タイトル:戦いの懺悔マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/07 01:25

●オープニング本文


能力者になって、数々のキメラを退治してきた。

その数の分だけ、きっと助かった人がいるんだろう。

だけど‥‥それに浮かれてはいけない。

キメラの数の分だけ‥‥犠牲になった人もいるんだから。

※※※

能力者になったキッカケは自分の故郷を失くしたことだった。

幸いにも家族、友人を失うことはなかったけど『帰る場所』を失くした。

単純な俺は自分みたいな奴が増えないように能力者になろうと思った。

そしてキメラを退治していくうち、助けれた人、助けれなかった人がいた。

恐らく能力者という道を選んだ人間なら、必ず通る道なんだろう。

「俺は、何が出来るんだろう」

全員を助けたい、そう思うのにその願いは叶うことはない。

助けた人の陰で、確かに救えない人もいるのだから。

「おいっ!」

戦闘中だと言うことを忘れ、考えごとをしていたのが不味かった。

仲間の声で現実に引き戻され、気がついた時には目の前にキメラが立っており、避ける事も出来ずにキメラの攻撃をまともに受けていた。

もしかしたら、これは罰なのかもしれない。

そう思うと同時に目の前が暗くなり、ぷっつりと意識が途絶えた。

●参加者一覧

湊 雪乃(gc0029
15歳・♀・FC
吹雪 蒼牙(gc0781
18歳・♂・FC
八葉 白夜(gc3296
26歳・♂・GD
滝沢タキトゥス(gc4659
23歳・♂・GD
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
月見里 由香里(gc6651
22歳・♀・ER
ヒカル(gc6734
16歳・♀・HA
weiβ Hexe(gc7498
15歳・♀・FC

●リプレイ本文

―― 能力者を救出する為に ――

 事の始まりは3人の能力者が消息を絶ったからだった。任務が成功するにしても失敗するにしても報告が全くない事から、再度能力者を現地へ向かわせる事になった。
「資料を見る限り、手強そうなキメラには見えないんだがな」
 湊 雪乃(gc0029)が資料を見ながらため息混じりに呟く。
「‥‥‥‥」
 呟く湊とは対照的に八葉 白夜(gc3296)はじっと無言で資料を眺めていた。
(‥‥子供の見目を模したキメラですか。少々良い心地のものではありませんね)
「消息を絶ったという事は、連絡できないほどの負傷をしているか‥‥もしくは‥‥いや、やめておこう」
 滝沢タキトゥス(gc4659)は呟きかけた言葉を飲み込んだ。
「とりあえず、負傷者の発見と救助が最優先やね。うちが出来そうな事は全力でやらせてもらいますわ」
 月見里 由香里(gc6651)も資料を見ながら呟いた。
「早く行きましょう‥‥時間の経過は先に行った能力者達を危険に晒すだけだと思いますから‥‥」
 立花 零次(gc6227)が呟くと「そうね」とヒカル(gc6734)が言葉を返す。
「今回の場所は山の中‥‥こういう状況でなければ穏やかで良い場所だったでしょうに」
 ヒカルはため息を吐きながら小さく呟く。
「それにしても、大丈夫? 戦闘でそういう格好は不利なんじゃないかしら‥‥」
 ヒカルがweiβ Hexe(gc7498)に言葉を投げかける。彼女が心配するのも無理はない。weiβの格好は下着に近い格好で、男性から見れば目の毒にしかならないのだから。
「クスクスクス‥‥大丈夫よ、別に見られて困る物はついてないから」
 weiβの言葉に(そういう問題なんやろか)と月見里が心の中で呟いた。
「それじゃ、出発しましょうか。現地にいる能力者の無事を確かめるためにも迅速に行動しなくちゃいけないですし」
 滝沢が呟き、能力者達はそれぞれ準備を終えた後に高速艇へと乗り込んで、3人の能力者がいるであろう山へと出発し始めたのだった。


―― 山の中、能力者達とキメラ探し ――

 今回の能力者達は捜索は一緒に行い、キメラ、負傷者のどちらかを見つけてから予め作戦で立てていた班に分かれる事を決めていた。
 戦闘班・湊、月見里、weiβ、ヒカル、八葉の5人。
 救護班・立花、滝沢の2人。
「‥‥最悪の結果になっていなければいいんですけど‥‥」
 滝沢が拳を強く握り締めながら呟く。
「クスクス‥‥まだ昼でよかったという所かしら? もし夜に到着してたら捜索しづらかったでしょうし」
 weiβが周りを見渡しながら呟く。
「資料によれば、キメラが発見された位置は‥‥この辺りやろか」
 月見里が地図に印を付けていく。今回のキメラは数箇所で目撃されており、その目撃箇所が固まっている事から、キメラの行動範囲が決まっているのだろうと彼女は予想していた。
「この辺りに足跡が固まっているな」
 湊が地面を見ながら呟く。彼女が見つめる先には複数の足跡が残されており、今いる場所で以前の能力者達が交戦したことが伺える。
「資料にある通り、キメラが剣を使っている事に間違いはないでしょうね」
 八葉が斬られた木の枝を見ながら呟く。
「もしかしたら能力者が斬ったものかもしれないですよ?」
 ヒカルが八葉に言葉に投げかけると「いえ、恐らくはキメラでしょう」と木を指差しながら言葉を返した。
「木の状況や足跡を見る限り、木の枝を斬った方が相手を追い詰めています。地面には血痕も残されてますし、明らかに追い詰めた側が有利な状況です」
 八葉の言葉に他の能力者達も地面や木などを見る。
「確かに‥‥この状況でキメラを追い詰めたのが能力者ならば、このような事態にはなっていないはず――‥‥だから、木の枝を斬ったのはキメラ、という事ですね」
 滝沢も状況を冷静に分析していく。
「ただ、この残された血痕が本当に能力者のものならば‥‥相当な深手を負っています。それこそ生死に関わるような‥‥」
 立花が地面や木に飛び散っている血痕を見ながら呟く。
「この付近を重点的に捜索すればいいだろう。この深手ならばそう遠くへ行く事は出来ないはずだからな」
 湊が呟き、能力者達は地面や木などを見ながら能力者達が残した痕跡を追う。
 そして――‥‥。
「この先に何かいます、数は‥‥3、消息不明の能力者と数が一致するわ」
 月見里がスキルを使用しながら呟き、能力者達が慌てて駆け寄ると、そこには負傷した能力者3名が自然に出来たのであろう洞穴の中でぐったりとしていた。
「おい、大丈夫か!?」
 滝沢が覚醒を行いながら能力者達に駆け寄る。
「お、俺達は大丈夫だから‥‥足をやられただけで、他に大した傷はない。だけど‥‥」
 能力者の1人が洞穴の奥へと視線を向ける。
「‥‥っ」
 そこには明らかに重傷を負った能力者が倒れており、他の2人が持っていたであろう救急セットで応急処置はされているものの、このまま放っておけば確実に死んでしまう傷だった。
「あんた、しっかりしろ! ここで死んだら洒落にならんぞっ!」
「これは‥‥すぐに治療に入りましょう」
 立花がスキルを使用しながら能力者の治療に入る。
「よし、そっちの怪我人は任せるぞ! 俺はこっちを治療する!」
 滝沢は救急セットを持って軽傷者の治療に入る。
 その時、洞穴内の雰囲気がざわりと変わるのを感じる。
「‥‥どうやら、現れたみたいね」
 ヒカルが洞穴の外を見ながら小さく呟く。
「その人達はお任せしますよ、私達はあちらを任されますから」
 八葉が滝沢と立花に言葉を残しながら洞穴の外へと出る。
「絶対に、死なせはしません‥‥!」
 立花は治療をしながら震える声で呟き、キメラの相手をする能力者達に「出来ればこの洞穴には近づけさせないで下さい」と言葉を投げかけ、再び治療に専念し始めたのだった。


―― 外と中の戦闘 ――

「足はやられて動けないだろうが、命に別状は無さそうだな」
 滝沢が2人の治療を行いながら能力者達へと言葉を投げかける。
「あぁ、俺達の傷はキメラから逃げる時にやられたものだから‥‥あいつはキメラの攻撃をまともに受けちまって」
「最近おかしい所があったけど、戦闘中にボーっとするなんて事はなかったんだけどな‥‥」
 能力者2人の言葉に「おかしい所?」と滝沢が聞き返すと「あぁ」と能力者2人は沈んだ表情で言葉を紡ぎ始める。
「助けれなかった人がいたとか、自分に何が出来るのかとか‥‥」
(能力者が一度は通る道、か‥‥)
 能力者2人の言葉を聞きながら、滝沢は小さく心の中で呟いた。

「俺‥‥より、仲間を‥‥俺の、不注意で‥‥あいつら、巻き込み‥‥」
 立花が治療していると、意識を取り戻した能力者が立花に言葉を投げかけてきた。
「貴方の仲間なら、一緒に来た私の仲間が治療しています。2人とも命に別状はない傷ですから」
 立花が言葉を返すと「よかった‥‥」と能力者は安心したように小さく息を吐いた。しかし苦しいのか息をするたびに表情が歪んでいるのが立花の視界に入ってきた。
「これは‥‥罰、かもしれない‥‥いままで、救えなかった、人‥いるから」
「‥‥今は、喋らないで下さい。傷に障ります‥‥」
 立花は何でこの能力者が重傷を負うまでに至ったか、詳しい状況は分からないけれどその片鱗だけは見えたような気がした。

「ふむ、二刀使いのキメラか? 人型であれば相手にとって不足はない」
 湊は武器を構えながら不敵に微笑む。
「なるほど。あれが件のキメラですか‥‥早々に掃うとしましょう」
 八葉は小さくため息を吐いた後、鋭い視線でキメラを見て呟く。
(たとえ外見が子供であろうと‥‥情けをかける理由にはなりません)
 心の中で呟いた後、愛用の小太刀を構えてキメラへと攻撃を仕掛けた――が、キメラはその身の小ささと素早さを駆使して八葉の攻撃をひらりと避けてしまう。
「ふぅん‥‥素早さが持ち味のキメラ相手なら、その持ち味を殺すんが常套手段やからね。うちが出来る援護をさせていただきますわ」
 月見里は呟きながら『呪歌』を使用し始める。

 ‥‥ねぇ、私の声が聞こえる?
 あなたへと届くように心の限り歌うから。
 だから、私だけを見てよね。
 きっとあなたを虜にするから‥‥。

 月見里が『呪歌』を歌っている間、ヒカルは『ほしくずの唄』を使用し、キメラの攻撃の邪魔を行っていた。
「おまえの相手は私‥‥余所見は許さないわよ‥‥」
 クスクス、と笑いながらweiβがキメラへと攻撃を仕掛ける。しかし身長差のせいかいくつか攻撃を外してしまう。
「この身長差だと戦いにくいわね‥‥それに武器を間違えたかしら‥‥」
 weiβは持っているアーミーナイフを見ながら苦笑するが「なんて事は言ってられないわね、クスクスクス」と言葉を付け足してキメラへと再び攻撃を仕掛けた。
「不破流、絶技内ノ一十文字!」
 湊が動けないキメラに強力な一撃を繰り出す。その時、キメラは相打ち覚悟で湊へと攻撃を仕掛けようとしたのだが、治療を終えた滝沢が放った小銃・WI−01の弾がキメラの腕へと命中し、湊への攻撃は防がれてしまう。
「餓鬼みたいな姿か‥‥だが、容赦できるほど俺は優しくないぞ」
 呟きながら滝沢は再び武器を構えて射撃を行う。
「次はその両腕を封じさせていただきます」
 八葉は呟きながらスキルを使用して攻撃を繰り出す。
「この人数相手に勝てると思うのか、無駄な抵抗は止めてさっさと倒される事だな」
 湊は吐き捨てるように冷たくキメラへと言葉を投げかけて攻撃を繰り出す。ハーモナー2人の歌によって動きなどを封じられ、4人の能力者から攻撃を受け、キメラにとって勝てるという希望は僅かほどにも残されていない状況だった。
「もう終わりにしましょう‥‥罪を重ね続けるのは」
 八葉が呟きながらチンクエディアで斬りつける。
「鬼ごっこはおしまいよ」
 ヒカルが呟き、再び『ほしくずの唄』を使用する。
 そしてそれにあわせるように月見里も『呪歌』を使用する。
「わざわざあんたの為に遠くから撃ってやるんだ、当たってくれるだろう?」
 おどけたように呟きながら滝沢がスキルを使用して射撃を行う。動きを完全に封じられたキメラは避けるすべもなく、滝沢の攻撃を受け、湊、八葉、weiβの攻撃を受けてその場に倒れ、二度と起き上がる事はなかった。


―― キメラ退治、その後 ――

「治療の方はどうですか?」
 戦闘終了後、ずっと治療を続けていた立花にヒカルが問いかける。
「えぇ、何とか‥‥あとはきちんと病院で治療してもらえば大丈夫でしょう」
 立花が疲れた表情すら見せずにヒカルに言葉を返すと「‥‥ありがとう」と弱々しい声で能力者がお礼を言ってくる。
「お礼なんて‥‥これは自己満足、みたいなものですから。自分の目に映る人だけでも助けたいという我侭な私の‥‥」
 困ったように笑いながら立花が呟くと「目に映る人だけでも‥‥?」と能力者が言葉を返してくる。
「俺は‥‥能力者なんだから全てを守らなくちゃいけないって思ってた‥‥何で能力者なのに救えない人もいるんだろうって‥‥」
 能力者の言葉を聞いて「全員助けたいというのは願うんじゃなくて、もし出来ないというのなら強くなれ、俺はそう言われたよ」と湊がポツリと呟く。
「被害ゼロを無理なら、最小限‥‥簡単です」
 滝沢も続くようにポツリと独り言のように呟いた。
「そう、ですね‥‥全部を救うなんて無理だと思いながら、一人でも多くと思います。そのために‥‥もっと強く、とも」
 壁に背中を預けながら立花が言葉を続ける。
「今はただ進むしかないでしょう。迷っていられる時間はあまり無い。助けられなかった人がいる事を忘れずに、今の自分に出来る事を精一杯やる。私はそうするつもりです」
 立花の言葉に迷いや恐れは感じられず、心からそう思っている事が伺える。
「うちらは神様やないのやから、すべてを救おうなんてちょっと傲慢やと思います。うちらが出来る事は、自分の力の及ぶ限りの人を救う事や思います」
「出来る限りの人を‥‥」
 能力者が繰り返すように呟くと「その力の及ぶ範囲を少しでも増やす為に努力するのがうちらが出来る事やあらしませんやろか?」と月見里が言葉を付け足しながら能力者へと言葉を投げかけた。
「そう、だな‥‥俺は何て傲慢な考えだったんだろう‥‥全てを救うなんて、絶対に出来る事じゃないのに‥‥」
 能力者が呟くと「まだ遅くはない。これから出来る事をしていけばいいだろう」と湊が言葉を返した。

 そして、能力者達が話しを終え、それぞれ負傷した傷の手当をしている頃、八葉は倒れたキメラの前に立っていた。
「‥‥嫌なものですね。この容姿を見ているとどうしても幼かった頃の妹達を思い出してしまいますから」
 八葉はため息を吐きながら呟き、空を仰いだ後に能力者達のところへと戻っていく。

 場所は変わり、weiβは「クスクス」と笑いながら木に背中を預けていた。
「ココも私の記憶とは無関係‥‥クスクスクス‥‥」

 その後、能力者達は負傷した能力者達を病院に連れて行った後、本部へと帰還して今回の任務が成功したという報告を行ったのだった。


END