●リプレイ本文
―― 哀れな男たち ――
「放っておいても大した害にはならないと思うんですけど、ちょっと目障りというかウザいので、対処を宜しくお願いします」
室生 舞(gz0140)はぺこりと丁寧に頭を下げながら能力者達に言葉を投げかける。
「チョコが貰えないだけで暴れるとは迷惑ね」
はぁ、とため息混じりに呟いたのはニーマント・ヘル(
gc6494)だった。
「‥‥全くだ、はた迷惑極まりない」
黒雛(
gc6456)は暴れる能力者達を見ながら盛大なため息を吐く。あそこまで哀れな姿を露呈している彼らを見て、黒雛は怒るというより呆れるという感覚に近かった。
「義理チョコなんて、たくさん貰っても虚しいだけだと思うんですけどね‥‥モテる人はホワイトデーにそれだけ代償を払っているのに‥‥」
諌山美雲(
gb5758)は心の底から哀れみを込めて呟く。だが諌山は天然ながらちょっとだけ暴れる能力者達に失礼な事を言っている事に気がついていない。
『義理チョコなんて‥‥』
そう、暴れる能力者達が本命チョコを貰えるかもしれないという事を全否定しているのだ。
「私は人から聞いて本部に来たんですけど‥‥他人の迷惑にしかなっていませんね――‥‥」
巳乃木 沙耶(
gb6323)は小さくため息を漏らした後に「‥‥静かにしていただきましょうか」と言葉を付け足した。
その言葉の何処かにちょっと『Sっ娘』な雰囲気を感じるのはきっと気のせいだと信じていたい。
「やれやれ、どうやって鎮圧するか――‥‥考えるのも面倒なことだな、まぁ――‥‥まずは穏便に説得からか?」
苦笑しながら呟いたのはネオ・グランデ(
gc2626)だった。
「‥‥そうですね、でも気のせいかな。クリスマスに同じような光景を見たような‥‥」
ミコト(
gc4601)は首をかくりと傾げながら呟くが、気のせいだと思い込む事にしてみた。
「でもさ‥‥あれを追い出すの?」
暴れる能力者達を指差しながらミコトが舞に問いかける。
「えぇ、勿論お願いしますね。まさかあの程度の能力者を追い出す事も出来ないなんていいませんよね? ね? 言いませんよね?」
にっこりと笑顔で言われているのに「いいからさっさと追い出せよ、ゴルァ」とミコトは言われているような気がして「多少のお痛はOK?」と舞に聞きかえすと「OK」と親指をぐっと立てながら笑顔で言葉を返す舞の姿があった。
「‥‥増えてる‥‥」
天羽 恵(
gc6280)は暴れる能力者達を見ながらポツリと呟いた。
(相手は1人だと聞いていたはずなんだけど‥‥なんなの、この騒ぎは。交渉用に持って来たチョコは無駄になりそうね)
天羽は荷物の中にあるチョコを見ながら心の中で呟く。相手が1人のままであったら義理チョコを渡して解決、という方法を考えていたのだろうが相手が増えている以上、余計な争いを招く道具にしかならない。
(‥‥非覚醒で大丈夫かしら)
相手は曲がりなりにも能力者。それらを相手にするのに覚醒も無しで大丈夫なんだろうかと天羽は小さな不安が頭の中に過ぎっていた。
「さてそろそろ「にゅはははははは!」‥‥っ!?」
ネオが動き出そうとした時、軽快な笑い声が能力者達の耳に入ってきた。
「誰かがしっとに叫ぶ時、しっと団は現れる!」
しっと団総帥である白虎(
ga9191)が笑いながら能力者達の前に立つ。
「しっと団総帥としては嫉妬に燃える彼らを支援しないわけにはいかない! リア充爆発しろにゃー!」
笑い&叫びながら白虎は暴れている能力者達の方へと駆け出していった。
「気のせいか? 状況が悪化しそうな予感がしてきた」
ネオが頭を抱えながら小さく呟き、暴れている能力者+しっと団総帥・白虎(本人もリア充なのに)をターゲットとして行動を開始したのだった。
―― 哀れで迷惑な男たちに鉄槌を ――
「これだけのしっとに燃えるとはなんと言う貴重な人材! 暴れてる能力者さん達はしっと団にスカウトするのにゃー!」
白虎は暴れまわる同士(白虎は桃色なのに)を見て嬉々としている。
「とりあえず一言だけ言いたいんだが‥‥こんな事をしてると余計にモテなくなるぞ?」
最初に動いたのはネオだった。最初の言葉通り、一応無駄とは思いつつももしかしたら説得で効果があるかもしれないという僅かな期待を胸に、暴れまわる能力者達に話しかける――のだが。
「チョコも持たずに説得しようなど片腹痛いわー! 同情するならチョコをくれ!」
説得をしていたネオの邪魔をしたのは、勿論しっと団総帥の白虎。
(‥‥男からチョコを貰って嬉しいのか? 果たして本当にチョコは同情で貰うべきものなのか?)
心の中でツッコミを入れるネオだったが、それは口にする事はなかった。口にしても無駄だと理解していたからだ。
「おおう! 皆! チョコを発見したぞおおおおお!」
「何!? それは俺宛のチョコだ!」
「いや、僕だよ!」
「貴様なんぞにチョコが来るわけなかろう!」
チョコを見つけた、と仲間割れを始める能力者たち。しかし彼らは誰一人として気がついていない。
そのチョコが巳乃木の仕掛けた罠だということに。
「あそこのチョコはアレでいいとして。あっちに仕掛けをしてきましょ」
巳乃木が呟き「そうですね、あのチョコに気を取られている間に別の仕掛けを終わらせてしまいましょう」と天羽も言葉を返す。
「俺のチョコオオオオオオ! くわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
食べた瞬間、漫画的な描写なら火を吹いているシーンだろう。
「おい! 向こうにもチョコがあるぞおお!」
天羽と巳乃木の仕掛けた罠(チョコ)を見つけ、能力者達が一斉に駆け出してくる。
「俺のだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
能力者がチョコを手にした瞬間、宙吊りの簀巻きにされてしまう。
「‥‥‥‥まさか、これに引っかかるなんて‥‥」
仕掛けた本人ですら、引っかかることはないだろうと思っていたのか、巳乃木は驚きで目を丸くしながら宙吊りになっている能力者を見た。
「チョコがあったんだぞ! チョコがある所に行くべきじゃないか!」
「そもそも‥‥‥‥求めて血眼になれば余計に避けられると思いますが」
能力者の意味の分からない理屈を聞いて巳乃木は盛大なため息と共に言葉を返す。
「その通りです。好きな人に思いを伝える努力もせず、ただモテたい。モテないから暴れるだなんて身勝手過ぎます。そんな人に惹かれる女性など‥‥バグアだっているはずがありません」
天羽は巨大ピコハンをフルスイングしながら呟き「これでも受けて反省して下さい」と言葉を付け足した後に、男性の頭部を目掛けて打ち込んだ――筈だったのだが、ちょっとだけ手元が狂ってしまいピー(急所)に巨大ピコハンを打ち込んでしまうという結果になってしまったのだった。
「あ、あれは‥‥痛いな、うん‥‥」
声にならない悲鳴を上げた能力者を見て黒雛は同じ男性として気持ち(という名前の痛み)が分かるのか、表情を引きつらせながら小さく呟いた。
「ウオオオオオ! よくもモテない仲間をおおおおお!」
仲間を倒された悲しみ&怒りで能力者が黒雛に向かってくる。
「‥‥凄い気迫だな‥‥」
小さく呟いた後、黒雛も巨大ピコハンをフルスイングして顔面直撃させた。
「きゃあっ!」
黒雛がフルスイングした事により、ニーマントのワンピースの裾がひらりと持ち上がってしまい、可愛らしい下着が見えてしまう。
「き、貴様ぁぁぁぁ! 何故、男なのにそんな可愛い下着を着用している! そういうのは可愛いギャルが「きゃあ♪」とか言いながらするのが理だろう!」
暴れる能力者の1人がニーマントの下着について批判をするのだが――‥‥。
「あたしは女だ。この胸が分からんのか! 分からんなら節穴だ」
怒りを抑えながらニーマントが言葉を返すのだが「嘘だ! 胸というより筋肉じゃないか! もっとふっくらしているのが胸であり、貴様のは筋肉だ!」とぎゃあぎゃあと喚きたて始めた。
「‥‥誰が、何と言おうが、あたしは、女だ!」
なおも暴れ続ける能力者にニーマントは足払いをかけた後、足4字固めの制裁を下した。
「いたたたたたたた! ギブギ『ギク』おおおい! 何か変な音したぁぁぁぁぁ!」
「哀れですね‥‥チョコがもらえない、チョコが欲しいと暴走すればするほど女の子の心が離れているのが分からないんですか? なんていうか、はっきりとは言いませんが見苦しいですよ? そんなんだからキモがられて女の子が寄ってこないんじゃないですか?」
痛がる能力者に諌山が言葉を投げかける。
「分かったけど! 今、この場でキミがすべき事は技をかけてるこの女? を止める事だろおおお! しかもはっきり言わないとかいいながらはっきり言われすぎて真面目にヘコむんですけどおおおおおお! いだだだだだだだだ!」
「なんだ、意外とまだ余裕あるじゃん」
叫び&痛がりながらもツッコミを入れる能力者にミコトがさらりと言葉を投げかける。
「くそぅ! あいつはあんな可愛い子に心配されてる!」
「‥‥あぁ?」
可愛い女の子と呼ばれ、ミコトは一気に声のトーンを落としながらジロリと能力者を睨みつける。
「‥‥俺は男だっての‥‥」
「そんなツンデレっぷりがキュートおおおお!」
いまにも襲い掛かってきそうな勢いの能力者に思わずミコトは合気道で応戦してしまう。
「あ、しまった。でもいっか、女の子なんて失礼な事を言ってきたんだし。天罰天罰」
ミコトが呟き「これに懲りたら、過度なチョコ請求はやめる事ね」と天羽が能力者を踏みつけながら呟くのだが――「じょ、女王さま」と呼ばれ、うっとりとした表情で見つめられてしまう。
「な‥‥なによ、その声‥‥踏まれるのがそんなにいいのかしら、この変態!」
「ほぅ、新たな道を開いてやったんだな」
天羽が鳥肌を立てていると、冷静に黒雛がツッコミを入れる。
「ちょ、や、やめてよ! そんな道なんて開いてあげてないから!」
「にゅああああ! しっかりしろにゃー!」
白虎が能力者達に渇を入れていると「ん?」と黒雛が白虎をジッと見る。
「なぜそっちに混ざっている?」
黒雛の言葉に「は?」と暴れている能力者達が目を丸くする。
「ちなみに、そこで煽ってるのは‥‥リア充だぞ?」
ネオがぼそっと呟くと「はぁぁぁぁぁ!?」と能力者達がじろりと白虎を睨み付ける。
「そういえば、そこのオペレーターさんも言ってたけど、キミって彼女がいるんじゃなかったっけ? こんな所で油を売ってると彼女のチョコを貰い損なうんじゃない?」
ミコトも追い討ちをかけるように言葉を続けると「どういう事か説明してもらおうか?」と暴れていた能力者達がジリジリと白虎に詰め寄り始めた。
「違うのです! 違うのです!」
「あ! そういえば思い出しました! 白虎さ〜ん! バレンタインのチョコですよ〜」
恐るべし諌山美雲。この展開でバレンタインチョコを渡したら、白虎がどうなるか分っていないのだろうか。
「チョコを貰ったぞ‥‥」
「しっと団総帥なのに‥‥」
「もしかしたら偽者なんじゃないか?」
「だよな、チョコ貰ってるし、リア充とか言われてるし」
「にゅあああ! 黙れにゃー! 僕のどこがリア充にゃ! もやしお姉ちゃんはチョコをくれないばかりか、僕の方から逆チョコを持っていかないといけないんだぞ! チョコは義理チョコばかりにゃー! これのどこが桃色リア充だにゃあああああ!」
はぁはぁ、と息切れをするほどに捲くし立てるのだが、「‥‥リア充だ」と能力者の1人が呟いた。
「義理でもチョコを貰ってるじゃないか」
「しかも今目の前でも渡されたしな」
「おまけに逆チョコまで渡してるんだとよ」
「「「「‥‥‥‥よくも俺達を騙したな!」」」」
「えええええええええええ!?」
もはや能力者達のターゲットは白虎1人にロックオンされてしまい、既に何が何やらの状況である。
「みなさん! 聞いてください! 実は私もしっ闘士だったりします。ええ、素敵な夫に可愛い娘にも恵まれています。なんと、私はしっと団に入ってからリア充になったんですよ! 今はしっ闘士になればリア充になると専らの噂なんです! その証拠に白虎さんもリア充じゃないですか!」
諌山の説得に「ちょ! 僕はリア充違「はい、ちょっと黙っておこうね」」と白虎は言葉を遮られ、巳乃木によってぐるぐる巻きにされてしまう。
「そうだ、私もこれを‥‥義理ですけど、ぶっち義理ですけど」
天羽も持っていたチョコを白虎に渡す。この展開で渡すとは――諌山並の天然ガールなのかもしれない。
「とりあえず、これで鎮圧は成功でしょうか。ここで暴れるのは他の人の迷惑になる、よって暴れるのなら戦場で暴れるように」
ニーマントが能力者達に説教をすると「俺達の戦場は、今日はこの場所だったのさ」と能力者の1人がニヒルに笑いながら言葉を返すのだが、情けない事この上ない事に本人はきっと気がついていない。
「やれやれ、これでお開きかな? あ、余ったチョコがあれば貰ってくぞ?」
ネオがぽつりと呟くと「キミもやっぱりチョコが欲しかったんじゃないか」と暴れていた能力者の1人から同士の目で見られてしまった。
「‥‥チョコなんか貰えたっていい事ないんだよ‥‥ガチにそっち系の女の子から貰ったやつなんか‥‥あからさまにヤバイ物だったし‥‥普通にもらえたと思ったら『愛しのお姉様』なんて書いてあったし‥‥」
俺にどうしろって言うんだよ、と愚痴を零しながらミコトは盛大なため息を吐いた。
「‥‥はぁ、疲れたな。なんて一日だ」
黒雛はため息を吐きながら「これで帰ってもいいんだろう」と舞に言葉を投げかけると「はい、お疲れ様でした」と舞は丁寧に頭を下げながら言葉を返したのだった。
END