●リプレイ本文
―― 蛇キメラ退治の為に ――
「‥‥厄介ですね‥‥」
資料を見ながら辰巳 空(
ga4698)がため息混じりに呟いた。
「厄介? 蛇キメラなんて結構いそうだが‥‥?」
辰巳の言葉に絶斗(
ga9337)が言葉を返す。
「蛇キメラというのは‥‥まぁ普通にいそうですが、土着の信仰と結びついてるのが厄介で‥‥それでも偽者には違いないのでしっかり退治しておきたいと思いますけどね」
辰巳が苦笑しながら言葉を返すと「信仰、か。なるほどな」と納得したように絶斗も呟いた。
「地元の人間からも忘れられた場所らしいので、信仰に関する資料はなかった。だが社の修復や掃除に必要な物資は借り受ける事が出来た」
月城 紗夜(
gb6417)は「既に高速艇の中に積んである」と付け足しながら能力者達へと言葉を投げかけた。
今回の能力者達はキメラ退治が終わった後、社の修復と掃除をするらしく、その旨を伝えた所、道具や資料を借りる事が出来た。
(我は神仏は信じてないが‥‥神秘的ではあるな)
土地の信仰に関する資料を探していた時、他の土地の信仰の資料も見る事があり、月城は心の中でそう思っていた。
「キメラ退治も重要だが、神罰だと恐れている住民の不安を取り除く事も大事だな‥‥」
さて、どうしたものか――と言葉を付け足すのは今回が初任務となるユーリー・カワカミ(
gb8612)だった。
「‥‥蛇さんが神様って、ファリス(
gb9339)にはよく分からない考え方なの」
ファリスは資料を読みながらポツリと呟く。
「ヘビのカミサマってー、チガう言い方すると『龍神様』ってやつー? ナンか昔、違う神社にオマイリいったよーな気がするよー♪」
ファリスの呟きに火霧里 星威(
gc3597)が言葉を返す。
「蛇さんなのに、龍なの? ‥‥ますます分かんないの。でも大切にしてた場所にキメラが住み着いてるというのは、地元の人たちにとっても良くない事だと思うの。だから、退治するの!」
ファリスが拳をきゅっと握り締めながら呟くと「そーだね♪ ボクもがんばるー」と火霧里も言葉を返した。
「忘れられた社に忘れられた神様‥‥神は人が作り出したもの、忘れられた神は存在する事が出来ません」
立花 零次(
gc6227)がポツリと独り言のように呟く。
「けれど、その存在が儚いのと同じなように、復活もまた容易です。思い出す事、もしくは知る事‥‥そういう意味では、このキメラは確かに、その社の水神の使い、と言えるのかもしれませんね」
立花の言葉に「蛇の神、か」と天水・夜一郎(
gc7574)が瞳を伏せながら呟いた。
「この世界に神などいない。いるのはバグアとキメラだけだ」
短く、冷たく言い放つ天水に反論する者はいなかった。恐らく誰でも一度ならず思った事があるからだろう。
本当に神様というものが存在するならば、今のこの状況はないはずだ――と。
「さて、そろそろ行こうか。修復と掃除の時間も考えれば、出来るだけ早めに向こうに到着した方がいい」
月城が呟き、能力者達は高速艇に乗り込んで、キメラが現れた場所へと出発し始めたのだった。
―― 忘れられた場所に住み着くは水神の使い ――
今回はキメラの居場所が特定されているという事で、捜索に班を分けるという事はしなかった。
その代わり、というわけではないけれど戦闘の際に前衛、中衛、後衛と3つに分かれて戦闘をするという作戦を取っていた。
前衛・天水、ユーリー、絶斗、ファリスの4名。
中衛・火霧里の1名。
後衛・辰巳、立花、月城の3名。
「資料によれば、山の中で襲われた――という報告は一切ないな。被害はどれもキメラが町へ下りてきた時ばかりだ」
月城が呟くと「本当は待ち伏せ、というのもアリかと思うんですけどね‥‥さすがにそれでは町中での戦闘になりますからね」と辰巳が言葉を返した。
「社の偵察に行きたいと思うんだが、一緒に行ってくれる者はいるか?」
ユーリーが能力者達に問いかけると「ボク、行くー!」と」火霧里がユーリーに抱きつきながら言葉を返した。
「私も行きましょうか、キメラの姿があればトランシーバーで連絡を行いますので、皆さんも社の方に来てください。逆にそちら側にキメラが現れたら、連絡を下さればすぐに戻ってきますから」
辰巳が呟き、ユーリー、火霧里、辰巳の3人で一度社の偵察に向かう事になった。
「そういえば、確か日本には大蛇を倒すにあたって、酒で酔わせて弱らせる、という神話があったな」
ユーリーが呟きながら「一応酒は持って来ているんだがな」と所持品を見せながら言葉を付け足した。
「わー♪ お酒、持ってきたんだー?」
火霧里が抱きつくようにユーリーの所持品を見る。
「まぁ、験担ぎのようなものだ。神話通り、大蛇が飲んで目でも回してくれれば退治しやすい。飲まなければ‥‥まぁ清め酒として奉納すれば良いのではないかな」
そうですね、と辰巳が呟きかけた時――‥‥ずる、ずる、と何かを引きずるような音が3人の耳に入ってくる。
「え、何? 何の音?」
火霧里が周りを見渡しながら呟く。視界には既に社が見えており、3人は木に隠れるようにして社を見守る。
「‥‥あれが大蛇、か」
ずるずると音をさせながら姿を見せたキメラの姿にユーリーが呟く。
「コンナ大事な所におソラのオバケがいるなんて許せないねっ! キブンは‥‥退魔士っ! なーんちゃって♪ っとと、その前に連絡しなくちゃー!」
火霧里がトランシーバーを使い、待機している能力者達に「キメラはっけーん! すぐに社のほーまで来てー」と連絡を入れる。待機班とは大して離れていないので、すぐに合流する事が出来るだろう。
「さて、合流したらすぐに戦闘開始、ですね」
辰巳が呟き、3人は待機の能力者達が合流するのを待っていたのだった。
―― 戦闘開始・蛇キメラ VS 能力者達 ――
連絡を受け、合流した後、能力者達はキメラとの戦闘を開始する。
最初に辰巳がスキルを使用して後衛全体の防御力を上昇させる。
「お前のような物が神を騙るとは、おこがましい」
ユーリーは呟きながらスキルを使用してキメラへと攻撃を仕掛ける。その攻撃に合わせるようにファリスもスキルを使用してキメラへと近づき、槍で攻撃を繰り出す。
その際、ファリスは社を傷つけないように社からキメラを離すように攻撃を行っていた。
「追いやる、攻撃を頼む」
スキルを使用してキメラの防御力を低下させた後、月城が前衛、中衛側にキメラを追いやるように蹴りを入れる。
「さぁーて、やっちゃおー! オバケはイツだってぇ! ニンゲンが退治するんだぁ!」
火霧里がスキルを使用しながら、うまく移動をして持っている超機械でキメラを攻撃する。
「‥‥うぅぅぅ、ノーテン痺れちゃええ!」
攻撃は当たったが、そのせいでキメラの標的が火霧里へと向いてしまい「あわわ」と火霧里は慌てた――ように見せたが。
「良いーのっカナー、ボクなんか見てて♪」
キメラの背後から迫る能力者を見て、火霧里はにやりと笑ってみせる。
「正面にいた俺を無視して、余所見とは随分と良い度胸をしてるな」
天水は呟きながらコーカサスを構え、スキルを使用しながら攻撃を繰り出す。キメラは反撃しようとしていたけれど、コーカサスのリーチを生かして天水が攻撃をしたため、反撃をしても天水に攻撃が当たる事はなかった。
「なかなか雰囲気のある所ですねぇ。何だか落ち着きます‥‥アレがいなければの話ですが」
立花はスッと表情を変えながら弓を構え、キメラの胴体を狙って攻撃をする。
「隙など与えませんよ」
立花の矢の他に辰巳も小銃・S−01を構えてスキルを使用しながら射撃を行っていた。キメラに反撃する暇がなくなった事を見逃さず、絶斗がキメラへと近づく。
「何もグーで殴るだけが拳じゃない、指に力を集中して一気に突く‥‥これがドラゴンニードルだ!」
絶斗が攻撃を仕掛けたのだが、尻尾の部分で反撃を受けてしまい、彼の攻撃は当たらずにいた。
「ちっ――っ!?」
絶斗が舌打ちをした時、キメラが胴体で絶斗を締め上げてくる。
「ぐうう! だが、ピンチの後にチャンス有りってな! 俺の合図で誰かこいつの胴体に攻撃を加えてくれ!」
絶斗が叫ぶと前衛班の天水、ユーリー、ファリスがそれぞれ武器を構えて合図を待つ。
「行くぜ! ギガントアーム出力全開だ!」
絶斗の言葉と同時に3人の能力者がキメラの胴体に攻撃を行う。キメラは反撃しようにも現在進行形で絶斗を攻撃している為、他の能力者達の攻撃に対応する事が出来ない。
同時に攻撃を受けた、という事もありキメラの胴体は二つに分かれたのだが‥‥まだ動く気配を見せている為、月城は愛用の刀を持ち、キメラ頭部へと攻撃を仕掛ける。
「尻尾のほーは、もー動かないかもしれないけどー、念のためー!」
火霧里は切り落とした尻尾の方に攻撃を行う。
「逃がしはしない」
傷つき、逃げに入るキメラを追いかけ、月城の攻撃の後に天水がスキルを使用して開いた口の中を狙って槍を突き刺す。
暫くは痙攣のようなものを起こしていたが、次第に弱くなり、完全にキメラは動かなくなった。
「終わり、か」
ふぅ、と小さく息を吐きながら天水が呟く。能力者達も無傷とは言えなかったけれど、致命傷を受けた能力者はいなかった。
―― 社の再興 ――
キメラを退治した後、能力者達は朽ち果てかけている社の掃除と修復を行なっていた。
「‥‥ファリスにとって教会が大切な場所だと同じように、地元の人達にとってもこの建物は大切な場所だと聞いたの。大切な神様がおられる場所なら、綺麗にしておくのは当たり前なの」
だからファリスもお手伝いするの、と言葉を付け足しながらファリスは草木が茫々と生えている社付近の雑草を抜き始める。
「これがこの社の本来の姿みたいですよ」
辰巳が予め調べて持って来ていたかつての社の写真を他の能力者達に見せる。古い写真だったが、社の本来の姿を知る事が出来ただけでも良かったと能力者達は思い、本来の姿に近づけるように掃除を始める。
(しかし‥‥こうしていると昔を思い出すな‥‥よく姉さんや母さんと一緒に村の神社の掃除をしたっけ‥‥ここも昔のように人が訪れるようになってくれるといいが‥‥)
絶斗は昔を思い出しながら社付近の雑草を抜く。
「そうだ、ここの掃除と修復が終わったら町の方に寄ってもいいだろうか」
月城が掃除をしながら他の能力者達に言葉を投げかける。
「俺は構わないが、何かあるのか?」
ユーリーが月城に言葉を返すと「単位が足りないんだ、単位が」と盛大なため息と共に月城が呟いた。彼女は学生なのだが、依頼をこなしているせいか、単位が足りないのだという。
「ボクもー、色んなお話聞きたいからー、ぜーんぜんOKだよー」
火霧里は月城に抱きつきながら言葉を返す。どうやら火霧里は誰かに甘えるのが癖らしく、隙あらば年上の誰かに抱きついている。
「はー、ボクちょっときゅーけぇー‥‥」
汗を拭いながら火霧里が社の屋根へと上り「わぁー、いい眺めぇー♪」と屋根からの景色を楽しんでいた。
「中の損傷もそれなりに激しいですね。これはキメラだけのせいではなさそうですが‥‥」
工具を持って社の中に入ると床が腐って穴が開いていたりなど損傷は激しいものだった。
「でもこれくらいの損傷なら、何とかする事が出来そうです」
呟きながら立花は床の修理などを行ない始める。
「手伝おうか? この状態で1人で修理は難しいだろう」
天水が立花に言葉を投げかけ「借りるぞ」と工具を取って、社内部の修理を始める。
能力者達による社周辺の掃除、そして社内部の修復は日が暮れるまで行なわれ、まだ完全に修復とはいえなかったけれど、後は麓の町の住人達に任せる事にした。
「放置状態だとまたキメラが住み着くかもしれないな‥‥再発防止のために意見しておくか」
天水が小さく呟き「他にもキメラがいないか軽く見回ってくる」と言い残して、周辺の警戒に行ってしまう。
「えっとぉー‥‥セカイがキレーになりますよーに! 皆シアワセになれますよぉーに♪」
ぱんぱん、と手を鳴らして火霧里が願いを言う。その姿を見て他の能力者達も願いを心の中で言う事にした。
その後、町へ一度赴き、月城が学園の課題にする為に伝説などを聞いた後に能力者達は依頼達成の報告を行う為に本部へと帰還していったのだった。
END