タイトル:動物園マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/29 03:42

●オープニング本文


そこはかつて色々な動物がいて、
子供達に夢を与える場所だった。

だが、キメラにより襲撃されて
動物達はいなくなり、誰も訪れる事がなくなった。

それから一年と少しが経過した頃、動物園跡地は取り壊される事が決まり、
業者が訪れたのだが‥‥。

※※※

「キメラが複数住み着いてる?」

女性能力者が資料を読みながら驚いたように呟いていた。

その動物園跡地には3体のキメラが住み着いており、
取り壊しはおろか、人が近寄る事すら出来なくなっていたのだ。

「熊型、狼型、猪型って‥‥見事に動物タイプばかりね」

苦笑しながら女性能力者が呟くと「これってこの動物園を襲った奴なんだっけ?」と
男性能力者が言葉を投げかけてくる。

「いいえ、その時のキメラは能力者によって退治されてるみたい。
 だから、まったくの別物ね」

「ふぅん、二度もキメラに襲われるなんてな‥‥」

男性能力者が資料に視線を落としながら呟くと

「別に珍しい事じゃないでしょ」

女性能力者がそっけなく言葉を返した。

「出来れば私がいきたかったんだけどね。
 この動物園、私も小さい頃に行った事あるから」

女性能力者は寂しそうに呟き、再び資料へと視線を落としたのだった。

●参加者一覧

絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
ミコト(gc4601
15歳・♂・AA
ネロ・ドゥーエ(gc5303
19歳・♂・DF
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
エレナ・ミッシェル(gc7490
12歳・♀・JG

●リプレイ本文

―― 壊れた楽園に ――

「動物園、か」
 絶斗(ga9337)が資料を見ながら小さな声で呟いた。
 今回キメラが現れたのは、かつて動物園だった場所だった。
「廃墟とかに野生動物とかが入り込むのは珍しくもないでしょうけど、キメラとなると放ってはおけないわよねー」
 はぁ、とため息を漏らしながらフローラ・シュトリエ(gb6204)が呟く。
「ん、動物園も久しぶり‥‥っていうか、最近は遊園地だの動物園だの、普段行った事のない場所ばっかり行くなぁ‥‥」
 苦笑しながらミコト(gc4601)は「まぁ、敵も動物キメラらしいし、舞台にあってると言えば‥‥あってるのかな」と言葉を付け足した。
「俺も動物園は久方ぶり、かな。子供の頃に何度か足を運んだことはあるはずですが、よくは覚えてませんね‥‥」
 立花 零次(gc6227)が遠くを思い出すように呟く。
「でも、動物園ってんだからもう少し種類がいてもいいんじゃないかね」
 ま、不謹慎か‥‥と言葉を付け足しながら呟くのはネロ・ドゥーエ(gc5303)だった。
「しかし、キメラを探すのはいいんだけど‥‥施設が障害物になって探しにくそうだね‥‥出来るなら壊れる前に来たかったよ」
 シクル・ハーツ(gc1986)が動物園跡地の地図を見ながら呟く。
「‥‥夢の跡地、と言ったところか。かつては賑わっていただろうに」
 ヘイル(gc4085)がシクルと同じく動物園跡地の地図を見ながら呟いた。
「今回はクマー! とワオーン! と‥‥なんだろう、の討伐! 頑張るぞっ」
 エレナ・ミッシェル(gc7490)がきゅっと拳を握り締めながら任務への意気込みを見せていた。
(でも、1匹のキメラを作るのに必要な予算は人類的に言うとどれくらいなんだろー?)
 かくりと首を傾げながら、エレナは考えるけれどその答えは見つからず「ま、いっか。とりあえずはキメラ退治っ」と小さく呟いたのだった。
「さて、さっさと仕事を終わらせようぜ」
 絶斗が呟き、準備を終えた能力者たちは高速艇へと乗り込んで、キメラが現れた動物園跡地へと向かって出発し始めたのだった。


―― かつて賑わった場所で ――

「まぁ、バラバラよりはみんなで一緒に動いた方が良さそうだし、敵が出たらそこは臨機応変に行こう」
 ミコトが呟く。
 今回、能力者達はキメラが3匹いるという事を考慮してか、捜索時に班を分けずにみんなで固まって捜索するという作戦を取っていた。
「そういえば、この動物園が襲われるのって2回目なんだよね? この辺に何かあったりするのかな?」
 シクルが周りを見渡しながら呟くが、何か異変があるようには見えない。
「んー‥‥それらしい物もないから、大丈夫だとは思うんだけど‥‥ってそれは何?」
 シクルが呟いた後、朽ち果てた園内を撮影するヘイルに気がついて声をかける。
「任務が終わった後に役に立つかもしれないから、現地の写真を撮っておこうと思ってな」
 ヘイルが言葉を返すと、シクルと一緒にエレナも「ふぅん‥‥」と言葉を返す。
「視界は悪くない。ま、当たり前か」
 ネロが周りを見渡しながら呟く。当然ながら誰もおらず、壊された檻、崩れた壁などが視界に入ってくる。
「静かだし、こんな状況じゃなきゃ弁当でも持って寝に来たいもんだけどね」
 景色は悪いけど、と言葉を付け足してネロが小さく笑う。
「あぁ、それはいいですね。天気も良いですしピクニック日和だと思いますよ。こういう状況でさえなければ‥‥」
 苦笑しながら立花が呟くと「さすがにキメラ付のピクニックは遠慮したいね」とシクルが乾いた笑いをしながら言葉を返した。
(‥‥それなりに広い場所だな。しかも相手は動物型だ、匂い等で俺達の接近は感づいているかもしれん、慎重に行かなくてはな)
 ヘイルは周りを警戒しながら心の中で呟く。
 その時だった。
 少し離れた場所から、獣の雄たけびのような声が能力者達の耳へと届く。
「今のは、キメラ? もしかしてこっちに気がついてる、とか?」
 フローラが周りを見渡しながら呟くと「それはないんじゃないかなー?」とエレナが言葉を返す。
「気づいてるんならー、ぎゃおーってこっちに向かってきてるんじゃない?」
 エレナの言葉に能力者達は、先ほどの声が聞こえた方へ耳を済ませる。
 さっきの声の後、能力者たちの方にやってくる気配はない。
「まぁ、向こうがこっちに来る気配がないならこっちが行けばいいだけの事だ」
 絶斗が呟くと「確かにそうだな」とヘイルが言葉を返す。
「それじゃ、キメラに気づかれないように行こっか」
 フローラが呟き、能力者たちはキメラの声が聞こえた方へと向かって歩き出したのだった。


―― 戦闘開始・3匹のキメラ ――

「‥‥こっちに気づいていない?」
 シクルが小さな声で呟く。
 あれから能力者たちは気配を殺しながら、キメラの声が聞こえた方向へと歩いていた。
 そこで見つけたのは3匹のキメラ。それぞれが少し離れた場所にはいるけれど他の2匹に気づかれず、1匹を退治するのは難しい状況だ。
「ある程度固まってくれてたんだ。猪はともかく、熊と狼は木に登れるから上から来るかと思ってたんだけど」
 ミコトがため息混じりに「熊が飛んできた時は死ぬかと思ったし‥‥」とげんなりした表情で言葉を付け足した。
「ここは分かれて、それぞれのキメラを相手にする方がいいでしょうね」
 立花が呟き、能力者はそれぞれ別々のキメラの前へと飛び出し、戦闘を開始したのだった。

※狼班※
「では行きますか。ヘイルさん、お願いします」
 立花が柔らかく微笑みながら、ヘイルへと言葉を投げかける。
「あぁ。俺が正面から行く、挟撃を頼む」
 ヘイルが短く言葉を残して、狼型キメラへと向かって駆け出す。
 狼型キメラはヘイルの姿を確認すると、遠吠えのように1つ鳴いた後にヘイルへと目標を定めて攻撃を仕掛ける。
「さすがによく動く‥‥!」
 小さく舌打ちをしたヘイルだったが、狼型キメラの動きを目で追いながら構えていた槍で攻撃を仕掛けた。
「だが、所詮は獣だな。狙いが分かりやすい」
 ひゅん、と槍で風を斬った後に再び狼型キメラへと攻撃を繰り出した。
「甘いですよ」
 ヘイルから距離を取ろうとした狼型キメラを逃がさぬように、立花が側面からスキルを使用して攻撃を繰り出す。
 立花が攻撃を仕掛けた事で、狼型キメラの標的がヘイルから立花へと変わり、口を大きく開けて立花へと噛み付く。
 立花はガントレットを装備している方の手にわざと噛み付かせ、狼型キメラの動きを封じる。
「さっき、そちらばかりに‥‥と言いましたけど、良いのですか? 私にばかり構っていて」
 に、と立花は不敵に微笑んだ後に、ちらりとヘイルを見る。
 近づくヘイルの姿を狼型キメラが確認して、動こうとしたけれどヘイルの攻撃の方が早く、ヘイルはスキルを使用しながら狼型キメラへと攻撃を行い、無事にキメラを退治したのだった。

※熊班※
「覚悟しろよー、クマー! クマー! なんて言って泣いても容赦しないんだから!」
 エレナが鳳仙の切っ先を熊型キメラへと向けながら言葉を投げかける。
「熊って‥‥クマー! なんて鳴いたっけ?」
 ミコトが小さくツッコミを入れるが、エレナには聞こえていないようだった。
「さぁ、勝負しようぜ、熊ちゃん!」
 絶斗も愛用の特注武器を構え、キメラへと向かって攻撃を仕掛ける
「やっぱり熊ってだけあって、なかなか良い大きさだね」
 ミコトもガラティーンを振るいながら呟く。
「ふぅん、さすがに大きいだけあってタフだね」
 絶斗とミコトの攻撃を受けて、よろめきこそしたが大したダメージにはなっていない事はまだ余裕で動ける熊型キメラを見ていれば分かる。
「まぁ、キメラが疲れてきたら動きも雑になるだろうし‥‥」
 そこが狙い目かな、と言葉を付け足してミコトは再び熊型キメラへと攻撃を仕掛けた。
 絶斗とミコトが熊型キメラの正面から攻撃を行なっているのに対して、エレナは攻撃しては下がり、などを繰り返していた。
「ふふん、捕まらないもんねー」
 攻撃を終え、後方へと下がったエレナが熊型キメラへと言葉を投げかける。エレナの攻撃が終わった後、熊型キメラも攻撃を行おうとするのだが、大きな体で動きが鈍いせいか、攻撃が中々エレナに当たる事はない。
 そして、エレナに攻撃を仕掛け、僅かな隙が出来た所をミコトと絶斗が攻撃する、という良いリズムで戦闘を行うことが出来ている。
「図体がデカいだけで、大した事はねぇな!」
 絶斗が叫びながら熊型キメラの動きを封じる。
「トドメは譲ってやるから、全力の一撃を放ってやりな!」
「言われるまでもなく、そうするよ」
「クマー! ちゃんと食べてやるから成仏してねー!」
 絶斗の言葉にミコトとエレナが言葉を返して、2人は熊型キメラへと攻撃を繰り出したのだった。
(‥‥気のせいだよな、エレナが熊を食うとか言ってたのは‥‥)
 倒される熊型キメラを見ながら、絶斗は心の中で小さく呟いていた。

※猪班※
「もう、無人になっちゃった場所だけど‥‥ここに居させるわけにはいかないのよね」
 フローラはエネルギーガンを猪型キメラへと向けながら小さく呟く。
「‥‥暴れられると厄介そうだな」
 猪型キメラを見ながら、シクルが呟く。
「突進に注意すれば大丈夫じゃないの?」
 ネロは大剣・ヘラクレスを構えたまま、視線だけをシクルへと向けて問いかける。
「確かに、主な攻撃は突進――‥‥単純だな」
 シクルは呟きながら猪型キメラへと矢を放つ。
「ねぇ、相談なんだけど‥‥ちょっとだけ時間を稼いでくれないかな?」
 フローラの言葉にシクルとネロが不思議そうに視線だけを向ける。
「呪歌で動きを止めたいと思うんだよね。キメラが1匹とはいえ、こっちも3人と少ない人数だし、数が少ないのなら動きを止めてしまえばいいってね」
 フローラの言葉に「なるほど」とシクルが短く呟く。
「了解した、時間を稼ぐ」
「ボクも了解」
 シクルとネロはそれぞれフローラに言葉を返し、シクルは弓を、ネロは大剣を構えて猪型キメラへと向き直る。
「行くぞ」
 シクルが呟いたと同時に矢を放ち、その矢に合わせるようにしてネロも攻撃を繰り出す。
 先に攻撃を仕掛けたのはネロ、大剣を勢いよく振り下ろすけれど、突進をしてきて、ネロは猪型キメラの攻撃を大剣で受け止める。
「こンぐらいじゃビクともしねぇか」
 やだねぇ、と言葉を付け足しながらネロは再び攻撃を行なう。
 だけど、その攻撃は猪型キメラを倒そうとしているものではなく、シクルが猪型キメラを狙い撃つのを手助けするためであった。
 シクルの矢が猪型キメラの目を射抜き、ほぼそれと同時に猪型キメラの動きがぴたりと止まる。
 フローラの『呪歌』が猪型キメラの動きを止めたのだと知ると、ネロもスキルを使用して攻撃を行い、シクルはもう片方の目を射抜き、3つの班は無事にキメラを退治する事に成功したのだった。


―― キメラ退治後 ――

 キメラを退治した後、能力者たちは受けた傷の手当を行なっていた。
「‥‥はぁ」
 絶斗が小さくため息を漏らす。彼は動物園に思い出があるわけではなかったが、少し昔の事を思い出していた。
 彼は幼い頃、山村に住んでいて近くに動物園がなかった事もあり、動物園に来た事はなかった。
(そういえば、野山を駆け回ってた時に熊と遭遇した事もあったな‥‥あの時は姉さんが追い払ってくれたっけ‥‥俺も姉さんと同じくらい強くなれたのかな)
 ぐ、と拳を握って問いかけて見るけれど答えてくれる者はいない。
「‥‥さて、帰る準備でもしようか」
 自嘲気味に絶斗は呟き、立ち上がって他の能力者たちの所へと戻ったのだった。
「でもキメラを無事に退治できてよかったね」
 シクルが動物園跡地を見ながら呟く。
「ここもいずれは何かになるんだろうね。しっかしどうせ取り壊すならKVで更地にしてしまえばいいのに」
 欠伸をかみ殺しながらネロがさらりと怖い事を言うが、その言葉にツッコミをいれる者はない。
「はは‥‥でも動物園、ですか。動物園が悪いとは言いませんが、私は自然の中で生き生きとしている方が好きですかね」
 立花が壊れた檻を見ながら呟く。
「みんなー! おまたせー! できたよー!」
 その時、じゅうじゅうと焼けた肉を持ってエレナが能力者たちの所へと戻ってきた。
 どうやら彼女は本当にキメラを『肉』として焼いてきたようだ。
「ほら、焼きたてが美味しいんだよー」
 エレナの言葉に、食べる者、食べない者と分かれたのだが、それが一体誰だったのかは明かさない方がいいだろう。

 その後、高速艇に乗ってLHへと帰還し、報告を終えた能力者たちはそれぞれ別れの言葉を交わしながら帰路につく。
 その中でヘイルだけがオペレーターへと近寄り、現地で撮っていた写真を渡していた。
「これは現地の写真だ。欲しいと思う人もいるだろうから、渡してくれ。いないなら解体業者にでも渡せば工事の役に立つだろうしな」
 言葉を残してヘイルも帰っていく。
 彼が撮った写真は、かつての動物園を知る者に渡され、とても喜ばれていた。

END