●リプレイ本文
―― キリーの従姉妹、登場 ――
「下僕達。今回は私の絶対絶命大ピンチよ。あそこで自販機を蹴り飛ばしているあの女から私を守りなさいよ!」
キルメリア・シュプール(gz0278)はビシッと指差しながら能力者達へと指示(という名前のお願い)をする。
「私の事を大魔王とか言ってる奴いるけど、あそこにいる女は‥‥そういう次元のレベルじゃないからね!」
キリーの言葉を聞いて「はわわ」と土方伊織(
ga4771)がガタガタと震え始める。
(キリーさん以上ってどんな大まおー。すっごく逝きたくない、逝きたくないですけどー、行かないと後が怖いですから‥‥行かない選択肢がないのですぅ‥‥はぅぅ)
土方はある意味ではキメラよりも凶悪強力な2人を見て(僕の明日はどこー)と心の中で叫んだのだった。
「さて、キリー‥‥人の事を下僕呼ばわりとはどういう事かな?」
神撫(
gb0167)はにっこりと暗黒オーラを振りまきながらキリーへと問いかける。彼はキリーと会うのが久しぶりと言う事で、キリーが成長している事を願っていたのだが‥‥どうやら全く成長していない様子に多少呆れているようだった。
「違うわ! きっとキリーちゃんは『げぼく』って書きたかったんじゃなくて『Hey、僕!』と書きたかったんだと思うわ!」
力説しながら叫ぶのは、先ほどまで自販機を蹴り飛ばしていたユーリだった。
(‥‥キリーから『Hey、僕!』とか言われるのも困るんだけど‥‥)
神撫は引きつった笑いをさせながら「そ、そう? うん、まぁ‥‥そういう事にしてあげ――ていいのかな、これ」とやや納得いかない様子で言葉を返したのだった。
「キルメリアさんとユーリさんだね。この中では最年少だけど、宜しくね」
アセット・アナスタシア(
gb0694)がキリーとユーリに挨拶をする。
「別に宜しくしたくないわよ」
ふん、と相変わらずデレないツンデレのキリーは素直に「宜しく」という言葉が言えない。
「守る、ねぇ‥‥俺の役割じゃない気がするんだが‥‥」
仮染 勇輝(
gb1239)が苦笑気味に小さく呟く。
「ねぇ、キリーちゃん。皆は能力者なんだからビルの上から飛び降りても大丈夫だよね? 命綱なしのバンジーなんて素敵だと思うの」
目を輝かせながら言うユーリにキリーを含めた能力者全員が引き気味になる。
(綺麗な薔薇には棘がある‥‥この家系には多すぎかもしれんが)
仮染はちらりとキリーとユーリを見ながら心の中で呟いた。
「仲がいい親戚がいて羨ましいな〜。私には兄がいるけど、従姉妹とかいないから」
少し寂しそうに呟くのは諌山美雲(
gb5758)だった。
「私のこの顔を見ても羨ましいというならキメラなんて退治してる場合じゃないわ。今すぐ眼科に行きなさい」
キリーが表情を引きつらせながら呟くと「もう、キリーさんってば照れちゃって!」と背中をバシバシと叩きながら言葉を返す。
「ククク‥‥元気なお嬢さん方な事で」
ユーニス=オーウェン(
gc1041)が呟く。黒服と帽子、おまけにガスマスク着用と言う事で「誰、あんた!」とキリーから攻撃を受けているのだが、本人はあまり気にしていない様子だった。
「キリーが珍しく大ピンチのようですね‥‥メールから見てもかなり切羽詰った状況のようでしたし」
南 十星(
gc1722)が呟く。普段のキリーを見慣れているせいか、本当にユーリの事が苦手だと言う事が見て伺えた。
「よぉもやし! 元気にして‥‥って誰だ隣の美少女は!」
少しだけ遅れてやってきたのはガル・ゼーガイア(
gc1478)だった。
「ユーリはキリーちゃんの従姉妹なんだよ「あんた! 私の呼び出しに遅刻なんていい度胸してんじゃないの!」わぁ、すっごい吹っ飛んだー」
話の途中でキリーから蹴りを入れられ、ユーリは感心したように呟いた。
「そ、そうか‥‥従姉妹なのか! そういえば顔も少し似てるな――あぁ! ダメだダメだ! 俺はもやしを守る竜騎士! 浮気なんかしちゃいけねぇ!」
ガルは勢いよく首を振りながら自分の心を落ち着かせようとするが「浮気‥‥? いいんじゃない? 裏切りが人間の本性なんだから」とにっこり笑顔でユーリから言われてしまう。
「でもガルさんが裏切りたくないって言うなら、ユーリが頑張って裏切れなくしてあげるよ?」
ユーリの言葉に能力者達が「え?」と呟く。
「‥‥断った方がいいんじゃない。要訳すれば『ガルさんが裏切る前にユーリが殺っちゃってあげるー』って言ってるもんだから」
「ええええ! イラネイラネ! そんな親切イラネェェェ!」
ガルの盛大な拒否に「ちっ」とユーリは舌打ちをしながらぷいっと横を向いた。
「ま、まぁ‥‥とりあえずキメラ退治に行こうか。ユーリは一般人なんだから無理をしないようにね」
神撫が呟くと「分かってる」とユーリも言葉を返し、能力者達は高速艇に乗り込んで、たとえ空気のようなキメラでも退治をする為にLHを出発していったのだった。
―― 今回の敵は本当にキメラなんですか? ――
ゴス。
「キ、キヒヒ‥‥元気なお嬢さんのようで」
ユーニスが頭を抑えながら呟く。ちなみに今の音はユーリの持っていたバッグ(かなり重い)がユーニスの頭に直撃してしまった音だ。
「あ、キリーちゃん危ない!」
ユーリが叫び、スライディングしながらキリーをコケさせようと企んだ――が、そのスライディングを受けたのは間一髪でキリーを庇った仮染だったりする。
「ゆ、ゆーき‥‥?」
「‥‥何で、こんなに一撃が重いんだ」
足を押さえながら仮染が声にならない声で呻き始める。
「た、多分‥‥あのブーツの中に何か仕込んでるんじゃないかな」
アセットが地面を指差しながら仮染に言葉を返した。彼女が指差した物は足跡であり、少しだけぬかるんでいる地面。そこにあったものは何故かユーリの足跡だけ異常にくっきりとついていた。
「前と同じなら、あいつブーツの中には鉄板仕込んでるんじゃないかしら」
キリーの言葉に「‥‥そういうのは早めに教えてくれ」と仮染は痛む足を押さえながら言葉を返したのだった。
(はわわ、こんな2人の争いに巻き込まれちゃったら‥‥僕なんてずたぼろのぼろぞーきんになっちゃうのですぅ‥‥でもここでキリーさんをお助けしないと、今後の僕の未来がお先真っ暗になっちゃうのですぅ)
土方は(どーしてこーなった、僕のうんめー!)と心の中で叫びながら、何とかキリーを守ろうと頑張るのだった。
「キリー、ユーリ‥‥ここには遊びに来てるワケじゃないんだよね。だからはしゃぐのは控えてもらえないかな?」
にっこりと神撫が言うのだが「私ははしゃいでないわよ!」とキリーから鳩尾パンチを繰り出されてしまう。
「ククク‥‥どうやら、来たみたいだな」
ユーニスが小さく呟く。彼が呟くほんの少し前から他の能力者達も気づいていたらしく、表情が険しい物へと変わっていた。
「ユーリさんは一般人ですよね? 危ないから下がっててくださいね」
諌山がユーリを後ろへと下がらせる。
「そういえば、アセットちゃんみたいに小さな子も能力者なの? 大丈夫? 怪我しない? もし怪我するんだったらユーリが‥‥「はい、ストップ。仕事の邪魔をしないようにね」」
怪しい妄想に入るユーリを神撫が止め、能力者達はキメラを退治する為に、それぞれ行動を開始し始めたのだった。
「ふふ、歳の近い能力者ってあまりいないから嬉しいなぁ。力不足かもしれないけど背中を預けてもらっていいからね」
キメラへと向かう途中、アセットがキリーへと話しかけていった。
「護衛さん達、後はまかせたーですよー。空気っぽいキメラはさっさと退治しちぇえーですぅ」
土方は呟きながら愛用の根を構えてキメラへと攻撃を行う。
「キリーは私の後ろに隠れててくださいね――ってもう隠れてるんですね」
苦笑しながら南が呟くと、ちゃっかりとユーリと同じ位置で隠れているキリーの姿があった。
「さっさと退治してしまいなさいよ、ヘタレ! そんなキメラも瞬殺できないようなら能力者なんてやめちゃいなさいよね!」
キリーの野次に耐えながら能力者達は戦っているのだが‥‥。
(キリー‥‥少しも成長してねぇな)
笑顔だけど怒り爆発寸前の神撫はキメラを攻撃した際に、木の枝を折り、その枝がキリーの少し手前で刺さるようにした。
いきなり枝が飛んできて驚いたのかキリーは言葉を失っている。もちろん全て計算して行動した結果なので、キリーやユーリに枝が刺さるというヘマをする神撫ではない。
「エクレール、敵は大した事ないけど全力で行くのが相手に対する礼儀だからね‥‥初陣はしっかり決めよう」
アセットは呟きながら、エクレールを構え、スキルを使用しながらキメラへと攻撃を繰り出す。
「ふ、ふふ‥‥」
突然、ユーリが怪しい笑みを浮かべながら戦線から離れていく。能力者達もそれには気づいていたのだが、キメラに近寄ってくるという事でもないので、あえて何も言わずに、目の前の敵を退治する事に集中をしていた。
「ユーリさん! 前に出ちゃダメですからね!」
諌山がキメラへと攻撃を行いながら、ユーリへと言葉を投げかけた――次の瞬間、諌山が放った矢はなぜか弧を描いてユーリの近くの木へと刺さっていた。
「あれ?」
(‥‥美雲アタックの犠牲者がまた一人‥‥)
諌山の行動を見て、キメラを攻撃しながら仮染は心の中で呟いていた。
「ククク‥‥そっちに目がいってる場合なのかい? 撃って踊ってくるくる狂、狼ちゃんはお腹に注意〜キャキャキャ」
ユーニスは楽しそうに呟きながら、至近距離からキメラの腹部にライフルの弾丸をお見舞いした。
「もやしに怪我させるわけにはいかねぇんだよ!」
ガルは機械剣・ライトピラーを構え、向かってくるキメラに対して強力な一撃を与え、キメラはそのまま地面に倒れ、立ち上がることはなかったのだった。
―― キメラ退治して、その後に残る恐怖 ――
「あんなに怖い狼さんを退治するなんて凄いのね! こっちでお茶会をしましょう!」
すちゃっとユーリはバッグの中からお茶が入ってると思われる水筒と紙コップを取り出す。
「意外に良い人なのです?」
土方が多少警戒をしながら近づいていくと『ずぼっ』という音と共に「アァァァァァァ」と土方の姿が消えた――もとい、落とし穴に落ちていった。
「戦闘中、いきなりいなくなったワケはこのせいか」
落ちて行く土方を見ながら神撫が冷静に呟き「もうさすがに落とし穴はないでしょ」とキリーが近づいた瞬間『ばしっ』という音がして、キリーの足がロープに引っかかり、そのままコケてしまう。
「キリーさん!?」
慌てて仮染が駆け寄った――が『ぶちっ』という音が足元から聞こえ、何事かと思い、仮染が下を見た瞬間、木の上からいきなりタライが落ちてきた。
「‥‥これはツッコミ入れていいよな。いったいこのタライはどこから‥‥」
ぐわ〜ん、と良い音をさせながら仮染が呟くのだが深いことは気にしたら負け、である。
「もう! ユーリはキリーちゃんのためにがんばったのに!」
何故かご立腹のユーリを見て「いやはや、愛情ってのは盲目だねぇ‥‥困った困った」とユーニスが小さく呟いたのだった。
「キリー、大丈夫ですか?」
コケたキリーを南が立ち上がらせると「‥‥せっかく可愛く結んだ髪の毛が」としょんぼりとしながら言葉を返してきた。
「そうそう。これをプレゼントしようと思ってたんですよ」
そういって、南がシュシュを取り出してキリーの髪を緩く結んでやる。
「さっきの髪型も可愛いですけど、こっちも可愛いですよ」
南の言葉に「‥‥ありがとう」とキリーが照れたようにお礼を言う。
「物っていうのは壊れる儚さがあるから美しいとユーリは思うのね。だからその可愛いシュシュを破壊したら、もっと綺麗になると思うの」
「意味が全くわかんないし」
2人のやり取りを見ながら「もやしはいいよなぁ‥‥従姉妹と漫才できてよ」とガルが羨ましそうに呟いた。
「助けなさいよ、ヘタレガル!」
「はっ、ユーリ! もやしばっか不公平だぞ! 苛めるなら俺も苛めろ!」
ガルが大声で叫んだ言葉に「Mがいる」と口々に能力者達が呟き始める。ちなみにその筆頭に立っていたのがキリーだという事は言うまでもない。
「あ、キメラを退治したら皆で食べようとクッキーを作ってきたんですよ」
南が思い出したようにクッキーを能力者、そしてユーリへと配り始める。
「ユーリさんはキリーの事が好きですか?」
ユーリにクッキーを配る時に南が問いかけると「大好きよ。捻り潰したいくらいに」とユーリは満面の笑みで言葉を返してきた。
「‥‥好きならそれでいいんですよ」
最後の「捻り潰したいくらいに」という言葉は聞かなかった事にしたのだろう、南も笑顔で言葉を返した。
「‥‥だ、誰かー、僕が落ちてることに気がついてーですぅ‥‥」
自力で落とし穴から這い出てきた土方に、キリーは悪魔の微笑みを浮かべながら「もう一度あがってきなさいよ」と突き飛ばしてしまう。
「なんでー僕だけ毎回こんな目にー‥‥」
ちょっと泣きそうな声になりながら土方は再び落とし穴へと落ちていった。
「さて、キリーとユーリ。そこに正座」
クッキーを食べ終わった後、神撫が2人に言葉を投げかける。
「ユーリは何もしてないよ」
「何で私が正座なんかしなくちゃいけないのよ」
言い方は違えど、全く何も悪い事はしてないという態度の2人に神撫は笑顔で「いいから、座れ?」と威圧感たっぷりに言葉を投げかける。
さすがに怖くなった2人は大人しく正座をして、神撫から延々と説教をされたのだった。
説教が終わり、LHに帰ろうという所でアセットがキリーに話しかけた。
「ねぇ、キルメリアさんにも心得とかあるのかな? 何かしら目標があれば人間生きていくのに弾みがつくだろうし‥‥」
「私の心得? 私が楽しい毎日にする事よ。それにキリーでいいわよ、分かった?」
「うん。出来ればお友達になれないかな? えっと‥‥キリーさん」
アセットが照れ気味に呟くと「いいわよ、友達になってあげるわ」とどこまでも偉そうにキリーは言葉を返したのだった。
「さぁ、帰るわよ下僕ども!」
その時、キリーが石につまづいてしまい、コケそうになったところを仮染が庇うのだが‥‥「どこ触ってんのよ!」とパンチを食らってしまった。
(庇ってもこういう結果になるって理解出来てたはずなんだがなぁ‥‥)
「キリー! ユーリ! もし疲れてたら俺が背負っていってあげてもいいぜ!」
「あ、私はいい」
ガルの言葉をさらりとかわし、ユーリが「ユーリね、おんぶしてもらうのは凄く好きなの」と照れながら言葉を返してきた。
「だって、後ろからぎゅーって首を絞めやすいでしょう?」
「‥‥やっぱり、自分の足で歩こうぜ」
身の危険を感じ、ガルは背負う発言を即座に撤回したのだった。
END