タイトル:もやしの家で年越しをマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 2 人
リプレイ完成日時:
2011/01/11 00:32

●オープニング本文


もうすぐ今年も終わりね。

今年も無能な奴のお世話を頑張ったと思わない?

そこで思わないなんて言ったら、外で寝てもらうからね。

※※※

「私の家で年越しをさせてあげるわ」

キルメリア・シュプール(gz0278)は果てしなく上から目線で能力者達に言葉を投げかけた。

「ちなみにお母さんはお正月にも関わらず、お仕事で居ないのよね。だから身の回りの世話をさせてあげるわ」

「‥‥お宅様には使用人が沢山いるはずじゃ‥‥」

「いるけど、使用人は沢山居ても問題はないでしょ?」

ふん、と鼻息を荒くしながらキリーは言葉を続ける。

「まさかこの私が誘ってあげてるのに断るつもりじゃないでしょうね? そんな事が法律的に許されるとでも思ってるの? このヘタレタコ」

「え‥‥あの」

「大体あんたみたいな奴と年越しをしてあげようという私の優しさが伝わらないっていうの? どれだけ人の好意を無駄にすれば気が済むって言うのよ」

キリーは喚きたてながら「来なかったら‥‥どうなるか私でも想像がつかないわね」と魔王の微笑みを残して能力者達の前から姿を消したのだった。

●参加者一覧

土方伊織(ga4771
13歳・♂・BM
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
仮染 勇輝(gb1239
17歳・♂・PN
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
神咲 刹那(gb5472
17歳・♂・GD
八葉 白珠(gc0899
10歳・♀・ST
ガル・ゼーガイア(gc1478
18歳・♂・HD
南 十星(gc1722
15歳・♂・JG
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER

●リプレイ本文

―― もやしの家で年越しを ――

 今回はキルメリア・シュプール(gz0278)の強引な誘いによって、能力者達はキリーの自宅で年越しをする事になっていた。
(はわわ、今年最後の日なのにまおー様と一緒‥‥僕の平穏な年越しは夢と消えちゃったのですぅ‥‥)
 土方伊織(ga4771)は盛大なため息と共に(平穏さんかむばーっくなのですぅ)と心の中で言葉を付け足していた。
「よく来たわね。感謝してあげるから感謝しなさいよ、このヘタレわんこ」
 キリーが玄関前で仁王立ちしながら土方に言葉を投げかける。
(うぅ‥‥来年こそは人間扱いされたいのですぅ)
 様々な呼び名(主にわんこ)をつけられた土方。来年こそはちゃんと人間呼ばわりされてやる、と目標を立てるのだが来年の今頃も同じような事を言っていそうなのはきっと気のせいではない。
「こんにちは、キリー」
 キリーにとても甘い百地・悠季(ga8270)が微笑みながら挨拶をすると「こんにちはしてあげなくもないわよ、ヘタレ」といつもの如く素直じゃない言葉が返ってくる。
「人妻なのに、こんな所に呼ばれるくらい暇なのね、ご苦労様」
 ふん、とキリーが嫌味っぽく言うが「一年後はどたばたするのが目に見えてるし、今ぐらいしかのんびり出来ないかもしれないからね」と意味深な言葉を残して、百地は屋敷野中へと入っていった。
「こんにちは、お久しぶり。元気だった?」
 続いてやってきたのは八葉 白雪(gb2228)だった。いや、現在は真白の人格と言った方が正しいだろうか。
「別に会いたくもなかったけどね――って、誰、それ」
 キリーは真白の隣に立っている少女を見ながら怪訝そうに呟く。
「あの‥‥! 初めましてお世話になります! 私、真白姉さまの妹で八葉 はく「しらたまよ」――え、えぇぇ!?」
 自己紹介を真白に遮られた八葉 白珠(gc0899)は驚きながら「ち、違います!」と慌てて名前を言おうとするのだが‥‥。
「だんごね。あんたなんて団子で十分よ。分かったらさっさと屋敷の中に入ったら? だんご」
(さ、更に酷い名前にされた!?)
 白珠はおろおろとしながら(どうしよう、ここで訂正していいのかな? でも訂正しなくちゃだんごって呼ばれそうだし‥‥って、もう呼ばれてるんだけど‥‥)と頭の中でいろいろな事がぐるぐる回って(よ、よし、訂正しよう)と意気込んだのだが‥‥。
「あ、あの私はだんごじゃな「お招き、ありがとう。キリー」あぁぁぁ」
 タイミングが良いのか悪いのか、神咲 刹那(gb5472)がやってきてキリーに挨拶をする。明らかにキリーの興味は白珠から神咲へと移ってしまい、白珠は「私の名前は『はくす』なんです」と訂正する機会を失ってしまった。
「はい、これはキリーにプレゼント」
 神咲はバラの花束をキリーへと差し出す。
「うっわ、気障な演出ね‥‥しかも黒いスーツなんて‥‥」
 キリーがバラの花束を受け取りながら呟くと「折角キリーからのお誘いだからね」とにっこりと微笑んで神咲は言葉を返した。
「あ、あの‥‥」
 白珠がおろおろとしていると「あんた、まだいたの? さっさと中に入ってなさいよ」と言われ、しょんぼりとしながら真白も神咲と一緒に屋敷の中へと入っていった。
「よぅ、もやし!」
 ガル・ゼーガイア(gc1478)が軽く手を挙げながらキリーに話しかけると「よぅ、ヘタレ!」とキリーはガルの真似をしながら言葉を返した。
「‥‥今年最後の日まで俺はヘタレ呼ばわりなのか‥‥」
「あら、そんなに落ち込まなくてもいいわよ? だって私から見たら皆ヘタレだもの」
 にぃ、とキリーは邪笑を浮かべながらガルに言葉を返す。
「‥‥‥‥ガル?」
 しかしガルはふと思い出す。先日の忍者屋敷での出来事を‥‥。
(ぐぬぬぬぬ、総帥め! もやしのキスを奪いやがって! ‥‥でも、これはもう確定したって見た方がいいのか? いや、しかし‥‥後で連れ出して聞いてみるか)
 様々な葛藤がガルの中で行われており、そんな事にも気がつかないもやしは自分が無視されていると勘違いしてしまう。
「ねぇ、ガル」
 ちょいちょいと手招きをして目線を合わせるように促すと「こンのドヘタレが!」と思いっきり頭突きを食らわされた。
「がふっ‥‥」
「人が折角呼んであげてるってのに、何シカトぶっこいてんの? ちゃんと私に分かるように説明しなさいよ。一文字で!」
 キリーが腕組みをしながらガルに言葉を投げかけるが一文字では到底説明する事など出来ず、二発目の頭突きを受けた後(これも全部総帥のせいだ!)とガルは白虎(ga9191)に対して更に怒りの炎を渦巻かせたのだった。
「キリー、お招きありがとうございます、よい年越しになるといいですね」
 南 十星(gc1722)がにっこりと穏やかに微笑みながらキリーに話しかける。
「ふん、年越しに良いも悪いもないわよ。勝手に時間が進んで年を越すんだから」
「まぁ、そうですけどね‥‥あ、そうそう。これ、プレゼントです」
 南がキリーが好きであろうヘアバンドとフリルワンピースの入った袋を渡すと「貰ってあげるから感謝しなさいよね、ヘタレ」とお礼なのかそうじゃないのか分からない言葉を返しながら南からの贈り物を受け取ったのだった。
「おや、ガルさん? 何でそんな所に蹲っているんですか?」
 額を押さえながら蹲るガルに気がつき、南が声をかけると「気分でも悪いんじゃない? ヘタレだから」とキリーが代わりに言葉を返した。
「‥‥? とりあえず中に入りましょうか」
「お、おう」
 額を押さえたままガルは南と一緒に屋敷の中へと入っていく。
「キリーちゃん! 今日は呼んでくれてありがとう! 私、友達と年越すのは初めてだから凄く楽しみ!」
 春夏秋冬 立花(gc3009)がキリーに話しかける。その様子からでもどれだけ楽しみにしていたのかが伺え、キリーも悪い気分にはならなかった。
「そう。そんな友達の少ないあんたを呼んであげた私に感謝しなさいよね」
 偉そうにふんぞり返りながらキリーが言うが、素直になれない性格を分かっているのか春夏秋冬は「うんうん」と言葉を返した。
「それにしても楽しみっ。普段は三が日も立食パーティとかに参加して、関係者やら親戚に挨拶ばっかだったからね。だからすっごく楽しみなの」
「へぇ、あんたってばお嬢様なのね――――胸ないけど」
 胸がないのは関係なかろう、それにキリーちゃんもじゃん、などと春夏秋冬は頭の中で考えながらも今は楽しみの方が勝っているのか「中でお料理の手伝いしておくねー」と言って駆けていった。
(にゅあー、今回もまた色んな人が来たのにゃー‥‥。こ、これはさすがのボクでも逃げ切れるかどうか‥‥)
 白虎は心の中で呟きながら次々にやってきた能力者達を見ていた。先日の事が恥ずかしいらしく、白虎はキリーと顔を合わせづらいらしい。
「何、してんだ?」
 不審な動きの白虎に気づいた仮染 勇輝(gb1239)が背後から話しかけると「にゅあっ」と予想以上に驚いた様子を白虎は見せていた。
「ゆ、ゆーきさん、こんな所で何してるにゃー!?」
「それはこっちの台詞だが。明らかに不審者の動きをしていたぞ」
 白虎の言葉に苦笑しながら仮染が言葉を返すと「な、何でもないのにゃー」と言ってそそくさと何処かへと行ってしまう。
 そんな白虎の姿を見ながら「やれやれ」と小さく呟き、仮染自身も屋敷の中へと入っていったのだった。


―― それぞれの昼 ――

「‥‥二度ある事は三度あるって言うのです。今回こそ、白虎さんに巻き込まれてえちぃー子にならないように注意です。特にバナナの皮! 注意、回収、即廃棄ですぅ」
 土方はぶつぶつと呟きながら今回は巻き込まれないようにといつも以上に警戒をしている。まるでキメラ退治にでも来ているかのような緊張感だったと彼は後に語る。
「よし、お姉ちゃんを連れ出されぬように各地に配置しておくのにゃ」
 その頃の白虎はバナナの皮を大量に取り寄せており、屋敷の至る箇所に仕掛けていた。
「ちょ、白虎さーん、お約束はやめてーですぅ!」
 その様子を土方が偶然にも(あるいは必然的に)見かけてしまい、バナナの皮が入っている段ボール箱を取り上げようとする。
「えぇい、邪魔するなにゃー!」
「やめてーですぅ。破廉恥になりたくないのですぅ」
 ぎゃあぎゃあと騒ぎながらもみ合っているうちに「‥‥これ、何に使うわけ?」と土方と白虎にとって聞き覚えのある声が聞こえ、まるでロボットのようにギギギと振り向く。
「「きゃーーー!」」
 そこに立っていたのは、もうお約束的なキリーであり、バナナの皮を見て表情を引きつらせている。
「‥‥ヘタレわんこが段ボール箱を持っているという事は、あんたが首謀者なのね?」
「‥‥‥‥へ?」
 キリーの言葉に土方が慌てて「これは僕が止めさせようとしてたのですぅ!」と段ボール箱を白虎に押し付けるが、それがあまりにもわざとらしくキリーにとっては逆効果でしかなかった。
「つまり? わんこのくせに? バナナの皮を仕掛けて、えろい展開にしようとしてたわけね?」
「だ、だから違うのですぅ! 人の話をちゃんと聞いてーですぅ!」
「大丈夫よ。理解してるから。そう、とりあえずあんた達二人とも除夜の鐘の代わりに叩いて鳴らしてあげましょうか?」
「「きゃー!!!」」
 鬼気迫るキリーの表情に土方と白虎は一緒に逃げ出す。逃げ出してしまった事で肯定と取ったのか「このえろ動物共がぁっ!」と屋敷中にキリーの声が響き渡ったのだった。

「ふぅ、年越しって言っても準備をする今の時間が一番大変よね」
 百地は呟きながら年越し用の料理を作っていた。ほとんどの能力者達が天麩羅を希望しており、今のうちに揚げておかないと間に合わないと考えたのだ。
「天麩羅の具は何なんですか?」
「えっと、定番の海老と山菜のかき揚げね。そっちは大丈夫?」
 百地が問いかけると蕎麦を手打ちしている南が「えぇ、大丈夫ですよ。これなら時間にも間に合います」と言葉を返した。
「お雑煮は醤油ベースで大丈夫だよね?」
 そして雑煮を作っているのは春夏秋冬。今回は人数も多い為、料理を担当する能力者達はいつもより早めに取り掛かっていた。
 そこへ白雪と白珠が「あ、これ先ほど届いたんですけど‥‥」といって、白雪の実家から送ってもらった椎茸、舞茸、たらの芽やぜんまい類、そして畑で取れる大葉、茄子、人参など沢山入った段ボール箱を調理室に持ってやってきた。
「わ、新鮮で美味しそうね」
 百地が段ボール箱を覗き込みながら呟き「これも使って作りましょうか」と言葉を付け足した。
「私、野菜を切りますね」
 白珠は慣れた手つきで野菜を次々に切っていく。
 そして、白雪は作ってきたお汁粉とくずきりを器に盛り付けていく。黒蜜と白蜜と二種類あるようでどちらも十分な量が作られていて美味しそうだった。

 その頃、他の能力者達はキリーの屋敷を散策したり、キリーのために作られた遊戯室などで遊んだりしていた。
「あれ、仮染さん此処にいたんだ?」
 ビリヤードなどが設置されている遊戯室へと神咲が入ると、既に先客がいて、仮染はダーツをしていた。
「あぁ」
 仮染は短く言葉を返すと「なかなか機会がないと、こういう遊びも出来ないしねー」とビリヤード台の前に立ちながら神咲が苦笑した。
 神咲の言葉に(確かに、そうかもしれないな)と仮染は心の中で呟きながら遊戯室を見渡す。これだけの施設を作るのに一体どれだけのお金を使ったのだろう、と思うほど。ダーツやチェス、ビリヤード、様々な遊戯が出来るようになっているのだから。
「あ、ゆーきと刹那みっけ」
 キリーがひょこっとドアから顔を覗かせながら呟く。
「あー、疲れた。ちょっとここで休んでいく」
 今まで走り回っていたキリーが呟きながら椅子に腰掛ける。そこへ「チェスでもしないか?」と仮染が声をかける。
「‥‥ふふん、私は強いんだからね。覚悟しなさい」
「へぇ、キリーってばチェス強いんだ?」
「ま、まぁね」
 不自然な言葉の返しに(‥‥強がっちゃって)と神咲は心の中で苦笑する。恐らくいつもの素直じゃない性格が出て「私、強いのよ」と言ったのだろう。
「‥‥‥‥」
「‥‥あぁ! 何でそっちの駒を‥‥」
 キリーと仮染が勝負を開始すると、神咲もビリヤードをしていた手を止めて勝負の行方を見守る――が、誰がどう見ても仮染の方が強い。
(一応、勝てるように手加減はしたんだが‥‥)
 心の中で仮染が呟くが、手加減をされても負けるほどの腕前を持つのがキリーだったという事なのだろう。
「ちょっと付き合いなさいよ」
 仮染の腕を引っ張りながら『遊戯室2』へとキリーは連れて行く。
「そこに立ってなさい。何があっても動いちゃ駄目よ」
 そう言いながらキリーは『ツッコミマシーン』のスイッチを押す。その瞬間、仮染の頭に激痛が走る。
「ふんっ、私に勝つからよ! 大人なら手加減しなさいよね!」
 べーっと子供らしく舌を出しながらキリーは「このヘタレー!」と叫びながら何処かへと行ってしまった。
「‥‥大丈夫?」
「‥‥多分、大丈夫じゃない」
 恐る恐る神咲が声をかけるが、うめき声のような返事が仮染から返ってきて、神咲は(何か威力増してない?)と心の中で呟き、ツッコミマシーンを見たのだった。

「あ、こんな所にいたんだな」
 鼻息荒く歩くキリーを見かけ、ガルが話しかける。
「人の家をこんな所呼ばわりとはヘタレのくせに良い度胸してんじゃない!」
 先ほどの八つ当たりなのかキリーはガルの鳩尾にパンチを食らわす。
「はぐっ‥‥」
 予想外の攻撃を受け、ガルはその場に蹲る。
(と、とりあえず無事でよかったぜ‥‥)
「ところであんた何でここにいるのよ」
「え? あ、この竜騎士がもやしを悪の総帥から守ってやろうと思ってな!」
 そしてガルは周りをきょろきょろしながら「もやしは、今一人なのか?」と問いかける。
「そうよ。疲れたから部屋でお茶でも飲もうかと思ってたところ。なんならあんたも一緒に来る?」
 キリーからのお誘いに「行く!」とガルは言葉を返す。
(よし、これで‥‥)
 ガルは心に決めていた事を聞く為、キリーの部屋へと移動する。
「ふん、温いお茶だけど心して飲めばいいわよ」
 ガルにお茶を差し出すと「なぁ」とガルが言葉を投げかける。
「もやし‥‥総帥や仮染の事が好きか?」
「はぁ?」
「俺以上に好きか?」
 ガルは真剣な顔で問いかける。それを見たキリーはため息を吐きながら言葉を返す。
「そうね。はっきり言えばあんたよりゆーきや白虎の方が大好き。いつも私を守ってくれたから」
 キリーの言葉に「そっか‥‥」とガルは寂しそうに笑う。
「でも‥‥一度しか言わないから心して聞きなさい。私はあんたの恋人にはなれないけど、親友以上の友達にはなりたいと思ってるわ」
 キリーの言葉に「え?」とガルも驚いたように目を瞬かせる。
「そうね。いっそのこと、うちの屋敷に就職に来れば? 執事見習いとかこの屋敷は結構人手不足だし。多分サスケなんかより何十倍も役に立つと思うし」
 それじゃーね、とキリーは言葉を残してそのまま部屋から出て行く。残されたガルはぽかんとするばかりだった。

「あれ? キリーちゃん発見!」
 春夏秋冬はキリーを見かけて話しかける。
「何してんのよ」
「え? 特に何も? 何かこういうのって初めてだからテンションあがっちゃって!」
 春夏秋冬はにこにこと微笑みながら言葉を返す。
「あ、そうだ! 護身術の見本を見せましょう!」
 そこに運悪く居合わせてしまったのは、先ほどキリーから八つ当たりされた仮染だった。
「仮染さーん!」
 春夏秋冬が手を振りながら、まだ遠くにいる仮染を呼ぶ。
「なん「きゃあぁぁぁぁ!」――ッッ!?」
 仮染が近寄った時、春夏秋冬は耳元で叫び「こうです!」ときりっとした表情、ポーズを取りながら自慢気にキリーを見た。
「へぇ、耳元で叫ぶと意外と効果があるのね」
 試してみようかな、キリーは「ふっ」と微笑みながら春夏秋冬と一緒にどこかへと行ってしまった。
「‥‥‥‥俺が叫ばれた意味はあったのか‥‥」
 仮染が小さく疑問を呟くが、その問いに答える者は誰もいなかったのだった。

「‥‥ぼ、ボクは何をしているのにゃ」
 その頃、キリーから逃げてはいたが、他の能力者達からキリーを守る為にうろうろとしていた白虎はキリーを見つける事も出来ずに屋敷内を怪しくうろうろとするばかりだった。
「はっ、誰にゃ――にゅあああああああ」
 そして何故か廊下の真ん中に置かれているツッコミマシーンの被害にあい、今年最後にも関わらず酷い目にあっていたのだった。

―― 夜・お風呂でイヤン? ――

 昼間、色々と遊んだ能力者達、そして年越しのための準備をした能力者達はお風呂に入る事にしていた。
「キリー、一緒に行きましょうか」
 百地が手を差し出すと「そうね。早くお風呂に入ってゆっくりしたいし」とキリーも言葉を返して女性陣は先にお風呂に行く事にした。
「あぁ、勿論言わなくても分かると思うけど――‥‥覗きは地獄行き、だからね」
 にっこりと満面の笑みで微笑む百地に男性陣はぞっと何かが背中を駆け上がる感じがあった。
「たまちゃ〜ん。ほら、お風呂に行くよ」
「はい、雪姉さま!」
 白雪に呼ばれ、白珠もお風呂の準備をして白雪の後ろをついていく。
「んー、私も行くー」
 春夏秋冬もお風呂の用意をして一緒に行く。
「‥‥白虎さん? 何をしているんですか?」
 ピコハンを持って女性陣の後ろをついていく白虎に南が話しかける。
「お風呂の警備にゃ!」
「はわわ、それって警備と言う名の覗き候補になっちゃう気がするのですけど‥‥はう、ぼ、僕は警備しないのですー。巻き込まれてたまるかーなのですよー」
 土方はがたがたと震えながら呟く。
「ボクも行って来ようかな? あ、警備じゃなくて普通にお風呂だからね」
 神咲が呟くと「覗く気じゃあるまいにゃー!」と白虎が叫ぶ。
「そんな事するはずないじゃん――とか言って白虎君が覗く気満々だったりするんじゃない?」
 からかうように神咲が呟くと仮染が反応して「‥‥‥‥OK、少し頭を冷やそうか?」と白虎の頭をがっしりと掴みながら話しかける。
「あいだだだだだだ‥‥いたいにゃー! ち、違うにゃー!」
 白虎は叫びながら仮染に向かって弁解する――が、女性陣はこのようなやり取りがある事に気がついていなかったのだった。

「そういえばキリーったら大胆な発言に至ったみたいじゃない?」
 お風呂に入りながら百地がからかうように問いかける。
「そうそう! それ、私も聞きたかったんです。あの時の行動ってどういう意味ですか?」
 春夏秋冬もキリーに問いかけると「うっ」と言葉に詰まりながら「‥‥‥‥え、えっと」と珍しく口ごもっている。
「‥‥し、生涯下僕って意味よ」
 顔を背けながらキリーが言葉を返すと「ふぅん? 一生一緒にいたいって意味なのね」と百地が更にからかうように言葉を返した。
「雪姉さま、お背中お流しします!」
 白珠が白雪に言葉を投げかけて湯船から出る。
「ねぇ、そっちはどうなの?」
 百地が湯船の中から白雪たちに言葉を投げかける。
「そうそう。たまちゃんはあの実家の中の良い子とか好きだったりするんじゃない?」
 百地の言葉で思い出したように白雪が呟くと、白珠は顔を真っ赤にしながら「違っ‥‥違います! 好きじゃないです!」と全力で否定するのだが、その行動は全力で『好きなんです』と言っているようにしか見えなかった。

 そして、お風呂の外では‥‥中の様子が気になるらしく扉にべったりとくっつく白虎の姿があった。
「ん、どうかしたの? そんな所に張り付いていないでお風呂だったら一緒に入ってくればいいんじゃない?」
 にやにやとしながら呟くお風呂上りの神咲が白虎に言葉を投げかけると「な、何て事を言うにゃー!」と顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
 しかしお約束と言うものは存在する。運悪くそこへ扉を開いた女性陣が見たものは‥‥扉にぴったりとくっついている白虎の姿。
 そう、まるで『今から覗き見にゃ!』といっているような体勢だった。
「ち、違うのにゃ‥‥こ、これはちゃんと話せば‥‥にゃああああああああ」
 もう少しで年が変わるという時に、白虎の悲鳴が屋敷の中へと響き渡ったのだった。

―― 今年もお世話になりました。来年もどうぞ宜しくお願いします ――

 白虎のお仕置きが終わった後、百地は年越し蕎麦の準備を始めていた。
「僕は月見でお願いするですー」
 土方が遠慮がちに百地へと言葉を投げかけると「ハッ」とキリーに鼻で笑われてしまう。恐らくその『ハッ』の中に「やっぱりわんこはわんこね。わんこそばでも食べてれば?」という意味が込められているのだろう。
「やっぱり早めに準備していて正解だったわね」
 時間も迫り、慌しくなってきたのを確認すると百地が苦笑しながら呟く。
「お手伝いしますよ」
 そこへ白雪もやってきて、それぞれのリクエストに応えた年越し蕎麦を準備して、能力者達に渡す。
「ふふっ、なんだかこういうのって楽しいですよね」
 にこっと白珠が呟きながら渡された蕎麦を受け取る。
「蕎麦を食べるのは久しぶりだぜ! これ食べれば彼女が出来る‥‥わけねぇよな」
 ガルは苦笑しながら「ちくしょう。来年こそはっ!」と呟きながら蕎麦を食べ始めたのだった。
「はぁ、お嬢様が帰ってきてから平穏がなくなった‥‥」
 ため息混じりに呟く執事を見ながら「これはキリーのですよね? 私が運びますからゆっくりしていてください」と南が蕎麦を受け取りながら執事に言葉を投げかける。
「だ、大丈夫ですか?」
「えぇ。構いませんよ」
 南が呟くと「ありがとうございます」と執事は丁寧に頭を下げながら自分もゆっくりとし始めたのだった。
「キリー。年越し蕎麦ですよ。それと折角の年越しですしうさぎ柄の着物を着たらどうですか?」
 密かに用意していた着物を見せながら南が問いかけると「うーん。着たいけど明日にする。お正月は明日だし」と言葉を返し、蕎麦を食べ始めた。
「‥‥大丈夫か?」
 仮染が蕎麦を食べ終わった春夏秋冬を見ながら呟く。今日はテンションも高く、はしゃいでいた為に少し眠くなってきているようだ。こくりこくりと船を漕ぎ出していたのを見て仮染は言葉を投げかけた。
「寝てない。寝てないよ。大丈夫だよ」
 半分以上寝ている春夏秋冬は呟くように仮染に言葉を返す。
「無理して起きていなくてもいいんじゃない?」
 神咲も話しかけると「んー、でも挨拶はちゃんと言いたいし‥‥もう少しだから起きとく」と春夏秋冬は言葉を返した。
「いつもだったら除夜の鐘でも聞こえるんだけど‥‥日本じゃないってのを実感するね」
 神咲は蕎麦を食べ終わった後、窓の外を見ながら呟く。

 それから暫くした後「もうすぐだね」と神咲が時計を見ながら呟く。そしてカウントダウンが始まり12時を過ぎた所で大時計がボーン、ボーンと鳴って新年を迎えた事を告げた。
「あけましておめでとうございます」
 春夏秋冬はきっちりと挨拶をした後、そのまま眠ってしまった。
「あらあら。眠っちゃったのね。さっきから随分と眠いのを我慢してたみたいだけど」
 苦笑しながら春夏秋冬を見ながら百地が呟いた。
「んー、初詣も出来ないし‥‥後は、朝まで寝てた方がいいのかな?」
 神咲が呟くと「そうだな、眠い人は眠ってもいいんじゃないか?」と仮染が言葉を返し、起きてる人は起きてる、眠い人は寝る、という事でそれぞれ朝を迎える事になった。


―― あけましておめでとう。今年も宜しくしてあげるから感謝しなさいよね ――

「あけましておめでとうございます、今年も宜しくお願いしますね♪」
 諌山美雲が家族全員でキリー邸を訪れながら挨拶をした。
「新年あけましておめでとうございます」
 夫である諌山詠も挨拶を行い、キリー邸に入る。
「うわぁ‥‥可愛い!」
 美雲が抱いている赤ちゃんを見て白珠が目を輝かせながら「可愛い」と連呼している。
「そうにゃ! 実はボク――昨日しっと神社を勝手に作っていたのにゃ! これで初詣気分を味わうにゃ」
 白虎が威張りながら能力者達に言葉を投げかけると、キリーが「勝手に人ン家を改造してんじゃないわよ、お前はジョセフィーヌか!」ととび蹴りを食らわした。
「はわわ、し、新年早々おそろしーのですぅ‥‥」
 土方はとび蹴りを食らわされた白虎を見ながら(白虎さんはいいですけど、僕に来るのはやめてーですぅ)と心の中で呟き、しっと神社の(居るのか居ないのかわからない)神様に祈っていたのだった。
「あ、キリー。着てくれたんですね」
 南はキリーの着ている着物を見ながら少し嬉しそうに呟く。
「まぁね。うさぎが可愛いから気に入ったもの」
 うさぎ柄のちょっとお子様向けの着物だったけれど、キリー本人はとても満足しているようだった。
(今年もキリーが健やかに暮らせますように)
 南のお願い事は自分の事ではなくキリーの事を祈り、願いが叶いますようにと心の中で言葉を付け足した。
「っていうか、誰か起こせよ! 初日の出を見損ねたじゃん!」
 春夏秋冬はキリーのようにとび蹴りを白虎に食らわせながら叫ぶ。どうやら初日の出を見たかったようで、誰も起こしてくれなかった事にご立腹のようだった。
「しょうがないなー‥‥とりあえずお雑煮作りますから、お祈りすんだ人は中に来てくださいねー」
 春夏秋冬は言葉を残し、屋敷の中へと入っていく。
「ふふん。俺は初日の出に祈ったから今年こそは彼女が出来るぜ!」
 ガルは得意げに呟く。彼はひっそりと屋上で初日の出を見ており「どうか今年こそ彼女が出来ますように!」と大きな声で叫んでいる姿があったらしい。
 そして最後に残ったのはキリー、白虎、仮染の3人だった。
「うぅ、寒い。さっさと入るわよ」
 キリーが屋敷の中に入り、白虎が続こうとした時に「ちょっと待て」と仮染が白虎を呼び止める。
「‥‥‥‥まだ退くつもりはない」
 小さな声で言葉を残し、仮染は屋敷の中へと入っていく。
「にゅああああああああ、ど、どういう意味なのにゃああああああ」
 一人残された白虎は庭先で叫び続け「うるさい!」とキリーからおわんを投げつけられるという一年の始まりなのだった。


END