●リプレイ本文
―― カマのあだ討ち(?)に向かう能力者達 ――
(くっ、鵺殿‥‥待っててネ、すぐにキメラを退治してお見舞い行くからネ)
ラサ・ジェネシス(
gc2273)は大好きな鵺(gz0250)の事を思いながら、拳を強く震わせて心の中で呟く。
「けっひゃっひゃ、我輩はドクター・ウェスト(
ga0241)だ〜」
ウェストは独特的な笑いで能力者達に挨拶をした後、今回のキメラに関する資料を読み始める。
「今回の目的はキメラ退治だけど‥‥ラサの気になる人が斬られたって事は、一応敵討ちになるのかな?」
榎木津 礼二(
gb1953)は「んー‥‥よし、さっさと終わらせてお見舞いに行く時間に当てちゃおう」と言葉を付け足した。
「さて、敵は人型。剣使いか‥‥お相手、してもらおうかな?」
どこか楽しそうに呟くのは黒瀬 レオ(
gb9668)だった。
(それに‥‥さっさと倒してお見舞いの時間を作ってあげたいしね)
黒瀬は心の中で呟きながら、ラサを一瞥する。
「ふむ、鵺は怪我か‥‥大事ではないらしいが、他の新人能力者達も同様の怪我だろう」
秋月 愁矢(
gc1971)は小さく呟き「キメラに遅れを取るのは仕方ない。経験を積めた分だけでもよしとしておく事だな」と言葉を付け足した。
「そうね、命があっただけでもよしとしなくちゃ‥‥まぁ、あたしも人型と戦うのは初めてなんだけどねぇ」
苦笑しながらルリム・シャイコース(
gc4543)が呟く。
だが、ルリムは鵺と一緒に任務にいった能力者達と違い、キメラとの戦闘経験が皆無というわけではないから、新人能力者達のようになる事は無いだろう。
「うちは‥‥生身の依頼は初めてやから、どこまで皆さんのお手伝い出来るか分からしまへんけど、精一杯勤めさせて頂きます」
宜しゅうお願いしますわ、と言葉を付け足して丁寧に頭を下げながら挨拶をするのは月見里 由香里(
gc6651)だった。
「それを言うなら‥‥私は傭兵としての仕事自体が初めてだ。なるべく足手まといにならないよう努力する――が、面倒だな‥‥動き回るのは」
欠伸をかみ殺しながらエリーザ=ヴァッヘ(
gc7010)が能力者達に挨拶をする。欠伸をかみ殺した姿もそうだが、服装がヨレたスーツ姿という事もあり、余計に眠そうな雰囲気を周囲に与えていた。
「さて、それじゃ全員揃った事だし出発しよっか」
榎木津が呟き、能力者達は高速艇に乗り込んで、キメラ退治をする為に現地へと出発したのだった。
―― 鬱蒼とする森の中で ――
「狭くても森‥‥注意するに越した事はないね」
榎木津は小さく呟きながら軍用双眼鏡で周囲を見渡した。今日は少し風も強いせいか、木々が揺らめく音がざわざわとしている。
(木々のざわめきがなければ、もう少しキメラを見つける事は容易かったかもね)
榎木津は心の中で呟いた後、小さくため息を漏らして捜索を再開した。
「そこのキミ達はマダ戦闘に慣れていないようだから実戦講義だね〜」
実戦経験のない月見里とエリーザのためにウェストが戦闘で役立つ事、覚えておく事などを話し始めた。
「特にサイエンティストはエミタのエネルギー量が少ない。無理に強いスキルを使う必要はなく、ちょっとした強化や治療で充分役立つのだよ〜」
「なるほど‥‥確かにそうだな。サイエンティストは強化や治療で他の能力者の役に立つことが出来る」
ウェストと同じサイエンティストであるエリーザが納得したように小さく言葉を返した。
「ハーモナーにも同じ事が言えますね。呪歌などで他の能力者達の攻撃に役立つ攻撃ができるんやから」
月見里も呟く。今回、彼女は自分で決めた目的があった。
それは、敵の撃破と共に、これから傭兵としてやっていくに当たり自分がどこまできちんと仲間から課せられた役割を果たせるか‥‥それを体験するべく今回の依頼に参加したと言っても過言ではない。
「んー、結構視界の問題とかある場所かもしれないね。奇襲を受ける確率もあるから、警戒は怠らないようにしないと‥‥」
黒瀬は周りを見渡しながら呟く。森としては狭い場所なのだけど、木々が密集しているせいか、キメラを見過ごす可能性も無いとはいえない状況だ。
(確か、キメラは人型だっていうし、足跡や植物を倒したりした痕跡があるかも)
黒瀬は地面や木々にも注意を払いながらキメラ捜索を続ける。
「あれ?」
そこで黒瀬は何か見つけたのか、足を止めて地面を見る。
「何かあったのかしら?」
ルリムが黒瀬に問いかけると「足跡です」と地面を指差しながら黒瀬が言葉を返す。その指につられるように、他の能力者達も地面を見ると‥‥確かに今現在ここにいる能力者の足跡と一致しない足跡がそこにあった。
「もしかしたら鵺殿たちと一緒に来た人の足跡とカ?」
「いや、それにしては新しすぎる。自分の足跡と比べてみるといい」
秋月が足跡を見ながら呟く。彼の言う通り、自分の足跡と比べてみると、確かにまるでさっきここを歩いたかのような新しさに見えた。
「つまり〜、キメラはこの辺にいると考えて良いのかね〜」
ウェストが呟きながら周囲を見渡す。
「‥‥! 上やわ!」
月見里が叫び、能力者達はその場から後ろへと下がる。彼女はスキルを使用しており、音の居場所を特定することが出来たから、キメラがどこからやってくるのか分かったのだろう。
(木に伝わる振動は隠せんわ‥‥)
すると、僅かに遅れて剣を地面に突き刺すキメラの姿が現れた。
「ほう、生で見るのは初めてだ‥‥どう来る?」
エリーザはキメラを見ながら呟き、能力者達も武器を構えて、戦闘へと入ったのだった。
―― 戦闘開始・人型キメラ VS 能力者達 ――
今回、キメラ捜索は全員で行ったが、戦闘に関してはそれぞれ班分けを行っていた。
攻撃班・黒瀬、秋月、ルリム。
陽動係・ラサ。
援護班・ウェスト、榎木津、月見里、エリーザ。
(コイツが鵺殿を斬ったキメラ‥‥本当なら八つ裂きにしたい所だけド‥‥)
ラサはウェストをちらりと見ながら心の中で呟く。ウェストはキメラのサンプルを集めて彼が管理する私設研究所で研究をしている。
今回のキメラもきっとサンプルとして持ち帰るのだろうと思うと、キメラを八つ裂きにしたい気持ちをぐっと堪え、戦闘に集中する事にした。
「鬼さんコチラ、今日は我輩が鬼ダガナ!」
ラサは小銃WI−01を構え、キメラを狙い撃つ。
「ほらほら、余所見はダメだよ――‥‥随分痛そうな剣だね、それで僕を斬ってみる?」
黒瀬はスキルを使用しながら紅炎でキメラを斬りつけ「‥‥できるものなら、ね」と不敵に微笑みながら言葉を付け足した。
「戦闘の前は何時も何時も程よい緊張が走るのが良いわ〜‥‥人型キメラと対峙してどうなるかと思ったけど、意外としっくりくるわねぇ」
ルリムは呟いた後、覚醒を行い愛用の【OR】シザーハンズでキメラへと攻撃を行う。
「くっ‥‥」
ラサが攻撃されそうになった所を秋月が庇い「お前の相手は‥‥俺だ」と強く鋭い瞳でキメラを睨みつける。
「今のうちに支援だ」
ウェストが呟き、能力者達の武器を強化する。それに合わせるようにエリーザも強化で能力者の武器を強化し、弱体でキメラの防御を低下させる。
何も知らない一般人が見たらエリーザは団扇で扇いでいるようにしか見えないだろうが、れっきとした超機械である。
「‥‥うちの出番やね」
月見里は呟き、スキル・呪歌を使用する。
それまでは普通に動いていたキメラががくんと動きが鈍り始める。効果がある、と分かった月見里は更に呪歌を使用し、キメラの麻痺ランクを上げようと試みる。
だがランク3に到達するまでに、キメラの攻撃が援護をしている班にもおよび、月見里はやむを得ず、呪歌を使うのをやめ、超機械・鎮魂での攻撃を始めたのだった。
「‥‥うちが出来るのはここまでやね。後の始末はお任せして宜しいか?」
月見里が呟くと「言われなくてももちろんだよ」と黒瀬が言葉を返す。
「コレは鵺殿の分! コレは我輩の分! コレも我輩の分! コレも‥‥!」
ラサは叫びながらキメラへと攻撃を行う。
「‥‥」
ルリムはキメラの三日月剣を片手のシザーハンズで受け止めた後、もう片方のシザーハンズでスキルを使用しながら攻撃を繰り出す。
「どの道、お前に生き残る選択はなかったようだな」
秋月は武器をフォルトゥナ・マヨールーへと持ち変え、キメラを狙い撃つ。撃たれた反動でキメラは僅かな隙が生じ、黒瀬、ラサ、ルリムはそれを見逃すことなく、キメラへと攻撃を仕掛け、無事にキメラを退治する事が出来たのだった。
「浄化完了」
キメラが倒れると同時にルリムが短く呟き、森の中には普段の静寂が戻った。
―― 鵺のお見舞い ――
キメラを退治した後、ウェストとエリーザはキメラのサンプルを持ち帰る事にしていた。
「おや、キミもかね」
ウェストが少し驚いたように「キミも何か研究を?」と言葉を付け足して問いかける。
「まぁ、そういう所だが‥‥あくまで個人的な研究の興味を満たす為に持ち帰るだけ」
エリーザが言葉を返すと「そうか」とウェストは短く答えた。
「ふぁ‥‥あー、眠い‥‥ほとんど寝てないのでな」
エリーザは再び欠伸をして、眠そうに目をこすりながら呟いた。
それから、お見舞いをする為に能力者達は鵺が入院している病院へとやってきていた。
「鵺殿――――ッ!」
ぴょーん、と擬音まで付いてきそうなくらいの勢いでラサが鵺の所へ駆け寄る。
「あらあら、大人数なのねぇ。もしかしてアタシに惚れた人達ばかり!? やだ! 凄く照れちゃうわぁ!」
一人の世界に入りつつある鵺を「ぬ、鵺殿‥‥」とラサががっくりと肩を落としながら呟いた。
「長く能力者をやってきた者がアノ程度のキメラに遅れを取ってどうする〜。まぁ、戦い慣れてない者を失う事なく帰って来たのは評価するがね〜」
ウェストが呆れたように呟くと「‥‥それ、ちょっとした間違いがあるのよねぇ」と鵺が申し訳なさそうに呟いた。
「アタシってば、戦闘開始直後に気絶しちゃってぇ、一緒に行った子達が助けてくれたのよねぇ‥‥でも途中で背中を斬られちゃって‥‥あぁ、もう! 乙女の肌に傷をつけるなんてぇぇぇ!」
拳を怒りで震わせながら呟く鵺に「ば、バカモノ〜! それでは新人を危険な目に合わせた役立たずじゃないかね〜!」とウェストは驚きと怒りで複雑そうな表情を見せた。
「‥‥この人がラサの大事な人なんだよね? もしかして別の人の部屋と間違えてたり‥‥ないよね」
まさかラサの大事な人というのがOKAMAだとは思わなかったのだろう。榎木津は多少、いやかなり驚いた表情でラサと鵺を交互に見ていた。
「‥‥えっと、オカマ、さん? うん、僕はそういう偏見は持たないし、平気です、けど‥‥お大事にして下さいね?」
かくりと首を傾げながら黒瀬が呟いているが、何故か一歩二歩三歩と後ろに下がっているのは気のせいだろうか。
「あ、これお見舞いのフルーツ盛り合わせです。名誉の負傷‥‥ってわけじゃなさそうだけど、本当にお大事に」
「あぁ、それなら俺も。ケーキなんだが、見舞い品だ。それに依頼も無事に解決したし、ゆっくり養生して傷を治すことを考えるといい」
秋月がケーキを差し出しながら鵺に言葉を投げかける。
「他の新人能力者達にも渡してくるから、先に失礼する」
そう言葉をつけたし、秋月は他の能力者より一足先に鵺の病室から出たのだった。
「早く貴方の傷が治りますように‥‥エイメン」
ルリムは胸で十字架を切り、鵺の回復を祈りながら呟いた。
「‥‥傭兵には色んな人がおるんやね」
ぼそっと小さな声で月見里が呟くと「確かに‥‥」とエリーザも苦笑しながら言葉を返した。
「まぁでも‥‥こういうのは、人それぞれやからね。うん‥‥」
月見里は引きつった笑みのまま小さな声で呟く。
「でも無事でヨカッタ! とっても心配したんだカラ! 今度からは我輩も一緒に行く!」
ラサが今にも泣きそうな表情で呟き「大丈夫よぅ、アタシだっていざとなったら戦えるもの」と鵺が言葉を返すのだが‥‥鵺が真面目に戦った所など、今まで一人も見た事がないのは気のせいだろうか。
「それより、ありがとうね。アタシのお見舞いに来てくれて、アタシってば凄く嬉しかったわ!」
鵺がラサ、そして能力者達に言葉を投げかける。
「あ、これ‥‥お見舞いの花なんだケド」
ラサが鵺に差し出したのはオレンジ色のバラの花束だった。お見舞い用の花なので香りも強くなく、花言葉は『信頼、元気を出して』と入院している鵺にはぴったりのものだった。
「迷惑じゃなきゃ毎日お見舞いに来るヨ‥‥」
もじもじしながら呟くラサに「じゃあお願いしちゃおうかしら!」と鵺も言葉を返す。
「えっ、本当「今回もイケメンが多いしー! 目の保養だわぁ!」‥‥鵺殿――っ」
鵺の言葉を聞いて『orz』のポーズでラサが蹲ったのは言うまでも無い。
「あ、でもラサちゃんも来てくれなきゃイヤだからね」
目の保養発言で気持ちが沈んだラサだったが『ラサもいなくちゃダメ』という言葉に一気に気持ちが浮上する。
そんな2人を見ながら(バカップル)と他の能力者達は思っていたのだった。
END