●リプレイ本文
「やれやれ‥‥今回はめんどくさい仕事を受けちまったもんだ‥‥ヘタすりゃ能力者と殴り合いだろ?」
はぁ、と盛大なため息を吐きながら呟くのはシズマ・オルフール(
ga0305)だった。
「せやけど、拓斗のエゴで死んだら、秋穂があまりにも不憫や、子供もな」
呟くのは黄 鈴月(
ga2402)、彼女の言葉を聞いて「今回は厳しい戦いが予想されますね‥‥」と如月 煉(
ga2574)が言葉を返した。
「ふふ、でも死にたいなら死んでしまえばいい――けど死の理由を誰かのせいにするなら止めといた方がいいわね」
海音・ユグドラシル(
ga2788)が少し笑みながら呟く。
「‥‥でも私は拓斗さんの気持ちが分かります――‥‥」
悲しそうな表情で呟くのはシエラ(
ga3258)、彼女も愛しい両親を失ってしまった。だからこそ拓斗の気持ちが分かるのだろう。
「とりあえず今回は拓斗を無事に連れて帰るのが任務だからな‥‥無理せずに行こうか」
ファルロス(
ga3559)が能力者達に話し、本部から借りてきた通信機を渡していく。
「頑張りましょう‥‥こんな事、きっと秋穂さんは‥‥望んでないです‥‥」
霞倉 那美(
ga5121)が通信機を受け取りながら、おどおどした口調で呟く。
「じゃあ‥‥此処からは決めた班で行動しましょうか‥‥」
ベル(
ga0924)が呟き、能力者達はそれぞれ動き出したのだった‥‥。
A班:黄、シエラ、ベル、海音
B班:シズマ、如月、ファルロス、霞倉
班分けを行ってみると、オールマイティな班で動きやすいだろう。
「さて、いっちょやるか」
シズマは大きく伸びをした後、B班の能力者と共に歩き出した。
●A班・キメラとの戦闘
「ほんま、おのこは子供やなぁ」
外見年齢12歳の黄は大きなため息を吐く。
「そうですね、問題は拓斗さんを見つけても素直に退いてくれるか‥‥それが一番の問題かもしれません」
ベルが手を口元に置いてポツリと呟く。
「私は拓斗に同情はしているけれど、説得して効果がない場合はフォロー以外するつもりはないわ」
海音は少し冷たい口調で呟く。
「‥‥何でしょうか、木々が――鳥たちがざわめいています‥‥」
シエラは見えぬ目であたりを見渡すように呟く。
「確かに妙やなぁ‥‥」
黄も見渡す――それと同時にケモノの唸る声が能力者の耳に入ってきた。
「キメラ―‥‥獣タイプの方やな」
「――Einschalten」
シエラは『キメラ』という言葉を聞くと同時に覚醒する。
「‥‥近くに他のキメラの気配はありません、もしかしたらB班側に鳥タイプのキメラがいるかもしれませんね」
ベルはスコーピオンを構え、攻撃をしながら呟く。
「そういえば今回はワンちゃんと小鳥ちゃんが2匹もいるんだったわね」
海音も治療などに備える為に後衛に下がり、超機械を両手で持つ。
「残念やな、犬の割には遅いわ――そんな動きでわしについて来れると思ってるん? おぬし」
黄はファングを装備し、犬キメラの背後に素早く移動しながら呟く。
「見た目ほど苦労しそうもないわね――‥‥」
海音が黄と犬キメラの戦いを観察しながら、冷静に分析していく。
「確かに――これなら苦労はしなさそうですね‥‥」
シエラもファングを装備して、戦いに参加しながら呟く。
戦いは能力者の考え通り、苦労することなく犬キメラを倒すことができた。恐らく秋穂を殺したキメラは犬の方ではなく、鳥キメラの方なのだろう。
「怪我は――ないわね?」
海音が戦いから戻ってきた能力者に問いかける。多少の擦り傷程度はあるものの、直に治療が必要なものはなく、4人は拓斗捜索を再開した。
●B班:拓斗発見・そしてキメラ――‥‥。
「拓斗様がキメラと遭遇していない事を祈ります‥‥」
如月は拓斗捜索を始めた時、小さく呟いた。
「そうだな、キメラと拓斗が交戦中――1番最悪なシナリオになる」
ファルロスは通信機でA班と連絡を取りながら、ため息混じりに呟いた。
「あ、あの‥‥A班の人たちは‥‥?」
霞倉がファルロスに問いかけると「犬の方を倒したとさ」と短く言葉を返した。
「どうも秋穂を殺したのは犬ではなく、鳥キメラの方みたいだと言ってたぞ。犬の方は大した力もなく、苦労せずに勝てたとも言っていたな」
ファルロスの言葉に「ますます拓斗と会ってたらマズイな」とシズマが答える。
「そうですね‥‥私も両親を殺されたから‥‥気持ちは分かります‥‥でも‥‥どんなに辛くても、苦しくても‥‥生きていることに意味があるんです‥‥」
霞倉は今にも泣き出しそうな表情でぽつり、またぽつりと呟くように話した。そんな霞倉を見てシズマが「そーだな」と霞倉の頭にぽんと手を置く。
それと同時に耳を劈くような奇怪な声が響いた。
「な――何ですか!?」
如月が声の聞こえる方を見ると、大きな鳥が空を飛んでいる。
「あれが今回のキメラ――」
「空飛ぶなんて卑怯じゃん!? それに探してんのはあいつじゃないんだよ!」
シズマが耳を塞ぎながら周りを見る。この声を聞いて拓斗が飛び出す可能性があると考えたからだ。
「いました!」
霞倉が少し離れた場所から剣を握り締めている拓斗の姿を見つけ、能力者達に知らせる。
そして、シズマとファルロスが拓斗を止めに走る。
「‥‥まだ此方には気づいていないようですね――」
如月は上空を見て、飛んでいるキメラを見ながら小さく呟く。
「離せ! 何なんだよ! お前らは!」
シズマとファルロスに押さえつけられながら拓斗が叫ぶ。
「あ、あの‥‥私達は拓斗さんのお友達に頼まれて‥‥あなたを連れ戻しに――」
霞倉が説明をすると「余計な事をするなよ!」と拓斗が叫ぶ。そしてその頬に伝うのは涙。
「俺にはもう何もないんだよ‥‥確かにあのキメラは憎い、自分でも適わない相手だってのは十分理解しているさ! けど、俺はもう――どうでもいいんだ。死んじまえば秋穂や子供の所に行ける‥‥それだけでいいんだよ」
拓斗は拳を握り締めながら「だから死なせてくれよ」と消え入りそうな声で呟く。
「‥‥そんなに簡単に命を捨てようとしないで‥‥あなたが死んだら、奥さんとの思い出も‥‥生きていた証も、消えちゃう‥‥そんなの悲しすぎます」
霞倉は拓斗を諭すように話しかける。
「おい、ちゃっちゃと連れ帰らないとヤバいみたいだぜ、敵さん、さっきからこの辺をぐるぐる飛んでやがる」
シズマが上空を見ながら舌打ちをして呟く。確かにキメラは先ほどまで遠くまで行ったりしていたのだが、今はこの辺の上しか飛んでいない。
まるで狙っている獲物を見つけたかのように‥‥。
「退く気は無いんか?」
関西弁が聞こえたかと思うと、黄を含むA班の能力者達が立っていた。如月が通信機で居場所を教えていたのだろう。
「ぬしが秋穂はんを裏切ってどないすんの」
黄は拓斗の耳元まで口を寄せ、ボソリと小さな声で呟いた。
「確かにあなたが失ったものは大きいでしょう‥‥でも、きちんと顔をあげて前を見なさい! それが亡き妻と子供への供養じゃないの?」
海音の言葉に「‥‥俺は‥‥」と拓斗が地面の土を握り締めながら呟く。
「‥‥怒りや憎しみに任せてもいい。それであなたの気が微塵でも晴れるのならば‥‥ですが忘れないで下さい。あなたが愛した人は何を願っていたのかを‥‥」
シエラの言葉に拓斗が勢いよく顔を上げる。
(「ねぇ、こんな時代だもの。もしかしたら私達のどっちかが死んじゃう日が来るかもね。でも―‥‥その時は私は悲しまないよ」)
(「え? 何で。俺っていない方がいいわけ?」)
(「だって、私が悲しんだら拓斗も悲しいでしょ? 私だって同じ。私が死んじゃっても拓斗には悲しんで欲しくない。だって‥‥私まで悲しくなるもの」)
まだ秋穂が生きていた頃、彼女はこんな事を拓斗に言っていた。
もちろん、今回のことを見越して言った言葉ではないだろう。
けれど、それが彼女の心からの願いだった。
「元来、クリスマスは‥‥帰って来た死者に贈り物をする祭。子供たちは死霊の象徴者として、贈り物を貰うんだそうです‥‥贈り物、もう贈られましたか?」
シエラの言葉に拓斗は着ているジャケットの内ポケットを探る。
そこにあったものは、クリスマスに秋穂に送る予定だったネックレス、そして赤ちゃん用の黄色い手袋だった。
「さて、お話もそこそこに、そろそろ此処から逃げる準備をしようか」
ファルロスが呟き、拓斗も首を縦に振って一緒に帰ることを了承したのだった。
●帰還――そしてありがとうを伝える為に。
鳥キメラとは戦闘を行わずに、帰還したかった能力者達だったが、流石に見つかっているのでそれは無理な話だった。
そこで拓斗を海音に任せ、先に帰ることになった。残った能力者は拓斗が無事に戻るまでの時間稼ぎをして、ある程度まで時間を稼いだらそれぞれ逃げる、これが作戦だった。
「高い所から見下ろされるなんて、あんまりいい気分はしねぇなぁ!」
シズマは木の上から鳥キメラに向かって跳び、攻撃を仕掛ける。
ベルも鳥キメラの体力を削るように、スコーピオンで的確に攻撃していく。
「拓斗はんは前向きに生きる事を決めた――それを邪魔するんは許さへんで」
黄もファングで攻撃を仕掛けながら、キメラに向けて呟く。その言葉をキメラが理解しているかは分からなかったけれど。
「これで‥‥!」
如月は鳥のキメラを狙い、鋭角狙撃で攻撃する。
「幸せになるはずだった家庭を壊した罪‥‥それは決して許されません」
ファルロスがアサルトライフルでキメラの動きを封じながら、シエラが攻撃する。
「やっぱり‥‥」
その中で霞倉は覚醒せずに戦おうとしていたが、鳥キメラの強さは甘い考えで倒せるほど弱くはなかった。
「やっぱり‥‥覚醒しなきゃ、足を引っ張っちゃうよね‥‥それだけは、いや」
霞倉は呟き、覚醒して戦いに参加する。
「お前等なんかのせいで、生まれてくるはずだった命まで消えたんだよ? だからね、報いを受けなきゃいけない‥‥」
霞倉もスパークマシンで攻撃をしながら忌々しげに呟く。彼女は覚醒する事で冷酷な性格に変貌する。それを嫌っているから覚醒をあまりしたがらないのだろう。
それから十数分、鳥キメラとの交戦を中断して、能力者達は拓斗たちがいる方へと向かい、走り出した。
いつか、倒しに来ると心に誓いながら――‥‥。
「‥‥今日はありがとな」
拓斗と合流して、彼が最初に呟いた言葉がこれだった。
「すぐに忘れるなんて無理だと思う――けど、いつか今回のことを乗り越えてやる。秋穂に笑われないために」
「あ、あの‥‥先ほどは生意気言ってごめんなさい、でも‥‥悲しいことはもうイヤ‥‥だから‥‥」
霞倉は全部を言い終わらないうちに泣き出してしまい、拓斗は頭を軽く撫でてやった。
「悪かったのは俺、いつかあのキメラを倒しに来るぞ、俺は‥‥怪我が治って、自分を鍛えてからになるけどな」
拓斗は呟き、微かにだったが笑みを見せたのだった‥‥。
「拓斗様もおつかれでしょう、帰ったらゆっくり休んでください。俺も疲れました‥‥」
如月は呟く、確かに彼の顔色を見ると本当に疲れているのか、顔色が悪かった。
「でも、ホント次は倒したいよな‥‥」
シズマは小さく呟いたが、その言葉は誰の耳にも入る事はなかったのだった‥‥。
END