れてしまい、能力者たちに派遣の要請が来たのだ。
「人気がなくなった隙に‥‥キメラが居ついたみたいだね‥‥水は厄介だけど‥‥ここで倒さないと‥‥事を先に進める事は出来ないか‥‥」
幡多野 克(
ga0444)が小さな声で呟く。
「‥‥水中だと歩く、走るはつらいな――となると、飛び跳ねて移動するのがいいかもな」
須佐 武流(
ga1461)が資料に挟まれている現地の地図を見ながら呟く。
(まぁ、そう簡単にいけば苦労はしないんだけどな‥‥)
小さくため息をつきながら、須佐は心の中で言葉を付け足したのだった。
「ここの人たちも家に帰れなくて困ってんだろうな‥‥」
上杉・浩一(
ga8766)もため息をもらす。
(家に帰れないって事はそれだけでも悲しい事だ、小さな町の1キメラであろうが、さっさと退治して住人が早く帰れるようにしてやりたいな)
上杉はそんな事を心の中で呟き、ぼんやりと資料を眺めていた。
「はっはっはー! とーぅ! 俺様は! ジリオン! ラヴ! クラフトゥ! ‥‥未来の勇者だ!」
きりっと決めポーズをしながら挨拶をしたのはジリオン・L・C(
gc1321)なのだが、何故か残念な人に見えるのはきっと気のせいだろう。
「ふ‥‥今回は彷徨える魂たちが帰るための場所か‥‥良いだろう、俺様がナチュラルに解放してやる!」
再びきりっとするジリオンなのだが、住人たちはまだ生きているので彷徨える『魂』ではない、と能力者たちはツッコミを入れたかったのだが、なぜかツッコミをいれるのも可哀想な気がして、誰も口を出す事はなかった。
「‥‥予想は水族館の予定だったんだけどね。まぁ、水場ってことは間違いじゃないんだろうけど」
ミコト(
gc4601)は資料を見ながら苦笑交じりに呟く。
「‥‥報告では人型キメラと聞いていますが‥‥知恵がある‥‥? だから篭城するために水没した町に留まっているの‥‥? それとも偶然か‥‥」
いずれにしても、リゼたちは排除するだけ――‥‥と言葉を付け足したのはリズレット・B・九道(
gc4816)だった。
「ま、そうだね。キメラに知恵があろうとなかろうと、篭城であろうとなかろうと、退治すればいいって事に変わりはないからね」
リズレットの言葉にミコトが言葉を返した。
「でも‥‥足首が水に浸かっての戦闘というのは実際初めてやけれど、これも経験やと思います。うちが出来ることを精一杯努めさせていただきますわ」
月見里 由香里(
gc6651)が能力者たちに挨拶をしながら呟く。
「それじゃ‥‥そろそろ出発しようか‥‥」
幡多野が呟き、能力者たちは高速艇に乗り込んで水没しかけの町へと向かい始めたのだった。
―― 水に浸かった町の中で ――
今回、能力者たちが取った作戦はみんなで固まってキメラ捜索をするというものだった。不慣れな状況、現場にみんなで固まった方がいいかもしれないという事なのだろうか。
「人型なら‥‥知恵が回るかも‥‥自分に有利な場所で‥‥待ち構えているかもしれないな‥‥」
幡多野がポツリと呟く。
「とりあえず、今のところは何もいないみたいだけど‥‥」
上杉が双眼鏡で周りを見渡しながら呟く。彼は死角になる場所を重点的に警戒しており、今のところはキメラが襲ってくる気配もない。
「俺も役立つよう頑張るぞ。勇者ア――――イズッ!」
ジリオンが『探査の眼』を使用しながら叫ぶ。なぜか決めポーズを行ないながらスキル発動しているのだが、その行動にはスキル効果を高めるなどの効果は一切ない。
「ふふ‥‥楽しいかくれんぼの始まりですよ‥‥くすくす、すぐに見つけて差し上げます‥‥」
狂気にも似た微笑を浮かべながらリズレットも『探査の眼』を使用し、隠密潜行も使いながら木の上などを重点的に捜索していた。
「ここをもう少しいくと、キメラが目撃された場所みたいやね」
赤く印のついた地図を見ながら、月見里が呟く。
「この辺からバイブレーションセンサーを使ってみますね」
闇雲に使っても見つからない、と考えていた月見里はキメラの目撃情報があった場所からスキルを使おうと決めていた。
「水没したとはいっても、全部が全部というわけじゃないみたいだな」
榊が周りを見渡しながら呟く。
確かに彼の言う通り、場所を選びさえすればそこまで不利な戦いにはならないだろう。
しかし、場所を『選ぶこと』が出来たなら、の話なのだが。
「みぃつけた‥‥」
「来ます!」
少し離れた場所から見ていたリズレットと、スキルを使っていた月見里が叫ぶのは、ほぼ同時だった。
リズレットは能力者たちのところへと戻りながらトランシーバーで連絡を行う。
「ぬおおああっ! あ、危ないな! 俺様が勇者の必殺技、勇者よけをしなかったら‥‥ケガをしていたぞ!」
ジリオンがキメラから放たれた矢を避けながら叫ぶ。なぜかその表情からはチキンさが見え隠れしているのは気のせいだと思いたい。
「おっと‥‥」
ミコトの方にも矢が飛んできたが、彼は剣で矢を叩き落す。
(‥‥くっ、俺様もあんな風に出来たら! かっこいいのになぁっ!)
めらめらと嫉妬の炎を燃やしながらもジリオンは戦いに集中する。
「多少の知恵はあるのか、それとも本能か、どっちなんだろうな」
榊がキメラを見ながら呟く。キメラは木の上から弓や銃での攻撃を仕掛けてくる。
「なら、こっちと同じ位置に落ちてきてくれればいいだけ‥‥」
幡多野は呟きながら小銃・S−01を構えてキメラを狙い撃つ。その射撃にあわせて上杉も小銃・ルナでキメラを狙う。
2人から同時に狙われたキメラは両方を避ける事が出来ず、足に上杉の弾を受けてぐらりとバランスを崩した。
「ふ‥‥私たちと競おうなんて、バカな子」
まるで貼り付けたような冷笑を浮かべるリズレットは、その表情のままアンチマテリアルライフルG−141を構えてキメラを狙い撃つ。
その攻撃を全て避ける事は適わず、キメラは木の上からひらりと地面へと降り立ち、能力者たちへと視線を向け、本格的に戦闘を開始したのだった。
―― 水の中の攻防 ――
「くっ、やはり歩きづらいな。いつもと感じが違って気持ち悪い」
榊が槍を構えながら表情を歪める。彼がそういうのも無理はない。足を水に取られている上に、いつもの調子で動き回ってしまえば、滑って転んでしまいそうだからだ。
「先に行くぞ」
須佐が駆け出しながら叫ぶ。駆け出す、とはいっても彼はジャンプを取り入れてキメラへと近づき、ローキックでキメラの転倒を狙う。
‥‥だが、思った以上に水が邪魔をして、須佐は足を滑らせてしまう。
そこを狙ったキメラが須佐の間近から銃を向ける――だが、上杉の射撃がキメラの腕へとあたり、キメラの須佐への攻撃は僅かに逸れて、大怪我を負うことはなかった。
そして、月見里はじりじりとキメラへと近づきながら『呪歌』の効果範囲へと向かう。
その間にも彼女は超機械でキメラへと知覚攻撃を行う。
そして『呪歌』の範囲に入った時‥‥。
『‥‥ねぇ、私の声が聞こえる?
あなたへと届くように心の限り歌うから。
だから、私だけを見てよね。
きっとあなたを虜にするから』
月見里が歌い始め、キメラの動きが鈍くなり、なおも月見里は歌い続ける。
「ふふ、その状態でどうやって戦うのか見せてほしいわね」
リズレットは楽しそうに呟いた後、スキルを使用しながら攻撃を行なう。キメラも反撃の素振りを見せたけれど、体が自由に動かず、反撃する事は適わなかった。
「これで、もう動けたとしても武器を使うことは出来ないだろう」
榊が冷たく呟き、武器を持つ手を斬り落とす。
「インパクトを一点に集中させる!」
幡多野が呟き、スキルを使用しながらキメラへと強力な攻撃を繰り出した。
「おっと、それだけで終わると思わないでくれよな」
須佐が呟き、攻撃を繰り出した後、キメラそのものを踏み台にしてまるでドリルのような蹴撃をキメラへと行なった。
「‥‥さっきは銃で攻撃したが、悪いな――本来はこっちが本職だ」
上杉が呟き、武器を銃から月詠に持ち替えながらキメラへと攻撃を行なう。
キメラそのものは既に瀕死の状態なのだが、このまま見逃すわけにはいかない。
「逃がすわけにはいかん! この勇者ジリオンが決してお前を見逃さないぞ!」
ジリオンがキメラの退路を塞ぎ、注意を引き付け「さぁ、こっちも見てよ」とキメラの背後から近づいたミコトが攻撃を行う。
このとき『呪歌』の効果が消え、動く事出来るようになったキメラから反撃を受けてしまうが、ミコトが怯むことはなかった。
「一発二発は覚悟の上。でも、痛いことに変わりはないから‥‥お礼はさせてもらうけどね」
ミコトは呟きながらキメラを斬りつける。
「早く倒されてほしいものですね、これ以上、泥で服が汚れる事は我慢できません」
リズレットが呟き、他の能力者たちも自分の格好を見る。
確かに泥水が跳ねて、ひどい格好になっている。
「もう一度、虜にしてあげる」
月見里が呟き、再びスキルを使用してキメラの自由を奪う。
そして、その隙を見逃さず、能力者たちは攻撃を仕掛けて無事にキメラ退治をする事が出来たのだった。
―― キメラ退治後 ――
「やれやれ、ひどい格好だな‥‥俺も含めて、だが」
戦闘が終わった後、榊が苦笑しながら能力者たちを見渡す。血や泥で汚れ、この場所に来る前の姿を思い出す事が出来ないほどだった。
「まぁ、大きなケガをする事もなくキメラ退治を終えることが出来たのは幸いか」
榊が言葉を付け足すと「‥‥そう、だね‥‥」と幡多野も言葉を返した。
「キメラがいなくなって‥‥これで町の人も帰ってこれるかな‥‥まだまだ‥‥人が住める状態じゃ‥‥なさそうだけどね‥‥」
幡多野が町を見渡しながら呟く。
この町の問題は元々がキメラではなく、水に浸かってしまったことが原因だった。だからキメラを退治しただけじゃ解決にはならないだろうが、住人がキメラに怯えずに済むという事を考えると、やはり嬉しく思う部分もあった。
「‥‥早く、元に戻れることを‥‥祈ってる‥‥」
空を仰ぎながら幡多野は小さく呟く。
「さすが俺様! 水も滴るいい男よ‥‥憎い! この熱い魂が憎い!」
はーっはっはっはっは、と高らかに笑いながらジリオンが腰に手を当てている。
「ちょっと、水も滴るっていうか泥水と血が滴ってるよ。熱いのは傷口が熱でも持ってるんじゃないかな?」
ミコトがさらりとツッコミをいれると「そんなはずはない!」と再び高らかに笑いながらジリオンは言葉を返した。
「あー、それにしてもびしょ濡れだよ‥‥まぁ、涼しくていいんだけど、何か泥臭いのが気になるな」
胸元をばさばさとしながらミコトが呟く。
「とりあえず、戻ったらすぐにお風呂に入りたいですね。むしろ報告より先に行きたいです」
リズレットがげんなりとしながら呟くが、それは他の能力者たちも同じだった。
「それじゃ、早く戻ってお風呂に入った後、報告に行きましょうか。さすがにうちもこのままじゃ、気持ち悪くてかなわんですし‥‥」
月見里が苦笑しながら言葉を返す。
その後、能力者たちは来た時と同じように高速艇に乗って、LHへと帰還したのだが、最初に向かったのは本部ではなく、それぞれの自宅であり、泥や血を落とした後に再び集まって報告に行ったのだった。
END