タイトル:滅び―失われた聖夜マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/27 19:43

●オープニング本文


この日はきっと大切な日になると思ってた――‥‥。

※※※

不思議なものだと思う。

世間の人にとって12月24日はクリスマスイヴ。

クリスマスの前日なのに、何故かクリスマス以上に雰囲気があり、凄く特別な日に感じるものだ。

『なぁ、まだ?』

『まだだって〜、気が早いなぁ』

『何かさ、予定日が12月24日なんて結構ロマンチックじゃない?』

『あー‥‥女って好きだよなぁ、そういうの。俺には生まれる前からロマンチストにしか思えん』

『拓斗ってば夢がないなぁ‥‥でもどっちかな、女の子かな? 男の子かな?』

『さぁなぁ、いっそのこと両方生んじゃえよ』

少し前まではこんな会話をして幸せな日々が続いていたのに‥‥。

できちゃった結婚だったからお互いの両親から呆れられていたけれど、幸せだった。

本当に好きだったから‥‥。

なのに―――――‥‥。


俺は秋穂と生まれてくる子供に幸せになってほしくて、今まで以上に仕事を頑張ろうと気合が入っていた。

友人達とキメラ討伐に向かい、その先で一人の犠牲者が出たと聞かされていた。

『お、おい‥‥拓斗――あれ、秋ちゃんじゃないのか‥‥?』

友人の言葉と同時に犠牲者が倒れている所を見ると‥‥確かに血まみれで倒れている秋穂の姿があった。

『秋穂っ!』

既に彼女は息絶えていて、もちろんお腹の子供も‥‥。

『嘘だろ‥‥俺は、俺はお前達がいたから‥‥頑張ろうって‥‥うわああああっ!』

半狂乱になってキメラに攻撃を仕掛けようとした時、背後からもう一匹のキメラが現れ、俺の右目を爪で攻撃してきた。

その後の事は覚えていない。

気がついたら病院のベッドの上だったのだから。

やけに視界が悪いと思って、右目を覆うように巻かされている包帯を取るが、右目の視力は戻らない。

もしかしたら右目の方は失明しているのかもしれない。

でも、俺にそんな事はもう関係がなかった。

「殺してやる――絶対に‥‥」

許せなかった、秋穂と子供の命を奪ったキメラも、秋穂を守れなかった自分自身も。

だから、全てが消えてしまえばいい‥‥俺はそう心の中で呟きながら武器を持ち、病院を抜け出したのだった。

●参加者一覧

シズマ・オルフール(ga0305
24歳・♂・GP
ベル(ga0924
18歳・♂・JG
黄 鈴月(ga2402
12歳・♀・GP
如月 煉(ga2574
22歳・♂・SN
海音・ユグドラシル(ga2788
16歳・♀・ST
シエラ(ga3258
10歳・♀・PN
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
霞倉 那美(ga5121
16歳・♀・DF

●リプレイ本文

「やれやれ‥‥今回はめんどくさい仕事を受けちまったもんだ‥‥ヘタすりゃ能力者と殴り合いだろ?」
 はぁ、と盛大なため息を吐きながら呟くのはシズマ・オルフール(ga0305)だった。
「せやけど、拓斗のエゴで死んだら、秋穂があまりにも不憫や、子供もな」
 呟くのは黄 鈴月(ga2402)、彼女の言葉を聞いて「今回は厳しい戦いが予想されますね‥‥」と如月 煉(ga2574)が言葉を返した。
「ふふ、でも死にたいなら死んでしまえばいい――けど死の理由を誰かのせいにするなら止めといた方がいいわね」
 海音・ユグドラシル(ga2788)が少し笑みながら呟く。
「‥‥でも私は拓斗さんの気持ちが分かります――‥‥」
 悲しそうな表情で呟くのはシエラ(ga3258)、彼女も愛しい両親を失ってしまった。だからこそ拓斗の気持ちが分かるのだろう。
「とりあえず今回は拓斗を無事に連れて帰るのが任務だからな‥‥無理せずに行こうか」
 ファルロス(ga3559)が能力者達に話し、本部から借りてきた通信機を渡していく。
「頑張りましょう‥‥こんな事、きっと秋穂さんは‥‥望んでないです‥‥」
 霞倉 那美(ga5121)が通信機を受け取りながら、おどおどした口調で呟く。
「じゃあ‥‥此処からは決めた班で行動しましょうか‥‥」
 ベル(ga0924)が呟き、能力者達はそれぞれ動き出したのだった‥‥。

 A班:黄、シエラ、ベル、海音
 B班:シズマ、如月、ファルロス、霞倉
 班分けを行ってみると、オールマイティな班で動きやすいだろう。
「さて、いっちょやるか」
 シズマは大きく伸びをした後、B班の能力者と共に歩き出した。


●A班・キメラとの戦闘

「ほんま、おのこは子供やなぁ」
 外見年齢12歳の黄は大きなため息を吐く。
「そうですね、問題は拓斗さんを見つけても素直に退いてくれるか‥‥それが一番の問題かもしれません」
 ベルが手を口元に置いてポツリと呟く。
「私は拓斗に同情はしているけれど、説得して効果がない場合はフォロー以外するつもりはないわ」
 海音は少し冷たい口調で呟く。
「‥‥何でしょうか、木々が――鳥たちがざわめいています‥‥」
 シエラは見えぬ目であたりを見渡すように呟く。
「確かに妙やなぁ‥‥」
 黄も見渡す――それと同時にケモノの唸る声が能力者の耳に入ってきた。
「キメラ―‥‥獣タイプの方やな」
「――Einschalten」
 シエラは『キメラ』という言葉を聞くと同時に覚醒する。
「‥‥近くに他のキメラの気配はありません、もしかしたらB班側に鳥タイプのキメラがいるかもしれませんね」
 ベルはスコーピオンを構え、攻撃をしながら呟く。
「そういえば今回はワンちゃんと小鳥ちゃんが2匹もいるんだったわね」
 海音も治療などに備える為に後衛に下がり、超機械を両手で持つ。
「残念やな、犬の割には遅いわ――そんな動きでわしについて来れると思ってるん? おぬし」
 黄はファングを装備し、犬キメラの背後に素早く移動しながら呟く。
「見た目ほど苦労しそうもないわね――‥‥」
 海音が黄と犬キメラの戦いを観察しながら、冷静に分析していく。
「確かに――これなら苦労はしなさそうですね‥‥」
 シエラもファングを装備して、戦いに参加しながら呟く。
 戦いは能力者の考え通り、苦労することなく犬キメラを倒すことができた。恐らく秋穂を殺したキメラは犬の方ではなく、鳥キメラの方なのだろう。
「怪我は――ないわね?」
 海音が戦いから戻ってきた能力者に問いかける。多少の擦り傷程度はあるものの、直に治療が必要なものはなく、4人は拓斗捜索を再開した。


●B班:拓斗発見・そしてキメラ――‥‥。

「拓斗様がキメラと遭遇していない事を祈ります‥‥」
 如月は拓斗捜索を始めた時、小さく呟いた。
「そうだな、キメラと拓斗が交戦中――1番最悪なシナリオになる」
 ファルロスは通信機でA班と連絡を取りながら、ため息混じりに呟いた。
「あ、あの‥‥A班の人たちは‥‥?」
 霞倉がファルロスに問いかけると「犬の方を倒したとさ」と短く言葉を返した。
「どうも秋穂を殺したのは犬ではなく、鳥キメラの方みたいだと言ってたぞ。犬の方は大した力もなく、苦労せずに勝てたとも言っていたな」
 ファルロスの言葉に「ますます拓斗と会ってたらマズイな」とシズマが答える。
「そうですね‥‥私も両親を殺されたから‥‥気持ちは分かります‥‥でも‥‥どんなに辛くても、苦しくても‥‥生きていることに意味があるんです‥‥」
 霞倉は今にも泣き出しそうな表情でぽつり、またぽつりと呟くように話した。そんな霞倉を見てシズマが「そーだな」と霞倉の頭にぽんと手を置く。
 それと同時に耳を劈くような奇怪な声が響いた。
「な――何ですか!?」
 如月が声の聞こえる方を見ると、大きな鳥が空を飛んでいる。
「あれが今回のキメラ――」
「空飛ぶなんて卑怯じゃん!? それに探してんのはあいつじゃないんだよ!」
 シズマが耳を塞ぎながら周りを見る。この声を聞いて拓斗が飛び出す可能性があると考えたからだ。
「いました!」
 霞倉が少し離れた場所から剣を握り締めている拓斗の姿を見つけ、能力者達に知らせる。
 そして、シズマとファルロスが拓斗を止めに走る。
「‥‥まだ此方には気づいていないようですね――」
 如月は上空を見て、飛んでいるキメラを見ながら小さく呟く。

「離せ! 何なんだよ! お前らは!」
 シズマとファルロスに押さえつけられながら拓斗が叫ぶ。
「あ、あの‥‥私達は拓斗さんのお友達に頼まれて‥‥あなたを連れ戻しに――」
 霞倉が説明をすると「余計な事をするなよ!」と拓斗が叫ぶ。そしてその頬に伝うのは涙。
「俺にはもう何もないんだよ‥‥確かにあのキメラは憎い、自分でも適わない相手だってのは十分理解しているさ! けど、俺はもう――どうでもいいんだ。死んじまえば秋穂や子供の所に行ける‥‥それだけでいいんだよ」
 拓斗は拳を握り締めながら「だから死なせてくれよ」と消え入りそうな声で呟く。
「‥‥そんなに簡単に命を捨てようとしないで‥‥あなたが死んだら、奥さんとの思い出も‥‥生きていた証も、消えちゃう‥‥そんなの悲しすぎます」
 霞倉は拓斗を諭すように話しかける。
「おい、ちゃっちゃと連れ帰らないとヤバいみたいだぜ、敵さん、さっきからこの辺をぐるぐる飛んでやがる」
 シズマが上空を見ながら舌打ちをして呟く。確かにキメラは先ほどまで遠くまで行ったりしていたのだが、今はこの辺の上しか飛んでいない。
 まるで狙っている獲物を見つけたかのように‥‥。

「退く気は無いんか?」
 関西弁が聞こえたかと思うと、黄を含むA班の能力者達が立っていた。如月が通信機で居場所を教えていたのだろう。
「ぬしが秋穂はんを裏切ってどないすんの」
 黄は拓斗の耳元まで口を寄せ、ボソリと小さな声で呟いた。
「確かにあなたが失ったものは大きいでしょう‥‥でも、きちんと顔をあげて前を見なさい! それが亡き妻と子供への供養じゃないの?」
 海音の言葉に「‥‥俺は‥‥」と拓斗が地面の土を握り締めながら呟く。
「‥‥怒りや憎しみに任せてもいい。それであなたの気が微塵でも晴れるのならば‥‥ですが忘れないで下さい。あなたが愛した人は何を願っていたのかを‥‥」
 シエラの言葉に拓斗が勢いよく顔を上げる。

(「ねぇ、こんな時代だもの。もしかしたら私達のどっちかが死んじゃう日が来るかもね。でも―‥‥その時は私は悲しまないよ」)

(「え? 何で。俺っていない方がいいわけ?」)

(「だって、私が悲しんだら拓斗も悲しいでしょ? 私だって同じ。私が死んじゃっても拓斗には悲しんで欲しくない。だって‥‥私まで悲しくなるもの」)

 まだ秋穂が生きていた頃、彼女はこんな事を拓斗に言っていた。
 もちろん、今回のことを見越して言った言葉ではないだろう。
 けれど、それが彼女の心からの願いだった。

「元来、クリスマスは‥‥帰って来た死者に贈り物をする祭。子供たちは死霊の象徴者として、贈り物を貰うんだそうです‥‥贈り物、もう贈られましたか?」
 シエラの言葉に拓斗は着ているジャケットの内ポケットを探る。
 そこにあったものは、クリスマスに秋穂に送る予定だったネックレス、そして赤ちゃん用の黄色い手袋だった。
「さて、お話もそこそこに、そろそろ此処から逃げる準備をしようか」
 ファルロスが呟き、拓斗も首を縦に振って一緒に帰ることを了承したのだった。


●帰還――そしてありがとうを伝える為に。

 鳥キメラとは戦闘を行わずに、帰還したかった能力者達だったが、流石に見つかっているのでそれは無理な話だった。
 そこで拓斗を海音に任せ、先に帰ることになった。残った能力者は拓斗が無事に戻るまでの時間稼ぎをして、ある程度まで時間を稼いだらそれぞれ逃げる、これが作戦だった。
「高い所から見下ろされるなんて、あんまりいい気分はしねぇなぁ!」
 シズマは木の上から鳥キメラに向かって跳び、攻撃を仕掛ける。
 ベルも鳥キメラの体力を削るように、スコーピオンで的確に攻撃していく。
「拓斗はんは前向きに生きる事を決めた――それを邪魔するんは許さへんで」
 黄もファングで攻撃を仕掛けながら、キメラに向けて呟く。その言葉をキメラが理解しているかは分からなかったけれど。
「これで‥‥!」
 如月は鳥のキメラを狙い、鋭角狙撃で攻撃する。
「幸せになるはずだった家庭を壊した罪‥‥それは決して許されません」
 ファルロスがアサルトライフルでキメラの動きを封じながら、シエラが攻撃する。
「やっぱり‥‥」
 その中で霞倉は覚醒せずに戦おうとしていたが、鳥キメラの強さは甘い考えで倒せるほど弱くはなかった。
「やっぱり‥‥覚醒しなきゃ、足を引っ張っちゃうよね‥‥それだけは、いや」
 霞倉は呟き、覚醒して戦いに参加する。
「お前等なんかのせいで、生まれてくるはずだった命まで消えたんだよ? だからね、報いを受けなきゃいけない‥‥」
 霞倉もスパークマシンで攻撃をしながら忌々しげに呟く。彼女は覚醒する事で冷酷な性格に変貌する。それを嫌っているから覚醒をあまりしたがらないのだろう。
 それから十数分、鳥キメラとの交戦を中断して、能力者達は拓斗たちがいる方へと向かい、走り出した。
 いつか、倒しに来ると心に誓いながら――‥‥。


「‥‥今日はありがとな」
 拓斗と合流して、彼が最初に呟いた言葉がこれだった。
「すぐに忘れるなんて無理だと思う――けど、いつか今回のことを乗り越えてやる。秋穂に笑われないために」
「あ、あの‥‥先ほどは生意気言ってごめんなさい、でも‥‥悲しいことはもうイヤ‥‥だから‥‥」
 霞倉は全部を言い終わらないうちに泣き出してしまい、拓斗は頭を軽く撫でてやった。
「悪かったのは俺、いつかあのキメラを倒しに来るぞ、俺は‥‥怪我が治って、自分を鍛えてからになるけどな」
 拓斗は呟き、微かにだったが笑みを見せたのだった‥‥。
「拓斗様もおつかれでしょう、帰ったらゆっくり休んでください。俺も疲れました‥‥」
 如月は呟く、確かに彼の顔色を見ると本当に疲れているのか、顔色が悪かった。
「でも、ホント次は倒したいよな‥‥」
 シズマは小さく呟いたが、その言葉は誰の耳にも入る事はなかったのだった‥‥。


END