●リプレイ本文
―― その男、恋多きにつき ――
「廃墟に出るキメラですか‥‥一般人がいない事が幸いですね」
アリエイル(
ga8923)が資料を見ながら小さな声で呟く。
今回、能力者達が請けた任務は廃墟に現れたキメラを退治するというもの。
「ふぅん、廃墟‥‥ねぇ」
梶原 悠(
gb0958)も同じく資料を見ながら小さく呟く。
(あたしにとっては久しぶりの仕事なのよね、頑張らなきゃ!)
梶原は拳を強く握り締めながら、心の中で呟いていた。
「今回のキメラは人型かいな‥‥まぁ、俺の今の実力把握も兼ねてキメラ退治がんばろか」
藤畑 夏暉(
gc4807)は小さく呟くと、ちらりと椿姫(
gc7013)を見た。
今回、藤畑にはキメラ退治という目的ももちろんあったけれど、椿姫についても色々と考えている事があるようだった。
「廃墟探索ですか、ドキドキしますね」
ニーマント・ヘル(
gc6494)は小さく呟いた後「ニーマント・ヘルと言います、今日は宜しく」と今回一緒に任務を行う能力者達に挨拶を行った。
「労働の義務というやつですねぇ、まぁ、今日は頑張りましょう〜」
宇加美 煉(
gc6845)は間延びした声でにっこりと微笑みながら能力者達に挨拶をする。
すると、今まで沈黙を守っていた――もとい我慢していたワタルが「よろしく! 俺はその乳のために命を張るぜ!」と目を輝かせながら叫び、宇加美に握手を求めてきた。
「は、はぁ‥‥?」
あまりのテンションの高さに、やや宇加美も引き気味になるが一緒に任務を行う仲間という事もあり、一応愛想よく対応する事にした。
「そっちの彼女も素敵にキュートだ!」
びしっと効果音までつきそうなくらいに勢いよくワタルが指差したのは椿姫。
「そ、そうですか‥‥? あ、ありがとうございます‥‥」
椿姫は照れながら言葉を返すのだが、既にワタルは別の女性能力者へと声をかけていた。
「何だアレ‥‥ってこっちに来た「キミも可愛いじゃないか! 5年後が楽しみだよ! 別に俺は今でも楽しみだけど!」‥‥ココにロリコンがいますよー」
恋・サンダーソン(
gc7095)は冷めた目、棒読みの台詞を吐きながらワタルから距離を取ることにした。恋の第六感的な何かが危険と彼女に訴えかけていたのだろう。
「わぁ、賑やかだね。私は初任務で少し緊張してたんだけど、楽しそうな人が多くてよかった」
アイ・ジルフォールド(
gc7245)は周りの能力者達を見ながら安心したように呟く。
「おおう、何て可愛い子なんだ! どうか俺と付き合ってくれ!」
ワタルが大げさにくるくると回りながらアイをナンパするのだが「いいよ」とあっさりアイが言葉を返したので、能力者、そしてワタル自身も驚きで目を丸くしていた。
「お付き合いでしょ? 別にいいよー♪ で、何処に付き合えばいいの?」
かくりと首を傾げながらアイが言葉を返すと「‥‥お約束だね」と梶原が苦笑しながら小さく呟いた。
「まぁ、ここでこうやってくだらない事しててもキメラがいなくなるわけじゃないし、早くキメラを退治しちゃおうか」
梶原が呟くと「そうですね。目的はあくまでキメラ退治ですからね」とアリエイルが言葉を返し、能力者達は高速艇に乗りこんで、目的地へと出発し始めたのだった。
―― 廃墟に潜むキメラ ――
今回の任務地は廃墟という事で、ワタルを含む9人の能力者達は3つの班に分かれて行動をする作戦を立てていた。
A班・ワタル、ニーマント、宇加美の三人。
B班・椿姫、恋、藤畑の三人。
C班・アリエイル、アイ、梶原の三人。
「‥‥何かあったら、すぐに連絡するんやで?」
藤畑がワタルをちらりと見ながら、宇加美とニーマントにこっそりと言葉を投げかける。
先ほどの本部内での様子を見る限り、ワタルのいる班にとって、一番の脅威となるのはキメラではなく、ワタルなのかもしれないと心配しての言葉だったのだろう。
「あと、資料にはキメラが単体なのか複数なのか書いてない。だから警戒しながら捜索した方がいいかも」
恋がポツリと呟くと、他の能力者達も考えていたようで首を縦に振る。
「何かあったらそれぞれで連絡を取り合う事にしましょう」
アリエイルが呟き、能力者達は分かれて行動を開始した。
※A班※
「そういえば、キミは女性だよね?」
分かれて捜索開始早々、ワタルがニーマントに果てしなく失礼な質問を投げかける。
「あたしのどこを見たら男性に見えるんでしょうか?」
「ご、ごめん‥‥いや、俺なんかよりかなり鍛えてるみたいだから」
「強さに憧れて、鍛えたら――鍛えた分だけ強くなれた、それだけです」
ニーマントの言葉に「ふぅん、そっかぁ」とワタルが言葉を返す。
「しかし、乳の申し子であるキミは素晴らしいな! 特に乳が!」
明らかにセクハラ的な言葉を投げつけるワタルだが、宇加美は苦笑するだけで特に怒る様子は見せなかった。
(でも、これ以上調子の乗られると面倒そうですねぇ)
宇加美は心の中で呟いた後「女難の相が見えるのですよぉ?」とワタルに言葉を投げかけた。
「泣いてる女の子とかいそうですねぇ、それに‥‥」
宇加美はワタルの肩付近を見ながら「そういえばぁ、女性を怒らせた記憶はありませんかぁ?」と言葉を付け足した。
「‥‥宇加美さん、本当に何か見えてるのですか?」
こそっとニーマントが宇加美に話しかけると「いえ、適当です」とあっさりきっぱりと言葉を返した。
「と、とりあえず‥‥キメラを見つけなくては、他の班からの連絡もありませんし」
苦笑しながらニーマント、そして宇加美は再びキメラ捜索を開始し始めた。
※B班※
「見事に瓦礫だらけだな、こりゃ‥‥」
少しだけうんざりしたような表情を見せながら、恋がため息混じりに呟く。
「ちゃっちゃと見つけて、さっさと終わらせちゃおう」
椿姫が大きく伸びをしながら呟くと「それには大賛成」と恋も言葉を返す。
「‥‥なぁ、椿姫――やけに機嫌が良いな」
藤畑が訝しげに問いかけると「えっ、そ、そう? そんな事はないと思うけど‥‥」と明らかに挙動不審に言葉を返してくる。
「もしかして、彼氏でも出来たんか」
藤畑の言葉に「へっ!? ち、違うよ? 何言ってんの!?」と声を大きくして椿姫が否定する――のだが。
「‥‥なぁ、それって肯定してんのと同じだと思うぞ」
あからさまな態度に恋も苦笑しながら言葉を投げかけると「えっ、うそ!」と椿姫は「違うんだからね! ぜ、全然最近とかじゃないからね!?」と言葉を付け足す。
「‥‥最近、彼氏が出来たってさ」
笑いながら恋が藤畑に言葉を投げかけると「あぁ、確かに俺にも『最近彼氏が出来ました』と言ってるようにしか聞こえなかった」
「‥‥‥‥‥‥‥‥はい、できました」
2人から言われ、椿姫は諦めたように聞き取りにくいほど小さな声で白状をした。
(まさか図星だとは思わんかったけどな、ええ話の種ができたわ)
藤畑は心の中で呟き「とりあえず、キメラを退治しよう」と椿姫、恋の2人に言葉を投げかけたのだった。
「あっち側に少し高い場所があったから、あそこで捜索しよう。ウロウロ歩き回るよりゃ、双眼鏡使って見渡しでもしたほーがコーリツテキっしょー」
恋の言葉に「確かにそうかも‥‥」と藤畑が呟き、高い場所に移動してB班の能力者達はキメラ捜索を続けたのだった。
※C班※
「資料にもありましたけど、広い廃墟ではないようですね」
アリエイルが周りを見渡しながら呟く。脆くなっている瓦礫も多く見られ「流れ弾などで崩れなければいいのですが‥‥」とアリエイルは心配そうに言葉を付け足した。
「それに瓦礫とかで視界が悪いわね、注意して進みましょ」
梶原が呟くと「そうですね、キメラはどこから現れるか分かりませんから」とアリエイルが言葉を返す。
「上にも注意しなくちゃいけませんね。翼があるって資料にはあったし‥‥いきなり不意打ち、とかもありえる話だし」
アイが空を見ながら呟く。
「わっ」
空を見ていたせいで、アイは石に躓き、梶原の方へと倒れこんでしまう。
「大丈夫? 上に注意を払うのもいいけど、足元にも気をつけないとね」
梶原が小さく笑いながらアイに言葉を投げかけたのだが、アイ自身は硬直していた。
「‥‥? どうかしましたか?」
アリエイルが問いかけると「あの‥‥男の‥‥子?」とアイは何度も目を瞬かせながら梶原を見る。
「あれ? 言ってなかった?」
梶原は「そう、あたしは男よ、オ・ト・コ」とウインクしながら言葉を返した。
「そ、そんな‥‥てっきり女の人だとばかり‥‥」
「確かに男って言わなくちゃわかんないような外見だもんね、別に黙ってるつもりはなかったのよ」
苦笑しながら梶原がアイに言葉を投げかけ「さ、早くキメラを見つけちゃいましょ――」といいかけた時だった。
ばさり、と羽ばたく音が聞こえたと同時にキメラが3人へと遅いかかり、梶原はトランシーバーを使用して他の班にキメラが現れた事、そして自分達がいる場所を伝え、合流するまでに時間を稼ぎ始めるのだった。
―― 戦闘開始・キメラ VS 能力者達 ――
C班から連絡を受けたA、Bの両班は急いでC班のいる場所へと向かっていた。キメラと戦闘している事もあり、2つの班は迷う事なく合流する事が出来た。
「いきます」
アイは雷上動を構え、ひゅん、と風切り音を鳴らしながらキメラの翼を狙って打つ。
「新しい装備の試験運用に‥‥付き合っていただきます!」
アリエイルは叫びながら、キメラへと向かって駆け出し、雷槍ターミガンを振り上げ、スキルを使用しながら攻撃を繰り出す。
「ほらほら、そっちばかりに気を取られていいのかしら? あんたの敵は――こっちにもいるのよ」
アリエイルの攻撃に気を取られている隙を突いて梶原がスキルを使用しながらキメラの翼を狙って攻撃を行う。翼がある以上、空に逃げられてしまったら厄介だと考えたからだろう。
「ぐっ‥‥」
突っ込んできたキメラの攻撃を藤畑がプロテクトシールドで受け止め、すかさずスキルを使用してクリスダガーで攻撃を繰り出した。
「さて、あたしも行かせてもらいましょうか――‥‥うるいやぁぁぁぁぁ!!」
ニーマントは咆哮にも似た叫び声をあげながらバトルピコハンでキメラへと攻撃を仕掛ける。
「武器が武器だからといってなめたら痛いですよ」
ふん、と鼻息荒くニーマントがキメラへと言葉を吐き捨てる。
「あらあら、やっぱり廃墟って動きにくいのねぇ」
ふぅ、とため息を吐きながら宇加美が呟くと、それはもう誘惑せんばかりに胸が揺れていた。
「乳の君――――――ッ! あぶな――いっ!」
攻撃を受けそうになった宇加美を突き飛ばし、ワタルが代わりに攻撃を受けてしまう。
「あらぁ、ありがとう。私はか弱いのでがんばってくださいねぇ」
にっこりと宇加美が微笑むと、ワタルは狂喜しながらキメラへと向かっていった。
「いいのかなぁ、あれ‥‥」
椿姫が苦笑しながら呟くと「いいんじゃないですかぁ? せっかく頑張ってくれてるんですしぃ」と宇加美が言葉を返した。
「ま、いっか。ちゃっちゃと終わらせちゃうよ!」
椿姫はスキルを使用しながらキメラへと接近し、藤畑と連携するかのように攻撃を繰り出す。
「あっ!」
だが、キメラは椿姫に標的を定めたようで、攻撃直後の椿姫が動けずにいると、藤畑が自分の身を盾代わりにして椿姫を守った。
「な‥‥なんて事を‥‥自分の身を呈してでも、なんて次に思ったら許さないから」
守ってくれた嬉しさより、無茶をした藤畑に怒りがこみ上げてきて、椿姫は泣きそうになるのを我慢しながら言葉を投げかけ、再び戦線へと戻る。
「つーかさ、9人相手に勝てるとマジに思ってるわけ? だったらおめでたい頭だな」
恋は呟きながら、両手に携えた愛用の鬼蛍と獅子牡丹を振り上げ、キメラへと攻撃を行った。
「が‥‥」
だが、防御を考えずに攻撃に向かったせいかキメラから反撃を食らってしまい、その場に蹲ってしまう。
「‥‥痛い‥‥でも良いな、ドキドキする。こんなにタノシイのは久々‥‥‥‥もっとドキドキさせてよ、ねぇ!」
痛みを堪えながら、だけど確実にキメラへと攻撃を仕掛け、恋はキメラの返り血をべっとりと浴びてしまう。
「これが‥‥裁きの雷撃、蒼電の戦天使の一撃です!!」
アリエイルがスキルを使用しながら攻撃を繰り出し、廃墟に住み着いたキメラを能力者達は無事に退治する事が出来たのだった。
―― キメラ退治後、ナンパタイム‥‥? ――
「キミって戦闘時と印象が随分と変わるんだねぇ!」
戦闘終了後、ワタルがアイに言葉を投げかけ、懲りずにナンパを始める。
「本部での事見てたけど、女性ひとり真剣に愛せないくせにナンパしてるわけ? 馬っ鹿じゃないの?」
非覚醒状態時と違って、覚醒状態の時はやや辛辣になるようで、さすがのワタルも「ごめんなさい」としか言いようがなかった。
「‥‥浮気をして怒るという事は、それほど貴方の事を好いているという事だと思いますよ? 大事な人なら、悲しませるような真似は控えた方がよろしいかと思いますが」
アリエイルの言葉に「おお、神秘的な彼女じゃないか!」とワタルの耳にアリエイルの言葉は届いてなかったらしく、一瞬だけアリエイルは武器を持つ手に力が入ったのを感じていた。
その後、高速艇に戻るまでにやたらと宇加美に絡んだり、梶原が男だと気づかずにナンパを始めたワタルの姿を見て、能力者達は頭が痛くなるのを感じていた。
(あたしが男って事、言わない方が面白いかもしれないわね)
イタズラ心に火がついた梶原は自分が男だとワタルに告げることはなかった。
そして、本部で待ち構えていたワタルの彼女によって悲痛な悲鳴が本部内に響き渡っていたけれど、能力者達はあまり気にせずに報告へと向かっていったのだった。
END